2019年06月25日
アイデアよもやま話 No.4364 過疎の町でインド企業が町おこし!?

前回は、定額制で住み替え自由のサービスが“空き家”の削減や地域の活性化につながるとお伝えしました。

そうした中、2月18日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でインド企業による過疎の町の町おこしについて取り上げていたのでご紹介します。 

 

日本のとある過疎の町で、地域の活性化にひと肌脱いだのは自治体でも地元企業でもなく、インドからやって来た世界的なIT企業でした。

そこには深い理由がありました。

 

静岡県中部にある山間の町、川根本町、一面に広がる茶畑ともう一つの売りが吊り橋です。

この橋の真ん中で願うと想いが適うと言われ、夢のつり橋と言われています。

ここ寸又温泉郷はかつては活気に溢れた温泉街ですが、今目立つのは廃業した旅館です。

近年は過疎化による苦しんでいます。

昨年10月、その川根本町にインド人の一行が訪れました。

向かった先はある古民家、元々は駐在所だった建物ですが、今ではインドのIT企業、ゾーホー(ZOHO)ジャパン株式会社の川根本町オフィスでコールセンターとして機能しています。

彼らは本社から視察に来た技術者たちでした。

 

ゾーホーの本社があるのはインド南部のチェンナイです。

主力の商品は、顧客管理などのクラウドサービス、従業員数は世界で7000人を超えます。

取引先にはアマゾンやネットフリックスなど世界的な企業が名を連ねます。

そのゾーホーが一昨年4月、川根本町を日本の本社のある横浜と結び、サテライトオフィスにしていたのです。

町が導入していた高速ブロードバンド網がオフィスの設置を後押ししました。

町の空き家を中心に規模を拡大、例えば元書店の建物は今ソフトの開発部門が利用しています。

こうした変貌ぶりに、地元のある女性は次のようにおっしゃっています。

「(ゾーホーの)川根本町愛がすごくて。」

「だから、こちらもゾーホー愛を前面に出していきますので。」

 

昼時、インド人の技術者たちがランチに向かったのは、イタリアンバー「ロンノバル」です。

しかし出て来たのは何とインドカレーで、そのインドスタイルにインド人の技術者たちはとても満足しているようです。

故郷の料理を食べられるようにと、オーナーがメニューに加えました。

その夜、インド人の技術者たちがある場所に向かいます。

そこでは地元の秋祭りの準備が行われていました。

地域住民と一緒に踊りの練習、地域のコミュニティに溶け込むのがゾーホー流なのです。

 

川根本町に来るのが3度目というゾーホーコーポレーションのシュリダー・ベンブCEOは次のようにおっしゃっています。

「この町に高いスキルのいい仕事を生み出す手助けがしたい。」

「それが我々のミッションです。」

「町が会社を支えてくれているので、我々も町の助けとなりたいのです。」

 

1月31日、そのサテライトオフィスに一人の女子高生の姿がありました。

瀧尾 かのこさん(18歳)はこの春地元の高校を卒業します。

緊張した面持ちである発表を待っていました。

実は瀧尾さんは昨年8月に2週間ゾーホーがインドに持つ社内大学に体験留学していました。

学費は無料で、専門的なプログラマーを育成する学校です。

ベンブCEOがこの教育システムに川根本町の若者を受け入れ、サテライトオフィスで働いてもらおうと考えたのです。

瀧尾さんたち、静岡県立川根高等学校の生徒4人が体験留学を終え、帰国しました。

昨年10月、帰国後高校で行われた報告会で、瀧尾さんは英語でスピーチしました。

自分の視野を広げるためにと留学に参加した瀧尾さん、帰国後入社の意思を固めました。

そして、1月末ゾーホーの採用面接を終えた瀧尾さん、面接の結果が伝えられましたが、見事合格でした。

オフィスの開設に続き、ゾーホージャパンの地元の高校生の採用、瀧尾さんはその第1号となりました。

 

川根本町企画調整室の北村 浩二室長は次のようにおっしゃっています。

「若い子はだいたい大学進学を機に都会に出て、そのまま都市部で就職してしまう。」

「働いてみたいとか、働きたい職場が一つでも増えていくことを望んでおりますので、・・・」

 

なぜゾーホーは日本の過疎地で人材育成に力を入れるのか、ベンブCEOは次のようにおっしゃっています。

「いい仕事があれば、有能な人材は出ていきません。」

「いい仕事をこの町につくることが人材の流出を防ぐのに重要です。」

「(川根本町で培ったビジネスモデルをどのように生かすのかという問いに対して、)とても重要な質問です。」

「世界的に、特に先進国では人口減少は深刻な問題です。」

「全ての国が日本のようになっていくでしょう。」

「なので、ここでこうした問題を学ぶことは世界にとって有益です。」

 

「日本中に川根本町のような町はあるが、なぜここだったのかという問いに対して、」運命だよ、相性が良かったんだ。」

「川根本町のような場所は、長期的に見れば重要です。」

「IT企業がこうした田舎に腰を据えることで、将来的に活気が出る。」

「それが日本人の田舎への考え方が変わることにつながる。」

「私たちはその役割が出来ることをうれしく思います。」

 

ベンブCEOは、少子高齢化をはじめ“課題先進国”の日本でこそ、今後世界で通用する解決策を生み出せるといいます。

 

なお、ベンブCEOは川根本町を選んだのは運命だとおっしゃっていますが、その真意は「自分たちが行った時に町の人が挨拶をちゃんとしてくれた」とか、そういうところも非常に重要だということです。

 

そして、“課題先進国”であるということが日本の強みかもしれないということですが、ゾーホーの川根本町の取り組み、成功のカギを握るのは企業内大学ではないかといいます。

日本のIT企業でも、都市部で会社を設けている必要はなく、地方の方がいいと思うけども、どうしても地方で人材を獲得出来ないので都市部から動けないということをよく聞きます。

ただ、ゾーホーの場合は自国に企業内大学があるので、地元の若者を採用して、そこに連れて行って教育が出来るという、これが強みのようです。

番組コメンテーターで早稲田大学ビジネススクールの入山 章栄准教授は、こうした状況について次のようにおっしゃっています。

「実際、企業内大学というのは世界的にいろいろな企業が取り入れている研修の仕組みではあるのですが、ゾーホーは企業内大学の仕組みを非常に徹底化させているということで結構有名な会社でして、インドというのは大学を出られた方が超大手企業、大企業を好む傾向があるんですね。」

「ですから、インフォシスですとかタタグループですとか、ああいうところに行ってしまうんですね。」

「ですので、ゾーホーも今大きくなっていますが、まだまだ若い会社ですので人材確保に結構苦労しているんですね。」

「ですので、代わりにインドの地方部で大学を出ていない、まさに高卒の方なんかを早めに採用してゾーホーの企業内大学でプログラミングとか教えることで、一流のグローバル人材にしていくということで結構定評のある会社でして、それをまさに今回日本の地方に持って来たということなんですよね。」

「で、当然都市部より地方の方が人材獲得し易いですし、何より先ほどVTRの瀧尾さんもそうですけど、恐らくこれから日本とインドをどんどん往復することで、英語ですとかプログラミング言語ですとか数学ですとか、そういったものをどんどん学んでいくわけですよね。」

「この辺がこれからの時代、英語、数学、プログラミングが一番重要ですから、私が言うのもなんですが、日本のナンチャラ大学で勉強するよりもよっぽどいいんじゃないかというふうに思うんで、素晴らしいモデルだと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通してあらためて思うのは、コールセンターやソフトの開発拠点としての利用が過疎地など地方の活性化対策としてとても有効だということです。

ただし、その受け皿として高速ブロードバンド網など自治体や地域住民の好意的な受け入れ態勢が求められます。

同時に、利用する企業側の友好的な姿勢が求められます。

そういう意味で、ゾーホーの事業戦略は以下の点でとても優れていると思います。

・地域内でのオフィス開設による地域の活性化

・地域のコミュニティに積極的に溶け込むこと

・社内大学への体験留学制度

・地域の人材の積極的な雇用

 

そして、何よりも素晴らしいと思うのは、ゾーホーのCEO、ベンブさんの基本的な考え方です。

ベンブさんは、少子高齢化をはじめ“課題先進国”の日本でこそ、今後世界で通用する解決策を生み出せるといいます。

ですから、まず“課題先進国”の日本で今後世界で通用するビジネスモデルを確立し、その先では世界展開を目指しているのです。

こうしたビジネス展開はソーシャルビジネスの一つと言えます。

そしてそのキーポイントは企業内大学と言います。

世界中のどこの地域の若者でも優秀な人材を企業内大学に留学させれば、存分にその能力を開花させることが出来ます。

そして、その若者が暮らしていた地元にゾーホーのオフィスがあれば、そこで働くことが出来るのです。

こうしたサイクルが世界中で展開されれば、これから少子高齢化が進む中で、地域の過疎化を食い止めることが出来るのです。

そういう意味で、ゾーホーの取り組みは世界展開を図る日本企業の今後のあり方にもとても参考になりそうです。

 

ただ、企業内大学はかなり規模の大きい企業でないと自前で用意するのは厳しいです。

ですから、企業内大学の代わりとなる、ビジネススクールのようなサービスも今後需要が出てくると思われます。


 
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