2019年06月05日
アイデアよもやま話 No.4347 ”未来の覇権”を目指す中国 その3 アメリカとの金融覇権争い!

1月19日(土)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)のテーマは「アメリカvs.中国 “未来の覇権”争いが始まった」でした。

そこで、この覇権争いについて3回にわたってご紹介します。

3回目は、アメリカとの金融覇権争いについてです。

 

アメリカとの貿易戦争で景気が減速する中、中国は巨大な経済圏“一帯一路”の構築を急いでいます。

中国はアジアやアフリカなど、アメリカが開拓しきれていない新興国へと市場を拡大しようとしているのです。

この“一帯一路”構想において、大きな役割を担うとされている人物がいます。

中国政府から経済発展に多大な貢献をしたとして表彰されたアリババグループのジャック・マー会長です。

今や世界最大のネット通販、アマゾンに匹敵するアリババ、年間の売り上げは約4兆3000億円、利用者数は6億人に上っています。

ネット通販を通じて、買い物履歴や購買者のプロフィールなど膨大な個人情報を集積し、ビジネスを拡大しています。

アリババはその巨大なネットワークを中国国外にも広げ始めています。

その強力なツールとなるのが昨年6月アリババグループが始めた新たなサービスです。

画期的な国際送金の仕組みを開発し、まず香港とフィルピンの間で実用化しました。

これまで銀行を介さなければ出来なかった国際送金をスマホだけで出来るようにしたサービスです。

アリペイ香港の陳 婉真CEOは次のようにおっしゃっています。

「まだ世界の多くの地域では銀行のサービスを利用することが出来ません。」

「私たちの送金サービスによってアリババのネット通販の利用も広がっていくのです。」

 

アリババが狙うのは、銀行口座を持たない新興国の人々です。

新たな送金サービスをまずフィリピンからの出稼ぎ労働者たちに広げようとしています。

香港で家政婦をしているフィリピン人のジョイ・トラクエナさんは早速サービスを使い始めました。

クリスマスを前にしたある日、ジョイさんは息子に仕送りをしようとしていました。

送金はスマホに金額を打ち込み、コンビニで現金を渡すだけですぐに完了します。

香港から約1500km、フィリピン東部のカタンドゥアネス島にあるジョイさんの故郷、送金の連絡を受けたジョイさんの母親は、アリババと提携する両替所ですぐに現金を引き出すことが出来ました。

 

送金サービスが始まってからこの島ではアリババのネット通販で買い物をする人が増えています。

アリババは送金サービスを入口に新興国の消費者を取り込み、マーケットを拡大しようとしています。

今後アジアを中心に新興国17億人の市場を視野に入れているのです。

陳CEOは次のようにおっしゃっています。

「今後、インドネシアから出稼ぎに来ている労働者を通じても市場を開拓していきます。」

「アリババグループのサービスが世界に影響を与えていくのです。」

 

中国の市場拡大を後押しするアリババの送金システム、それを実現させたのもハイテク技術でした。

仮想通貨で使われているブロックチェーン技術を応用したのです。

これまで国際送金はいくつもの銀行を経由して行われてきました。

銀行間をつなぐ専用のネットワークでなければ送金出来なかったのです。

ブロックチェーンを使えば直接スマホやパソコンで国際送金が出来るようになります。

高度な暗号化技術を使って極めて高いセキュリティレベルを実現したブロックチェーン、アリババはこの技術を使うことで銀行ネットワークとは別に新たな送金システムを作ったのです。

中国はこの技術によってアメリカが握るある覇権に風穴を開けようとしています。

ドルによる金融覇権です。

ドルは基軸通貨として世界に流通、貿易のおよそ5割はドルで行われています。

ドルで行われる金融取り引きの情報はアメリカに集まります。

他の国で行われた取り引きもアメリカの金融機関を経由します。

アメリカはドルの取り引き情報を通じてテロ組織や国際ルールを守らない国の資金の流れを把握することも出来るのです。

既存の銀行ネットワークを介さないブロックチェーン、この技術は中国にとってドルによる金融覇権の影響を受けない、新たなシステムになり得るのです。

 

中国は今、官民共同のブロックチェーン研究所を設立し、この研究と普及を推し進めています。

高い技術力を中国政府に認められ、ブロックチェーンの普及を担っているのがIT企業の太一クラウドです。

太一クラウドの鄭 迪(とうてき)CEOは中国政府の支援のもと、アジアや中東の国々にドルを介さない金融システムを作ろうとしています。

鄭CEOは次のようにおっしゃっています。

「アメリカはドルによる金融覇権と軍事覇権、そしてインターネットによる覇権で強くなりました。」

「しかし、ブロックチェーン技術を使うことでアメリカの金融覇権に大きな衝撃を与えることが出来るのです。」

 

中央アジアのカザフスタンは、中国の経済圏構想“一帯一路”における西への玄関口です。

鄭CEOは、カザフスタンにブロックチェーンを普及させようと考えており、次のようにおっしゃっています。

「カザフスタンは“一帯一路”の戦略上、重要な国です。」

「中国とは互いの強みを生かせる関係なのです。」

 

カザフスタンでは中国資本による開発が進み、中国との結びつきが強まっています。

NHKが取材をした日、鄭CEOは中国との貿易を進めている現地の大手開発業者のサウランバイエフ・イエラリCEOと会合を持ちました。

鄭CEOは、中国から輸入する資材の取り引きをブロックチェーンで行わないかと持ちかけました。

そして次のようにおっしゃっています。

「このブロックチェーンは大きく成長すると確信しています。」

「利益も十分得られるでしょう。」

 

カザフスタン側はドルを介さない取り引きに強い関心を示しました。

イエラリCEOは次のようにおっしゃっています。

「今一番頭を悩ませているのが通貨の問題です。」

「アメリカドルのせいで、みんな問題を抱えていますから。」

「ブロックチェーンでつながれば、中国との間でこれまでにないかたちで取り引き出来るようになります。」

「実現すれば“一帯一路”のプロジェクトを加速させていくでしょう。」

 

カザフスタンの不満の背景にあるのは、主力の輸出品である原油がドルで取り引きされていることです。

資源国であるカザフスタンの経済はドルの変動によって翻弄されてきました。

 

鄭CEOのもとには、アメリカの金融覇権に不満を持つ業者から商談が次々と舞い込んでいます。

資源開発業者のラーヒム・ガリモビッチさんは主に東ヨーロッパに原油などを輸出しています。

そしてガリモビッチさんは鄭CEOに次のようにおっしゃっています。

「ポーランドにあなたのための7階建てのビルを用意しましたよ。」

「ポーランド政府はブロックチェーンの計画に1年で40億円を支援してくれるだろう。」

「保証するよ、ポーランドの大統領が味方だ。」

 

ポーランドに貿易の拠点を作ろうと持ち掛けて来たのです。

こうした状況について、鄭CEOは次のようにおっしゃっています。

「新興国は資源を持っていますが、金融を握られているために資産を生かすことが出来ていません。」

「これは“一帯一路”に参加する国々が皆抱えている普遍的な問題です。」

「金融は人々を奴隷とする手段となってはいけないのです。」

 

金融覇権を握るアメリカは、こうした中国の動きを警戒し始めています。

元アメリカ国防総省の情報分析官、スティーブ・アーリックさんは、ドルを介さない金融システムが広がれば、中国に有利なかたちで利用されかねないと考え、次のようにおっしゃっています。

「中国政府がブロックチェーンによる金融システムを構築すれば、非常に多くの金融政策を自らの裁量で出来るようになります。」

「もし中国がブロックチェーンのスタンダードを作り上げ、それを広めることになれば、沢山の国や企業が中国の経済圏に組み込まれていくことになるでしょう。」

「そうなれば、中国によってルールが決められてしまうのです。」

 

ハイテク技術を握ることで、未来の覇権をつかもうとするアメリカと中国、これから世界はどこに向かうのでしょうか。

国際政治学者として世界が直面するリスクを予測して来たイアン・ブレマーさんは、ハイテク技術を巡る米中の攻防が世界を大きく変えると見ています。

そして、次のようにおっしゃっています。

「これは技術を巡る“新冷戦”です。」

「これまではアメリカが技術を主導してきた時代でした。」

「世界を席巻したインターネットがその象徴だったのです。」

「しかし、これから世界はアメリカと中国のハイテク技術によって分断されるでしょう。」

「一つは中国とその影響下にある企業が主導する世界、もう一つがアメリカと同盟国が主導する世界です。」

「ハイテク技術によって2つの世界が築かれ、グローバリズムの時代が終わるのです。」

 

時代の大きなうねりに直面している日本、トヨタ自動車は独自の自動運転技術を開発し、1月にアメリカで新しい実験車を披露しました。

アメリカから引き抜いたAI研究の権威、ギル・プラッドさんをトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI Toyota Research Institute)のCEOに据え、自動運転車を開発中です。

アメリカと中国のハイテク覇権争いで後れを取らないよう、自動運転の実用化を急いでいます。

その一方、トヨタは巨大市場、中国へのアピールも欠かしません。

日中首脳会談の後、トヨタの工場を訪れた李 克強首相に社長自ら開発中の自動運転車を説明、中国との太いパイプも持とうとしていました。

豊田章男社長は次のようにおっしゃっています。

「やはり中国の大市場と成長のスピードにどれだけついて行き、先方から選ばれる会社になっていくか・・・」

 

米中の攻防が激しさを増す中、日本はどう舵取りをするべきなのか、国際政治学者のイアン・ブレマーさんは次のようにおっしゃっています。

「中国は特定の分野では既に超大国になっています。」

「日本は安全保障の面ではアメリカと関係を維持したい。」

「その一方、経済では中国が大事です。」

「日本の立場は増々難しいものになっていくでしょう。」

 

アメリカと中国、2つの大国がしのぎを削る未来の覇権、その狭間で日本はどんな未来をつかむのか、難しい判断を迫られていきます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

アメリカとの貿易戦争で景気が減速する中、中国は巨大な経済圏“一帯一路”の構築を急いでいるといいますが、そうした中で感心するのは習近平国家主席による官民共同で進める金融戦略です。

 

その一つがアリババの進める国際送金サービスです。

それは銀行口座を持たないアジアやアフリカなど新興国の人々でも送金などを利用出来るようになるブロックチェーン技術を応用したサービスを始めたことです。

その手始めがフィリピンから香港へとやって来た出稼ぎ労働者たちを対象とした香港とフィルピンの間の送金サービスです。

これまで銀行を介さなければ出来なかった国際送金をスマホだけで出来るようにしたのです。

こうしたサービスの延長線上で、アリババのネット通販の利用も広がっていき、あるいは中国の掲げる巨大な経済圏“一帯一路”での金融取引にもブロックチェーン技術の活用を見込んでいるはずです。

そして、今後アジアを中心に新興国17億人の市場を視野に入れているのです。

 

さて、銀行を介さずにスマホだけで国際送金出来るサービスはとても画期的なことです。

従来の銀行ネットワークとは別に新たな送金システムが出来るのですから、これまでドルによる金融覇権を握って来たアメリカにしてみればとんでもない話で放置しておくわけにはいきません。

 

なお、中国は今、官民共同のブロックチェーン研究所を設立し、この研究と普及を推し進めています。

そして、高い技術力を中国政府に認められ、ブロックチェーンの普及を担っているのがIT企業の太一クラウドであり、中国政府の支援のもと、アジアや中東の国々にドルを介さない金融システムを作ろうとしているのです。

そしてその手始めは、中国の経済圏構想“一帯一路”における西への玄関口である中央アジアのカザフスタンへのブロックチェーンの普及といいます。

一方、そのカザフスタンでは中国資本による開発が進み、中国との結びつきが強まっております。

そして、産油国であるカザフスタンの経済はドルの変動によって翻弄されてきたので、ドルを介さない取り引きに強い関心を示しています。

大なり小なり、他の新興国や途上国もアメリカによる金融覇権に不満を持っている国はあるはずです。

しかもブロックチェーン技術により、新たに銀行を建設しなくてもスマホさえあれば送金サービスのみならず様々な金融サービスが短期間のうちに利用出来るようになるのです。

ですから、今中国が展開しようとしている国際送金などの金融サ−ビスは、間違いなく新興国を中心に非常に速いスピードで普及していくと見込まれます。

 

こうした中国の動きに対して、元アメリカ国防総省の情報分析官、スティーブ・アーリックさんは、ドルを介さない金融システムが広がれば、中国に有利なかたちで利用されかねないと危惧しています。

また、国際政治学者のイアン・ブレマーさんは、こうした米中間の金融覇権争いを技術を巡る“新冷戦”と見ています。

 

ということで、現在はITを軸に、経済、軍事、金融と様々な分野で大変革が起こりつつあり、こうした分野を取り巻く環境が大きく変わり、どの国がその変化をいかにより速く、よりうまく取り込んでいくかによって今後の勢力図が大きく書き換わる状況にあるのです。

そしてアメリカと中国がその2大大国で、今のところ中国が官民一帯で先行しているように見えますが、問題は中国の志向する覇権主義です。

以前もお伝えしたように習近平国家主席には、覇権主義を唱えることなく、自国の繁栄とともに他国との共存共栄を目指していただきたいと思います。

中国から覇権主義の影が消えれば、トランプ大統領の中国に対する強硬路線も弱まり、同時に世界各国も中国に対して親しみを持って対応するようになると期待出来るからです。

逆に、あくまでも習近平国家主席が覇権主義を唱え続けるのであれば、自由主義圏の国々はトランプ大統領を先頭にいろいろな手段を使って、中国の動きを阻止せざるを得ないのです。


 
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