人手不足による人材難を反映して、カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、2020年春に入社する新入社員の初任給を約2割引き上げて、21万円から25万5000円にすると4月4日付け読売新聞の朝刊で報じられていました。
その狙いは海外展開を担う優秀な人材を確保するためだといいます。
働き手不足を背景に、他の業界で若手社員の待遇を改善する動きが相次いでいます。
明治安田生命保険は、今春入社の営業職員の一部で初任給を最大3万円増やしました。
慢性的な人手不足を抱える保育業界などでも同様の動きがあります。
こうした初任給の引き上げは、企業が新卒採用を増やすための有効な手段の一つとされています。
こうした中、同一労働同一賃金も喫緊の課題で、国の進める「働き方改革」でも取り組まれています。
そこで、1月8日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で人手不足が後押しする同一労働同一賃金について取り上げていたのでご紹介します。
物流大手の日本通運(日通)は4月1日から非正規社員の賃金を正規社員と同じ水準に引き上げる方針を明らかにしました。
全国に1万3000人いる非正規社員のうちフルタイムで働く数千人が対象になります。
「働き方改革」関連法案は来年4月から「同一労働同一賃金」を義務付けていて、日通は1年前倒しして導入します。
こうした日通の動きについて、番組コメンテーターでモルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザーのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。
「これは「同一労働同一賃金」の原則が出来たからやったんじゃないと思います。」
「むしろ労働不足が極めて深刻だからやっているということが一番大きな理由ではないかと思いますね。」
「で、非正規(社員の賃金)がむしろ正規(社員)より高くなる可能性もあると思いますね。」
「労働不足の中で、(社員を)採らなきゃいけないということで、正規社員が動かないので、非正規社員が動けるから高くなってもおかしくないんです。」
「加えて、非正規社員はそもそもクビになるリスクが高いのに、賃金であるリターンがなぜ低いのかと。」
「ちょっと逆だなと思いますけども、この問題がどこまで深刻かということを見るには、この数字がちょっと面白いと思います。」
「これは財務省の法人企業統計から取っている数字ですけども、1人当たり人件費(2018年9月までの1年間)は、大企業(資本金10億円以上)は712万円ですね。」
「で、中堅・中小企業(資本金1000万円〜10億円未満)は446万円ですね。」
「全然違うんですね。」
「446万円をどうやって上げるかというのが問題ですね。」
「で、やっぱりスキル向上ですね。」
「もっとよく働けるようにすると。」
「スキル向上は基本的に教育、訓練、練習ですね。」
「で、「働き方改革」の中で労働時間の制約を変えるということですけども、時間を制約して教育、訓練、練習になるかというとならないんですね。」
「私は、むしろこれは特に若者に対して迷惑だと思いますよ。」
「むしろスキルを身に付ける訓練を熱心に出来るようになった改革が大事じゃないかなと思いますね。」
「働かせ過ぎということはパワハラですから、それは従来のやり方で取り組むべきではないかと思いますね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
国が進める「働き方改革」は、本来人手不足であるかどうかには関係なく、働き過ぎがないように法的に制限を加え、また同一労働同一賃金を法的に規定し、人手不足を緩和させるために外国人労働者の受け入れをし易くし、一方でITを駆使するなどして生産性向上に取り組み、その結果、従業員がワークライフバランスを取れるようにするというのが狙いのはずです。
しかし、フェルドマンさんのおっしゃるように人手不足が同一労働同一賃金を後押ししているとすれば、これは国が進める「働き方改革」が背景になくても企業による「働き方改革」は進むということになります。
ここであらためて感じるのは、経済の大原則である需要と供給の関係です。
今の労働市場を需要と供給の関係で説明すれば、少子高齢化により労働供給量は徐々に減ってきており、企業による労働需要に比べて供給量が不足してきています。
ですから、企業間で労働力の奪い合いの動きが強まり、その結果少しでも他社より賃金や労働時間など有利な条件で労働力を獲得しようという競争が激しくなっているのです。
ここで深刻なのは、大企業に比べて1人当たり人件費の少ない中堅・中小企業です。
このまま人手不足の状態が続けば、従業員の待遇を改善出来なければ、いずれ廃業せざるを得ない企業が続出することになります。
こうした状況を打破するためには、どのような対応策が考えられるでしょうか。
以下に私の思うところをまとめてみました。
・従業員の都合に合わせて、何歳になっても働ける能力のある高齢者、あるいは育児や介護などを抱えている人でも働ける労働環境を整備すること
・外国人労働者の受け入れをし易くすること
・現状の業務を全面的に見直し、AIやITなどを駆使して、業務プロセスを改善し、生産性向上を目指すこと
このように見てくると、人手不足解消のために外国人労働者の受け入れに注目が集まっていますが、そのために働きたくても働けない日本人が増えてしまうことは本末転倒です。
ですから、まず高齢者や育児や介護などをしながらでも働ける労働環境を整備することを第一義に考えるべきだと思います。
ということで、今はたまたま人手不足状態で「働き方改革」が追い風になっていますが、人手が過剰になった状況においても「働き方改革」の狙いが維持出来るような仕組みになって欲しいと思います。