1月7日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で無人化を可能にする考えるロボットについて取り上げていました。
そして、前回、ロボットの自律制御を可能にするモーションプランニングというAI技術を駆使した、画期的なロボットについてご紹介しました。
今回は番組を通して、このロボットの発明者の執念が可能にした事業化のプロセスに焦点を当ててご紹介します。
このステムを作り上げたのが株式会社MUJINのCTO(技術責任者)、ロセン・デンコウさん(35歳)です。
アメリカの名門工科大学で博士号を取得したAIのスペシャリストです。
CEOの滝野 一征さん(34歳)との出会いは、2009年にロセンさんが当時インターンをしていた会社から国際ロボット展のために東京に来た時だといいます。
当時、海外の工具メーカーでトップセールスを上げていた滝野さんの営業力に目を付けたロセンさんは滝野さんをビジネスに誘いました。
当時について、滝野さんは次のようにおっしゃっています。
「(ロセンさんには)大きな夢があるんですね。」
「それを沢山聞かされまして、現場離れした夢を語られると、僕もちょっと引いちゃうとこがあったんですけども、・・・」
断られたロセンさんはアメリカへと帰っていきました。
しかし、ある日多忙を極める滝野さんにロセンさんから1通のメールが届きました。
自らの成果をアピールするメール、最後に「滝野さんとならこの技術をビジネスに出来る」という一言がありました。
滝野さんはこのメールを無視しましたが、ロセンさんからのラブコールは1年ほど続きました。
正月、大阪の実家にいると、ロセンさんから電話があり、「もうすぐ大阪に着きます。会って下さい」と言われました。
当時について、滝野さんは次のようにおっしゃっています。
「彼(ロセンさん)と一緒だったら成功出来ると思ったと言うよりか、これだけしつこい、これだけ情熱があるとなったら、彼と失敗してももう1回一緒に出来る人かなと思ってですね、・・・」
こうして二人は2011年にMUJINを創業、国内外から優秀なエンジニアを集め、世界初の制御装置を作り上げました。
現在開発を進めているのが単品ごとのピッキングです
既に袋状の商品にも対応していますが、今後人の2倍以上のスピードと正確さを目指すと言います。
MUJINの制御装置は世界大手のFANUCなど主要メーカーのロボットに対応、自動車などの製造工場だけでなく物流倉庫への導入も進んでいて、完全無人をうたう中国のネット通販大手、JDドットコムの倉庫にも採用されました。
滝野さんは次のようにおっしゃっています。
「(日本でも完全無人の工場がそのうち出来るのかという問いに対して、)そうですね。」
「全無人じゃなくても全体の90%、80%の自動化でも十分なので、その先にロボット市場、機械市場の更なる拡大があるんじゃないかなと思います。」
ロセンさんの執念、情熱で考えるロボットが世に出たということですが、番組コメンテーターでモルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザー、ロバート・A・フェルドマンさんはこの企業に学ぶことが多いと考え、次のようにおっしゃっています。
「やはり発明から営業まで出来るのは結構難しいんですね。」
「独りでやるのは本当に無理ですね。」
「性格上、(独りで)全部出来るということは中々出来ないんですよね。」
「(MUJINの場合はロセンさんが発明と起業まで、そして滝野さんが起業と営業を行うことについて、)重なっているということもありますし、完全な分業じゃないんですね。」
「やはり情報交換の分業ですね。」
「実は、私は今、理科大(東京理科大学)で技術系プログラムを教えていますけども、こういうプロセス(発明⇒起業⇒営業)はどうなっているのかを一生懸命勉強する学生が沢山いますけども、やはりものすごく尊敬し合っていることがすごいですね。」
「で、普通はロセンさんみたいな学者っぽい人がセールスをどうしても「お願い、お願い」って言わないんですよね。」
「大体の会社は営業部と調査部は仲がいいかもしれないけども、情報交換が足りない。」
「で、この二人は仲良くやろう、情報交換やりながらやろうということがものすごくいいんですね。」
「こうやって時間がかかったんですね。」
「2011年に創業してすごい時間がかかったんですよ。」
「相当すごい情報交換、互いにしようということだったので、結構すごいなと思いますね。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
世の中に存在しない新しい製品やサービスを開発し、更に販売までこぎつけるのは、とても大変なことだと思います。
こうした事業を全て独りだけでやろうとしてもまず無理です。
そこで人集めですが、海のものとも山のものとも分からないような製品の開発に一緒に取り組もうと誰かに働きかけても、以下の観点で中々その気になってもらえません。
・売り上げが上がるまでの自分自身の収入の確保
・製品化の実現可能性
・商品化に結び付くまでの資金の手当て
・販売開始後の事業継続に必要な利益確保の可能性
このように新しい事業に取り組み続けることは、容易なことではないのが一般的です。
では、最後までやり抜く拠りどころは何かといえば、最後まで諦めない“Never Give Up”精神です。
この“何が何でもやり抜くぞ”という強い想い、あるいは執念が次から次へと飛び込んでくる難問を弾き飛ばすアイデアを閃かさせてくれるのです。
番組で取り上げられたいくつかのロセンさんの行動はまさにこの体現です。
ロセンさんのしつこいほどの働きかけが当初は消極的だった滝野さんの心を動かしたのです。
そして画期的なロボットの開発に向けて、ロセンさんの心を突き動かしている源は、いろいろな産業界での導入による大きな効果だと思います。
自分の発明が世の中に貢献出来るという影響度が高いと想えるほど、一緒に取り組んでいる仲間も含めてより大きなパワーが湧き出てくるのです。
ですから、ロセンさんのこうした熱い想いが続く限り、更なる画期的なロボット開発は続くと思われます。