2019年03月02日
プロジェクト管理と日常生活 No.582 『中小企業の3分の1ほどが10年以内に廃業!?』

昨年11月21日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でサラリーマンによる個人的なM&Aについて取り上げていました。

そこで、番組を通して中小企業存続という日本経済に大きな影響を及ぼす課題の対応策についてご紹介します。 

 

現在、日本には約380万社の企業があります。

そのうち、およそ3分の1にあたる127万社ほどが10年以内に廃業する可能性があると言われています。

そのほとんどが中小企業で、経営者の高齢化を背景とした後継者不足が原因となっています。

こうした中小企業などを普通のサラリーマンが買う個人M&Aという新たな動きが始まりました。

 

金属加工業を営む美山精機(京都市伏見区)、従業員は7人、産業用ロボットのアルミ部品を製造する町工場です。

この会社を経営するのが溝口 勇樹さん(26歳)、実は親から会社を継いだわけではなく、26歳の若さで美山精機を買収したと言います。

溝口さんは元日立製作所の営業マン、しかし働き方が大きく変わる今、就職した当初から独立を考えていたと言います。

「大学を卒業してからすぐ起業という道もあったんですけども、大企業の仕組みを自分でよく知っておきたいなと思って、自分がそこでうまくこういった会社を買って成功することが出来れば・・・」

 

溝口さんが利用したのがTRANBIというM&Aのマッチングサービスです。

地域と業種を入力することで様々な案件を探すことが出来ます。

そこで見つけたのが3000万円で売り出されていた美山精機です。

買収資金は、経営が安定していることから地元銀行から融資を受けることが出来ました。

自己資金を使わず、会社を手に入れた溝口さんですが、経営は勿論モノづくりも初めてです。

そこで取り組んだのが設計図の整理、以前は納期や個数を全て手書きで管理していましたが、納品データをパソコンに取り込み、伝票を付けるようにしました。

溝口さんは次のようにおっしゃっています。

「手書きの時は3時間ぐらいかかっていたのが、今は1時間ぐらいなので3分の1になりますね。」

 

一見何気ない工夫ですが、作業効率は劇的に改善、生産効率が上がったことで、新規顧客の開拓も可能になり、月間売上は昨年8月の約200万円から昨年10月の約500万円と、わずか2ヵ月で2.5倍になったといいます。

溝口さんは次のようにおっしゃっています。

「こういった中小企業を自分で経営して生まれ変わらせることに結構やりがいを感じているので・・・」

 

今、そんな個人M&Aが注目を集めています。

「サラリーマンが300万円で小さな会社を買うサロン」という名のM&Aセミナー、月曜日の夜8時にもかかわらず大盛況です。

このサロンを主宰する、株式会社日本創生投資の三戸 政和社長は投資ファンドの代表として個人M&Aの仕組み作りに取り組んでいます。

退職後の人生を考える人や独立を考える人、参加者の想いはそれぞれです。

 

このサロンの参加者、宮崎県からやって来た経営コンサルタントの馬場 拓さん(44歳)は次のようにおっしゃっています。

「会社をいくつか持って、オーナーになるように、年内に1個候補を見つけて買いたいなと思っております。」

 

今回、馬場さんは三戸さんと一緒に以下の地元企業を視察し、ビジネスの可能性を探りました。

海岸近くに店を構える「海の家 黒潮」(宮崎県延岡市)のオーナー、高野 干城さん(69歳)は16年前に700万円でこの店を購入しましたが、高齢で体がついていかなくなったので後継者を探しているのです。

海からも近く、夏には1日に200人が訪れる人気店です。

地元で獲れた新鮮な伊勢海老も名物です。

しかし、夏場に売り上げが集中し、収入も不安定、今の時期は中々買い手も付かないといいます。

こちらの海の家について、三戸さんは次のようにおっしゃっています。

「例えばウェブの開発をやっている人が閑散期はここで仕事をしながら、繁忙期はお店に出るとかということもあり得ますから、副業・兼業みたいなイメージの中で、全体としての売り上げ、収益をどう上げていくかを考えていけば、・・・」

 

次にやよい食品は、弁当や総菜を製造する従業員13人の企業、地元スーパーへの細かな配送も請け負い、創業以来45年間安定した経営を続けてきました。

そんな社長の吉田 博光さん(80歳)は8年前に新しい工場を購入したといいます。

娘婿が継ぐと言っていたのですが、やれないということで、以来新工場は閉鎖中、引き継ぎ手を探しているといいます。

売値はおよそ2500万円で、取引先や技術は全て無償で提供するといいます。

売り上げは毎月約1000万円、ケータリングなど新工場を使った新しいビジネスの成長も十分に見込めそうです。

こちらの会社について、サラリーマンの買える優良企業と三戸さんは判断しています。

 

視察を終えた馬場さんは個人M&Aに手ごたえを感じたようで、次のようにおっしゃっています。

「今日は三戸さんに同席していただいて、いろんな企業を見る、僕が持てない新しい視点で質問をして下さったので非常に参考になりました。」

 

売り手と買い手をつなぐ個人M&Aの市場を広げたいと考える三戸さんは次のようにおっしゃっています。

「サラリーマンの終身雇用もこれから先どうなっていくんだということもありますので、新しい生き方として中小企業を経営していくという、大廃業時代とミックスされて大きな問題解決の一つになっていくんじゃないかなと期待していますね。」

 

この中小企業の事業承継は日本にとってのこれからの大きな課題ですが、番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは次のようにおっしゃっています。

「(個人が出来ることも少なくなさそうではという指摘に対して、)そうですね、起業の別の形態とも考えられるので面白いと思います。」

「(梅澤さんはもうちょっと考えるべきことがあるのではないかと考えているようですが、)地域に根差した企業をどうするかという話であれば、本来は同じ地域の中にいる同業他社が買収をして統合するのが最も合理的。」

「ところが中小企業のいろんな調査を見てみると、そもそも売却による承継をしたいと言っている人も割と少ないし、同業者から後継者を探すのではなく、それ以外の関係のない人を後継者にしたいという人の方が多いんですね。」

「(地域の同業他社は長年積もりに積もった確執や軋轢とか、負の感情が相手に対してあるので、あそこだけは嫌だということもあるのではという指摘に対して、)そうかもしれません。」

「でも冷静に考えると、優良な商圏や技術が付いてきますというのだったら、競合企業も喜んで受け入れるはずだし、そもそも買った後の企業運営のリスクも低いですよね、長年やってきたことなので。」

「それから地域市場が縮小しているケースもあって、そうすると不毛な消耗戦を止めることも出来ると、いろんなメリットがるので、引退する経営者の側ももう少し感情に流されずに合理的なアプローチを取って欲しいなと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそも現在、日本には約380万社の企業があり、そのおよそ3分の1の127万社ほどが10年以内に廃業する可能性があるという状況は日本経済の大変な危機と言わざるを得ません。

そのほとんどが中小企業で、経営者の高齢化を背景とした後継者不足が原因だと言われているのです。

ちなみに2017年版中小企業白書によれば、その数、割合は以下の通りです。

大規模 :1.1万社(0.3%)

中小企業:380.9万社(99.7%)

 

このように、ごくわずかの大企業の事業は多くの中小企業に支えられているのです。

ですから、中小企業の事業承継はまさに日本経済にとって喫緊の課題なのです。

しかも、こうした中小企業の中には長年安定した経営をされてきた企業もあるというのですから、もったいない話です。

 

ということで、この大きな課題の対応策には国を挙げて取り組む必要があります。

そこで、以下に具体的な課題対応策について私の思うところをまとめてみました。

・番組で紹介されたような、企業の売り手と買い手をつなぐM&Aサイトの認知度を高める

・個人など買い手に資金的な余裕がない場合、資金提供をしたい金融機関とつなぐサービスもこうしたサイトに組み込む

・AIやロボットのメーカーは、業務だけでなく経営全般の生産性向上を目指した機能に注目した開発を積極的に進める

・特に大企業は、若い人材育成の場もかねて、M&Aサイトを利用して自社の事業に関連のある中小企業を積極的に買収する

・国は、国内の多くの中小企業の廃業の危機を国民に訴え、国の立場から企業経営の研修の場の提供など、積極的な支援を行う


 
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