2019年02月25日
アイデアよもやま話 No.4261 「ペッパー」にリストラの危機!?

昨年11月19日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で「ペッパー」のリストラ危機について取り上げていたのでご紹介します。

 

ロボットというと、人と同じようなかたちをしたヒト型ロボットを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

ところが、今活躍しているロボットは、機能性を重視したヒト型ではないロボットが多くなっているのです。

私たちの身の回りでロボットの存在が当たり前のようになってきた今、ロボットがヒト型である必要性はなくなってきているのでしょうか。

 

昨年11月19日、ソフトバンクロボティクスが発表した新型ロボット「Whiz(ウィズ)」は、AIを搭載した清掃ロボットです。

オフィスなどで使う業務用で、人や障害物を上手に避けながら掃除します。

発表会では「ペッパー」も登場、「ペッパー」はAIを搭載したヒト型ロボット、ソフトバンクを代表する存在です。

2015年に華々しく登場、既に2000社以上に導入されています。

登場から3年間が過ぎ、契約更改の時期に差し掛かっています。

ところが、日経XTECHのアンケート調査によると、契約を更新すると答えたのはわずか15%でした。(導入企業44社を対象にアンケート 24社が回答)

 

番組では「ペッパー」を使う企業に実際に話を聞いてみました。

すると、導入企業担当者からは以下のような回答が寄せられました。

「機械にディスプレーが付いて、ただしゃべるだけならロボットじゃない。」

「今はほとんど使っていないし、契約は更新しないつもりだ。」

「見た目ほど高機能ではなく、期待外れだ。」

 

匿名を条件に話を聞くと厳しい意見が多く聞かれました。

 

更に「ペッパー」だけでなく、ヒト型ロボットの必要性自体に懐疑的な見方も出ています。

グーグルは二足歩行ロボットを開発していた「シャフト」について、事業化が難しいとして、開発中止を決めていました。

 

会見で記者に「ペッパー」の人気が落ちているのかと問われたソフトバンクロボティクスの冨澤 文秀社長兼CEOは次のようにおっしゃっています。

「契約の更改に関しましては、初動が出ていまして、具体的な数字はちょっと言いづらいんですけども、皆さんの想定の数倍は継続ということでご判断をいただいております。」

 

実際に「ペッパー」を使っている現場を番組が訪ねました。

京浜急行電鉄(京急)は3年前から羽田空港国際線ターミナル駅に「ペッパー」を配置しています。

主な仕事は、沿線の観光名所や駅構内の案内です。

あるアメリカ人旅行者からの質問にタッチパネルで答えると、「とてもシンプルで簡単」という評価でした。

しかし、別のアメリカ人旅行者からの質問には、音声認識の機能がなく、対話は成立しませんでした。

なので、評価は「私の英語の言葉を理解してくれれば、とても助かるのだけれど・・」というものでした。

 

課題はあるといいますが、京急は今後も「ペッパー」を使い続ける意向です。

京急 広報部の関根 拓郎さんは次のようにおっしゃっています。

「今後は東京オリンピック・パラリンピックもございますので、そういうところのおもてなしも含めて、今まで同様に活躍していただければと思っております。」

 

一方、「ペッパー」の大量導入を決断したチェーン店、はま寿司では2017年から「ペッパー」の導入を進め、国内498店舗で「ペッパー」に受付業務を担わせています。

その狙いについて、はま寿司 社長室の木谷 佳央さんは次のようにおっしゃっています。

「「ペッパー」を導入したことによって従業員のサービスが向上しておりますので、十分費用に見合っております。」

 

お客の回転が速い回転寿司では、受付業務を任せられるだけでも大きな戦力だといいます。

更に、次のような家族連れのお客の声があります。

「「いらっしゃいませ」とか言ってくれるとうれしいね。」

 

「普通の人じゃないから、何もしゃべらなくてもいいから、(人が受付する)お店で言うより楽。」

 

「(「ペッパー」の好きなところについて、子どもの答えは、)お顔。」

 

ファミリー層をメインターゲットとしているはま寿司では、「ペッパー」人気は今も衰えていないようです。

ソフトバンクロボティクスの冨澤 文秀社長兼CEOは次のようにおっしゃっています。

「人とロボットの関係と経験というのは、こればっかりは実際に売って市場と会話しないと分からない。」

「これを我々知見として溜めていますので、それをどんどん進化して他社からも差別化していきたいなと思っていますね。」

 

番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは次のようにおっしゃっています。

「(ヒト型ロボットにズバリ未来はあるかという問いに対して、)ヒト型ロボットと言っても、大きく2つのタイプがあります。」

「1つ目は、「ペッパー」を含めた商業用・家庭用のコミュニケーション・ロボット、これはAIと競合するようなタイプのものですね。」

「2つ目は、軍事・災害救助用、要は物理的な作業をかなり本格的にやるタイプです。」

「(グーグルで開発した)「シャフト」もその一つです。」

「で、この2つは相当違うシロモノで、一つ目は顕在化したニーズが一定にあって、参入障壁もそれほど高くないので、これからもいろいろなプレーヤーが入って来て進化も続いていると思います。」

「で、難しいのは2つ目で、これは技術的にまず難易度が相当高い、研究開発費もかなり大きくなる。」

「一方で初期需要が、軍事がない限りあまりない。」

「まだまだ市場が小さくて、恐らく最初の大きな市場は軍事用だろうというところです。」

「なので、日本にとっては育てるのに中々苦労するセグメントであることは間違いない。」

「(この2つのどちらに未来がありそうかという問いに対して、)1つ目は放っておいてもいろんなかたちで続いていくと思いますが、要注目は2つ目で、これをどこまで続けることが出来るかがポイントですね。」

「特に欧米の識者に言わせると、「様々なタスクをこなすのにヒトのかたちをしている必要はないよね」と。」

「「一個一個の機能に特化したモノを作っていけばいいね」ということで、生産ラインとか物流のロボットなんかもヒト型ではないわけですね。」

「ただ一方で、ヒト型を追求する意味はあって、ロボットの動作を人間と同じように自由度を極限まで高めるという目標設定をしていくと、最終的にはヒトと接続するロボット、身体拡張、あるいは身体補強用のロボットを作ることが出来ると。」

「で、実際に身体障碍者とか、あるいは高齢者用のパワードスーツみたいなモノを作っていこうと思うと、やっぱりヒトの動きをかなり真似したモノが必要になると思うので、そこの要素技術の開発をどういう市場でお金を稼ぎながらやっていくかというのが多分ポイントになるのかなと。」

「(ヒト型ロボットではなく、ヒト用のロボットになっていくという感じではという指摘に対して、)ヒトと接続をするかたちのロボットということです。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通して面白いと思ったのは、「ペッパー」に対する日経XTECHのアンケート調査結果、および導入企業の声です。

もともとソフトバンクロボティクスが「ペッパー」を開発する際には、ある用途を想定した上で設計要件を決めているのです。

ですから、どのような機能を持っているか、そしてその機能はどのような用途に使えるかは限られているわけです。

そして、導入企業が「ペッパー」を導入する際に、あらかじめ「ペッパー」の持つ機能を見定め、その範囲内でどのような業務に使えるかを明確にしていた企業は今後も使用を継続しますが、用途を明確にしないままロボットなら何か役立つだろうくらいに考えていた企業は契約更新をしないと思われます。

 

人手不足が大きな問題になっている今、ロボットに限らず、AIや業務支援アプリなどの導入を積極的に進める企業とそうでない企業との間には、歴然とした競争力の差が出てきます。

そして、時間の経過とともにその差はどんどん広がっていきます。

 

こうした新技術の導入に積極的な企業にとっては、ヒト型ロボットかどうかはほとんど関係なく、重要なのは求めている業務をヒトに代わってこなしてくれるかどうかなのです。

ただし、少なくとも接客業においては、ヒト型ロボットの方が親しみを感じられるので、あまりコストに違いがないのであれば「ペッパー」のようなロボットの方を導入するのではないかと思われます。

 

そもそもロボットを開発する企業があらかじめどのような機能を持たせれば需要が期待出来るかを明確にして開発しなければ、事業としての成功はおぼつかないのです。

 

いずれにしても、ソフトバンクロボティクスの冨澤社長兼CEOもおっしゃっているように、「ペッパー」というこれまでにないような感情を持ったヒト型ロボットはまだまだ発展途上で、実際に導入企業で使用されて、その中で見つかる改善点を反映するかたちでどんどん進化を続けていくと思われます。

 

ということで、「ペッパー」は導入企業の一部からはリストラされるでしょうが、一方で積極的な活用を目指す企業は「ペッパー」の成長とともに今後とも活用領域を広げていくと期待出来ます。

 

なお、ロボットの軍事的な使用については賛否両論あると思います。

今や兵器は、通常兵器や核兵器、細菌兵器のみならず、ロボットやサイバー空間、および宇宙の軍事利用など、多岐にわたって広がっています。

そして、これらの兵器を開発するためには莫大な費用が必要になります。

ですから、2大経済大国と言われるアメリカ、中国などごく限られた国のみが十分な装備のあるこれらの兵器を開発することが出来ます。

そうすると世界各国の間で、軍事格差が今後ともどんどん広がっていきます。

 

一方で、世界的にはまだまだ食糧や水、電気などが不足している中で暮らしている人たちは沢山おります。

ですから、各国の軍事費全体に歯止めをかけ、その資金の一部でもこうした貧しい人たちを支援する目的に回すような仕組みを国連などの国際機関が積極的に検討していくべきだと思うのです。


 
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