2018年11月12日
アイデアよもやま話 No.4171 生命維持の要 エクソソーム その1 エクソソームを通した臓器同士の膨大なやり取り!

7月22日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHK Eテレ東京)で生命維持の要であるエクソソームについて取り上げていたので4回にわたってご紹介します。

1回目はエクソソームを通した臓器同士の膨大なやり取りについてです。 

 

2017年9月から「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)で放送した「シリーズ 人体」、今回はそのプラスルファの情報をお伝えします。

人体において重要なテーマとしてお伝えしたのが臓器同士の会話です。

これまでは脳が出す指令によって臓器は活動していると常識的に考えられてきましたが、それを覆したのです。

その主役、臓器同士のやり取りに使われるのはエクソソームと呼ばれるメッセージカプセルです。

エクソソームは1万分の1ミリほどの小さなカプセルで、中にはマイクロRNAと呼ばれるメッセージ物質が詰まっています。

例えば、心臓の細胞からメッセージ物質が放出されると体内を巡り腎臓へ、すると腎臓はそれに従って心臓を助けるためおしっこを作って出し、血圧を下げるなどの反応をします。

こうしたメッセージ物質の多くはエクソソームに包まれて運ばれることが次々と明らかになっています。

私たちの体の中を駆け巡るエクソソームはなんと100兆個もあります。

臓器同士は膨大なやり取りを繰り返しているのです。

更にエクソソームがどんなメッセージ物質を持っているかを調べることで、体内で起きている病気の兆しを発見することも可能になります。

これまでの健康常識に大変革をもたらしつつあるエクソソーム研究、番組ではその可能性に迫ります。

 

人々を死に追い込む心筋梗塞、この治療にエクソソームを活かそうという研究が進んでいます。

心筋梗塞は発症すると、細胞が瞬く間に壊死します。

一命を取りとめても心臓を元通りに戻すことは困難とされています。

心臓は新しい細胞に入れ替わるケースが極めて遅いのです。

50年かけて入れ替わるのはわずか3割程度に過ぎません。

ところが心臓の中に潜むエクソソームの中にごくわずかですが、心臓の細胞を再生させるメッセージを持ったマイクロRNAが含まれていました。

これをうまく使えば心筋梗塞を治すことが可能になるかもしれません。

 

番組の中で映し出された心筋梗塞を起こしたマウスの心臓は画面の下の部分では細胞は死滅し、数が減っています。

一方、マイクロRNAを人工的に増やしたマウスでは、心臓の壁が元気な状態に戻っていきました。

このようにエクソソーム研究によって医療の世界に革命が起きようとしているのです。

国立がん研究センター研究所・分子細胞治療研究分野 プロジェクトリーダーの落谷 孝弘さんは次のようにおっしゃっています。

「我々人間の体の細胞数ってだいたい37兆個あると言われてるんですね。」

「つまり1個の細胞が沢山のエクソソームを分泌しているということになります。」

「更に健康な状態の時はいいんですけども、これが少し健康から外れた状態、病気になったりすると、その病気にかかる細胞の分泌するエクソソームの量が何十倍にも増えるということも分かっているんですね。」

「実際に細胞の言葉を我々は聞き取ることは出来ないんですけども、まさにそのエクソソームの中に細胞が発した何かのメッセージが込められている、それが恐らくSOSであったり、あるいはもっと別のメッセージかも知れませんね。」

「(それが分かったのはいつかという問いに対して、)それは2007年、今から11年前。」

「実はスウェーデンの呼吸器内科の先生であるヤン・ロトバル博士という方がある論文を出されました。」

「どうやらマイクロRNAというものがエクソソームに入っている、そのマイクロRNAこそがメッセージ物質の役割を果たす、その主役なんだということだったんですね。」

「実際にはマイクロRNAは核酸物質の一種です。」

「でもこれが実は不安定なんですね、とっても。」

「ですから血液中に出てくると、恐らく一瞬で分解されるはずなのになぜ安定なのかおかしい、何かやっぱり理由があるはずだ。」

「そこに彼らはエクソソームという発想を持ってきて、その中に大事にパッケージングされている。」

「実はエクソソームは脂質二重膜という脂の膜で包まれていますから壊れない、守られているんですね。」

 

では、この中はどうなっているのでしょうか。

落谷さんは次のようにおっしゃっています。

「実はマイクロRNAは22個の塩基が連なっている、そしてこれがいろいろな種類、つまりいろいろな配列の22個の塩基の小さなRNAがあって、これが沢山エクソソームに詰まっている、そういうことなんですね。」

「(この順番は組み変わらないのかという問いに対して、)組み変わります。」

「そうするとメッセージの種類が変わっていくということですね。」

「たった22個なんですけど、実はそれが意味を持つ、これが最近の大きな発見なんですね。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

私も番組の冒頭で言われていたように、これまで脳が出す指令によって臓器は活動していると思っていました。

ところが、エクソソームを通じて臓器同士は膨大なやり取りをしているというのです。

そして、エクソソームの中にいろいろな配列の22個の塩基のマイクロRNAが詰まっており、これが種類によっていろいろな機能を果たしているというわけです。

ですから、どのマイクロRNAがどんな役割と果たしているかと突き止めることによって、心筋梗塞だけでなく様々な病気を治す可能性が出て来たのです。

それだけでなく、特定の病気にかかる細胞の分泌するエクソソームを突き止めることによって、発病時に素早く適切な治療を施すことが出来るようになるのです。

 

今、iPS細胞など再生医療にとても注目が集まっていますが、今回ご紹介したエクソソーム、およびマイクロRNAも新たな医療法として今後の研究に注目したいと思います。


 
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