2018年11月01日
アイデアよもやま話 No.4162 三田 紀房さんの漫画への独自の取り組み その2 描かない漫画革命!

7月16日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)では漫画家 三田 紀房さんがゲストに迎えられていました。

そこで、番組を通して三田さんの漫画制作への独自の取り組みについて2回にわたってご紹介します。

2回目は三田さんの進める描かない漫画革命についてです。

 

新しいことに次々にチャレンジしてきた三田さんですが、今、漫画界の常識を覆す新たな取り組みを始めています。

三田さんは今も漫画の週間連載を抱えています。

「アルキメデスの大戦」では、戦艦大和の建造を巡り、対立する日本海軍の内部を描きます。

しかし、三田さんが連載しているのはこれだけではありません。

「ドラゴン桜」の続編、「ドラゴン桜2」も1月に連載を始めました。

しかし、今いるアシスタントは連載1本で精一杯です。

更にもう1本抱えられる秘密はどこにあるのでしょうか。

三田さんは次のようにおっしゃっています。

「僕は「ネーム(設計図)」だけやるというスタイルですね。」

「これ(「ネーム」)が出来れば、漫画は90%出来たも同然なので、これさえ出来ればもうほぼほぼ終わりと。」

 

実は、「ドラゴン桜2」は話の流れと大まかなコマ割りを描いた「ネーム」だけを描き、後は漫画の専門家ではないデザイン会社に外注しているといいます。

その理由について、三田さんは次のようにおっしゃっています。

「週刊誌2本やるということは、この倍の人数が必要になりますので、やはり人材をまず獲得するところから始めるとなると、非常にコストと時間的ロスがあるので・・・」

 

漫画づくりをもっと合理的に、今、三田さんは分業を進めることで漫画の制作プロセスを根本から変えようとしているのです。

三田さんは次のようにおっしゃっています。

「この技術が確立すれば、漫画の産業ってもっともっと可能性が広がるって思うんですね。」

「漫画を受注して生産するという、これまでにないスタイルが出来ることによって漫画に参入する可能性が一気に広がるわけですよ。」

「(どうしてこのような方法を考えたのかという問いに対して、)まず一つは僕の年齢的、体力的な問題がありますね、もう60歳ですので。」

「やはり、もうキャラクターを入れるのが1本が精一杯と。」

「で、もう1本やはりやりたいんだけど、それをどうやって解決するかと言った時に、それを外部で生産してくれるシステムが出来上がりましたので、そこに全て外注するというスタイルを採用したんですね。」

「(業界としてはこれまでにない仕組みなので、仕組みづくりから始めたのかという問いに対して、)そうですね。」

「これにはかなり時間をかけましたけども、でもかなりその水準が出来ましたので、そこはもう思い切ってチャレンジしてみようということだったんですけども。」

「(漫画業界は人手不足も進んでいる業界になるのかという問いに対して、)漫画業界は家内制手工業というイメージが強いんですね。」

「で、やっぱり狭い空間で少人数でという、やはりそこには非常に可能性を感じる若者がだんだん減ってきているので、それを何とか解決するにはビジネスの感覚で、いわゆる会社勤めの感覚を若い人たちに持ってもらうと。」

「そうすることによって漫画に入り易い環境になるんではないかなということで、我々が今それにトライしているところなんですけども。」

「いわゆる、これはビジネスというところのロジスティックスというか、物流システムというか、いろんなパートを分けることによって全体の分業体制をどうやって確立するか、それがうまく円滑に回れば漫画の生産量が一気に上がるというふうに僕は考えているので、それを何とか成功させたいなというふうに考えております。」

 

なお、三田さんは外注するだけでなく、ご自身のスタッフも「働き方改革」が進んでいて週休3日で残業が無いといいます。

これについて、次のようにおっしゃっています。

「そうですね、最終日だけは原稿が仕上がるまで頑張ってやってもらうんですけども、基本的には週4日できちっと上がるようにはしていますけど。」

「(職場に変化はあったかという問いに対して、)まずみんな健康的になりましたね。」

「非常に明るく元気に働いてもらっています。」

「(三田さんにとって、投資、ビジネスの本質は(テーマとして)扱っていて何だと感じられたかという問いに対して、)夢がありますんでね、みなさんね。」

「それを実現するためには、やはりどうやって効率的に、合理的に夢に向かって着実に前進していくかということをもっとシステムとして考えるということを我々はやっていこうということなんですけども。」

「(“合理的”というのが一つのポイントになるという指摘に対して、)そうですね、出来るだけ合理的にやりたいと僕は考えています。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

番組を通して感じるのは、三田さんは独創性のある漫画家であると同時にとても合理的な発想の持ち主であるということです。

複数の漫画を同時に作りたい、そのためにはどうすべきか、というところから外注まで枠を広げた分業を取り入れたのです。

更に三田さんの素晴らしいところは、ご自身のスタッフに対しても残業が無く、週休3日制を取り入れているところです。

その裏には、こうした制作プロセス、および働き方を導入しても問題なく複数の漫画制作が出来るという入念なシステムの検討がなされていたはずです。

 

ということで、三田さんは漫画界における制作プロセス、および働き方の改革を実現したと言えます。

まさに漫画界の革命家なのです。

ですから、三田さんはこれからもAIやロボットなどの活用により更に3本、4本の漫画を同時並行的に作ってしまう可能性を秘めています。

 

ここまで書いてきて思うことは、安倍政権の進めている「働き方改革」のあるべき姿です。

その本質は合理的思考の飽くなき追求です。

具体的には、外注まで含めた枠での分業と協業、およびAIやロボットなど最新のテクノロジーの活用です。

単なる掛け声では中途半端な改善で終わってしまい、改革には至らないのです。

そのためには、まず意識改革です。

スポーツ界でのパワハラやセクハラ、あるいはメーカーでの不正検査やデータの改ざんが相次いで報道されていますが、まずこうした組織風土を一層することから始めることが必要です。

そして、どのような立場の人でも自由に発言出来るような仕組みづくりです。

こうした取り組みのうえで、“精神主義”に陥らず、システム思考を最大限に活用して生産性を向上した先に、より有効な「働き方改革」が可能になるのです。

 

では合理的思考の飽くなき追求だけで世の中は心豊かな社会になるのでしょうか。

このことについてはいずれあらためて私の思うところについてお伝えしたいと思います。


 
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