2018年10月24日
アイデアよもやま話 No.4155 ”デフレ”脱却”出来ない原因はネット通販!?

安倍政権はアベノミクスの一環として、日銀による金融政策で物価上昇を2%まで上げることでデフレ脱却を目指してきました。

しかし、未だにその目的は達成出来ておりません。

そうした中、6月22日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で”デフレ”脱却”出来ない原因について取り上げていたのでご紹介します。 

 

日銀はインターネット通販の拡大が物価下押しに作用してきたとするレポートを公表しました。

特に日用品や衣料品の分野では消費者物価を0.3%程度押し下げていると試算しています。

ネット通販による物価の下押し圧力について、第一生命経済研究所の永濱 利廣主席エコノミストは次のようにおっしゃっています。

「ネット通販はコストを抑制出来る分、商品の値段を安く出来るというところで、物価は上がりにくくなると。」

「これは世界的に起こっていることですね。」

「もう一つは、最近はやはり(メルカリなど)中古市場が増えていて、中々新品の値段が上げにくいというところも押し下げ要因として効いていると思います。」

 

実際、6月22日に発表された今年5月の消費者物価指数は、価格の変動が大きい生鮮食品を除いた伸び率が1年前に比べて0.7%と横ばいに留まりました。

更に、デフレ脱却の妨げとなるのはネット通販だけではありません。

町の人にどこで食料品を買うのか聞いてみると、今ドラッグストアで食料品を買う消費者が増えているというのです。

ドラッグストア最大手のウエルシア、その足立西新井店では扱う商品の3分の1が食料品です。

その種類は一般的なスーパーとほとんど変わらないほどです。

近隣のスーパーの価格と比べると確かに安いのです。(テレビ東京調べ)

例えば、ミネラルウオーターでは最大で15円割安です。

更にウエルシアはプライベートブランドも開発、品質を確保しつつ、価格を更に抑える狙いがあるといいます。

 

更にコンビニにも対抗、オフィス街にある店舗の一つ、神田小川町店(東京都千代田区)ではレジ横にコーヒーマシン、弁当も種類を豊富に取り揃えます。

お客の中には「コンビニ行くならこっちかな」という声があります。

この安売りを武器に、国内のドラッグストアの売上高は右肩上がりで増加しています。

 

ではなぜスーパーやコンビニより安い価格設定が出来るのでしょうか。

その理由について、ウエルシアホールディングス 商品本部の袴田 雄也さんは次のようにおっしゃっています。

「利益源としては化粧品とお薬がありますので、その分食品とかは安くすることが出来ます。」

 

ドラッグストアの主力商品である医薬品の粗利益率は30〜40%台なのに対して食料品は10〜20%台、値引きの少ない医薬品で利益が出せる分スーパーやコンビニより食料品を値下げ出来るといいます。

袴田さんは次のようにおっしゃっています。

「ある程度商品というのはお客さんを来ていただくという来店目的になりますし、そういった面で安く提供させていただいております。」

 

ドラッグストアの安売りは物価にも大きな影響を与えているといいます。

永濱さんは次のようにおっしゃっています。

「ドラッグストアという存在がある限り、それ以外の小売業は値上げに二の足を踏んでしまうと。」

「インフレ率の0.1%程度の押し下げ要因に効いていると思います。」

 

番組の解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「(ネット通販やドラッグストアがデフレ脱却出来ない原因になっているのではないかということに対して、)今おっしゃったのは供給サイドの話だと思うんですね。」

「経済は供給サイドと同様に需要サイドもありますから、その点で重要なのは高齢化が進んでいることだと思うんです。」

「今65歳以上の世帯というのは全体の35%を占めています。」

「そこで気になるのが高齢世帯の消費マインドが最近少し冷え込んでいるんですね。」

「ポイントになってくるのが頻繁に購入する食品やガソリンの値段が今年に入って上昇したんですね。」

「で、高齢世帯というのは現役世代に比べて所得が低いですから、そういう意味で物価の上昇に影響を受け易いんだと思うんです。」

「アベノミクスでは所得が増えて物価が上がるという好循環を想定してるんですけれども、どうもその外側にいる人たちが増えてきているというのも需要面から物価を上がりにくくしているんだと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそも物価は需要と供給の関係において、需要が供給を上回れば上がり、供給が需要を上回れば下がるというのが経済の大原則です。

そして、この需給バランスにより物価は決定されるのです。

身近な例として、コンサートのチケットの価格が挙げられます。

最近の例では、絶大な人気を誇る人気歌手、安室 奈美恵さんの引退コンサートでは、ネット上ではとんでもない価格で転売されていたといいます。

また、普段開催されるコンサートの価格は、歌手やグループの人気の度合いによって価格が異なっています。

このように、供給サイドであるコンサート会場の入場可能な人数は決まっており、一方需要サイドのチケット購入希望者はコンサート会場の入場者の枠をはるかに超えることもあり得るので、コンサート会場の規模、およびチケット購入希望者数のバランスにおいてチケット価格は決定されるのが一般的なのです。

 

さて、滝田さんが番組の中で指摘されていましたが、需要と供給との両面において影響を与える要件を番組も参考にして以下にまとめてみました。

(需要の増加要件)

・所得の多い正社員の割合の増加

・ネット通販による新たな需要の創造

・スーパーやコンビニよりも安いドラッグストアの台頭など、供給側の競争原理による価格の引き下げ

・画期的な商品やサービスの誕生による新たな労働の場の創造

・新たな需要につながるライフスタイルの変化

(需要の減少要件)

・収入の少ない高齢者化社会の進行

・収入の少ない非正規労働者の増加

・総需要の減少につながる少子化の進行

・ロボットやAIなどの産業界での導入の進行に伴う失業者の増加

・供給側の競争原理の働かない高価格の維持

・需要の減少につながるライフスタイルの変化

 

(供給の増加要件)

・ネット通販による膨大な種類の商品の提供

・画期的な商品やサービスの誕生

・AIやロボットなどの導入による生産力の増強

・新たな供給をもたらすライフスタイルの変化

(供給の減少要件)

・メルカリなど中古市場の台頭

・シェアリングサービスの台頭

・少子高齢化による労働人口の減少

・既存の供給を押し下げるライフスタイルの変化

 

需要と供給の関係についてこうしてまとめてみましたが、今後の状況がどうなるかが気になるところです。

今は景気が上向きの傾向にありますが、人手不足がネックとなり、その足を引っ張っている状況だと言われています。

また中小企業の中には、従業員の高齢化や後継者が見つからないなどの問題から、廃業に追い込まれる企業が多くなっているとの報道もあります。

技術力のある中小企業の事業継続を維持することは日本の国力維持にとっても極めて重要な課題と言えます。

ですから、この課題を解決する適切な対応策に速やかに取り組むことが求められます。

 

しかし、長い目で見れば、少子高齢化は今後とも進行し、非正規労働者の割合も増加傾向にあります。

ちなみに、少子高齢化により労働人口(15歳以上64歳まで)は毎年ほぼ64万人ずつ減少しているという調査結果があります。

一方で、長い目で見れば、ロボットやAIの普及により、労働市場は縮小傾向にあります。

ですから、少子高齢化による労働人口の減少はロボットやAIの普及とともにいずれ解消されると見込まれます。

しかし、中古市場の広がりやシェアリングサービスの台頭というライフスタイルの変更は総供給量に大きな影響を与え、この流れを止めることは出来ません。

一方で、中古品の再利用やシェアリングサービスによる省資源化は、環境問題やエネルギー問題、すなわち地球温暖化の阻止にもつながります。

ですから、ライフスタイルの変化、およびAIやロボットなどの導入による生産力の増強とそれに伴う労働需要の減少による商品やサービスに対する消費力の減少のジレンマを視野に入れた経済政策の適切な国のかじ取りがとても重要になります。

また、企業には魅力ある商品やサービスを誕生させることによる継続的な消費の喚起、および労働需要の創出と、一方で地球環境問題や地球温暖化問題への対応が求められます。

 

ということで、現政権は“デフレ脱却”を重要課題の一つとしていますが、長期的に考えれば、単に“デフレ脱却”ということではなく、少子高齢化やライフスタイルの変化、およびAIやロボットなどのテクノロジーの進歩という枠組みの中で、どのような社会を目指すかという観点で、政権が変わろうともより良い政策を検討し、着実に実行していただきたいと思います。


 
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