5月24日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で“デザイン経営”という耳慣れない言葉について取り上げていたのでご紹介します。
特許庁の宗像 直子長官は、5月24日、デザインを活用し、企業のブランド力とイノベーション力を向上させる取り組みを進める考えを示しました。
特許庁は、企業価値の向上に向け、デザインを重要な資源として活用する経営を“デザイン経営”と定義しました。
日本ではデザインに積極的に取り組んでいる企業が少ないと言われる中、海外ではデザインへの投資により4倍の利益が得られたという調査もあります。
特許庁はデザイン保護の受け皿となる意匠法の大幅な改正の他、ビジネスや技術面とデザイン面を兼ね備えた高度デザイン人材の育成など制度面で後押しする方針です。
番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは次のようにおっしゃっています。
「(“デザイン経営”は単にかっこいいものを作るというのではなく、)企業や産業の本質的な競争力としてデザインを使おうという問題意識です。」
「今回の(特許庁の)宣言の原稿を書くのに私も係わったんですけど、2つの大きな狙いがあって、1つ目がブランディングのためのデザイン、これは例えばアップルを考えていただくと、アイフォンという端末だけじゃなくて、アップルストアもあれば、広告もあれば、カストマーサービス、サポートもある。」
「で、これ全ての顧客の接点をアップルの世界観で一気通貫でコントロールするということをする司令塔になるためのデザインの役割ですという話です。」
「それからもう一つは、イノベーションのためのデザイン、これは事業やサービスの新しいものを構想を立てて企画をして開発をしてという一連のプロセスで、デザインがエンジニアと事業企画のメンバーと三位一体となって最上流から入って新しい事業を作っていくところをリードすると、このためにデザインは活躍しなきゃいけないと、そういう話をしています。」
また、解説キャスターで日経ビジネス編集委員の山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。
「私も取材していて、恥ずかしながら最初は見た目のカッコよさだと思っていた時期があるんですよ。」
「で、日本企業全般が出遅れていた時期があって、アップルの話が出ましたけれども、やっぱりアップルショップで買って、綺麗なパッケージを開けて、そして操作してみたらすぐに快適に動かせるっていう一連のお客さんとの接点全部を組み直すっていうのが今言われているデザインなんですよ。」
「ですからね、そこにちょっと持って行かないと。」
「今、国家を上げて中国も韓国も欧米もみんな取り組んでいますから、ようやくそこに日本も緒に就いたっていう感じがしますね。」
梅澤さんは次のようにおっしゃっています。
「(そうするとデザイナーの役割が重要になってくるのではという指摘に対して、)そうですね。」
「なので、今回高度デザイン人材と言っているのは、美大(美術大学)を出て従来のデザイン教育を受けているだけではなくて、エンジニアリングの素養もあるとか、あるいは社会学も勉強をしているとか、あるいはビジネスのことが分かるとか、というような複線型の人材で、だからこそ最上流の事業企画のところから入っていっても活躍出来ると、こういう人たちも育てて行きましょうと、企業内でも大学院でも。」
「こういう議論をしています。」
「(それはデザイナーさんにこれから教育をしていくことになるのかという問いに対して、)ていう話とそれから逆にエンジニアがデザインの素養を身に付けるというのと両方あると思います。」
「ですからビジネススクールでもデザイン的な教育を織り込み始めています。」
こうしたことについて、山川さんは次のようにおっしゃっています。
「(ダイソンの)ジェームス・ダイソンも(アップルの)スティーブ・ジョブスもいわゆるデザイン・リーダーみたいな人ですから、そっちも変わんないといけないということですね。」
これに対して、梅澤さんは次のようにおっしゃっています。
「(ダイソンさんは、)デザイン・エンジニアとご自分で呼ばれていて、ダイソンのデザイナーは皆さんデザイン・エンジニアで両方とも勉強してきた人たちです。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
まず、番組を通しての“デザイン経営”の狙いは、デザインの活用による企業の価値、および競争力の向上です。
ですから、ここで言うところのデザインとは単なる商品のデザインだけでなく、企業の価値、および競争力の向上に係わる、製造や販売、あるいは関連施設も含めたあらゆる企業活動が対象になるのです。
さて、例えば一流と言われる有名デパートでは、上品な商品を扱い、販売員の接客態度も洗練されており、売り場も比較的ゆとりがあり、ゆったりとした雰囲気の中で買い物を楽しむことが出来るというように販売プロセスを通して一つのスタイルが確立されています。
また、多くの企業は従来から“地球に優しく”とか“安心・安全をお届けする”などといった「経営理念」を掲げています。
“デザイン経営”はこうした企業のこれまでの取り組みを包括的に見直してデザインし直す活動とも言えます。
そこで、“デザイン経営”の具体的な枠組みについて、私なりに以下にまとめてみました。
・世界観の明示
・ブランドの確立
・信頼、安心、洗練、肯定
・より多くのファンの獲得
こうしてまとめてみると、“デザイン経営”の最初のとっかかりは自社の「経営理念」の見直しだと思います。
そして、その「経営理念」に沿って、“デザイン経営”の手法に則ってあらゆる経営プロセスを再構築するということだと思います。
“デザイン経営”の効果については、海外の例では4倍の利益が得られたという調査もあるといいますから、今後“デザイン経営”に取り組む企業が増えていくと思われます。
そこで必要となるのがデザイン・エンジニアです。
そして、デザイン・エンジニアがデザインする対象は、単に商品のデザインだけでなく、あらゆる企業活動なのです。
ですから、とてもやりがいのある仕事ですが、幅広いスキルが求められます。
資源小国、日本においてはこうした知的財産とも言える“デザイン経営”の優れた手法の蓄積は国の無形財産として今後ともとても重要になります。
また、“デザイン経営”の基本的な考え方はどのような分野においても応用出来るのです。
ですから、特に若い人たちにはデザイン・エンジニアの第一人者を目指して頑張っていただきたいと思います。