1月24日(水)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で耳慣れない言葉、”不便益”について取り上げていたので、関連するネット情報と併せてご紹介します。
夕方から雨が降りそうなので乾燥までした方がいいのでは、とアドバイスまでしてくれる洗濯機、お客さんを案内するロボット、こうして便利になるのはいいのですが、私たちは本当に豊かになっているのでしょうか。
そんな疑問を持った研究者たちが京都に集まりました。
彼らが打ち出したのは”不便益”、不便にすることでメリットが生まれるという考え方です。
京都大学デザイン学ユニット特定教授の川上 浩司さんは次のようにおっしゃっています。
「何でも便利にすればいいじゃダメだと。」
NHKではインターネット会員の皆さんに便利過ぎて逆に不便になることをアンケート調査しました。
その結果の主なものは以下の通りです。
・スマホを忘れると、電話番号を思い出せず電話出来ない
・家電の機能が多すぎて使いこなせない
・子どもが通信販売で何でも買うため、宅配便がよく来てかえって面倒
・タブレットに入力するのに余計に時間がかかる
こうした中で登場してきたのがあえて不便にすることでメリットを生み出すという”不便益”のなです。
今この”不便益”が様々な現場で実験され始めています。
今や、街を歩けばスマホだらけです。
しかし、株式会社岩田製作所(岐阜県関市)では社員の半分近くがガラケーです。
スマホを持っていないと月に5千円の奨励金がもらえます。
この会社は従業員107人の機械部品メーカーです。
このちょっと変わった制度を始めたのは、岩田 修造社長(67歳)です。
きっかけは社員同士の会話が少なくなったことだといいます。
以前、ほとんどの社員は仕事が空いた時間にスマホばかり見ていました。
顔を合わせた会話が少なくなって、社員同士の関係が希薄になっていったのです。
そこに危機感を覚えた岩田社長は次のようにおっしゃっています。
「デジタルの時代だからこそ、アナログ的な能力をどう維持するか、それを真剣に考えなければいけない時代ではないかと。」
「これを何とかしたいと。」
この制度のお蔭で、今では昼休みにスマホを見ずにみんなでおしゃべり、社内の情報交換や日常会話など社員同士のコミュニケーションも活発になりました。
研究のアイデアなどが次々と生まれるようになり、会社の業績もアップしました。
こうしたメリットについて、岩田社長は次のようにおっしゃっています。
「アナログ的な能力も大事だよ。」
「うちの社員がそういう能力を失わなかったら、これは絶対に競争力になると。」
一方、ジュエリーを販売するフェスタリアビジュソフィア銀座本店では、手間がかかる不便な方法でお客さんの心をつかんでいます。
店員さんが接客の合間に取り出したのは、自分で選んで買ってきた便箋です。
来店してくれたお客さんには手紙を書いています。
お客さんのことを思い浮かべながらお店に来てくれた感謝の気持ちなどを一文字一文字丁寧に綴っていきます。
15分かけてようやく完成、心を込めた言葉にイラストや絵文字を添えて華やかなものになっています。
お客さんからも大好評で、お客さんからの手書きの感謝の手紙も届いています。
時間をかけて手紙を書くことがお客さんの獲得につながっています。
こちらの店員の石川
茜さんは次のようにおっしゃっています。
「一生懸命書いていれば、それが伝わると思うんですよね。」
「「あなたが勧めるならそれにするわ」と言っていただいたりとか、その効果はあると思います。」
介護の現場でも“不便益”の考え方が取り入れられています。
介護施設はバリアフリーが普通ですが、夢のみずうみ村(山口県)の藤原
茂代表は次のようにおっしゃっています。
「うちの施設は“バリアアリー”です。」
こちらは介護施設なのに廊下に手すりがありません。
この施設ではお年寄りたちが手すりに頼らずに歩いています。
更に2階に行くには急な階段、あえて不便にすることで、日々の生活の中でリハビリになるようにしているのです。
でも症状が重い人はスタッフがサポートしてくれるので心配ありません。
ある男性は脳梗塞になり、その後遺症で車椅子でしたけど、今では自分の足で歩けるまで回復しました。
とっても不便な“バリアアリー”ですが、身体の機能が回復するお年寄りも出て来て全国的に注目を集めているといいます。
藤原代表は次のようにおっしゃっています。
「不便だったら不便なように克服していく方法を自分なりに体験して、気が付いたら知らず知らずのうちに克服出来ている。」
不便は手間ですが役に立っているのです。
人と人とのコミュニケーションなど、大切なものが失われていくことがないように、本当に便利になっていくことだけでいいのかなと今一度ここで立ち止まってみるタイミングに今あるのかもしれません。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
仕事でもスポーツでも何でも、人は完全に自分一人だけで成し遂げることはまず不可能です。
仕事であれば同僚や上司、あるいはお客様、そしてスポーツであればチームメイト、あるいは監督やコーチなど、必ず自分以外の誰かとの係わりのある中で自分の望みを成し遂げられるのです。
こうした観点から考えると、スマホはとても便利なツールではありますが、あまりこれに集中し過ぎると本来やるべきことやこれまで他の人とのコミュニケーションに費やしてきた時間が削がれてしまいます。
一方、自動車や電車は移動手段としてとても便利ですが、これに頼り切っていると運動不足に陥ってしまいます。
中にはちょっと近くに買い物に行くにもクルマを使うという人もおります。
このように便利さばかりを追求し過ぎると弊害が生じてしまうというというのが現実なのです。
ではどのように対処すべきかですが、昔から言われているように“何事もほどほどに”という考え方があります。
あえて不便にすることでメリットを生み出すという”不便益”はこうした考え方に通じると思います。
例えば、あえてエスカレーターを使わずに階段を上ったり、電車やバスを使わずに歩いたりというのは一見不便ですが、健康維持のためにはとても良いことです。
また、人ならではの心のこもったコミュニケーションは今のAIやロボットには出来ないものです。
ですから、多少時間をかけても手書きによる感謝の手紙はお客さんの心を少なからず動かすことが出来るのです。
何でもかんでもパソコンやスマホなどツールにだけ依存するのは得策とは言えないのです。
また、介護施設の“バリアアリー”の方針も実はとても理に適っているのです。
“不便益”の本質は、一見すると不便に思われるような行動が本来の目的を達成するためには、より効果的、効率的な手段である場合があり、時にはあえて不便な方法を選択することが望ましいということにあるのです。
ですから、何かを達成するための手段として、テクノロジーに過大に依存するのではなく、人に依存することも検討の対象にすることはとても重要なのです。