1月22日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で中国における環境対策の現状について取り上げていたのでご紹介します。
中国では大気汚染の問題を今年の最重要課題の一つと位置づけ、環境対策に力を入れ始めました。
しかし、急激な政策変更は経済をも揺るがしかねない異常事態を引き起こしています。
中国の首都、北京では今ある異変が起きています。
冬なのに青空が広がっているのです。
2015年には大気汚染が深刻で、自動車は昼でもライトを点けて走るなど汚染が進み、外出の際にはマスクをつけるのが当たり前でした。
ところが今年はその様子が一変、公園では運動を楽しむ人も多く目にします。
昨年12月の北京のPM2.5の濃度は1年前に比べ66.9%も低下しました。
その理由ですが、昨年10月開催の中国の全てを決める最重要会議、中国共産党大会で習近平国家主席は次のように宣言しました。
「大気汚染対策を実施し続け、青空を守る戦いに勝利する。」
「美しい自然を回復させないといけない。」
国家指導者の大号令に政府は対策実施のスピードを上げています。
特に汚染がひどい北部の28の都市ではPM2.5が出易いとされる石炭の使用を禁止し、天然ガスへの切り替えを急いでいます。
しかし、あまりに急ピッチで進む政策についていけない地域もあります。
石炭から天然ガスに切り替えるよう政府に命じられた北京の南部に位置する保定市では、外壁には真新しい天然ガスの管が設置されていました。
しかし、よく見ると管はつながっていません。
広範囲にわたる天然ガスの改修工事に地方政府の手が回っていないのが実情です。
庭の片隅には使ってはいけないはずの石炭が置かれています。
マイナス10℃近くまで下がるこの地域で1日に3回石炭を燃やして暖を取っているのです。
苦渋の選択、村ではこっそり石炭を使っていました。
石炭の使用を禁止する強引な政策に市民から不満が噴出、政府は昨年12月に緊急通達を出しました。
ガス工事が終わっていない地域に限り、石炭で暖を取ることを認めたのです。
青空を守るための政策のひずみは他にもあります。
中国北部の石家荘市では、夜9時、自動車を走らせているとタクシーの長い行列を目にします。
40台を超える列の先にあったのは圧縮天然ガスと書かれた看板です。
実は多くの地域で石炭から天然ガスに切り替えたために、天然ガスが不足しているのです。
この地域のタクシーのほとんどは天然ガス車で、入荷したとの情報があると夜でも自動車が列をつくるのです。
市内から自動車で1時間、この地域は中国国内有数の陶磁器の生産地です。
瓦などの陶磁器を作るためには、長時間安定した火力が必要で、燃料となる天然ガスを大量に使うのです。
ところが、中国国内の天然ガスの卸価格は昨年の秋以降上昇の一途をたどっています。
ある工場を訪ねると、そこの経営者は次のようにおっしゃっています。
「影響は大きい。」
「この辺りの工場は全て止まっている。」
「天然ガスが高すぎるんだ。」
「炉に火を入れるにも1日数十万円はかかる。」
「工場を動かす勇気なんてない。」
「沢山いた作業員も皆職を失った。」
「工場は開かないのに何をすればいい、失業だよ。」
工場を停止したのは昨年10月、かつて300人が働いていた作業場には誰一人いませんでした。
この工場で働いていたという作業員の女性は次のようにおっしゃっています。
「今は家で休んでいる。」
「(収入は)ないわ。」
「天然ガスは高いし、いろいろ費用も上がった。」
「収入はないし、生活に影響が出ている。」
「環境政策は悪くない。」
「空を見上げれば良くなった。」
「でも私たちは収入がなくなった。」
「政府が仕事の方も工面してくれれば一番良いのに。」
月収3万5000円が手に入らなくなりました。
家には天然ガスが来ていますが、高いので使っていないといいます。
二人の子どもも家の中でコートなしではいられません。
この地域には陶磁器をつくる企業が24ありますが、天然ガスの高騰を受け、ほとんどが生産を停止しているといいます。
民間と企業における天然ガス不足の問題に政府が打った手ですが、昨年12月に開催した中国国家発展改革委員会での会見で次のように説明しています。
「民間用と企業用の天然ガスの需要を同時に満たすのは難しい状況です。」
「民間用を第一に考えます。」
政府はエネルギー大手企業に対し、企業向けの天然ガスの供給を減らし、住宅の暖房など人々の生活に回すように通達を出しました。
このような状況に、SMBC日興証券・中国担当シニアエコノミストの肖さんは次のようにおっしゃっています。
「短期的には景気を減速させる一つの原因となるでしょう。」
「今回、環境規制を強化したことで、鉄鋼、化学、レアアースなど全ての業種で影響を受けて、中国経済の悪化につながると私は見ています。」
こうした中国の動きで、天然ガスの国際価格も今後高騰して日本などにも悪影響があるのではないかという指摘もあります。
こうした急激な政策変更による影響について、番組コメンテーターでモルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。
「混乱はこういう状況ですから仕方がないという面もありますけど、一方私は建設的な面もあると思います。」
「というのは、やっぱり困ることは“発明の母”ですね。」
「日本が(東日本)大震災の後、いろいろ工夫してエネルギー節約をやったんですね。」
「奇跡ですね。」
「だから今度中国も同じことが起こるかもしれませんけども、日本は何が出来るかというとすぐに創意工夫をやっているところを紹介するということですね。」
「これ商売になります。」
「中国国民はこの政策は正しいと思っていますけども、日本は技術を持っていますから、これを売り込めばいいじゃないかと思います。」
「で、中国だけじゃない。」
「インドの環境問題が中国よりも深刻です。」
「だから他の国にも売れる、そういうチャンスがあると思いますね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
中国における環境対策の現状についてご紹介してきましたが、あらためて中国の共産党による一党独裁の半ば強引な政策の進め方を垣間見た気がします。
PM2.5改善は中国にとって課題と言われてきましたが、それを短期間のうちに改善させたことは、一党独裁だからこその実現だと思います。
しかし、その裏には企業や国民へのしわ寄せがあったのです。
そこであらためて思うのは、以前お伝えしたように、地球環境問題を解決するにあたっての、エネルギーおよび経済とのバランスの必要性です。
この3つをうまくバランスさせながら3つに関連した問題や課題をクリアしていくことが世界各国に求められているのです。
中でもリーマンショックのような経済問題、およびオイルショックのようなエネルギー問題は社会不安をもたらし、国際平和の阻害要因となり得ます。
そうした中で、特に消費、および生産の両面、あるいはCO2排出量で世界のおよそ半分を占めるアメリカ、中国という2大大国の動きは無視出来ません。
こうした中にあって、地球環境、あるいはエネルギー関連問題の改善に役立つ様々な技術を有する日本は、フェルドマンさんのおっしゃるようにアメリカや中国、あるいは他の途上国に積極的に技術支援を通じて国際貢献を図ることに取り組むべきだと思います。
こうした日本の活動が日本の世界的な地位の向上、あるいは世界平和への貢献にもつながると思うのです。