2017年12月23日
プロジェクト管理と日常生活 No.520 『中小企業の後継者不足の課題とその対応策 その2 熟練技を再現するロボット!』

最近、高齢化の進行に伴う中小企業の後継者不足について話題に取り上げられることが多くなってきました。

そこで、中小企業の後継者不足の課題とその対応策について、プロジェクト管理の中の課題管理の観点から3回にわたってお伝えします。

9月16日(土)放送の「ミライダネ!」(テレビ東京)で熟練技を再現するロボットについて取り上げていました。

そこで、2回目では番組を通して熟練技術者の後継者不足という課題とその対応策についてロボットに焦点を当ててお伝えします。

 

全国の町工場や中小企業の約8割が後継者不足に陥っています。

このピンチを救うのがロボットなのです。

創業50年を超える東亜金属工業株式会社(福岡県北九州市)の工場では、職人たちが素早い手付きで洗面台の蛇口になる金属材料を磨いています。

東亜金属工業は研磨を専門とした会社で、洗面台の金具や高級自転車の部品の研磨を得意としています。

研磨のポイントは力加減だといいます。

この職人技がこの会社を支えてきました。

しかし、この職人技が今、危機にあるというのです。

製造部長の銀羽 直樹さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人材の確保が難しいという時代に突入しておりますけども、実際にうちにもそういう波が来ておりまして、求人を出してもなかなか応募が来ない。」

「人材が大手企業さんに流出している。」

 

深刻な後継者不足で大切な技術が途絶えてしまうかもしれない、この窮地を救うべく一人の男性がやってきて、工場で職人の作業の様子を注意深く観察します。

この男性は世界的なロボットメーカー、株式会社安川電機 ロボティクス技術部の安藤 慎悟さん(47歳)で、職人が素早く研磨する熟練の技をロボットで再現しようとしているのです。

安川電機の技術力が一目で分かる動画があります。

それは、創立100周年記念に2015年に制作された、居合の達人が竹を刀で切る動作を再現したロボットの動きです。

更に、このロボットは細長い台の上に置かれたインゲンを真っ二つに切り裂きます。

 

安川電機が作っているのは、人間の腕のように緻密な動きが出来るロボットなのです。

安川電機(北九州市八幡西区)にはいったいどのような技術があるのでしょうか。

8枚のモニターが並んだスペースでは、イルカが泳ぐ映像に合わせてこれらのモニターがくねくね動いています。

実は、ロボットが裏でモニターを動かしていたのです。

まるで人間の腕のような滑らかな動きですが、その秘密について、人事総務部の岡林 千夫さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人間の肩から手頸の間に動く部分が7ヵ所あります。」

「それと全く同じ構造で作ったのがこのロボットです。」

 

ですから、人の代わりにいろいろな作業が出来るのです。

部品の移動やネジを締めるのもお手のものです。

安川電機のロボットは自動車メーカーなどに採用され、溶接や組み立てなどの作業を行っています。

 

ではどのようにしてこうしたロボットは動いているのでしょうか。

岡林さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「まず、人がロボットに動きを教えます。」

「そうするとロボットは同じ動きを何回でも繰り返してくれます。」

 

まず、ロボットの腕の高さや左右の位置など、作業の流れを数値で入力します。

そのデータを制御装置を介してロボットに覚えさせるのです。

わずか15秒の動きを記憶させるのに1ヵ月かかることもあるといいます。

 

そんな安川電機で始まった新たな挑戦が東亜金属工業の研磨職人の技をロボットで再現するというミッションです。

しかし、リーダーの安藤さんの表情には不安の色が出ています。

安藤さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「これまでの産業用ロボットは、基本的にはロボットの位置を出来るだけ速く正確に動かすという。」

「(ところが、)研磨は力加減のコントロールが必要で難しい。」

 

これまでの技術では研磨職人の微妙な力加減まで再現することが出来ないというわけです。

そこで安藤さんが工夫したのが力センサーの活用です。

これを使って、ベテラン職人が研磨する際の力加減を数値化しようと考えたのです。

数値化したデータをグラフ化してみると、ベテラン職人は微妙に力を入れたり抜いたりしていることが分かりました。

そこで、こうした数値化した動きをロボットに学習させてベテラン職人の技に近づけようとするのです。

これまで1ヵ月近くかかっていた入力時間がセンサーを使えばゼロになります。

しかも入力後、わずか5分で研磨作業に入れます。

こうしてロボットに研磨作業をさせてみると、その結果は素人目にはベテラン職人との違いが分かりません。

しかし、力加減のグラフを見てみると、ロボットは力の強弱が大きく、ベテラン職人に比べて微妙な力の調節が出来ていないことが分かりました。

研磨の仕上げが甘いと、その後に行うメッキ加工がはがれ易くなるといいます。

そこで安藤さんが再挑戦した結果、微妙な力加減が出来、グラフで見る限りかなりベテラン職人の動きに近づいてきました。

東亜金属工業のベテラン職人はこの結果について、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「実際はもっと早く加工するので、それが出来るようになればもっと近く再現していただけるんじゃないかと。」

 

「職人さんで上手な人が一人いれば、ロボットにその技術をコピーして教えていけるので、それが本当に現実になれば画期的になると思います。」

 

しかし、開発者の安藤さんはまだまだ納得出来ない様子で、次のようにおっしゃっています。

「今日やってみて、いろいろ分かったこともあって、やはりベテラン職人はちょっと力を抜いているとか細かな動きをしているので、これから試作して実験を重ねていきたいと思っています。」

 

後継者不足の切り札になるのか、来年の実用化を目指しています。

 

さて、安藤さんは10年後の未来について、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「技術の担い手がいない状況をロボットで食い止めていきたいと思っているんですけど、多分全てロボットに代わるかというとそうは考えてなくて、やっぱり大事な技術は人から人に伝承して、ロボットはその手助けをする、そういうのが10年後の理想の姿かなと思っています。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通してあらためて感じたのは、AI(人工知能)、ロボット、センサー、IoT(モノのインターネット)、こうした技術の組み合わせによって近い将来、これまで人が操作してきたほとんどの作業はロボットに取って代えることが出来るという確信です。

また、東亜金属工業のベテラン職人のおっしゃっているように、ロボットには大きなメリットがあります。

ロボットに優れた職人さんの技術をコピーして教えれば、どのロボットもまんべんなく優れた職人さんと同じレベルの技術で働くことが出来ます。

しかも、IoTによりいずれかのロボットで問題点や改善点が発見されて、その対応が完了と同時に使用しているソフトを更新することにより速やかに全てのロボットへの対応が出来ます。

 

このように考えていくと、将来の職人像はこれまでとは全く異なります。

少しでも多くの職人に時間をかけてベテラン職人の技を教え込むのではなく、少数精鋭で優れた職人を育成し、その技術をコピーしてロボットに教え込むというイメージです。

しかも、ロボットは24時間、365日を通して休みなく正確に働くことが出来るので休憩時間や休日は必要なく、過労死に至るような過酷な労働問題も発生しません。

更に、AIの進歩とともに、肝心の優れた職人もAIに取って代わる時代がやってくるかもしれません。

 

こうしてみると、今は新たな産業革命の時代の入り口に立っているという実感がじわじわと湧いてきます。

また同時に、AIやロボットなどの技術の進歩の先で、こうした技術と人との住み分けはどのようになるのかという疑問も湧いてきます。

 

ということで、今回は熟練技術者という作業レベルでの中小企業の後継者不足という課題の対応策としてロボットを取り上げました。

しかし、この対応策は中小企業に限らず大企業においても適用されます。

ですから、遠からずこれまで以上に人の働く場はロボットに取って代わられるので、どのように働く機会のなくなる人たちに対して収入の確保をするかというのが大きな課題となってくると思われます。


 
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