2017年10月10日
アイデアよもやま話 No.3830 日本の科学研究が失速!?

今年はイギリス国籍の日系人、カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞されました。

そうした中、9月23日(土)放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)で日本の科学研究の失速について取り上げていたのでご紹介します。

 

世界が注目するノーベル賞、昨年は大隅 良典さんが医学・生理学賞を受賞しました。

今年も日本人が受賞すると初の4年連続となりますが、残念ながら受賞者はおりませんでした。

日本はこれまでアメリカ国籍を取得した人も含め、自然科学の分野で20人以上がノーベル賞を受賞してきました。

 

しかし、受賞者たちは警鐘を鳴らしています。

大隅さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「このまま行ったら(日本は)ノーベル賞学者は本当に出ない国になる。」

 

また、物理学賞を受賞した梶田 隆章さんは次のようにおっしゃっています。

「残念ながら、日本が科学技術で優れた国であるというのはもはや言えないのではないかと。」

 

ノーベル賞受賞者が危機感を訴える日本の科学研究ですが、世界的な科学雑誌「ネイチャー(nature)」も今年3月に「日本の科学研究が失速し、このままではエリートの座を追われかねない」と指摘しました。

2015年までの15年間の研究論文の数を比較すると、アメリカ、中国、イギリス、韓国などがいずれも増えているのに、日本だけが伸び悩んでいます。

背景として、ノーベル賞受賞者が強く指摘しているのが、日本の大学で研究者たちが置かれている状況です。

 

東京大学の高山 あかり助教は、物質表面の性質について研究しています。

学生時代に所属する大学の総長優秀学生賞など数々の賞を受賞し、28歳の若さで東大の助教になりました。

しかし、教職員になると研究以外のことに大半を割かれるようになりました。

NHKで取材した日、高山さんは実験機器の管理のためのテープ貼りや学生の指導、資料のコピーなどの作業に追われていました。

この他、大学の運営業務などもあり、自分の研究時間は職務時間の1割にも満たないといいます。

高山さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「自分で実験してデータが取りたくて研究者になったはずだったんですけど、実際に(研究者に)なってみるとそんなに時間はなくて、理想はもうちょっとやりたい。」

 

文部科学省科学技術・学術政策研究所が6000人近くの大学教職員を対象とした、職務時間に占める研究時間の調査では、2002年では46.5%だったのが2013年には35%と、ほぼ10%も落ち込みました。

研究所では、国立大学の法人化以降、教員が大学の運営に係わるようになり、業務が増えていることや、専門性の高い実験の補助や書類の作成などを行う研究支援者の数が海外と比べて少ないことを挙げています。

また、研究費についても指摘されています。

アメリカや中国などが研究開発への支出を増やす中、日本は2001年以降横ばいのままです。

 

こうした状況について、大隅さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「こんなことをしていたら、多分中国に若者(研究者)がどんどん流れるという事態が生まれる可能性がありますね。」

「本当に危機的だと思っています。」

 

また、ノーベル物理学賞を受賞した梶田 隆章さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「大学の基礎体力をここ十数年ものすごく奪われてきたので、まずはその基礎体力をしっかり回復させる方向に舵を切る。」

「次世代を担う若い人がきちんと育つような環境を作っていく必要があると思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

それにしても、東京大学の優秀な研究者が、自分の研究時間は職務時間の1割にも満たないという現実には驚かされます。

こうした状況では、優秀な研究者はどんどん海外に流れていってしまいます。

資源少国、日本においては、豊かな国を維持していくうえで技術立国を目指す他に生きる道はありません。

それが、職務時間に占める研究時間が落ち込んでいたり、あるいはアメリカや中国などが研究開発への支出を増やす中、日本は2001年以降横ばいのままという状況は、いかに日本政府が日本の進むべき方向について、長期的な戦略に重大な欠陥があると言わざるを得ません。

確かに、研究者の研究時間を増やしたり、研究費を増やすことは、その分他の予算をカットしなければならないという痛みを伴います。

国民の痛みを伴ってでも、その必要性をきちんと国民に説明すれば、国民は納得するはずです。

研究者の質の低下は、間違いなく将来の国益を損なう重大な問題となります。

そのことを、日本政府は重く受け止めていただきたいと思います。


 
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