2017年08月01日
アイデアよもやま話 No.3770 東南アジア諸国の中国寄り政策への転換に見る今後の日本の外交政策のあり方!

6月2日(金)放送の「国際報道2017」(NHKBS1)で東南アジア諸国の中国寄り政策への転換について取り上げていました。

そこで、番組を通して、その背景や日本の外交政策のあり方についてお伝えします。

 

南シナ海をめぐり、激しく対立してきたアメリカと中国、今アメリカと歩調を合わせてきたはずの東南アジアの国々がその態度を大きく変え始めています。

 

中国が南シナ海の南沙諸島で急速に埋め立てを始めたのは2013年暮れ頃と見られています。

当時のアメリカはオバマ大統領、中国に対して厳しい対応を十分とらずに埋め立てが進み、その対応は弱腰とも指摘されました。

オバマ政権がようやく具体的な行動をしたのは2015年、「航行の自由作戦」として軍の艦艇を南シナ海に派遣したのです。

 

一方、トランプ大統領は就任前から中国にかなり批判的でした。

南シナ海に巨大な要塞を築くことでアメリカに大いにつけ込んでいると述べるなど、中国の行動をたびたび批判してきました。

ティラーソン国務長官も就任前、中国に対して人工島に近づくことも許さないという明確なメッセージを送ることが必要だという考えを示していました。

 

ところが2017年、政権発足後ふたを開けてみると北朝鮮の核ミサイル開発の抑止には中国の協力が不可欠であるという立場を示し、南シナ海での厳しい姿勢は影を潜めます。

「航行の自由作戦」も最近まで行われない“圧力の空白”ともいうべき状況が続いたのです。

 

アメリカによる圧力が十分でない間に中国は着々と足場を固めています。

南シナ海問題は新たな段階に入ろうとしています。

中国の大連港にある造船所で中国初の国産空母の建造が進められています。

“海洋強国の建設”に向けた要と位置付けられています。

今年4月に進水した全長300m余りの初の国産空母、ウクライナから購入した空母の技術を取り込んで急ピッチで建造を進めています。

別の国産空母の建造も上海で進められているといい、少なくとも4、5隻の空母の保有を目指していると見られます。

 

更に、南シナ海では南沙諸島の人工島を撮影した最新の衛星写真では、3つの人工島に造られた3000m級の滑走路、そこに整備されているのは最新の地対空ミサイルを格納出来る施設、そして広範囲にわたりカバーするレーダー施設、20機以上の戦闘機を運用出来るほどにまで整備が進んでいることがアメリカの研究機関の分析で分かりました。

 

着々と軍事力の増強を続ける中国ですが、反発を強めてきたはずの周辺諸国はここへきて態度を変えつつあります。

領有権を争う東南アジアの国々が中国との対立を避け、むしろ関係強化に動いているのです。

その一つ、フィリピン、中国の主張は国際法違反だとして申し立てていた仲裁裁判で昨年その主張が全面的に認められ、歓喜に沸き立っていましたが、5月には中国との直接協議をスタートさせました。

この協議に際し、フィリピンのドゥテルテ大統領は次のようにおっしゃっています。

「中国に圧力なんて、あんたたち夢でも見ているのか。」

 

また、サンタロマナ駐中国大使は、次のようにおっしゃっています。

「仲裁裁判やスカボロー礁にも言及したが、要求を押し付けたりはしない。」

 

更に、ベトナムも同様の動きがあります。

3年前には中国への大規模な抗議デモが巻き起こり、死傷者まで出しましたが、5月には沿岸警備隊を中国に派遣、中国の国営メディアではスポーツ大会で親睦を深める様子まで紹介されました、

 

なぜ周辺国は突然態度を変え始めたのか、背景にあるのは中国による巨額の経済支援です。

5月に行われた中国の今年最大の外交イベント、「一帯一路ファーラム」で、習近平国家主席はこの場に東南アジアの国々のリーダーを招待し、30余りの経済協定を締結、友好を演出し、外交攻勢を強めています。

 

中国は5月に更なる手を打ちました。

ASEAN各国との間で、南シナ海におけるルールの枠組みについて合意に達したと発表したのです。

ただ、その内容については“域外の国に妨害されたくない”などとして公表を避けました。

今回NHKは公表されなかった枠組みの草案を入手しました。

その内容は、わずか1ページあまり、目立つのは“内政不干渉”、“領土保全”といった中国が好んで使う表現です。

ASEAN側が求める法律としての拘束力については明記されていませんでした。

軍事施設の建設を急ピッチで進める一方で、経済支援を武器に周辺諸国の取り込みを図る中国、南シナ海における立場の正当化を着々と進めているように見えます。

 

こうした中国の動きに対して、そもそもアメリカは北朝鮮への対応の見返りに南シナ海の問題での圧力を弱めるのは間違いだという声がアメリカ国内で強まっています。

また、オバマ政権での大統領補佐官は次のようにおっしゃっていたといいます。

「東南アジアで経済面での成功がなければ、21世紀の(アメリカの)繁栄を維持出来ない。」

「世界のリーダーの地位を失うことになる。」

 

これがオバマ政権でいうアジアシフトの本質なのです。

中東からアジアへのシフト、更にアジアの中でも東南アジアが大事だという考え方なのです。

それで、東南アジアでアメリカは中国に影響力の面で後れをとっている、そのアメリカが南シナ海問題で東南アジアの側に立つことで影響力を増す絶好のチャンスになっています。

この問題でアメリカが安易に中国に譲ってしまえば、影響力を失う、大きな戦略的ミスになると番組では見ています。

それでなくとも、TPPからの離脱という戦略的な間違いを犯しているのがトランプ大統領です。

トランプ大統領の南シナ海での対応は、将来の世界のリーダーをも左右する重要なポイントとなります。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組内容の要点を以下にまとめてみました。

・中国は南シナ海での軍事施設の建設を急ピッチで進めていること

・同時に、中国は少なくとも4、5隻の空母の保有を目指していること

・中国はASEAN諸国に対して巨額の経済支援を行い、これらの国々の自国側への取り込みを図ろうとしていること

・フィリピンやベトナムは中国の軍事的脅威よりも自国への経済支援を重視した外交政策を展開していること

・こうした中国の動きに対して、アメリカのトランプ大統領はTPPからの離脱など、「アメリカ第一主義」を掲げ、結果として東南アジアにおける中国の覇権主義を助長するような動きをしていること

・こうしたトランプ大統領の政策は、オバマ政権での大統領補佐官による、「東南アジアで経済面での成功がなければ、21世紀の(アメリカの)繁栄を維持出来ない。」という提言を無視したものであること

 

このような状況を前提に、今後の日本の外交政策のあり方について以下にまとめてみました。

・トランプ大統領は、戦略的な観点からの政策よりも、目先の利益を追求するタイプなので、これまでのようにアメリカ依存型の外交政策から脱皮し、アメリカと一定の距離を保ちつつ日本独自の自主外交の道を歩むべきであること

・東南アジア諸国だけでなく途上国は一般的に先進国に対して経済支援を強く求めていることを前提に、どの国よりも経済的、および技術的支援に力を注ぎ、国際的な日本の存在価値を高め、外交面で有利な立場を確保すること

・軍事面では、国際的な枠組みにおいて、中国のような強力な軍事力を背景とした覇権主義に対抗出来るような体制を外交的に推し進めること


 
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