2017年05月11日
アイデアよもやま話 No.3700 高水温でも白化しないサンゴ!

2月16日(木)放送のニュース(NHK総合テレビ)高水温でもで白化しないサンゴについて取り上げていたのでご紹介します。

 

サンゴの白化は、インド洋のモルディブ、太平洋のフィジーやニューカレドニアでも進んでいます。

海水温の上昇が原因と見られています。

異変は日本の沖縄でも起きています。

今年1月、環境省が衝撃的な調査結果を発表しました。

国内最大のサンゴ礁、石垣島沖の石西礁湖でサンゴの90%以上が白化し、その大部分が死滅したというのです。

 

海の生き物に棲み処や産卵場所を提供するサンゴ礁は言わば命のゆりかごです。

サンゴがなくなると、海の生き物のうち4分の1の種類が生きていけなくなると言われています。

そのサンゴ礁についてWWF(世界自然保護基金)は、温暖化の影響で2050年までに全て消失する恐れがあると警告しています。

こうした中、沖縄で誕生した高い海水温でも“白化しないサンゴ”は、サンゴの保全につながるのではないかと大きな関心が寄せられています。

 

原因と見られているのは、昨年起きた世界的な海水温の上昇です。

夏の間、石垣島周辺の海では30℃を超える異常な高水温が2ヵ月近くにわたって続きました。

この時、サンゴに起きたのでしょうか。

サンゴはイソギンチャクやクラゲの仲間で、生存に欠かせないのが体内にいる植物プランクトン、褐虫藻です。

サンゴは、この褐虫藻が光合成でつくった栄養をもらって生きています。

しかし、海水温の上昇や強い太陽光などのストレスを受けると褐虫藻はサンゴの体内から抜け出てしまいます。

これが白化現象です。

この状態が続くとサンゴは死に至ります。

多くのサンゴが白化した沖縄の海で不思議なサンゴがありました。

白く変色したサンゴの横で、元々の色を留めています。

高い海水温の中でも“白化しないサンゴ”です。

このサンゴは、沖縄の養殖場で育てられました。

サンゴ養殖の第一人者として知られる金城 浩二さんは20年近く前から海への移植事業に取り組んでいます。

白化しないサンゴ、元々は沖縄の海に生息するウスエダミドリムシというごく普通の種類です。

金城さんは年月をかけて厳しい環境に耐えられるよう育て上げました。

 

きっかけは7年前のサンゴの産卵観察会でした。

子どもたちにより近くで産卵を見てもらおうと、金城さんは水槽の深い場所にあったサンゴを浅い場所へ移動させました。

太陽光の影響で多くが白化して死んでしまいましたが、一部回復したものがありました。

生き残った個体を選抜して増やし、更に浅いところに移動させることで少しずつ環境に適応させていきました。

作業を繰り返すこと4年、こうして強い太陽光が注ぐ水面近くでも白化しないサンゴを育てることに成功したのです。

 

金城さんは試しにこのサンゴを海に移植しました。

すると高い海水温にも耐えられることが分かりました。

世界でも類を見ない白化しないサンゴの誕生でした。

金城さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ミラクルが起きたというかね。」

「サンゴの養殖を始めて18年になるけど、初めて、これは。」

「奇跡的な感じでしたね。」

 

白化しないサンゴのメカニズムを解明したいと、昨年12月、金城さんはサンゴの専門家が集まる日本サンゴ礁学会で協力を呼びかけました。

研究者からは期待の声が上がりました。

日本サンゴ礁学会の鈴木 款会長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「将来は間違いなくサンゴの白化をある程度遅らせたり、防ぐことは出来ますよ。」

 

学会から2ヵ月、サンゴが白化しないメカニズムに迫る研究が進められています。

サンゴ礁の研究者で琉球大学熱帯生物圏研究センターの中野 義勝さんたちの研究チームは、白化した通常のサンゴと白化しないサンゴを様々な角度から比較分析してきました。

すると、サンゴ本体と体内にいた褐虫藻に違いはありませんでした。

そうした中、注目したのがあるバクテリアの存在です。

エンドゾイコモナスというバクテリアは白化しないサンゴの体内にだけ特に多いことが分かったのです。

中野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「菌類(バクテリア)に何かが起こっている、それが白化の強さ弱さに関係がありそうだと今回分かってきました。」

「小さいですけども貴重な一歩だと考えます。」

 

沖縄で生まれた“白化サンゴ”、金城さんは今後このサンゴの数を更に増やし、故郷のサンゴを再生させたいと考えています。

金城さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「僕が子どもの頃、潜っていた沖縄の海は今で言えばフルカラーハイビジョン。」

「で、最近潜ったらモノクロになっているんだよね。」

「生き物を観察しながらやってきたら、生き物は応えてくれると今回のことで確信出来たというかね。」

「夢だけど、温暖化に勝っちゃいたいよね。」

 

サンゴの白化を食い止める有効な手立てがない中で、今回の白化しないサンゴの誕生、そしてそこから更に白化を左右すると見られるバクテリアが見つかったことはこれまでにない研究成果だと言えます。

サンゴは世界中におよそ800種類いると言われています。

今後この研究を進めることによって、更に多くの種類に応用出来るかも知れません。

なお、元々その場所にいない種類のサンゴを移植すると生態系を壊すことにつながりますが、強い個体が生き残るというのは自然界では当然のことなので大きな問題はないといいます。

 

また、温暖化が急速に進む今、白化対策は時間との闘いで、高水温でも白化しないサンゴを増やしていくことは大きな意味があるといいます。

なお、今後の取り組みとして、地球温暖化の対策に私たち自身が取り組むことが前提ですが、白化を防ぐ研究、そして同時に白化しないサンゴを増やすための体制づくりも必要です。

国や自治体、そして研究機関などが連携することで一刻も早くサンゴ礁の再生や保全につなげていって欲しいと番組の取材記者は伝えています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、サンゴを巡る以下の状況はとても衝撃的です。

・国内最大のサンゴ礁でサンゴの90%以上が白化し、その大部分が死滅したこと

・サンゴがなくなると、海の生き物の4分の1の種類が生きていけなくなると言われていること

・WWF(世界自然保護基金)は、温暖化の影響で2050年までに全てのサンゴ礁が消失する恐れがあると警告していること

 

こうした中、沖縄で誕生した高い海水温でも“白化しないサンゴ”は、サンゴの保全につながるのではないかと大きな関心が寄せられています。

 

そして、“白化しないサンゴ”発見のきっかけが、7年前のサンゴの産卵観察会で子どもたちにより近くで産卵を見てもらおうと、水槽の深い場所にあったサンゴを浅い場所へ移動させたことだったという事実は、様々な発見のきっかけが偶然であるということを思い起こさせてくれます。

 

ですから、やはり素晴らしいアイデアの誕生には、決して諦めない粘り強い努力が必要なのです。

 

さて、地球温暖化は当分続き、しかも国際的な地球温暖化への取り組みも十分とは言えない状況です。

そうした中、ある程度温暖化が専門家の見込みよりも進んでも、それによる被害を出来るだけ食い止めるための対応策が重要になります。

そういう意味で、高水温でも白化しないサンゴの発見はとても喜ばしいことだと思います。

是非、今後ともこの研究が進められ、世界中のサンゴ礁の白化を食い止めていただきたいと思います。


 
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