2016年12月30日
アイデアよもやま話 No.3587 AIの活用事例(2) その5 AIのスポーツへの活用!

10月11日(火)放送の朝のニュース番組(NHK総合テレビ)でAIのスポーツへの活用について取り上げていたのでご紹介します。

 

膨大なデータ(ビッグデータ)を活用し、新たな戦略や選手育成法を生み出すシステムが次々と開発されようとしています。

リオデジャネイロオリンピックで過去最多41個のメダルを獲得した日本、2020年東京オリンピックで更なる活躍を目指し、日本の企業や大学ではAI(人工知能)を駆使した様々な研究が進められています。

 

プロ野球界で試合の進行に合わせリアルタイムでデータ収集を行う会社があります。

一球ごとに入力する情報は球のコースや球速、更にバッターがどのように反応したかまで10種類以上に上ります。

ここでは過去10年、プロ野球の全試合のデータを詳細に記録しています。

これまではこのデータをプロ野球チームに提供、戦術面のバックアップをしてきました。

野球がオリンピック競技に復活した今、新たなプロジェクトに取り組んでいます。

ソフトウェア会社と組み、膨大なデータをAIを使って解析、人間では発見の難しい選手の癖などを見抜き、戦術に生かす新システムを4年後を見据え、開発しようとしています。

 

開発中のシステムでは、一球ごとの打撃の結果を予測します。

これまでこの会社が提供してきたデータでは、守備に就くチームはカウントごとの打率など様々なデータを頭に入れ、戦術を練ってきました。

これに対し、AIを使った新システムは無数にある可能性を全て計算し、ホームラン、ヒット、あるいは凡退する確率などまで予測してくれるのです。

更に、予測は刻々と変化する試合状況にも対応しています。

こうした分析結果を知ることで、バッテリーは新たな戦術を練ることが出来るのです。

データ分析会社のアナリスト、金澤 慧さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「野球は30秒ごとに場面がどんどん移り変わる。」

「ストライクが入ったり、ボールになったり。」

「人間の力では及ばない量のデータを処理して、より正確な分析をすることが可能かもしれないですね。」

 

これまでのデータ分析では見つけることの難しかったバッターの癖も見えてきました。

例えば、ある選手が次の1球にバットを振るかどうか、AIは250もの要因を影響が大きい順に並べ替えます。

この選手の場合、1球前高めに投げられると振る気持ちが強くなる、負けている時には同じ球でも振り易くなるといった心理面ともとれる要因が強く影響していることが分かったのです。

 

このシステムはまだ実証中ですが、この会社ではAIが野球のあり方を変えると見ています。

金澤さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「“ちょっとその視点なかったな”って思うようなものかもしれないですね。」

「野球界、せっかくオリンピックに復活していって、そこで勝つ、強いということが大事だと思うので、そういったところに何かしら貢献出来ていくといいのかなっていう・・・」

 

こうしたAIのスポーツへの応用は、バレーボールや体操など野球以外の競技でも研究が進められています。

AIはトップアスリートのケガの予防にも応用されようとしています。

陸上短距離の江里口 匡史選手(27歳)は、23歳で臨んだロンドンオリンピックの男子400mリレーで4位の入賞に貢献しました。

しかし去年2月、江里口選手はオーバーワークが原因で足首の疲労骨折を経験しました。

現在は北京オリンピックのメダリスト、朝原 宜治コーチと共に東京オリンピックを見据え、本格的な競技復帰を目指しています。

江里口選手は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「骨が治ってはきているんですけども、それ以外の足の総合的な部分がうまくマッチせず、いろんなところでいろんな痛みが出て・・・」

 

再起に向けて今参加しているのがAIを活用した新たなシステムづくりです。

台から飛び降り、衝撃を身体でどう吸収するのかなどを計測、データを蓄積していきます。

このデータをもとにケガの予兆をつかむシステムを開発しているのが大阪大学です。

飛び降りた衝撃を足首やひざなどどの部分で吸収しているのか、更には着地の瞬間から揺れが収まるまでの身体のバランスなど400に上るデータを収集、膨大なデータの関連性をAIに計算させ、ケガに共通する特徴を導き出します。

大阪大学大学院の助教、小笠原 一生さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人が見えないところを見せてくれるというような働きをAIがしてくれることを期待しています。」

 

実際にハンドボール選手でデータを集め、誰がひざのケガをし易いか予測しました。

ハンドボールにはジャンプしてのシュートや急な方向転換など陸上競技やサッカーなどにも共通する足の動きが含まれています。

このため、蓄積したデータは他の競技にも応用出来ます。

これまでケガのリスクの研究はひざや股関節など特定の部位が注目されてきました。

ところがAIの開発で上半身も含め、全身のバランスが取れているかどうかが重要だと分かったのです。

ハンドボールチーム22人分の解析結果では、ケガのリスクが低い選手がグラフの真ん中の線よりも上部に点在し、過去にケガをした2人の選手は真ん中よりも下部に点在しています。

AIはケガをした選手と同じ特徴を持つ選手が他に2人いるのを見つけ出しました。

実際に、その後2人ともケガをしました。

小笠原さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ケガのリスクを抱えている人に対して、しっかりとしたアラート(注意喚起)を出せるようなシステムに育てていきたいと考えています。」

 

再起に向け、競技に取り組む江里口選手は、今後疲労骨折に影響する要因が分かればケガを防ぎながらトレーニングの強度を高められると考えています。

江里口選手は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「日本のトップにもう一度なって世界で戦う身体を作っていかなければいけないので、自分の身体の状態を自分自身が確認するための1つとしてしっかりと提示してもらえると非常にありがたい存在だなと思います。」

 

コーチの朝原さんも感覚に頼ってきた指導法が変わるかもしれないと期待しており、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今は直感であったり、経験であったり、センスであったりで采配しているんですけど、それがある程度個人にあった方向性を示してくれるのであれば、スポーツの世界とかトレーニングの世界が変わってくるとは思います。」

 

既に海外でもプロバスケットボールやセーリングなどの競技でAIを活用し、選手の強化や新たな戦術づくりなどにつなげようとする動きが始まっています。

4年後の東京でAIがどんなスポーツのかたちを生み出しているのか期待が高まります。

 

ケガの予測システムを開発している大阪大学によると、今はスポーツ選手を対象としていますが、将来的には高齢者やこれから本格的に競技を始める子どもたちへのケガ予防に応用したいということです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず始めに、冒頭でご紹介したプロ野球界で試合の進行に合わせリアルタイムでデータ収集を行う会社とは、ネット検索したところデータスタジアム株式会社のことのようです。

こちらでは社内に蓄積してきた膨大なデータをビジュアルに表現するツールとしてJMPを導入しています。

ちなみに、JMPとはデータ分析ソフトウェアで、世界中の数多くの科学者やエンジニア、データアナリストに選ばれており、ユーザーはその優れた統計・分析能力を活用し、予想もしえなかった発見をしているといいます。

こうしたAIによる分析結果の活用は、これまでにない奥の深い采配をもたらすと大いに期待出来ます。

また、プロ野球の観戦者にとってもこれまで見えなかったプロ野球の楽しみ方が出来ると期待出来ます。

こうしたサービスの登場によって、プロ野球チームは共に増々頭脳戦の流れを加速していくと思われます。

 

一方、大阪大学で開発中のAIを活用したケガの予測システムは、様々な種目のスポーツ選手にとってとてもありがたい存在になると思われます。

これまでは練習量を増やすことこそが大会でのメダル獲得への道というのが一般的な理解だったと思います。

しかし、実際には練習のやり過ぎで身体の故障を招くといった逆効果をもたらしてしまう事例をこれまで少なからず耳にしてきました。

こうしたスポーツ選手のケガの予測がAIの活用によって出来るようになれば、様々なデータに基づいたケガをしないような効果的な練習方法への改善に大いに役立ちます。

 

既に海外のスポーツ界でもいくつかの競技でAIを活用し、選手の強化や新たな戦術づくりなどにつなげようとする動きが始まっているというのですから、東京オリンピックを待たずに、これまでとは次元の違うレベルでの効果的、かつ効率的トレーニングが始まりつつあるのです。

 

ということで、これからのスポーツ界がAIの活用によりどのように進化していくかとても楽しみです。

 

なお、ケガの予測システムを開発している大阪大学による、高齢者やこれから本格的に競技を始める子どもたちへのケガの予防への応用についても、高齢者が少しでも元気な暮らしを送れるために、また子どもたちがケガをせずにスポーツに楽しく取り組めるためにも是非積極的に進めていただきたいと思います。


 
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