2016年09月25日
No.3504 ちょっと一休み その561 『現代の忍者 その1 武術を超えた技!』

私が子どもの頃、空前の忍者ブームで漫画やテレビ番組、あるいは映画でもよく取り上げられていました。

ですから、私も並外れた能力の忍者にあこがれていた時期がありました。

そうした中、7月7日(木)放送の「いま忍者 初見良昭八十四歳」(NHKBSプレミアム)で驚くべき実際の忍術について取り上げていました。

そこで3回にわたってご紹介します。

1回目は、武術を超えた技についてです。

                         

戦国の世に暗躍した忍者たちの使命は、敵の情報を奪い、主のもとに必ず生きて帰ることでした。

忍者は遠い昔に滅びたと思われています。

しかし、21世紀の今でも忍者は存在しているのです。

初見 良昭さんもその一人です。

900年の歴史を持つといわれている戸隠流忍法第43代宗家です。

初見さんは修行の果てに忍術を核とした武道を作り上げました。

84歳になった今も多くの弟子たちを育てています。

 

千葉県北西部に位置する人口15万人の野田市、この町の一画に毎日多くの外国人が訪れています。

彼らの目的地は初見さんの建てた武神館道場です。

84歳の初見さんが屈強な外国人の男性たちを手玉に取っています。

何人でかかっても初見さんに適いません。

弟子の8割は外国人といいます。

年間延べ1万人以上がこの道場を訪れています。

 

初見さんは、殴ったり蹴ったりしていません。

相手に軽く触れ、指先を取るだけで、手を握りもしません。

相手は自分から倒れ込んでいるように見えます。

初見さんは、こうしたご自身の動きについて、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「空間ができれば、どんな大きな奴でも指で要を取ればコントロール出来る。」

 

カナダから修行に来た女性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「宗家の動きは常に変わるので真似出来ません。」

「技術を超えた何かがある気がします。」

「それが何なのかを知りたいのです。」

 

また、南アフリカから修行に来た男性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私の動きは宗家に見抜かれている。」

「宗家に少し触れられただけで自分から倒れてしまう。」

「まるで自分自身と戦っているみたいだ。」

 

小柄な老人による神業の数々、まさに達人です。

 

初見忍術は、戸隠流忍法を核として、その他に様々な古武術が合わさって出来ています。

初見さんを語るのに欠かせない人がいます。

高校、大学と柔道に打ち込んできた初見さんは自分の強さに自信を持っていました。

しかし、27歳の時に出会った一人の男性に全く歯が立たず、弟子入りしたのです。

師匠の高松 寿嗣さんは、戦前国の内外で多くの他流試合に勝利し、最後の実践忍者と呼ばれた人物です。

初見さんは、師匠の高松さんに最初に出会った時の様子を次のようにおっしゃっています。

「まずね、自分が座っていたら先生が部屋に入ってきたわけですね。」

「お楽にお楽にって言っても、立てないんですよ、身体が固まっちゃって。」

「こんな恐ろしいというか、恐ろしいというよりも何というかなあ。」

「それで先生のところに15年通いました。」

 

戸隠流忍法を始め数々の忍法を初見さんに伝えた高松さんは、忍術の本質は護身術であると教えました。

その考えが初見忍術の原点になっています。

 

初見さんが30代の時、空前の忍者ブームで雑誌やテレビなど様々なメディアから引っ張りだこだった初見さんは、睡眠不足が健康を蝕んでいきました。

自立神経失調症で5年間病気をしたのですが、病を克服した初見さんから様々な欲が消えました。

相手を打ち負かそうという闘争心が無くなり、初見さんは力に頼ることが無くなりました。

自分からは攻撃しない、最小限の動きで身をかわし、相手を操るのです。

倒れた相手を押さえつけたりもしない、指先で軽く触れているだけです。

でも相手は全く動けないのです。

初見さんがたどり着いた力に頼らない境地です。

それを象徴するのが女性の忍者です。

女という漢字の成り立ちから、女性の忍者は“くの一”と呼ばれるようになったといいます。

初見さんは、“弱と示して強に出る”というのが武道の極意で、その典型的な例が女性という動物だといいます。

 

ある日、女優の武田 梨奈さんが初見さんの道場を訪れてきました。

竹田さんは、空手歴15年、全日本チャンピオンになった経験もあります。

その竹田さんが、初見さんの忍術の一端に触れ、次のような感想をおっしゃっています。

「普通の空手の稽古だとボコボコにされても耐えられるんですけど、そういう気持ちになれないです。」

「本当に殺されると思っています。」

「ここにいると本当に怖いんですよ。」

「でもみんな笑顔なのがまた怖いんです。」

 

「私が親指を何されたか分からない、一瞬すぎて、(でも)触られた瞬間に身体全体が抵抗すら出来ない、それされた瞬間に怖くて何も出来なくなってしまったの。」

「軽くパンチしてみてと言われても手が出ないというか、普通だったらパンチすぐ出来るのに出来ない。」

「親指触られただけで怖くなったの初めてだったので、でも何が怖かったと言われたら正直分からない。」

「未知の世界でした。」

 

竹田さんの今回の体験は、竹田さんに大きなヒントを与えました。

それは空手にはない相手の力を利用するアクションです。

 

一方、空手歴40年、世界の空手家を代表する一人、日本空手協会総本部師範でもあり、武道の道を追求する中 達也さんは以前から初見さんの技を見てみたいと思っていました。

居ると思った場所に初見さんが居ない、この初見さんの虚実の秘密を知りたいと中さんは初見さんを訪ねました。

空間や時間を自由自在に操っているような、相手を完全にコントロールしているように見えることについての中さんの問いに対して、初見さんは次のように答えられております。

「壁を透明にしちゃうことが大事ですね。」

 

ちょっとこの言葉は理解しがたいのですが、目標が無い、確かに初見さんの相手である弟子の方々は殴る目標を見失ったかのようにバランスを崩しています。

そこに居たはずの初見さんがまるで居なくなったかのようです。

これは初見さんのおっしゃる透明なのでしょうか。

中さんが体験した虚の世界、それは武道を突き詰めた先にある高みだったのです。

 

中さんは、初見さんから実際に体験させられた虚の世界についての感想を次のようにおっしゃっています。

「自分でここ何年間かずっとテーマにしていることがそのままだったので。」

「虚と実の間、間というのは空間であり時間であり時空になってくるわけです。」

「対象がいないんです。」

「心が起きないんです。」

「例えば、突こうという心が起きないんです。」

「だから逃げようと思う気持ちも起きてないんです。」

「だから、みんなコントロールされちゃっているんです。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

初見さんの到達した武術を超えた技についてとても興味が湧いてきましたが、番組の中で語られる方々の内容からは尋常ではない恐怖心も感じられます。

機会があれば、是非初見忍術を体験してみたいと思います。

また、初見忍術とボクサーやプロレスラーが試合をしたらどうなるだろうかと想像されます。

 

一方で、忍術の本質は人を殺すことではなく護身術であるということについては救われます。

戦国の世に暗躍した忍者たちの使命は、敵の情報を奪い、主のもとに必ず生きて帰ることを考えれば、やたらと敵を殺すのではなく、“護身”が本質であるというのはとても理解出来ます。


 
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