2016年08月11日
アイデアよもやま話 No.3466資本主義のルールが変わる時 その4 幻想が幻想を生む!

地球環境問題や化石燃料などの資源の枯渇問題に関心を持ち始めるようになってから、消費が成長エンジンである資本主義のあり方に疑問を感じるようになりました。

そうした中、5月28日(土)放送の番組(NHK総合テレビ)で「欲望の資本主義 〜ルールが変わる時〜」をテーマに取り上げていました。

そこで、5回にわたってご紹介します。

4回目は、幻想が幻想を生むことについてです。

 

思想、そして技術が欲望を解放し、資本主義は成長が欠かせないシステムへと変貌しました。

チェコのCSOB銀行のマクロ経済チーフストラテジストであるトーマス・セドラチェクさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ここ(東京証券取引所)は「何処でもない国」のようだ。」

「ある意味、ここで日本経済の価値が決まっている。」

「市場関係者の「アゴラ」(広場)はもう移動したんだ。」

「「見えざる」デジタル空間にね。」

「ここには何もないが、全てが「ある」。」

「株式市場は実在する。」

「だが、お金はもはやモノのかたちをしていない。」

「今や、お金は精神的な同意事項なのだ。」

「この劇場の役者と役者をつなぐ・・・」

「そもそも僕らの欲望はバーチャルなものなのだ。」

「ピカソの絵が欲しいって?」

「高額な理由は、ピカソの絵そのものにはない。」

「信頼出来る専門家がそれがピカソの絵だと認証するから高額なんだ。」

「つまり、人々の同意の問題なんだ。」

あるモノの価値が宿るところは、投じられた労働や物質ではない。」

「それを買いたいという「欲望」にこそ価値は宿る。」

 

需要と供給の交わりで市場は動く、そんな世界は幻想だったのでしょうか、

人々の欲望が渦巻く中、増幅される社会のねじれ、20世紀、大衆の時代に大胆な経済理論を打ち出した男がいました。

稀代の経済学者、ジョン・メイナード・ケインズ(1883〜1946)です。

彼は、次のような一風変わった美人コンテストを例に引き、大衆心理の本質を言い当てました。

「最も美人だと思う人に投票して下さい。」

「ただし、賞金は最も票を集めた女性に投票した方々に差し上げます。」

 

この時、何が起きるのでしょうか。

セドラチェクさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「自分は他の人の投票先を予想しているんだが、他の誰かが予想していて、また別の誰かが・・・」

「これは一種の「無限ゲーム」で、自分の好みを選んでいない。」

「僕は他人の好みを予想しているのだ。」

「ここには多くの・・・」

「本当に多くの意味が含まれている。」

「一つ目は、ズバリ「株式市場」の本質を言い当てていること、私が「投票」する会社は自分が好きな会社ではなく、沢山の人が「好きであろう」会社だ。」

「次は、よくあることだね。」

「誰の好みでもない女の子が優勝する。」

「そして、投票する人は“固定観念”を用いる。」

「最も有利な戦略は、女性ではなく審判員たちの顔を見ることだからね。」

「固定観念は未来にわたってずっとこだましていく。」

「誰の好みでもない女性が選ばれても、もう誰も止められない。」

 

「(これはサブプライムローンのことも言い当てているのではないかという指摘に対して、)そうだね。」

「悪質なローンを組み合わせて作った乗り物だったね。」

「みんなシステムを信頼していたけど、機能しなかった。」

「ある意味、どんなに神話的で観念的かが分かるだろう。」

「一見、数学的で分析的だと見える経済の分野がナンセンスで無根拠な虚空のようだね。」

 

自分の欲しいモノではなく、他人が欲しいモノを予想し、模倣し合う、欲望が行き着いた錯綜する世界なのです。

2001年のノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(経済学者はバブルなど市場危機を避けることに貢献出来るかという問いに対して、)まず言いたいのは「悪事は働くな」、「害をばらまくな」ということだ。」

「2008年のリーマンショック以前、経済学者たちは莫大な損害をもたらした。」

「多くの経済学者・・・」

「“他の”多くの経済学者がと言っておこうか、自由放任市場が万能だと売りまくっていた。」

「「市場は自己調節機能があるから、バブルなんて心配するな、市場を信じよ」ってね。」

「「自己利益の追求」・・・」

「経済学者が「インセンティブ」と呼ぶものは、現代の市場経済では確かに中心にある考え方かもしれない。」

「しかし、アダム・スミスは間違っていたことが分かった。」

「「自己利益の追求」・・・、時には「強欲」が「見えざる手」によって社会全体の幸福を導くと言うが、「見えざる手」はいつも見えない、そんなものは存在しないからだ。」

 

2012年のノーベル経済学賞受賞者で、スタンフォード大学教授のアルヴィン・ロスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「「見えざる手」は単なる概念だ。」

「“市場の魔法”は魔法では起こらない。」

「市場には必ずルールがある。」

「そのルールは誰か一人が決めたわけではなく、歴史の中で磨かれてきたものだ。」

「「自由」市場は、ルールからの「自由」を意味しない。」

「競争、協力、取引・・・、「自由」に市場を使いたいなら、ルールがそこにあるはずだ。」

「経済学者たちもいかに市場を有効に使うか、分かり始めたばかりなんだ。」

「特に誤りを正しながら、更に良きルールを見つける手助けも出来るだろう。」

 

2001年のノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「21世紀の現在と18世紀では経済の様子は全く違う。」

「あまりにも多くの経済学者が「経済学の父」アダム・スミスに頼り過ぎている。」

「自己利益の追求が「見えざる手」に導かれ、社会全体の幸をもたらすという理論・・・」

「彼がそのことを書いていたのは、資本主義が本格的に走り出す前の話だ。」

「確かに彼は素晴らしいアイデアをくれたが、巨大企業など生まれる以前の話だ。」

「東インド会社など、いくつかの大企業はあったが、それは貿易会社であって、今あるような製造業は一つもなかった。」

「アダム・スミスが経済の行く末まで理解していたと思ってはいけない。」

「彼に現代の資本主義の姿など分かったはずもないのだから。」

「アダム・スミスが利益の追求という人間の欲望を見抜いた洞察はすごいが、私たちが現代の資本主義を理解しようとするならば、イノベーションが経済に果たす役割こそ考えねばならない。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

アダム・スミスがその著書「国富論」の中で唱えた「見えざる手」はあまりにも有名ですが、

その「見えざる手」は幻想に過ぎないと言わざるを得ない状況が続いています。

古くは1929年の大恐慌、そして2008年のリーマンショックは、世界的に壊滅的な打撃を与えました。

そして、リーマンショックの後遺症はいまだに残っております。

また、日本国内でも食品に関わる様々な不正や自動車の燃費不正問題などが後を絶ちません。

 

本来、「見えざる手」が有効に働いていれば、大恐慌やリーマンショックなどは起きなかったはずなのです。

ステイグリッツさんは、「見えざる手」が現在有効に機能しない背景として、資本主義が本格的に走り出す前の状況を前提にしており、21世紀には当てはまらないとおっしゃっています。

それに加えて、アダム・スミスが「見えざる手」を唱えた前提条件として、個々の事業に取り組む経済人は性善説に立って行動するという前提で論理を展開していたのではないかと思います。

一方では、イノベーションが経済発展の大きな推進力になっています。

ですから、イノベーションが起きやすい環境づくり、およびリーマンショックのような不正を事前に抑えられるようなルールづくりが求められるのです。

そして、こうした対策は経済環境などの変化に合わせて継続的に取られなければならないのです。

 

ということで、次回は、欲望の果てについてご紹介します。


 
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