2016年07月24日
No.3450 ちょっと一休み その550 『大量絶滅は2600万年周期で起きている!?』

地球上の大量絶滅については、どなたも興味を抱いていると思います。

そうした中、3月31日(木)放送の「コズミック フロント☆NEXT」(NHKBSプレミアム)のテーマは「謎の凶星“ネメシス”大量絶滅の真相に迫る」でした。

そこで、番組を通して大量絶滅の真相についてご紹介します。

 

およそ6500万年前には、恐竜をはじめ種の7割が姿を消しました。

1984年、この大量絶滅についてある論文が発表されました。

そこには更に恐ろしい歴史が綴られておりました。

多量絶滅は一定の周期で12回も起きていたというのです。

根拠となったのは、各地に残された化石が示す確かなデータでした。

ギリシア神話の復讐の女神“ネメシス”、その名が付けられた災いの星が12回もの大量絶滅の元凶だというのです。

しかも1300万年後には“ネメシス”が再び現れ、地球に悲劇をもたらすと専門家は予測しています。

 

さて、以下はこれまでに分かっていた古生代の絶滅年代です。

6550万年前  :恐竜が絶滅

 2億年前     :両生類の祖先が絶滅

 2億5000万年前:三葉虫が絶滅

 

ところが、アメリカのシンシナティ大学の二人の古生物学者、デビッド・ラウプさんとジャック・セプコスキさんはどんな種がいつ消えたのか、地道な分析から以下のような驚くべき事実が浮かび上がってきました。

9300万年前の原始的なサンゴや二枚貝の絶滅や1億2000万年前のアンモナイトの壊滅的なダメージなど、その他を合わせて12回もの大量絶滅が起こっていたことが明らかになりました。

しかも、この研究結果により、もう一つ驚くべき事実が明らかになりました。

12回の絶滅のピークはほぼ一定の間隔で、地質学上の誤差を計算に入れると、2600万年に一度、規則的に絶滅が起こっていたのです。

1984年、二人の論文が発表されると科学者の間で賛否両論の反響を呼びました。

 

2600万年周期で繰り返される絶滅はなぜ起きたのか、そこに一つの答えを示したのが、カリフォルニア大学バークレー校で長年加速器を使って素粒子を研究してきた物理学者のリチャード・ムラー博士で、大学を退職した今でも自宅で論文を執筆する現役の研究者です。

二人の論文が発表された頃、大量絶滅の検証を依頼された当時の指導教官であった物理学者のルイス・アルバレズさんはその論文を読んで、「馬鹿げている、こんなことはあり得ない」と漏らしました。

そして、いつものようにムラーさんに意見を求めました。

ムラーさんは、「説明が出来ない現象だからといって、それが起きないとは限らない。」と言いました。

すると、アルバレズさんは「説明出来ないものは起こらない。ならば、君が論理的な説明を考えろ。」と詰め寄ってきました。

 

ムラーさんも当初は信じがたい説だと思いましたが、詳しく読んでみると否定出来る材料も見当たりませんでした。

そこで、2600万年に一度何が起これば生物が絶滅するのか考えてみることにしました。

津波や火山の噴火など地球で起きる現象から原因を見つけ出すのは困難に思えました。

周期的に起こる理由がないからです。

そこで、ある大胆な仮説を考えました。

かつて恐竜を絶滅に追い込んだ巨大隕石の衝突、こうした天体の衝突が2600万年に一度起こっていたのではないかというのです。

私たちの銀河系には太陽のような恒星が数多く存在しています。

そして、現在確認されている恒星のおよそ半分は単独の星ではなく連星であることが分かっています。

両者のサイズに偏りがある場合、小さい方を伴星と呼び、大きい恒星から遠く離れたところを楕円を描きながら回っています。

そして、ムラーさんは太陽にも未知の伴星があると考えました。

伴星は非常に小さいため太陽から遠く離れたところを回っていて、およそ2600万年周期で一周すると計算から導き出したのです。

この伴星は2600万年に一度太陽系を覆うオールトの雲に接近します。

オールトの雲とは、太陽からおよそ1光年ほどの距離に氷の小天体が雲のように集まっている領域です。

小天体の数はおよそ10兆個にもなります。

そのうちのいくつかは惑星の重力によって彗星となって太陽の方へとやってきます。

オールトの雲に伴星が接近するとその重力で小天体の軌道に大きな影響を与えるといいます。

 

こうしたことからムラーさんが考える周期的な大量絶滅の仕組みは以下の通りです。

太陽の伴星は2600万年ごとにオールトの雲にある無数の小天体の中を通過していきます。

伴星の重力によって軌道を乱された小天体は太陽系の内部に引きずり込まれます。

すると今度はより重力の強い太陽に捉えられて彗星となり、太陽系の内部を飛び交います。

それが彗星のシャワーとなって地球に降り注ぎ、大量絶滅がもたらされるというのです。

 

ムラーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ギリシア神話には、“ネメシス”という女神がいます。」

「“ネメシス”は神を脅かすものを許さない存在です。」

「力を手に入れ、強大になり過ぎたものは“ネメシス”に滅ぼされる、そういった意味でこれは良い名前だと思い、星に“ネメシス”と名付けたのです。」

 

公転周期を2600万年として逆算すれば、“ネメシス”の軌道と質量を割り出せます。

その結果、公転軌道の直径は2.8光年、質量は太陽の10分の1と計算されました。

果たしてこの仮説は正しいのか、検証のためにムラーさんは科学者を集めて会議することを思いつきました。

自分たちの考えに間違いがないか見つけてもらうためです。

1984年3月3日、大量絶滅に関する新しい説について検討する会議、通称ネメシス会議が開かれました。

そこには物理学、地質学、古生物学、天文学など各分野のそうそうたる20名以上の科学者が参加しました。

 

会議の結果を受けて、1984年4月、ムラーさんをはじめ3人の科学者により科学誌「ネイチャー」上にネメシス論文が発表されました。

太陽に未発見の伴星があるという説は科学者の間で話題となりました。

更に数々の著名な雑誌の表紙を飾るなど世間の注目を集めるようになりました。

しかし、ネメシス説は同時にある不吉な未来をも示していました。

計算によると、ネメシスは現在太陽から最も遠い位置にあります。

そして1300万年後に再びやってくるとされたのです。

 

地球に再び大きな災いをもたらす可能性が出てきたネメシス、それを防ぐために重要なことはまずその姿を捉えることです。

アメリカ・カリフォルニア州バークレー、論文の発表後、ムラーさんは早速ネメシスの観測に乗り出しました。

しかし、そこには大きな難題が立ちはだかっていました。

望遠鏡を向けたくてもどの方向にネメシスがどの方角にあるのか全く分からないのです。

そこで、ムラーさんは全天をむらなく観測できる星の自動探索システムを使うことを思いつきました。

しかし、成果はありませんでした。

ネメシスは予想以上に暗い天体なのだとムラーさんは考えるようになり、ネメシスは赤色矮星ではないかと思い付きました。

そうした中、1984年のある日、思いがけない朗報が飛び込んできました。

NASAの探査衛星が新たな観測を行ったというのです。

赤外線天文衛星「IRAS」は可視光で捉えるのが難しい星を赤外線で探す当時最新鋭の探査機でした。

しかし、「IRAS」の観測でもネメシスらしき天体の発見には至りませんでした。

ムラーさんはその後もネメシスを探し続けてきましたが、その存在を明らかにすることは出来ませんでした。

そして、1980年代の終わり頃を最後にネメシスの観測も行われなくなってしまいました。

 

それからおよそ20年後、2000年代に入ると、にわかに新たなチャレンジが動き出しました。

ペンシルベニア州立大学で天文学を研究しているケビン・ルーマン教授が以前から興味のあったネメシス探しに乗り出したのです。

そのきっかけは2009年にNASAで打ち上げられた広域赤外線探査衛星「WISE」でした。

「IRAS」のセンサーの1000倍の感度を持つ最新鋭の赤外線センサーを搭載し、広い範囲をくまなく観測することが出来ます。

しかし、それでもネメシスを発見することは出来ませんでした。

 

そうした中、今私たちの前に突如謎の天体が出現しました。

ネメシスの姿を捉えることはなかなか出来ませんが、何かが近寄っていることは確かです。

それはオールトの雲に不思議な兆候が見られるからです。

最近の観測結果によると、オールトの雲の小天体は分布が均一ではなく、特に密集した領域があることが分かってきました。

つまり、そのような偏りを生じさせる何らかの重力源があると疑われているのです。

オールトの雲で何が起きているのか、その原因を直接見る方法は残念ながらありません。

 

さて、ネメシスの存在を指摘したムラーさんは別の説も検討していました。

その一つが太陽系振動説です。

銀河系の重力の影響で太陽系そのものが振動し、オールトの雲が偏るというのです。

銀河系は直径10万光年と円盤状のかたちをしています。

私たちの太陽系はこの銀河円盤の中を秒速217kmで公転しています。

この太陽系の公転は水平に動いているのではなく、メリーゴーランドのように上下していることが観測から分かっています。

つまり、一定の周期ごとに銀河円盤の水平面を通り抜けているのです。

この通過の際に円盤の重力でオールトの雲が乱され、多くの彗星が生まれるというのです。

しかし、ムラーさんが観測データをもとに再計算した結果、その説では説明出来ないことが分かりました。

観測から分かっている現在の太陽系はちょうど今、銀河円盤の水平面にあります。

銀河円盤の重力が原因ならば。現在は大量絶滅が起きる時代の真っただ中のはずですが、そのような兆候は見られません。

しかも、過去にさかのぼって銀河円盤を通過した年代を調べると、これまでの説の大量絶滅のピークとずれてしまいます。

 

では、オールトの雲を偏らせる原因は何なのか、もう一つの有力な説はネメシスとは別な軌道を回っている小さな惑星が原因だというものです。

研究者の間では、通称「惑星X説」と呼ばれています。

アーカンソー大学のダニエル・ウィットミア教授は、この惑星Xが周期的な大量絶滅をもたらしたと考えています。

惑星Xは、太陽系の惑星の公転面に対して垂直な軌道を取っていて、海王星よりもずっと外側を巡っています。

この軌道にいる限りはオールトの雲にある小天体に影響を及ぼすことはありません。

しかし、長い時間をかけて惑星の公転軌道自体が回転します。

そのため小天体の密集した部分を通過すると彗星が生まれて地球に向かいます。

公転軌道の回転により2600万年後、惑星Xは再び彗星をもたらします。

こうして、周期的な絶滅が引き起こされると考えたのです。

 

現在の観測技術をもってしても惑星Xは見つかっていません。

しかし、ウィットミアさんは惑星Xは存在しないのではなく、未だ発見されていないだけだと考えています。

その根拠が2003年に発見された小惑星、セドナです。

軌道の半径は816億kmという冥王星の3倍以上遠くを回っている天体です。

このような遠い領域に小惑星があるという事実は、科学者でさえ予想外のことでした。

かつて、セドナは太陽系の惑星と近い軌道を通っていました。

それを遠くに押しやったのは巨大惑星の重力だったのです。

しかし、大量絶滅を引き起こすにはセドナでは不十分です。

重力が小さすぎて他の小天体を動かすことが出来ないからです。

だとすれば、やはり惑星Xは存在するのでしょうか。

 

そうした中、2016年、セドナの動きから衝撃的な発見がもたらされました。

なんと太陽系に9番目の惑星がある可能性がカリフォルニア工科大学のコンスタンティン・バティギン准教授により示されたのです。

きっかけは、セドナとその周辺にある小惑星の軌道分析だったといいます。

最新の観測によって、セドナの周辺には他にも5つの小惑星が発見されています。

それらの軌道を描くと皆同じような楕円軌道を回っており、その方向や傾きまでよく似ています。

計算の結果、これら6つの軌道が偶然似る確率は0.007%、ほぼあり得ないことが分かったのです。

 

バティギンさんの研究グループが何度もシミュレーションを繰り返した結果、次のような軌道に惑星が存在すれば説明出来ることが分かりました。

想定される質量は地球の10倍、直径3倍にもなる巨大惑星でした。

現在、ハワイのスバル望遠鏡を使って第9惑星の観測を計画しています。

この空のどこかに全く知られていない惑星があるかもしれない、ならばどこかにネメシスや惑星Xがあっても不思議ではありません。

 

生物の大量絶滅から始まった大いなる謎、12回もの災いを乗り越え生命は生き延び、進化を続けてきました。

しかし今は大量絶滅の合間、つかの間の平穏の時期を過ごしているに過ぎないのかもしれません。

理論上では次の大量絶滅がやってくるのは1300万年後、はたしてその時地球の生命は再びネメシスの力を目撃することになるのでしょうか。

 

以上、番組の内容をご紹介してきましたが、番組全体を通して、あらためて思ったことがあります。

それはニュートンの万有引力の法則です。

様々な惑星の軌道は、それぞれの引力により支配されており、それが様々な現象を引き起こしているわけです。

 

また、私たちの住む地球は自転しており、更に太陽の周りを公転していることは学校で習って知っていますが、その太陽系は銀河円盤の中を秒速217kmで公転しているという事実にも驚きです。

 

さて、大量絶滅は2600万年周期で起きており、理論上では次の大量絶滅がやってくるのは1300万年後ということですが、その時もし人類が更に進化していたらどんな姿をしており、どの程度知能が発達しているのかとても興味のあるところです。

そして、もし人類がまだ地球上で暮らしているとすれば、きっとその時代のテクノロジーで難なく宇宙のどこかに避難していくと思われます。

 

最後に、アイデアの観点からとても気になったことがあります。

それは、カリフォルニア大学バークレー校の物理学者、リチャード・ムラー博士の次の言葉です。

説明が出来ない現象だからといって、それが起きないとは限らない。

 

私たちは既存の常識や理論に照らして反するような考えや事象にはうさん臭さを感じたり、あるいは否定する傾向があります。

あるいは、“そんなことはあり得ない”の一言で片づけてしまいがちです。

ですが、そうした考え方がテクノロジーの進歩を遅めたり、あるいはそうした考えの人を抹殺してきた歴史があります。

 

私たちの社会全体がもっと柔軟にいろいろな考え方を受け入れたり、逆にIS(イスラム国)のようなテロなどに対しては毅然と立ち向かうような土壌を育てるようになって欲しいと思います。


 
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