2016年03月12日
プロジェクト管理と日常生活 No.427 『広島県中学3年生の自殺に見る”壊れている教育現場”』

広島県府中町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15歳)が誤った万引き記録に基づく進路指導を受けた後に自殺した問題を耳にした時、唖然としました。

瞬間的にこの“教育現場は壊れている”と感じました。


そこで、これまでの各種報道からこの不幸な出来事の経緯を以下に時系列でまとめてみました。

・2013年10月、1年生の男子生徒2人が広島市内コンビニで万引きをしたと学校に連絡があった

・教師が店に出向いて2人を確認したが、自殺した生徒とは別の生徒で、自殺した生徒はその場に居合わせてもいなかった

・この万引き事件の翌日、当時対応した教諭は生徒指導の担当教諭に万引きをした生徒の名前を伝え、報告は口頭で行われた

・生徒指導の担当教諭は、聞いた名前を記録、ところがその際、自殺した生徒の名前が誤って入力された

・なぜそうなったのか、(学校のまとめた)報告書では詳細な状況は不明としている

・自殺した生徒が万引きに関わったとする誤った記録は、その翌日、2013年10月8日の校内での生徒指導会議で生徒指導教諭から提出されたが、他の教諭に名前の誤りを指摘され、各教員はそれぞれ各自で手持ちの資料を修正した

・しかし、パソコンにある元データを誰が修正するかは決められず、誤りは直されないまま放置された

・更に、その後、6回あった週1回開かれる同委員会の第28回(2013年11月26日)まで、毎回未修正の資料が提出されていながら、参加した教諭からは誰からも間違いを指摘する声が上がらず、何度も修正する機会があったのに誤ったまま重要書類が保存されていた

・この生徒指導会議は生徒の問題行動や不登校などの状況について報告し協議する場だが、会議録も作成されていなかった

・問題行動を起こした生徒に書かせる「事実確認票」や反省文などの指導記録についても「整理や保管の仕方がさまざまで、ファイリング(分類)する意識もなく、生活指導に役立てるものになっていなかった」と報告書では分析している

・また、学校は、高校入試の校長推薦を出す判断基準としていつからの問題行動や触法行為を対象とするか対象時期の具体的な規定をしておらず、“毎年その都度基準を検討”するという慣例があった

・従って、それまでは3年時の非行歴のみ確認すればよかったため、資料ではなく教員の記憶のみに頼って判断していた

 

・しかし、今年度は“3年間真面目に努力してきた生徒を推薦すべきだ”などとして1年生からの触法行為を対象とすることにし、これまでは非行歴の調査対象を「3年時のみ」としてきたが、昨年11月になって「1〜3年時」に広げた

・その結果、進路について話し合う会議で、1年時の触法行為も議論の材料になり、学校のサーバーに保存されていた“誤った情報記載の資料”が進路指導に使われることになった

・昨年11月、生徒の女性担任教諭は事実と違う非行歴の存在を知り、生徒が優秀だったことから1年生の時に何があったのだろうと驚いた

・しかし、担任教諭は最初の面談で生徒に「万引きがありましたね」と尋ねたが、生徒の返事は不明確だったので生徒が万引きを認めたと思いこんだ

・昨年11月から自殺の当日までの5回にわたる担任教諭による進路指導の面談は教室前の廊下で行われた

・面談は机と椅子を置いて行われたこともあったが、ほとんどは立ち話でいずれも5分程度で、誤った資料に基づいてこの生徒に志望校への推薦は出せないと繰り返し伝えていた

・一方、生徒は保護者に「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と打ち明けたことがあった

・自殺当日の昨年12月8日、に担任教諭、保護者、生徒による3者懇談が行われる予定だったが、予定の時間になっても生徒は現れず、担任教諭と両親だけで懇談を行った

・担任教諭は両親に、生徒が1年生の時に万引きした事実があるため志望校に推薦出来ないと伝えた

・その日の夕方、この生徒が自宅で倒れているのを父親が見つけ、生徒は病院に運ばれましたが、死亡し、自宅には自殺をうかがわせる遺書が残されていた

・学校側は生徒の死亡翌日、死因は急性心不全と説明していた

・生徒の自殺後、学校の調べで生徒に万引きをした事実はなかったことが分かった

・生徒の自殺が発表された保護者会から一夜明けた3月9日、臨時の全校集会が開かれれ、校長は生徒は病死ではなく自殺だったことを報告した

 

なお、この生徒は陸上部に所属しており、走ることや勉強がすごく出来たと小学校時代からの友人は取材に応えています。

また、別な同級生によると、この生徒の成績はトップクラス、生徒は学校の推薦が必要な私立高校の先願受験を希望していたといいます。

そして、生徒の両親は弁護士を通じて次のようにおっしゃっています。

「(学校のまとめた)報告書に書かれた担任教諭との面談の会話が本当にこの通りだったのか疑念を持っている。」

「息子の性格を考えると、「万引きがありますね」などと決めつけられると、もめごとを起こしたくない性格から明確に反論出来ないところがあると思っている。」

「より客観的で公平かつ中立な調査結果が出ることを期待したい。」

 

今回の問題で、3月10日、文部科学省が特別チームを立ち上げ、学校や教育委員会の対応の検証を始めました。

また、進路指導や推薦委準の実態を洗い出し、必要な対策を検討する方針で、9月頃までに最終報告をまとめたいとしています。

 

さて、ここまでこれまでの各種報道からこの不幸な出来事の経緯をご紹介しました。

ここからは、プロジェクト管理の観点から進路指導に係る広島県府中町立府中緑ケ丘中学校の不備について、私の思うところをお伝えします。

 

まず、教師と生徒との信頼関係のなさです。

それは、自殺した生徒が保護者に「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と打ち明けたことがあったという事実が物語っています。

もし、生徒が担任教師を信頼していれば、気軽に「自分は万引きしていない」と言えたはずです。

また、担任教師が生徒を信頼していれば、すぐに生徒の立場になって事実確認をし、生徒の万引き情報の誤りに気付いたはずです。

しかも、この生徒の成績はトップクラスで陸上部にも所属していたのですから、普段の生徒の生活ぶりを把握していれば、機械的に生徒の万引き方法を信じるということはあり得なかったはずです。

 

2番目は、この学校全体の組織風土の悪さです。

教師は教育という大事な人材の育成を単なる仕事として事務的に淡々とこなしており、生徒に真摯に向き合う姿勢の欠如を一連の報道記事から見て取れます。

また、生徒の自殺を当初病死として説明していたところに組織としての保身が見て取れます。

 

3番目は、コミュニケーションの悪さです。

教師間の日頃の密な情報交換があれば、どこかで生徒の自殺は防げたはずです。

 

そして4番目は、情報管理の不備です。

もし、以下のような観点で情報管理がされていれば、上記の3つの観点の不備があっても生徒の自殺は防げたのです。

・文書による記録

・上司、あるいは他の教師による承認

・情報の一元化

・どの教諭も関連情報の参照が可能

 

こうして今回の15歳という若さで自殺に追い込まれた男子生徒の大変不幸な事件を見てきた結果、思い浮かんだ言葉があります。

それは“壊れている学校現場”です。

このような学校現場はあくまでも例外的な存在であって欲しいと思います。

 

最後に特に強調しておきたいことは、学校に限らずどんな組織においても、関係者間で信頼関係がなければ、いずれその組織は崩壊してしまうということです。

また、どんなに優れた仕組みやシステムを導入しても、それを運用する関係者がその意図をしっかりと理解していなければ、本来の機能を果たすことは出来ないということです。


 
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