5月13日(水)放送の「国際報道」(NHKBS1テレビ)で「“核なき世界”の行方」をテーマに取り上げていました。
また、5月14日(木)放送の「時論口論」(NHK総合テレビ)でも同様のテーマでした。
そこで2つの番組、およびその後の今回のNPT(核拡散防止条約)の再検討会議の結果を通して、核兵器は戦争の抑止力になるかどうかについて考えてみたいと思います。
ちなみに、NPTは世界に核兵器が広がるのを防ごうと、1970年に発効されました。
そして、5年に1度の再検討会議は4月27日から5月22日にわたり国連本部(ニューヨーク)で開催されました。
そもそも世界には今どれくらいの核弾頭が存在しているのでしょうか。
2014年1月、ストックホルム国際平和研究所の発表によると、世界の核弾頭数は少なくとも16,300発で、そのうちロシア8,000、アメリカ7,300で米ロ2国だけで全体の約94%を占めています。
その他にフランス300、中国250、イギリス225などとなっています。
NPTは、早い段階から核兵器を手にしたこれら5ヵ国だけを核保有国と認めています。
これらの核保有国には、核軍縮に誠実に取り組むよう定める一方で、それ以外の国々には核兵器の開発や保有を禁じ、その代り原子力発電など核の平和利用の権利を認めています。
NPTに参加していない事実上の核保有国は、パキスタン100〜120、インド90〜110、イスラエル80、北朝鮮6〜8の4ヵ国です。
インドとパキスタンは、5大国だけに核の独占を許すのは不公平だと条約の批准を拒み、イスラエルは核兵器を現に保有していることを認めず、北朝鮮はNPT脱退を宣言し、今なお核開発に突き進む構えを崩していません。
こうした状況下で、世界の核兵器の90%以上を占める米ロが積極的に動かなければ世界の核軍縮の展望は開けません。
ですから、両国には粘り強い対話の継続が不可欠です。
そうした中、核保有大国、アメリカの核兵器関係者は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「核兵器の最大の目的は敵国に対する抑止力であり、これこそが同盟国の安全も保証するのです。」
一方の核保有大国、ロシアでは今年3月にプーチン大統領がクリミヤ併合を巡り、核兵器の使用も視野に入れていたことを示唆し、波紋を拡げました。
ロシアは、今年核ミサイルを搭載出来る原子力潜水艦を増強、50発以上の大陸間弾道ミサイルを新たなものに変更するなど、核を搭載出来る兵器の近代化を打ち出しています。
ロシアのある軍事専門家は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「核戦力はロシアの主権と独立、独自の対外政策を行うための最も重要な保証となっている。」
ただ、米ロの取り組みだけでは十分ではありません。
世界の配備済み核弾頭数は米ソの核軍拡競争で1986年に核弾頭の配備がピークを迎えましたが、その後冷戦が終わると緊張も緩和して徐々に減ってきています。
ところが近年、核戦争などによる世界の破滅の脅威はジワジワと増え続けています。
その要因の一つは核の拡散です。
今、新たに核保有を目指す国々の動きが最も懸念されている地域が中東です。
中東で唯一の事実上の核保有国はイスラエルです。
核の存在を肯定も否定もせず、NPTにも参加しないイスラエルに対し、サウジアラビアなど近隣のアラブ諸国は強く反発し、この20年の長きにわたり、中東の非核化を目指す国際会議の開催を求めてきました。
そこに新たに懸念材料として加わったのがイランによる核開発問題でした。
イランと欧米は今年5月に核開発問題の最終的な解決に向けて枠組み合意に達しました。
これに対し、アラブ諸国はライバルのイランによる核武装に抜け道を作りかねないと警戒を強め、サウジアラビアは自らもウラン濃縮で対抗する可能性まで示唆しています。
中東の非核化を目指す国際会議の開催は前回5年前のNPTの再検討会議でも合意文書に盛り込まれました。
ところが、こうした約束は各国の思惑の違いで一向に果たされていません。
今回の会議で具体的な進展がないかぎり、中東を舞台に核の拡散リスクは増々高まっていくと思われています。
核の廃絶に積極的に動こうとしない核保有国と現状に不信感を募らせる非核保有国、こうした対立の図式は、会議の後半に入って核兵器禁止条約を巡る争いとしても表面化してきました。
一方、中国は急速な経済発展を背景に軍事力を増強していますが、実はNPT加盟国で唯一今も核弾頭を増やし続けているとされています。
更に、兵器の性能の向上に力を入れ、弾道ミサイルの長距離化を目指しています。
他にも弾道ミサイル搭載型の原子力潜水艦などの開発を進めています。
中国が核戦力を進める背景には、アメリカとロシアが主導してきた核軍縮への不満があります。
中国が保有するという核弾頭は250発、核軍縮が進めばはるかに多く保有するアメリカやロシアと同じ基準で削減を求められかねないためです。
なお、中国は核戦力で米ロと肩を並べようという野心はありませんが、核兵器の増強は今後も続けていくと見られています。
アメリカに比べて核戦力で劣る中国は、元々核の先制不使用を掲げて、核による先制攻撃を受けないかぎり核は使わないと宣言しています。
しかし、アメリカに対抗するためには必要最小限の核兵器は保有しなければならないという考えで、防御的な意味で核兵器を増強していくと見られています。
国際社会からは核兵器の数や配置を公表していないことも批判されていますが、これは抑止力を効果的に保つための戦術だと見られます。
今回の会議が開幕した直後、核兵器の非人道性に関する共同声明が日本も含めて過去最も多い159の国・地域により賛同されました。
ところが、こうした共通認識に立ったうえで、いざ核兵器を国際法によって全面的に違法化しようという具体論に入ると、既存の核保有国は段階的な核軍縮こそが唯一の現実的な選択肢だとしてこぞって反対したのです。
そして、日本も新たな核兵器禁止条約の策定には消極的な姿勢に留まりました。
日本はアメリカが差し掛ける核の傘の元にあり、その核抑止力に安全保障を委ねている以上、核兵器を直ちに違法化するわけにはいかないというのです。
唯一の戦争被爆国であると同時に、核超大国のアメリカの同盟国でもある日本はとても悩ましい立ち位置にあるのです。
残念ながら4月27日に始まった今回の会議は、約190の加盟国が世界の核軍縮と核不拡散、原子力の平和利用について協議し、NPT体制を強めるための最終文書の採択を目指してきましたが、5月22日の最終会合での最終文書を採択出来ませんでした。
それだけ核を巡る議論は、各国の安全保障に直結するばかりでなく、国家存亡の危機さえ招きかねないためお互いに譲りあう余地が大変少ないのです。
それでも、国際平和維持、更には人類存続のためには何としても核兵器の使用禁止、更には核兵器廃絶に向けた取り組みを継続させていかなければならないのです。
まさに、核兵器禁止条約の策定・維持は人類存続の究極のリスク対応策の一つなのです。