農業はつらい、儲からない、そんな偏見に挑み続けるのは農業組合法人「和郷園」（千葉県香取市）代表の木内博一さん（４４歳）です。
並外れた発想力と行動力で年商５０億円規模に達します。
ところが、かつては農業に希望を見出せませんでした。
母親の壮絶な生き様をみて、日本の農業を変えてみせる、と覚悟を決めたのでした。
和郷園の栽培面積は２００ｈａ、東京ドーム約４３個分、ここで四季折々５０種類の作物や花が９０戸の契約農家によって作られています。
ここでは２０〜３０代の若いメンバーが多く、生き生きと農業に励んでいます。
その平均年収は全国の平均的農家の２倍で、年間１億円売り上げる契約農家もあるといいます。
都祭孝彦さん（３４歳）は５年前建設業界から転職して夫婦で契約農家として働いています。
そして、今では年間数千万円単位で売り上げています。
木内さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「農業は変わらなければいけない。」
「我々がやっているのは生産事業ですから、そういうところを常に追求していかなければいけない。」
「消費者が”美味しい”と言ってくれるものがやっぱり一番売れるわけです。」
「”減農薬”や”無農薬”とか頭でモノを食べさせるというのは一度や二度は通用すると思うけど継続性という意味で言えばやっぱり”美味しい”。」
「”もったいない”を事業にしていこうというのが私の一つのテーマです。」
親が誇りを持ち、子供にあこがれを抱かせる木内さんの目指す農業、それが今や国内のみならず世界中から注目を集め、和郷園には連日のように政府要人や農協関係者が視察に訪れます。
これまでに６４カ国、１万人以上の農業関係者を受け入れてきました。
和郷園大躍進の理由、それは野菜そのものの美味しさです。
世間の話題をさらったトマトの甘さはイチゴ相当の糖度１２で、同時にトマト本来の風味を併せ持つ、まさに奇跡の野菜です。
ちなみに、一般的なトマトの糖度は５〜６です。
大手スーパーでもこのトマトは大人気です。
トマトを極限まで甘く出来た秘密、それは木内さんがいち早く取り入れた最新式の栽培技術にあります。
畑なのに土がありません。
苗を育てているのは液体肥料です。
ポイントは液体肥料を含んだシートと苗の間に敷かれた特殊フィルムです。
根っこは養分を吸おうとするが、このフィルムの効果によって少量しか摂取出来ません。
このストレスがトマトの実が大きくなるのを抑え、その分甘みが増すのです。
この土無し栽培は、農家にとって次のように更なる恩恵をもたらします。
�＾貪拈瀏�を組んでしまえば管理が容易で安定して品質が高く甘いトマトが収穫出来る
��土の雑菌などによる病気にかかりにくいため農薬の量を劇的に減らせる
�Ｅ擇�ないのでパートさんも働きやすいし、雇用の確保もしやすい
木内さんが育てようとしているのは、何代にもわたって続けられる新しい農業のかたちです。
年商５０億円の秘密はシンプルな発想にあります。
例えば、旬の作物は味がよく栄養価も高いが、大量に収穫されるためどうしても価格が下落してしまいます。
そこで、農家はわざわざ旬ではない時期に作物を作り、高値で売って採算を合わせていました。
その現場の常識を何とか打ち破りたい、旬に大量に収穫しても価格を落とさない方法はないか、そこで木内さんが考え出したのが冷凍保存です。
独自に冷凍加工工場を建設し、旬の美味しさと高い栄養価を封じ込める瞬間冷凍保存をすることです。
そうすれば、年間を通して安定した価格で売ることが出来るのです。
もう一つ、長年農家を悩ませてきたのは、収穫物の最大約４割にものぼる規格外です。
味は申し分ないのに見た目が悪いだけでその市場価値が大幅に下がってしまうのです。
そこで、木内さんはシンプルに考えました。
カットして売れば、規格外は関係ないと。
切るのは機械ではなく全て手作業です。
これで、あらゆる規格外に対応出来ますし、農家が作った作物を一個たりとも無駄にしないシステムです。
木内さんは、今東日本大震災で大変な被害に遭っている、それまでもつながりのあった福島県いわき市の農家に和郷園の生産方式を導入し、福島の農家をよみがえらせることにも取り組んでいます。
木内さんが挑むのは、千葉大学柏の葉キャンパスで進めている研究の成果を取り入れた最新式の完全人工光型植物工場です。
蛍光灯と液体肥料で栽培するのはレタスです。
これまで人工の光では不可能とされてきた結球レタスを作りことに成功しました。
そんな木内さんの夢、それは「夢と誇りと感動にあふれた農業を広めたい」ことです。
木内さんは本当に素晴らしいアイデアマンだと思います。
今までのやり方でちょっとおかしいのでは、と思うことに対して素直に反応して適切な解決策を導き出しているのです。
でもその裏にはしっかりとした考え方、すなわち何代にもわたって続けられる新しい農業のかたちがあるのです。
木内さんのような方々がどんどん増えていけば、日本の農業も衰退の道から発展へと大きく方向転換出来るはずなのです。
そして、木内さんの基本的な考え方は、どんな職業の人にとってもとても参考になると思います。
