2012年07月04日
アイデアよもやま話 No.2181 軽くて強くて燃えないマグネシウム合金!
6月10日(日)放送の夢の扉〜NEXT DOOR〜(TBSテレビ)で軽くて強くて燃えないマグネシウム合金について取り上げていましたのでご紹介します。

熊本大学大学院の河村能人教授(51歳)が開発した強くて燃えないマグネシウム合金に今世界中の企業が注目しています。
マグネシウムは鉄の4分の1、アルミニウムの3分2の比重で、工業用に使われる実用金属としては一番軽いと言われています。
マグネシウムは埋蔵量が豊富なのも特徴で、実用金属の中では4番目に多いのです。
軽くて豊富にある資源なので、今世界中で開発競争が繰り広げられています。

ところが、マグネシウムには弱点があります。
鉄に比べて強度がわずか4分の1、更には発火しやすいのです。
550〜600℃前後で溶け出し発火してしまいます。
一度発火した後に水をかけると水素爆発が起こるため水では消化出来ません。
そのため、軽いというメリットがありながら用途が限られており、パソコンや携帯電話などの製品の一部分にしか使われることがありませんでした。
そうした弱点を克服したのが河村教授の開発した「KUMADAI不燃マグネシウム合金」と呼ばれる強くて燃えないマグネシウム合金なのです。
航空機用の新素材としては70年ぶりと言われており、「KUMADAI不燃マグネシウム合金」はまさに金属革命を起こしてしまうほどの画期的な合金なのです。

「KUMADAI不燃マグネシウム合金」を自動車のボディやエンジンに活用すれば車体は軽くなり燃費は飛躍的に上がります。
また、排気ガスは減り省エネ効果もグンと上がります。
その恩恵を被るのは自動車に限りません。
飛行機やロケット、エネルギー産業にも及びます。
以前ご紹介した、2025年着工を目指した赤道直下に浮かぶ究極の海上都市、グリーンフロート構想、そこで使われる主要材料として「KUMADAI不燃マグネシウム合金」に高い期待が寄せられています。

「KUMADAI不燃マグネシウム合金」の開発とは、2種類以上の金属を混ぜ合わせることで新たな金属、すなわち合金を生み出すことです。
金属はほんのちょっと他の金属を混ぜ合わせるだけで特性がドラスチックに変わるといいます。
ですが、マグネシウムはとても扱いにくい金属なので、開発は試行錯誤の連続でした。

1999年、河村教授はこれまでの研究が評価され、新しいマグネシウム合金開発の国家プロジェクトに呼ばれました。
合金開発はすごく地道でいつ出口が見えるか分からないけれど当たれば大きい、という思いで河村教授は開発を続けました。
ある日、先輩研究者からは、「今更マグネシウム合金なんてやるだけ無駄だ」と言われました。
心が折れそうになった時、河村教授を支えたのは「Muddle through」(泥沼を這い上がる)という言葉です。
溺れそうになった時、そこで必死にもがいてもがいてもがく、そしてある時に「Break through」が起きて泥沼を這い上がった時、もがいた数だけすごく成長する、と河村教授はおっしゃいます。

この言葉を教えてくれたのは、河村教授が師と仰ぐ、合金研究の世界的権威といわれる東北大学金属研究所時代の増本 健教授です。
増本教授は当時の河村教授に材料研究者としてあるべき姿勢を次のように語りました。
「努力と泥臭さに負けない忍耐力がないとなかなか新しい材料は出てこない。」
「ある一つの方向を見定めながら泥の中を這い上がっていくというのが大事なんです。」

今、航空機の主要素材として使われているのは、「超々ジュラルミン」と呼ばれるアルミニウム合金です。
「超々ジュラルミン」は太平洋戦争中の1936年、日本の金属研究者である五十嵐 勇博士によって開発され、戦時中にゼロ戦、更には捕獲したゼロ戦を元に開発された米軍の戦闘機にも採用されていました。
そして、戦後「超々ジュラルミン」は世界中の民間旅客機にも転用され、70年以上経った現在も世界中の航空機の主要素材として使われています。

さて、2年半の「Muddle through」の果てにようやく河村教授は究極の化学式にたどり着きました。
マグネシウム97%、亜鉛1%、イットリウム2%を加えたことで夢の合金が産声を上げました。
その強度は、それまでのマグネシウム合金のおよそ2倍、直径1cmの「KUMADAI不燃マグネシウム合金」でおよそ12トンの重さまで耐えられる計算です。
燃える金属、マグネシウム、これまで世界がその改良に挑んだのですが780℃になると発火してしまいました。
河村教授は研究を重ね、その最大の弱点を克服し、沸点である1100℃を超えても発火しないマグネシウム合金を生み出したのです。
そして、マグネシウム合金としては日本で初めて専門機関から不燃性の判定を受けました。

こうして、河村教授は現在夢の金属の実用化を後押しする地元企業の不二ライトメタル株式会社の助けを借り、「Muddle through」の実用化に向けても開発を進めています。
こうして、「KUMADAI不燃マグネシウム合金」の生産工場は今年8月に完成予定です。
ここで様々な製造メーカーのリクエストに応えた試作品と作っていくことになります。

アイデアは既存の要素の組み合わせである
、と何度となくお伝えしてきました。
考えてみれば、これはアイデアに係わる人たちにも言えることなのです。
河村教授は師と仰ぐ増本教授の言葉を支えに研究を続けてきました。
そして、河村教授の研究を後押ししてくれる不二ライトメタルには河村教授のかつての教え子が研究員として活躍しています。
これらの多くの関係者のつながりの中で「KUMADAI不燃マグネシウム合金」は開発され、具体的に商品化されようとしているのです。

番組の最後に、河村教授は次のようにおっしゃっています。
「熊本大学のマグネシウム開発センターのレベルが上がっていって、国際的な拠点になればいいですね。」
「例えば、熊本大学のマグネシウム開発センターに何年間仕事してたんだよ、という人たちが世界中にいるような状況になればいいと思っています。」

 
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