2010年12月29日
アイデアよもやま話 No.1707 ビジネス顕微鏡−組織力をビジュアル化!
11月21日(日)放送の夢の扉〜NEXT DOOR〜(TBSテレビ)で「業績アップさせる最先端センサー 日本の底力を復活させたい」をテーマに取り上げていました。
組織のコミュニケーションを科学的に解明し、数値化する「ビジネス顕微鏡」についてご紹介します。

組織のコミュニケーションの分野で世界最先端の研究を行っているのは、日立製作所 基礎研究所(東京・国分寺市)の主管研究長、矢野和男さん(51歳)です。
矢野さんは、世界で初めて「ビジネス顕微鏡」を開発しました。
「ビジネス顕微鏡」は、オフィスで働く社員たちの行動をまるで顕微鏡で微生物を覗くかのように観察する、というようなシステムです。
現在、世界中で研究が進むコミュニケーション学、矢野さんはその最前線で活躍しているのです。

ネットワーク図では、社員全員の名前が点で示されていて、職場内で1日3分以上(累計)会話した人同士が線で結ばれています。
この図は、毎日自動的に作成されるのです。
その秘密は名札にあります。
赤外線センサーが名札の中に埋め込まれていて、誰といつ会っていたか、という情報を検出しています。
社員同士が2m以内に近づくとセンサーが人を関知するのです。
こうして、これらの情報をまとめるとネットワーク図が出来上がるのです。
そして、このネットワーク図により職場にいる誰とよく会話をし、誰とは会話をしていないのか、コミュニケーションの関係を「ビジネス顕微鏡」は目に見えるかたちで表わしてくれるのです。
矢野さんは、このシステムを組織の健康診断のようなものだ、と言います。
そして、診断結果により、組織が今良い方向に向かっているのかそうじゃないのか、その向かう方向が分かる、と言います。

例えば、以下の2つの典型的なネットワーク図の比較です。
1.スター型: リーダーは各社員と個別にコミュニケーションを取る
 縦割りの大企業によく見られる
 リーダーに情報が集中しているので、リーダーがいなくなると残るメンバーは孤立し、職場内のネットワークが維持できなくなる
2.メッシュ型: リーダーと各社員の間で密にコミュニーケーションが図られる
 ベンチャー企業によく見られる
 情報の共有化がなされているので、リーダーがいなくなっても残るメンバーで職場内のネットワークを維持することが出来る

ネットワーク図により、個人間だけでなく、部署間、マネージャー間、あるいは派閥間のコミュニーケーションの善し悪しなども浮き彫りになってきます。
こうして、ネットワーク図により、組織の見えない課題を明らかにすることが出来るのです。
矢野さんは、あまり拡がり過ぎているのはおかしくていろいろな人がつながり合うとネットワーク図は丸い形になってくるので小さく見えるのが望ましい、としています。

矢野さんの開発したこのシステムは既にコクヨファニチャー株式会社など多くの企業に導入されています。
導入した企業では、ネットワーク図の毎日の変化の分析によりコミュニケーションの改善の度合いを図ることが出来るようになります。
そして、改善のポイントはネットワーク図の置き場所です。
矢野さんは、ネットワーク図を管理者だけでなく職場にいる社員全員がチェック出来る場所に置きました。
こうすることによって、社員一人一人が毎日ネットワーク図を見ることが出来、組織の中で自分、あるいは周りの人たちの位置が分かる、というように効果が大きいのです。
コミュニケーションの薄い人との間では反省につながり、コミュニケーションを密にしよう、という改善に向かうきっかけになります。
こうして、一人一人の意識が変わることで組織としてのコミュニケーションの状況がわずか2週間で劇的に改善されるのです。

矢野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっていました。
「ビジネス顕微鏡は個人の中から力を引き出してくれる技術です。」
「今、日本は弱っているので個人も企業も組織ももう1回ビジネス顕微鏡で元気にして世界に打って出る、ということを実現したいです。」

「ビジネス顕微鏡」は海外からも注目を集めています。
2009年には科学雑誌「nature」にも掲載され、話題になりました。
また、2005年からマサチュ−セッツ工科大学(MIT)との共同研究を開始しました。

MITの人間行動学の世界的権威であるペントランド教授は、番組の中で次のようにおっしゃっていました。
「矢野博士のコミュニケーション分析は我々の研究に大きな成果をもたらしました。」
「ビジネス顕微鏡は、組織のコミュニケーション学の世界を大きく変えることになるでしょう。」

家族から学校、企業にいたるまで今コミュニケーションが大きな意味を持ち始めています。
その中で、矢野さんが考える一番大切なことについて、次のようにおっしゃっていました。
「コミュニケーションというのは、一見言葉でやっているように思うんですが、実はこれまでの研究から9割以上は我々の声のト−ンだったり身振りとかがコミュニケーションになっているんですね。」

この理論からすれば、「ビジネス顕微鏡」はとても理にかなっていると思います。

人間にとって大事なコミュニケーションを科学で解き明かしたい、それが矢野さんが生涯をかけた夢なのです。
矢野さんの研究は次の段階に進んでいます。
それは一見腕時計のような「ライフ顕微鏡」です。
中にセンサーが入っていて人間の行動を測るような研究をしているのです。
これを装着することで、その人の1日の行動をチェックし、腕の動きから何をしているかが分かる、といいます。
その秘密は、揺れを感知する加速度センサーです。
例えば、歩いて行くとおよそ1秒間に2回くらい規則的に振動し、それが波形に現れます。
また、メールなどのパソコン作業では1秒間に1回、電話では0.3回程度です。
こうした揺れの頻度を目安に何をしているかがおおよそ分かるのです。
矢野さんは、揺れのパターンを以下の5種類(活動量の少ない順)に分類し、それを色分けして24時間の行動が一目で分かるグラフを作りました。
・睡眠
・安静、テレビを見る
・デスクワーク
・軽作業、立ち仕事
・歩行、運動

矢野さんは、このグラフを「ライフタペストリー」と呼んでいます。
毎日の特徴がその人のモチベーションや能力と関係があったり、仕事がうまくいくかどうか全てと関係がある、と矢野さんは考えています。
また、仕事にやる気が出る時と出ない時、それはその人の生活リズムと関連性がある、とも考えています。
その法則性を見つけ出そうと、「ライフ顕微鏡」を矢野さんは自ら4年半にわたり装着して自分を実験台にしてデータ収集を続けています。

矢野さんは出勤前、毎日欠かさず行う日課があります。
まず、昨日何やっていたかをきちっと全部付けて、どのくらいチャレンジしていたとかどのくらい自分の力を発揮したのか点数を付けているのです。

ちなみに、評価項目はモチベーションに係わる以下の8つで、10点満点で自己採点します。
・チャレンジ度
・力を発揮したか
・家族との関係
・心の充実度
・体の充実度
・人間関係の充実度
・知識。知恵の充実度
・行動力の充実度

4年半、毎日書き続けたデータはノート50冊以上に上ります。
この自己採点の記録と4年半分の「ライフタペストリー」とを細かく照合した結果、矢野さんはある規則性を発見したのです。
仕事がうまくいって点数の高い日は、赤い周波数が2ヘルツというのが多い、というのです。
2ヘルツの振動とは、歩いたり立ち話をしている時なのです。
矢野さんの場合、デスクでじっとしている時よりも忙しく動き回っている時の方が仕事のモチベーションが高かったのです。
ところが、人によって行動パターンと仕事がうまくいく関係性は違います。
そこで、矢野さんは「ライフ顕微鏡」を付けていれば良い関係性を自分で発見して生活を高めて仕事の生産性が上がるツールとして現在「ライフ顕微鏡」を開発中なのです。
矢野さんは、自分の生活リズムを知ることで仕事へのモチベーションを高められる、と考えています。
こうした研究を積み重ね、コミュニケーションを科学的に改善出来れば、しなやかでたくましい究極の組織が出来る、矢野さんはそう信じています。

矢野さんは、番組の最後に次のようにおっしゃっていました。
「日本はこれまで比較的経験と勘を頼りにやってきたところが結構多かったと思いますが、これからはそれだけじゃ立ち行かないですね。」
「本当にこれから日本を復活させるためにはこういうセンサーを使ったデータを使ってシステマティックに強化していく、力を引き出していくことが必要です。」

矢野さんのマイゴールは、2015年までに個人や組織の力を向上させる法則を確立し、日本の底力を復活させたい、ということです。
ちなみに、矢野さんの研究成果は2010年12月から医療現場や福祉施設に導入予定、とのことですから、既に導入済みかも知れません。

これから、本格的に少子高齢化の時代を迎える日本にとって、「ビジネス顕微鏡」、あるいは「ライフ顕微鏡」は個人、あるいは組織のパワーアップのとても有効なツールになる可能性を秘めています。
また、「ライフ顕微鏡」は個人個人のライフスタイルに合わせた生活の改善、あるいは仕事の効率化につながるので、フレックス・タイム制など個々の社員の仕事の自由度を広げ、企業の業務規則の改善促進にも役立つと思います。
ただし、「ビジネス顕微鏡」は基本的に時間、すなわち量をベース・データにしているようなので、コミュニケーションの内容、すなわち質の観点にも注視しないと表面的な改善で終わってしまう危険性があります。
ですから、どのようなコミュニケーションの仕方をすればよいのか、業務の生産性、あるいは成果と照合しながら継続的にコミュニケーション方法を改善していけば素晴らしいコミュニケーション・サポート・システムが出来上がると思います。

 
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