2010年02月19日
アイデアよもやま話 No.1439 マグネシウムが次世代発電エネルギー源!?
2月8日(月)放送のワールドビジネスサテライト (テレビ東京)でマグネシウムを次世代のバッテリーや発電エネルギー源にする研究について取り上げていましたのでご紹介します。

地元の企業向けに技術を指導してきた埼玉県産業技術総合センターがある技術で注目を集めています。
マグネシウムが出入りしやすくなる物質を新たに開発したのです。
電気自動車や携帯電話、パソコンに使われている充電池(バッテリー)は現在ではリチウムイオン電池が主流です。
その次のバッテリーとしてマグネシウムが名乗りを上げられないか、このセンターでは独自の加工技術を使い新たなバッテリーを研究中です。

リチウムイオン電池で使われるリチウムは空気中で自然発火しやすい性質を持っています。
ところが、マグネシウムは粉状でなければ発火しにくく安全面で取り扱いやすいうえに大容量も可能なのです。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を得たこの研究に大手自動車メーカーや家電メーカーも大変注目しています。

なぜ今マグネシウムがエネルギーの分野で一部の研究者に注目されているのか、その理由はその量の多さにあります。
地表に占める割合が2%近くあり、更に海水中には1800兆トンという膨大な量が溶けている、と言われています。

さて、アメリカのタイム誌(昨年10月5日号)にある日本の研究者が世界の100人の1人として紹介されました。
東京工業大学の矢部孝教授です。
矢部教授はマグネシウム蒸気タービンを開発したのです。
世界に現在ある発電所の石炭蒸気タービンが、石炭がマグネシウムに変わるだけで今までの発電所をそのまま使える、という新しい発電技術です。
熱したマグネシウムの入った容器の中にホースで水を入れるとマグネシウムを燃料に発電する、という仕組みです。
吹き出ているのは水蒸気だけでCO2はほとんど出ません。
燃やした後に残った白い粉はマグネシウムが酸素と反応してできた酸化マグネシウムです。
この酸化マグネシウムはレーザーでマグネシウムと酸素に分解することによりリサイクル(再利用)できるのです。
そして、レーザーは屋上に設置された太陽光集光レンズで集められた千数百℃の熱により作られるのです。
ちなみに、従来は酸化マグネシウムをマグネシウムに還元するには大量の熱や複雑な処理が必要だったのです。
矢部教授は番組の中で「この実験でほとんど実証されているので、あとはレーザーの出力を上げるだけ。」とおっしゃっていました。

矢部教授は元々レーザー核融合を研究していたのですが、これらの技術を組み合わせて次のような構想を描いています。
海水からマグネシウムを取り出し、そのマグネシウムを発電所に供給します。
そして、燃料にした後に残った酸化マグネシウムを太陽光のレーザーでマグネシウムに戻して燃料として再利用するのです。
マグネシウムを中心としたエネルギーによる完全循環社会です。
しかも、海水からマグネシウム取り出した後には水が残るので水不足にも対応出来、まさに一石二鳥です。

この構想に海外の企業が興味を持ち、現在、海外の企業と共同事業を進めています。
ところが、実現に向けては研究・開発資金を国家予算に頼らざるを得ない、という大きな問題があります。
そして、新しい技術は評価されないので全く資金が得られないのです。
現在は、太陽光発電や電気自動車に脚光が当たっていて国家の研究開発資金・資源が流れているのです。

矢部教授の番組の最後の言葉がとても印象的でした。
「今我々がやらなければならないのはいろいろな技術をもっと探索すべきだと思います。」
矢部教授のおっしゃることは全くそのとおりだと思いました。
確かに”選択と集中”で、いろいろな技術に分散投資するのはよくありません。
でも、だからと言って将来有望かも知れない技術にあまり目を向けない、というのも新技術の目を摘んでしまいかねないリスクがあります。
ですから、新技術を評価出来る専門家を育てて、それらの専門家による新技術の評価制度を確立することが資源小国、日本にとってとても重要だとあらためて思いました。

今までエネルギー問題を解決するいろいろな技術を紹介してきました。
その中で、矢部教授の開発したマグネシウム蒸気タービンがもしかしたら将来の日本、あるいは世界の発電に大きく貢献するようになるかも知れません。
いずれにしても、最終的にはマグネシウム蒸気タービンによる発電所の実現は建設コストや運転コストがどのくらいかかるか、そして発電能力にかかっていると思います。

 
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