2009年10月28日
アイデアよもやま話 No.1341 ”パテント・トロール(特許の怪物)”が日本企業を襲う!
10月6日(火)放送のクローズアップ現代 (NHK) のテーマは「”特許の怪物”が日本企業を襲う 〜新型訴訟ビジネスの波紋〜」でした。
日本のハイテク技術にとって大変な危機をもたらす内容でしたのでご紹介します。

日本経済を牽引するハイテク製品、そこで今深刻な事態が起きています。
特許を侵害しているとして訴えられ多額のライセンス料を要求される事態が相次いでいるのです。
訴えているのは、“パテント・トロール(特許の怪物)”と呼ばれるアメリカの企業集団です。
その数は現在200社とも言われています。
パテント・トロールは、投資家などから集めた資金で将来の主力技術と見込まれる莫大な数の特許をあらかじめ買い集めます。
それを武器に製品が市場に出回った頃合いを見計らって世界中のメーカーを次々に特許侵害で訴えるのです。
そして、高額なライセンス料や和解金を得るのです。
日本の企業も数億ドルもライセンス料を支払わされていると言います。

番組の中で、特許ビジネスに詳しいアメリカのスタンフォード大学のマーク・レムリー教授は次のようにおっしゃっていました。
「本来、特許は技術を発展させるためにあります。」
「しかし、彼らのやっているのは単なる金融ビジネスです。」
「彼らは特許のあり方を根底から揺るがしているのです。」
「金のなる特許を見つけ出し、そこから多額のマネーを得るのです。」

パテント・トロールは、
自らはもの作りや技術開発は行いません。
技術の専門家や研究者のアドバイスを基に買い集めた特許そのもので収益を上げることを目的にするビジネスを目指しているのです。
製品が高機能になるにつれて使われる特許の数が増加し、そうした中でパテント・トロールのターゲットとなる日本のメーカーが相次いでいます。

番組では、あるパテント・トロールの標的になったセイコーエプソン社の例が取り上げられていました。
当初は裁判で勝てるとみて準備を進めたのですが、次第にその難しさが見えてきました。
裁判はアメリカで行われるため膨大な証拠資料を膨大な英語に翻訳する必要があります。
また、訴訟期間は長引けば4年かかるとみられ、その費用は10億円近くにのぼると見込まれました。

更に、大きな問題は裁判をする場所でした。
一般の市民が判決を決める陪審員制のアメリカでは、その地区の人々の気質が判決の結果を大きく左右するのです。
今回裁判を起こしたのは、全米でも保守的と言われるテキサス州の連邦地方裁判所だったのです。
なので、外国企業には不利な所とされています。
そこで、打開策を考えたのですが、訴えたのがメーカーであれば、クロスライセンスという方法が有効でした。
ところが、パテント・トロールはメーカーではないためこの方法が使えませんでした。
しばらくすると、突然パテント・トロールは和解策を持ちかけてきました。
セイコーエプソン社は確実に裁判に勝てるという保証がないなかでその提案に応じる判断を下しました。
このような状況について、アメリカで活躍中の日系弁護士、ヘンリー幸田さんは次のように解説していました。
・パテント・トロールは金融的な組織なので早期に和解して早期に投資効率を上げることが彼らの課題である。
・パテント・トロールは小規模だが、弁護士、投資に強い人、損害賠償を算定するための公認会計士、そして時には心理学者も引き込む。(ちなみに、心理学者は相手企業の最も弱いところを攻める、そのために心理的な効果を考えて戦略を練るのに必要、ということです。)
・パテント・トロールはパテント・ポートフォリオ戦略という、多数の特許侵害を突きつけて、企業を苦しい立場に追い込む。
・パテント・トロールは企業が受け入れやすいように、訴訟にかかる費用プラスアルファした和解金を提示する。
このように、巧みに、そして合法的に訴えてくるパテント・トロールの被害をどうやって防ぐのか、企業だけでなく日本の知的財産戦略が問われる事態になっています。

そうした中で、パテント・トロールをどう防ぐのか、その取り組みも始まっています。
一つは、特許買収会社の利用です。
アメリカで、パテント・トロール対策を専門に行う企業が去年から活動を始めています。
そして今、弁護士、会計士、技術者などさまざまな分野の専門家がパテント・トロールの動向をチェックしています。
この会社では、パテント・トロールの狙っている特許を分析し、契約した企業から集めた会費でその特許をいち早く買収し、パテント・トロールの手に渡るのを防ぎます。
世界の大手メーカー15社近くの会員企業が払う年会費は、その規模に応じて数百万円〜数億円です。

もう一つは、同じ製品を作るライバル・メーカー同士が結束してパテント・トロールに対抗する、という取り組みです。
デジタルテレビの製造には最低限およそ300の特許が必要とされています。
これまではバラバラに保有し、互いにライセンス料を払い使ってきました。
しかし、もしそのうちの1社が特許を手放しパテント・トロールの手に渡れば、デジタルテレビに関わる全ての企業がその脅威にさらされる危険があります。
そこで、企業が出資しあい、新たに特許管理会社を設立し、特許を一括管理し守る、という仕組みを作りました。
更に、この特許管理会社設立には、特許を使いやすくする狙いもあります。
ライセンス料を安くし、だれもが同じ条件で使えるようにしたのです。
一箇所で安く簡単に特許を使える手続きが出来るようにすることで、デジタルテレビの開発を加速させようとしています。
この動きについて、ヘンリー幸田さんは次のようにおっしゃっていました。
「特許管理会社設立の動きは、パテント・トロール対策としてある程度効果があると思います。」
「この方向を進めていけば、デファクト・スタンダードの構築、あるいは世界標準、というところまで成長させることが出来ます。」
「日本は世界で最も特許件数が多いが、使っていない休眠特許が非常に多い。」
「なので、アメリカのパテント・トロールや中国が巨額の資金でそういうところを狙って買いあさる動きが目立ってます。」
「日本には、巨大な特許があるので、それを積極的に活用する時期に来ています。」
「価格ではかなわない、品質ではかなり追いついてこられている、そうなると残るのは特許、これでもって中国や韓国に対抗せざるを得ません。」
「是非、日本企業には眠れる特許を活用する方向にいっていただきたいです。」

この番組により、あらためてアメリカの単なるお金儲けとしての金融ビジネスの恐ろしさと中国の技術の追い上げの脅威を感じました。
日本が手をこまねいていれば、早晩日本はせっかく苦労して得た利益をパテント・トロールからむしり取られます。
そして、中国企業からは日本の大切な技術特許を買われ、日本の手足を奪われてしまいます。
幸いにして、この番組で取り上げられていたように、関連企業により特許対策が打たれ始めましたが、特許は技術大国、日本の生命線です。
これから益々日本にとって大切になってくる特許は、何としても守り、そして今後とも登録件数を増やし続けなければいけないのです。
そのためには、若い人たちが非正規社員のままで働いている状態はとんでもないのです。
政府の政策により、だれもが望むかぎり大学卒業まで安心して勉強や生活が出来るセイフティネットを確立しなければ日本の将来はないのです。
最近言われ始めましたが、こうしたセイフティネットはコストではなく日本の将来への投資なのです。

 
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