2023年06月02日
アイデアよもやま話 No.5597 インパクト会計で起きる企業価値のパラダイムシフト!
2月16日(木)放送の「モーサテ」(テレビ東京)でインパクト会計で起きる企業価値のパラダイムシフトについて取り上げていたのでご紹介します。 

エーザイの前CFOで早稲田大学大学院の柳良平客員教授は次のようにおっしゃっています。
「(今年はインパクト投資(こちらを参照)が本格化するのか注目されていますが、その判断のもととなるインパクト会計(こちらを参照)が広がることで企業価値のパラダイムシフトが起きるのではないかという問いに対して、)まずインパクト投資なんですけれども、これは従来型の財務のリスクリターンに加えて企業や事業が生み出す環境や社会への影響度、インパクトを加味して投資するんですね。」
「従って企業側には、そのインパクトの可視化が求められるようになってくると思うんですよ。」
「そこで登場してきたのがハーバードビジネススクールのジョージ・セラフェイム教授やデビッド・フリーバーク氏を中心としたインパクト会計という考え方なんですね。」
「そのインパクト会計というのは、企業が生み出すインパクトを数値化して、従来の利益に結びつけて考えていこうとするものなんです。」
「柳さんの“柳モデル”(こちらを参照)もインパクト会計に近い存在と言えるのではないかという指摘に対して、)似て異なるものなんですけれども、“柳モデル”はESG(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.531 『世界のビジネス界で影響を増す地球温暖化対策 その2 国際的な取り組み!』)が何年後のPER、すなわち株価にどう影響するのかという関係性を調べるものですけれども、インパクト会計は年度ごとにインパクトそのものを、絶対値を計算していこうという試みなんです。」
「そしてインパクト会計が進んで会議や投資家との会話が充実することによって大きな企業価値評価の変化が起こってくると思うんですね。」
「すなわち伝統的な財務的な価値イコール企業価値という考え方から、そこへインパクトを加味した総合的な新しい企業価値評価、すなわちパラダイムシフトが起こってくる可能性があると思います。」
「では、それをどのように測定していくのかですが、)まずはじめに伝統的な会計の利益、売り上げ収益から費用を引いて今の従来的な利益の考えがありますよね。」
「そこに3つのインパクト、環境、製品、雇用のインパクトを足していくんですね。」
「ただ、そのインパクトの挿入にあたっては基本的に3つの条件がありまして、マテリアル(社会にプラス)、アディショナル(自社の独自性)、メジャラブル(測定可能)っていうんですけど、重要な社会的にプラスの影響を及ぼしているのか、2つ目は独自の貢献があるのか、そして3つ目は測定可能性ということになります。」
「そして測定可能性が最初の2つ、重要性と独自性を支えますのでインパクト会計が重要になるということになるんですが、これらを合わせもって総合的にインパクト利益というものを算出していこうというのがインパクト会計の仕組みになります。(こちらを参照)」
「3つのインパクトのうち最初の環境インパクト、これは全社共通で基本的に分かり易い概念だと思うんですけど、CO2などの環境負荷を計算しましょうというものです。」
「次に製品インパクトが2番目にありますけども、これは会社によって異なります。」
「企業が提供する製品やサービスがお客様や社会にどんな影響を及ぼすのかを計算していくんですね。」
「例えばエーザイの熱帯病治療剤の無償供与は発展途上国で取り戻せる生涯賃金や医療費削減でライフタイムで7兆円、年間1600億円のインパクトを創出するというふうに計算して開示しました。」
「またノルウェーのシーフード会社は自社が提供するサーモンがオメガ3(こちらを参照)などの効果で心臓血管病のリスクを下げられると。」
「その医療費削減効果などで年間200億円以上の社会的インパクトを作っているというふうに計算しています。」
「これらは先ほどの3条件を満たしていると言えると思うんですね。」
「(最後、3つ目の雇用インパクトについて、)これも各社共通だと思いますけど、人件費を費用でなくて投資と見なすというものなんですが、男女や人種の賃金とか昇進の差などを調整しないといけません。」
「これもエーザイの事例で見た方が分かり易いと思いますので、こちらにエーザイの雇用インパクト会計をお示ししておりますけども、ハーバードビジネススクールとの共同研究で、日本初のインパクト会計の計算と開示を行ったものなんですね。」
「一番上の給与合計、358億円が人材投資なんですが、そこから主に男女の賃金差を調整して343億円まで減額しています。」
「15億円減っていますけど、これが賃金の質としてスタートポイントです。」
「そこからエーザイの女性管理職比率、だいたい10%ぐらいなんですけど、女性社員比率が25%だから女性管理職比率も25%がフェアですよね。」
「そうなるように調整する負荷が7億円、これをマイナスします。」
「更にその女性従業員比率25%も人口比から言ったら50%がフェアですよね。」
「それを達成するには女性をあと900人ぐらい雇わないといけませんのでその分の負荷を鑑みると78億円のマイナスになると。」
「一方で、これエーザイジャパンの例ですので、全国都道府県の失業率や平均賃金に鑑みてエーザイの都道府県での雇用がどれくらい貢献をしているかというのを全部足し合わせると11億円ぐらいの価値があると。」
「従って一番下のインパクトの総計が269億円というふうになるんですね。」
「(だいぶ減ったように見えてしまいますが、)それでも全体を俯瞰してみますと、一番上、約360億円の給与を投資して、一番下、社会貢献のインパクト、約270億円を作ったと。」
「人材投資効率は75%なんですね。」
「これハーバード(ビジネススクール)によると、アメリカの大手企業の平均て55%ぐらいらしいんですよ。」
「そうすると、かなり高い投資効率とも言えると思うんですね。」
「(人的開示、本格的になりますから、期待の声が日本に向けて寄せられているのかという問いに対して、)そうなんですね。」
「実はそのハーバードビジネススクールでインパクト会計を立ち上げたデビッド・フリーバーグ氏が先週来日しまして、(2月10日に)早稲田大学の会計ESG講座の私のクラスで講演を行ってくれたんですけども、彼は非財務の価値を強調していましたけれども、アメリカが政治の二極化などでちょっと今八方塞がりになっている中で特に日本企業は高邁な理念や従業員のマインド、社会貢献の意識が高いのでポテンシャルが大きいと。」
「大いに期待したいって言うんですね。」
「ただ、その前提が“柳モデル”やインパクト会計による可視化であると。」
「一方でその留意点としては、企業ごとの創意・工夫がありますから、バラバラになっちゃう場合もあるので、一定の規律が重要になると。」
「そこでエーザイが行ったようにハーバードビジネススクールと組む、アビームコンサルティング株式会社と組むという信頼のおける第三者機関と一緒に共同で計算していくっていうような保障の担保も検討課題になってくると思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通してインパクト会計について以下にまとめてみました。
・インパクト投資は従来型の財務のリスクリターンに加えて企業や事業が生み出す環境や社会への影響度、インパクトを加味して投資することである
・従って企業には、そのインパクトの可視化が求められるようになってくるが、そこで登場してきたのがインパクト会計という考え方である
・そのインパクト会計とは、企業が生み出すインパクトを数値化して、従来の利益に結びつけて考えていこうとするものである
・“柳モデル”はESGが何年後のPER、すなわち株価にどう影響するのかという関係性を調べるものだが、インパクト会計は年度ごとにインパクトの絶対値を計算していこうという試みである
・伝統的な財務的な価値イコール企業価値という考え方から、インパクトを加味した総合的な新しい企業価値評価、すなわちインパクト会計に変わることよりパラダイムシフトが起こってくる可能性がある
・インパクト会計の測定方法は以下の通りである
-まずはじめに伝統的な会計の利益、売り上げ収益から費用を引いて今の従来的な利益を算出する
-そこに環境、製品、雇用の3つのインパクトを挿入する
-インパクトの挿入にあたっては基本的に3つの条件、すなわちマテリアル(社会にプラス)、アディショナル(自社の独自性)、メジャラブル(測定可能)がある
-測定可能性が最初の2つ、重要性と独自性を支えるのでインパクト会計が重要になるが、これらを合わせもって総合的にインパクト利益というものを算出していこうというのがインパクト会計の仕組みになる
-3つのインパクトのうち最初の環境インパクトは全社共通でCO2などの環境負荷を計算する」
-2番目の製品インパクトは会社によって異なり、企業が提供する製品やサービスがお客様や社会にどんな影響を及ぼすのかを計算していく
-3番目の雇用インパクトは各社共通で、人件費を費用でなくて投資と見なし、男女や人種の賃金とか昇進の差などを調整する
・ハーバードビジネススクールでインパクト会計を立ち上げたデビッド・フリーバーグ氏は、アメリカが政治の二極化などで八方塞がりになっている中で特に日本企業は高邁な理念や従業員のマインド、社会貢献の意識が高いのでポテンシャルが大きいと指摘しているが、その前提が“柳モデル”やインパクト会計による可視化である
・一方でその留意点としては、企業ごとの創意・工夫があるので、一定の規律が重要になる
・そこでエーザイが行ったように信頼のおける第三者機関と一緒に共同で計算していくような保障の担保も検討課題になってくる

こうしてまとめてみると、インパクト会計はインパクト投資するうえで、関連データを“見える化”、すなわち可視化するための手法と言えます。
そして、インパクト投資はSDGs(参照:No.4578 ちょっと一休み その710 『日本も国家としてSDGsに真剣に取り組むべき!』)やESG投資(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.531 『世界のビジネス界で影響を増す地球温暖化対策 その2 国際的な取り組み!』)と大いに関係があります。
これら3つの関連についてですが、SDGsは最も包括的な観点からゴールを設定しています。
そして、インパクト投資とESG投資はこのゴールの一部をカバーしていると言えます。
また、両者の対象範囲はかなり似通っていますが(こちらを参照)、異なる点はインパクト投資はインパクト会計をベースにしているところだと思います。
従って、将来的にインパクト投資とESG投資は投資のあり方、そしてその管理手法が統合されるのではないかと思われます。
更にSDGsの個々のゴール達成の管理手法としてインパクト会計の手法は参考になるのではないかと思います。

 
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