2023年05月12日
アイデアよもやま話 No.5579 米中関係の新たな火種となった偵察気球!
2月6日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で米中関係の新たな火種となった偵察気球について取り上げていたのでご紹介します。 

先週(番組放送時)、アメリカの本土上空に現れた中国の偵察気球について、アメリカ軍は2月4日、当初見送っていた気球の撃墜に踏み切りました。
これに対し、民間の気球が不可抗力で迷い込んだと釈明していた中国政府は「強烈な不満と抗議」を表明し、緊張が高まっています。

この件について、アメリカでは、中国によるアメリカ本土への脅威が遠い話ではなく、目前に迫っていると明らかになったと驚きを持って受け止められています。
一方、中国政府は、自国のものだと認め、遺憾の意を表明したのに撃墜されてしまい、メンツを大きく傷つけられ、対抗措置を匂わせています。

撃墜された偵察気球、これは米中関係の新たな火種となりました。
2月1日、アメリカの西部、モンタナ州の上空に突如現れた偵察気球、この時点でバイデン大統領は軍に撃墜するよう要求、しかし、陸上で人的被害も出る懸念から見送られてきました。
しかし、2月4日、気球が南部、サウスカロライナ州沖に出ると、アメリカ軍の最新ステルス戦闘機、F22がミサイル1発を発射、気球を撃墜しました。
アメリカの軍事機密を探っていたと見られる偵察気球、アメリカ軍は活動の実態を把握しようと、海に落ちた気球の残骸の回収作業を始めています。

一方、民生の気象研究用飛行船が不可抗力によってアメリカに迷い込んだと釈明してきた中国は撃墜について、中国外交部報道官が次のように述べています。
「アメリカが中国の度重なる説明を無視し、武力行使を主張していると強調したい。」
「これは明らかに過剰反応であり、中国は断固反対している。」

撃墜を受け、態度を一変させました。
今回の問題を受け、習近平国家主席とも会談する見込みだったブリンケン国務長官の訪中は急遽中止になりました。
米中関係は改善を探るどころか、増々緊張の度合いを高めています。

なお、2月6日、中国の外務次官が北京にあるアメリカ大使館に申し入れを行い、「断固反対し、強烈に抗議する」と伝えた他、これまでに対抗措置も示唆しています。

ただ、アメリカの撃墜を批判する一方で、実は2019年に公開された映像では、中国も中国領空内で発見した無人気球を即座に撃墜していて、対応は矛盾しています。

今回については、中国政府は偵察気球ではなくて、飽くまでも民間のものだと主張しています。
そうであれば、もっと情報を公開していけば良いのではないかと思いますが、そこに中国側の事情があります。
気球を飛ばした企業名が答えられないのは、軍と関係していることが濃厚だからです。
実は国内の展示会でも、これまで今回のものとよく似た気球や飛行船が多数出展されているのです。
これは人民解放軍や解放軍に近い国営企業が係わったものです。
今回、中国側の気球であることを早期に認めた背景にはブリンケン国務長官の訪中を足掛かりに対米関係を改善し、低迷する経済の回復に道筋をつけたい思惑がありましたが、その実現は遠のき、関係改善の糸口がつかめない状況が続くと考えられます。

一方、アメリカ側の状況ですが、バイデン政権としても来年に迫った大統領選挙を前に、今年は対立が続く中国との関係を安定させる年と位置付けていたわけですが、今回の偵察気球の騒動でその目論見が崩れたかたちです。
更にバイデン大統領は国内でも頭を悩ませることになりそうです。
既に野党共和党がこの気球問題への対応を巡り、政権への攻勢を強めています。
トランプ前大統領は気球が見つかった当初から「撃ち落とせ」との主張を繰り返した他、共和党からは気球の撃墜まで時間を要したことについて、「バイデン大統領の対応は中国に対して弱さを映し出した」との声が上がっています。
こうした中、共和党が多数派を握る下院では、政権の対応を非難する決議の検討に入りました。
そのため、バイデン大統領としては、今後、中国に対して、より強硬的な姿勢を対応を迫られると見られます。
そうすると、米中間のリスクはどんどん高まっていきそうですが、アメリカ政府の元高官は「米中関係を安定させるバイデン政権の取り組みが明確に後退した」などと語っています。
この春には、アメリカ議会下院の議長に新たに就任したマッカーシー氏の台湾訪問計画も取りざたされる中、今後、米中関係は更に緊張が増すものと見られます。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「現状では、アメリカが(気球を)回収してるわけですから、その機器類の公開が待たれるというところだと思いますね。」
「ちょっと大きな構図で見てみたいと思うんですけど、今回の事件はアメリカとソ連が冷戦のもとにあった1960年に起きたU2偵察機撃墜事件を想起させるような展開をたどってるんですよね。」
「U2はアメリカの偵察機なんですけども、旧ソ連のウラル山脈の上を飛んでいた時に撃墜されたわけです。」
「そして、その後、どういう展開が起こったのか、まずソ連がアメリカに強く抗議して、米ソ首脳会談が予定されてたんですが、それが急遽中止に追い込まれたわけですよね。」
「その後の展開としては、両国の関係が冷え込むことによって1962年のキューバミサイル危機につながっていく、そういう展開だったわけです。」
「今回はよく似てるんですけども、アメリカが気球を撃墜したわけですけれども、その後、前後というべきか、アメリカのブリンケン国務長官の訪中取り止め、そして下院議長が台湾を訪問する予定なんですけど、その展開がどうなるか注目されてるわけです。」
「(中国としては対抗措置を取ると言っていますが、)具体的にちょっと気になるのは南シナ海で、例えばアメリカ軍の偵察機に対して中国軍がニアミスですね。」
「異常接近、そういう行動を取る可能性って否定出来ないだろうと思います。」
「一方で、今、アメリカ議会を中心に対中警戒論が高まるというのは、もう避けられない状況になっていますから、その辺のところでアメリカと中国の間の緊張、偶発的な衝突リスクは見逃せない状況になっていると思います。」
「(日本にとってもリスクが高まっていると見ておいた方が良さそうですが、)その構えは必要になってきましたね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組の内容を以下のようにまとめてみました。
・アメリカでは、中国によるアメリカ本土への脅威が目前に迫っていると明らかになったと驚きを持って受け止められている
・一方、中国政府は、自国のものだと認め、遺憾の意を表明したのに撃墜されてしまい、メンツを大きく傷つけられ、対抗措置を匂わせている
・アメリカの軍事機密を探っていたと見られる偵察気球、アメリカ軍は活動の実態を把握しようと、海に落ちた気球の残骸の回収作業を始めている
・一方、民生の気象研究用飛行船が不可抗力によってアメリカに迷い込んだと釈明してきた中国は撃墜について、アメリカが中国の度重なる説明を無視し、武力行使を主張していると強調しており、対抗措置も示唆している
・今回の問題を受け、習近平国家主席とも会談する見込みだったブリンケン国務長官の訪中は急遽中止になり、米中関係は増々緊張の度合いを高めている
・アメリカの撃墜を批判する一方で、2019年に公開された映像では、中国も中国領空内で発見した無人気球を即座に撃墜しており、対応は矛盾している
・今回、中国側の気球であることを早期に認めた背景にはブリンケン国務長官の訪中を足掛かりに対米関係を改善し、低迷する経済の回復に道筋をつけたい思惑があったが、その実現は遠のき、関係改善の糸口がつかめない状況が続くと考えられる
・一方、バイデン政権としても来年に迫った大統領選挙を前に、今年は対立が続く中国との関係を安定させる年と位置付けていたが、今回の偵察気球の騒動でその目論見が崩れた
・野党共和党がこの気球問題への対応を巡り、政権への攻勢を強めており、バイデン大統領としては、今後、中国に対して、より強硬的な姿勢、対応を迫られると見られる
・その結果、今後、米中関係は更に緊張が増すものと見られる
・今回の事件は、以下の内容のアメリカとソ連が冷戦のもとにあった1960年に起きたU2偵察機撃墜事件を想起させるような展開をたどっていると見られる
-アメリカの偵察機、U2は旧ソ連のウラル山脈の上を飛んでいた時に撃墜された
-ソ連がアメリカに強く抗議して、米ソ首脳会談が予定されていたが、急遽中止に追い込まれた
-両国の関係の冷え込みが1962年のキューバミサイル危機につながった
・今回はよく似ているが、今後、南シナ海で、例えばアメリカ軍の偵察機に対して中国軍がニアミスなど、偶発的な衝突リスクは見逃せない状況になっている
・日本にとってもリスクが高まっていると見ておいた方が良い

また、2月13日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でも同様のテーマについて取り上げていたのでご紹介します。

アメリカ・ABCテレビのインタビューで民主党のシューマー上院院内総務は次のように述べています。
「数ヵ月前まで(アメリカの)情報機関と軍は、こういった気球の存在を知らなかった。」

アメリカ国防総省は2月12日、ミシガン州ヒューロン湖上空でバイデン大統領の指示に基づき、アメリカ軍のF16戦闘機がミサイルで飛行物体を撃ち落としたと発表しました。
11日にはカナダ北部の領空、10日にはアメリカ・アラスカ州で飛行物体が撃墜されています。
4日の中国による偵察気球を含め、4月に入り、アメリカ軍機が撃墜した飛行物体は4件となりました。
こうした中、中国外務省の汪 文斌報道官は2月13日の記者会見で次のように述べています。
「アメリカの気球が中国の関係当局の承認を得ずに、昨年から10回以上、中国の領空で不法に飛行した。」
「アメリカは中国を中傷したり、非難するのではなく、やり方を改めて反省すべきだ。」

中国側も飛行物体の件ではかなりセンシティブになっています。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「アメリカは撃墜した中国の偵察気球に関する情報を同盟国や有志国になどと共有したわけですよね。」
「これでメンツをつぶされたと感じた中国が「お互い様だ」ということを言いたいのかもしれませんね。」
「(日本にもそっくりの気球が飛んできたことがありますが、アメリカ以外の国でも同じような方法で偵察している可能性について、)アメリカのメディアによると、過去にはインド、ベトナム、フィリピン、日本、台湾といったようなところの軍事関連の情報を気球で集めていたというわけですね。」
「特に台湾当局なんですけども、台湾上空を中国の偵察気球が極めて頻繁に飛行しているということを明らかにしています。」
「(そうすると、中国との間に問題を抱えているところに飛ばしているのではという指摘に対して、)空だけじゃないんですよね。」
「問題は南シナ海なんですけども、南シナ海で中国海警局の艦船がフィリピンの巡視船に対してレーザーを照射してるんですよね。」
「これは、フィリピンがアメリカ軍の駐留箇所を増やしたということに対する威嚇の行為というようにも見えるんですけども、はっきり言ってレーザー照射は戦争一歩手前の行為ですから、極めて危険な振る舞いだと思います。」
「(日本でも尖閣諸島沖などでの中国の動きに警戒が必要になるという指摘に対して、)はい。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

要するに、中国はアメリカに限らず、日本など中国との問題を抱えている国に対して、これまで偵察気球を飛ばしてきたのです。
更にフィリピンの巡視船のように、時にはレーザー照射のような戦争一歩手前の行為をしているのです。
一方で、中国当局によれば、アメリカの気球が昨年から10回以上、中国の領空で不法に飛行したというのです。

なお、4月15日付けネット記事(こちらを参照)では以下のように報じています。

・米紙ワシントン・ポスト(電子版)は4月14日、中国の偵察気球について、米情報機関がさらに最大4機の情報を把握していたと伝えた。
・流出した文書には、米空母打撃群の上空を飛行した気球や、南シナ海に墜落した気球に関する記述があった。中国気球の空母打撃群の上空飛行が明らかになるのは初めて。

さて、今回の偵察気球撃墜事件について見てくると、大きく3つのことが言えます。
まず、習近平政権の内情です。
中国政府が中国側の気球であることを早期に認めた背景にはブリンケン国務長官の訪中を足掛かりに対米関係を改善し、低迷する経済の回復に道筋をつけたい思惑があったにも係わらず、今回の事件が起きたことの背景です。
対米関係を改善したい習近平政権は本来であれば、この時期にアメリカ本土上空に偵察気球を飛ばすようなことは指示しないはずです。
しかも、偵察気球はアメリカの軍事機密情報を収集することを意図していたような飛行ルートを飛んでいました。
ということは、現実的に考えると、中国の軍部にとって、米中関係の改善よりもアメリカの軍事機密情報の収集の方が優先課題であったと見ることが出来ます。
このことから習近平政権は、何らかのかたちで早期に軍事行動を起こすために必要なアメリカの軍事機密情報の収集に迫られていると類推出来ます。

2つ目は、米中の軍事対立リスクの高まりです。
今回の偵察気球撃墜事件はU2偵察機撃墜事件を想起させるような展開をたどりつつあるということです。
ですから、米中の首脳であるバイデン大統領、および習近平国家主席は過去の類似した事例を参考に、軍事的な衝突リスクを回避すべく、いつでも連絡を取り合えるような状況を確保しておいていただきたいと思います。

3つ目は、習近平政権の唯我独尊ぶりです。
2019年には、中国も中国領空内で発見した無人気球を即座に撃墜していたのです。
また、フィリピンの巡視船への戦争一歩手前の行為をするといったように、習近平政権の意に沿わない国に対しては、軍事力で威嚇しているのです。
ですから、習近平政権は“まず中国共産党ありき”で(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.690 『中国式“法治”の脅威!』)、この方針を国内のみならず、世界展開しているのです。
そして、今やあらゆる国際的な場面で、この方針が強硬に進められ、多くの国々と摩擦を生んでいます。
こうした状況は中国の経済力、あるいは軍事力の増強により今後増々悪化していくと見込まれます。
ですから、アメリカを中心とする民主主義陣営の国々は結束して、こうした習近平政権の横暴な行為に対して、断固阻止し、一方で途上国に対しては習近平政権の本質を説き、自由、および人権を尊重するような社会の実現に向けて共に邁進すべく、取り組むことが早急に求められるのです。

 
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