前回は、今年の世界の「１０大リスク」についてお伝えしました。（参照：プロジェクト管理と日常生活 No.813 『２０２３年の世界の「１０大リスク」！』）
そうした中、今回は、昨年１１月１７日（木）放送の「ワールドビジネスサテライト」（テレビ東京）で世界同時不況が起きるリスクについて取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付は全て番組放送時のものです。
ＷＢＳ（当番組）は日経平均株価を構成する２２５社にアンケートを実施しました。（こちらを参照）
およそ７割の企業が今後１年、あるいは数年以内に世界同時不況が起きる可能性が高いと回答しました。
この結果について、解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川龍雄さんは次のようにおっしゃっています。
「逆に言えば、世界同時不況が起きないと見ている日本の大企業は３割にも満たないということですから、かなり将来に対して警戒しているということですね。」
では、世界同時不況を引き起こす要因について、どう見ているのかを聞きました。
こちらになるんですけども、こちらは世界同時不況が１年以内に起きると回答した企業にその理由を聞いたものです。
複数回答が可能で、丸の中の数字は％になります。
最も多かったものが「アメリカ経済の後退」（５６％）です。
そして次に多かったのが「ヨーロッパ経済の後退」（４２％）です。
次いで「中国経済の後退」（３５％）となりました。
この結果について、山川さんは次のようにおっしゃっています。
「やっぱりアメリカ経済、あるいは、その金融経済の行方を心配しているということです。」
「つまりは、インフレ対応のために急激に利上げをする局面で、今度は逆に大きく景気を後退させかねないというところを懸念しているということですね。」
「歴史を振り返ると、やはり世界の大きな経済危機が起きた時というのはアメリカを震源地にしていることが非常に多いですし、例えば２０００年のドットコムバブル、あるいは２００８年のリーマンショックもそうですけど、だいたい急激な利上げをやった前後の局面でそういうことが多いんですね。」
「（２番目の「ヨーロッパ経済の後退」について、）実は今、エコノミストが一番指摘するのはヨーロッパ経済が一番心配だと。」
「これは、やはり景気の後退とインフレが同時に進行する、いわゆるスタグフレーション、この状態に一番近いということを指摘しますね。」
「日本経済も唯一、主要な国ではマイナス金利を維持して、金利をそこまで固定しないと持たないという状況ですから、他の国を心配しているような状況ではないですよね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
世界同時不況が１年以内に起きると回答した企業の挙げる理由で最も多かったものが「アメリカ経済の後退」（５６％）、そして次に多かったのが「ヨーロッパ経済の後退」（４２％）ということですが、既にそのリスクの顕在化を垣間見るような出来事が起きています。
2008年のリーマンショック以来となるアメリカの銀行、シリコンバレーバンクの破綻が起きました。
その後にアメリカの１００以上の銀行の危機が伝えられ、なおかつそれがスイスのクレディ・スイス銀行に波及し、破綻を引き起こし、今ではドイツ銀行も危機だと伝えられています。（こちら��、およびこちら��を参照）
そして、まかり間違えば、こうした大手銀行の経営破綻が世界同時不況をもたらすのです。
なお、シリコンバレーバンクの経営破綻の経緯は以下の通りです。（こちらを参照）
・シリコンバレーバンクが3月10日に経営破綻した。
・アメリカの銀行の破綻としては２番目の規模という。
・そのきっかけは、顧客のスタートアップ企業の資金繰りが苦しくなり、シリコンバレーバンクから預金を引き出したことが、銀行の経営を悪化させたと見られている。
・FRBがコロナ禍で続けた大規模な金融緩和策、そして一転して急ピッチで進めた利上げこの銀行の経営に大きな影響を及ぼした。
・FRBが大規模な金融緩和策に踏み切った2020年3月以降。緩和マネーがふくらみ、スタートアップ企業などの取引先はお金に余裕ができて「シリコンバレーバンク」の預金が増加した。
・貸し出し先の預金の引き出しがあり、銀行としてはお金の手当てをするためには価格の下落した債券を売らないといけない状況になり、経営が悪化していったと見られている。
・銀行は債券の売却による損失を明らかにし、それが引き金となり、SNSなども通じて経営悪化への懸念が預金者の間で急速に広がったと見られている。
・この銀行を傘下に置く持ち株会社は3月8日、国債などの債券を売却した結果、18億ドル、日本円でおよそ2400億円の損失を出し、公募増資を計画していると発表した。
・これを受けて株価が大幅に下落。ツイッターなどのSNSでも経営が危ないとの投稿が広がり、顧客による預金の引き出しも加速したものと見られている。
・一方、シグネチャーバンクも3月12日は経営破綻した。
・2008年のリーマンショックのような銀行破綻に端を発した金融危機をなんとしても避けるため、アメリカ財務省などは異例の措置を取った。本来、25万ドルまでしか保護されない預金を全額保護すると発表した。
・ニューヨークの金融市場では、相次ぐ破綻でFRBが銀行の経営への影響を踏まえて利上げのペースを緩めるとの見方が急速に強まった。
・しかしインフレを収束させることはアメリカ経済の最大の課題の1つである。
・銀行の経営に配慮して利上げのペースを緩めすぎれば、インフレが再燃して、アメリカ経済は厳しい状況に追い込まれることになりかねない。
・FRBは、利上げが金融システムに及ぼす影響をできるだけ抑えながら、インフレを収束させるという、いちだんと難しいかじ取りを迫られている。
こうして見てくると、経済危機をもたらす要因が見えてきます。
以下に政府の金融政策と銀行との関連で経済危機をもたらす要因をまとめてみました。
・低金利政策により、銀行はその分、経営体質、および投資リスク管理が甘くなりがちになる
・急な低金利政策から金利の引き上げにより、銀行は財政状況が厳しくなり、投資リスク管理が甘い銀行は経営破綻に追い込まれる
こうした経済危機をもたらす要因から以下のような経済危機対応策が見えてきます。
・政府は過度な投資リスクを避けるべく、銀行に行政指導を行う
・銀行は適正な投資リスク管理を行い、健在な財務体質を維持する
なお、今回のシリコンバレーバンクの経営破綻に際し、２００８年のリーマンショックの再来を回避すべく、アメリカ財務省は本来、２５万ドルまでしか保護されない預金を全額保護するという異例の発表をしました。
こうしたアメリカ政府の素早い対応は、まさに経済危機の適切なリスク対応策と言えます。
もし、こうした政府の対応がなされなければ、リーマンショックの再来になっていた可能性が大きいと思われます。
さて、冒頭で触れたように、今年の世界の「１０大リスク」の１位はならず者国家ロシア、２位は中国の最大化する習権力でした。
そして、今回お伝えした世界同時不況が起きるリスクで最も大きかったのは「アメリカ経済の後退」で、その次に多かったのが「ヨーロッパ経済の後退」でした。
そして、約７割の企業が今後１年、あるいは数年以内に世界同時不況が起きる可能性が高いと回答しています。
なお、アメリカ、中国、そしてヨーロッパという世界の主要国が世界経済停滞の、更には世界平和を乱すリスクの最大の要因であるということになります。
こうした中、日本は経済的にこうした国々との結びつきが切っても切り離せないほど強く、こうした関係を継続することは今後とも日本経済にとって不可欠です。
ですから、日本の政府、そして企業はこうした世界的なリスクをにらみながら、適切なリスク回避策に大局的に、かつ、その都度取り組んでいくことが求められるのです。
さて、国際社会を取り巻く環境は、大国、アメリカ一国を中心とする世界からアメリカ、中国の２大大国を中心とする分断された世界へと移行しつつあります。
そして、開発途上国も巻き込んで、徐々にどちらの陣営につくか、色分けが進んでいるのが現在の世界情勢と言えます。
こうした状況は自由主義陣営対専制主義陣営という単純な図式ではなく、経済的な結びつきなど複層的な要因で色分けされています。
ですから、日本の政府、そして企業の舵取りは今後、増々困難になると見込まれます。
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