2023年04月26日
アイデアよもやま話 No.5565 2023年宇宙の旅 その1 月で暮らすための技術!
1月18日(水)放送の「クローズアップ現代」(テレビ東京)で「2023年宇宙の旅 〜月で暮らす!? 水をめぐる争奪戦〜」をテーマに取り上げていました。(こちらを参照)
そこで、内容の一部は、以前お伝えしたアイデアよもやま話 No.5455 有人宇宙飛行(月面着陸)を目指す「アルテミス計画」の意味するもの!と重複しますが、2回にわたって番組の内容を以下にまとめたかたちでご紹介します。
1回目は月で暮らすための技術についてです。

(人類が月で暮らす日)
・昨年11月に打ち上げられたロケット、あのアポロ計画(こちらを参照)以来、再び人類を月に送ろうというアメリカのアルテミス計画が始動した。
・今年は日本も含め、続々と月への着陸に挑む予定で、まさに“月開発元年”と言える年である。
・アルテミス計画は、アメリカ、日本、UAE(アラブ首長国連邦)など23ヵ国が合意している国際的なプロジェクトである。半世紀前のアポロ計画と違うのは、今回は行くだけではなく、月に宇宙飛行士が長期滞在し、人類が実際に暮らすための様々な研究・開発が計画されていることである。更にゆくゆくは火星に人類を送るという壮大なプロジェクトである。
・こうした国指導のプロジェクトだけでなく、民間の動きも活発になっている。
・その一つ、ある日本のベンチャー企業は2040年に月面都市をつくる構想を持っている。人が住んで、エネルギーも食料もつくる、更にはオフィス、病院、レストランが普通になる世界である。地球から月に行くのも仕事や旅行で訪れる時代を目指しているという。

(月面で水を探せ)
・当初、月には温度や気圧の関係で水はないとされてきた。ところが、最近の研究で北極や南極など太陽の光が当たらない場所には高い確率で水が存在するのではというところまできた。ただ、それも推測で世界の各国が一早く実際の水を見つけようと虎視眈々と狙っている。その最前線に日本の企業も挑んでいる。
・都内にあるベンチャー企業(株式会社ダイモン)、水を探すために開発したのが月面探査車「YAOKI(やおき)」である。(参照:アイデアよもやま話 No.5162 たった一人の日本人による世界初の民間の月面探査機の発明!)「YAOKI」は2つのタイヤが独立して動くため、自由に旋回が可能、裏返っても再び走り出すことが出来る。
・NASAが公開した月の南極の観測画像、青い部分が水があるとされる場所である。こうした場所に100機の「YAOKI」を送り、しらみつぶしに月面を探査する。常時、地球に送られてくる画像を解析し、水がどんな状態でどのくらいあるのかを探る計画である。

(月の水から燃料を)
・水から取り出した水素で発電し、月での暮らしに必要な電力を供給する。水は電気を加えると水素と酸素を取り出すことが出来る。水素は自動車などの燃料として利用出来る他、発電にも使える。
・開発したのは創業100年の空調設備大手、高砂熱学工業株式会社である。これまでは被災地などで電力を供給するための大型の装置を作ってきたが、月へ運べるように小型化した。

(月面都市「ムーンバレー2040」の全貌)
・日本の宇宙ベンチャー、株式会社ispaceが描くのが「ムーンバレー2040」という構想である。
・1,000人が暮らし、1万人が旅行や仕事で訪れ、地球との定期便が就航する。
・建設業や通信業など、さまざまな職種の人が働いている。
・中には農業をする人、医師、料理人もいて、月での快適な生活を支えている。
・月では食糧の自給自足が想定されている。
・栽培するのは地下である。月の表面は放射線が降り注ぎ、日中は110℃、夜はマイナス170℃にもなるためである。
・この施設では、月の植物工場を想定して実験を重ねている。
・月面では、どの作物も害虫の心配がないので、農薬を散布することがない。
・更に、たんぱく質など必要な栄養素を極上の料理で提供しようという動きもある。月で作り出すことを想定した「フォアグラ」である。この企業(インテグリカルチャー株式会社)では、月で細胞を培養して肉を作り出す「培養肉」に挑戦している。装置を運べば、鳥の細胞だけで増やし続けることが出来る。
・代表の羽生雄毅さんは、楽しめる食事というのは生存に直結する、必要なぜいたくだと考えている。

(地球-月間の“宅配便")
・そんな中、ある日本のベンチャーが世界の束ね役になろうと動き始めている。キーワードは「宅配便」。
・2022年12月、日本のベンチャー企業が開発した着陸船が月に向かって出発した。
・この着陸船こそが、まさに月への宅配便。世界から今、注目されている。
・「人類の活動を宇宙に広げること」をビジョンとする株式会社ispace代表の袴田武史さんは 、着陸船で月に荷物を運ぶことで運送料をもらう「輸送ビジネス」の立ち上げを目指している。
・『着陸を制する者は、月を制す。』、実は、着陸は極めて難易度の高い技術である。
・2019年、インドの着陸船は地上との通信が途絶え、月面に墜落。同じ年、イスラエルの着陸船もエンジントラブルなどで墜落。その年以降、中国以外のどの国も着陸に挑むことすら出来ていない。
・こうした中、民間初の着陸成功に一番近いと期待されているのが袴田さんたちである。
・着陸船は腕時計や軽自動車をはじめ、小型でも壊れにくい日本が誇る最新技術が凝縮されている。一方、袴田さんは着陸船の純国産にはこだわらず、世界の技術を組み合わせることでより成功率の高い着陸船を目指した。
・とりわけ苦労したのが着陸直前の技術である。着陸船は、秒速1.6キロメートルから一気に減速して着陸するが、地球からの操作では1.3秒遅れてしまう。そこで袴田さんが目をつけたのが、アメリカの研究機関、アポロ計画で有人の月面着陸を実現させたドレイパー。その技術をドローンや自動運転など、機体制御システムとして発展させてきた。
・この機体制御の技術を使いたいと考えた袴田さんは交渉を重ねた末、民間のスピード感や発想の柔軟さを求めていたドレイパーと思惑が一致し、協力してくれることになった。
ドレイパー研究所 キンベリー スレイターさんの発言:
「民間の資金力があれば、目的を達成でき、よりクリエイティブにもなります。決断も早いし、変化を生み出すのも早い。私たちにイノベーションをもたらしてくれる。」
・袴田さんは、たくさんの国々の荷物を運べるようになれば、月面都市の構想がより現実的になると考えている。
袴田さんの発言:
「宇宙産業をやっていくときに、1国だけで成り立つ産業ではない。民間企業ということで、世界中から一番優れたものを集めて出来る強みを最大限活用出来ているのではないかと。地球の持続可能性を担保出来るような経済圏を宇宙につくっていきたい。」

以上、番組の内容の一部をまとめてみました。

番組を通して、まず感じたことは月旅行に止まらず、月での暮らしが夢物語ではなく、現実の世界になりつつあるということです。
そして、そのキーポイントは“水”の確保です。
そこで、まずベンチャー企業、ダイモンで開発された月面探査車「YAOKI」が月面をあちこち走り回り、”水”の存在を明らかにします。
そして、“水”が確保出来れば、まず飲料水を作れます。
また“水”があれば、必要な資材や原料を地球から運ぶことにより植物工場や培養肉工場なども稼働出来ます。
そして、“水”を電気分解して水素と酸素を取り出すことが出来ます。
取り出した酸素も人類の生存に欠かせません。
そして、“水”を電気分解して水素と酸素を取り出すことが出来ます。
取り出した酸素も人類の生存に欠かせません。
こうして人類の暮らしに必須の“酸素”、“水”、そして“食料”が確保出来るのです。
また、水素は自動車などの燃料として利用出来る他、発電にも使えます。
ここまでの生産プロセスを担う装置が高砂熱学工業で開発されたのです。
他にも水素からアンモニアを合成し、そのアンモニアは電力源やアミノ酸、化学製品、あるいは肥料として使用出来るのです(参照:アイデアよもやま話 No.5557 オイルマネーが日本のベンチャー企業のアンモニア技術で提携!
また、月面都市をつくるためには多くの技術者やいろいろな機材を地球から運ぶ必要があります。
そのためには言わば地球-月間の“宅配便"である月面着陸船が必要になります。
しかし、着陸は極めて難易度の高い技術でこれまでインドやイスラエルがチャレンジしましたがいずれも失敗に終わっています。
そうした中、ispaceは国内外の技術力のある企業の持てる力を結集して今回の月面着陸船を開発したのです。
そして、1月12日の午後4時半過ぎ(日本時間)、アメリカのフロリダ州から打ち上げられた、ispaceにより独自に開発された月面着陸船は早ければ4月26日、すなわち本日にも月面着陸を完了する予定でした。(こちらを参照)
この着陸成功は、言わば地球-月間の“宅配便"実現の大きな第一歩になります。
そして、ここから月面都市「ムーンバレー2040」構想の実現に向けて様々な企業による取り組みが加速するのです。
ということで、ispaceには今後とも宇宙ビジネスの可能性を切り開いていっていただきたいと思います。

今や、宇宙開発は国家主導ではなく、ビジネスの対象となりつつあるのです。
宇宙はまさしく経済のニューフロンティアである時代を迎えたのです。

なお、今朝未明の時点では、残念ながらispaceの月着陸船は予定時刻頃に通信途絶し、着陸の成否は不明という状況です。(こちらを参照)
ですので通信の復旧を願うばかりです。

 
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