2023年02月03日
アイデアよもやま話 No.5495 世界を巻き込む砂の争奪戦 その3 今や中国は世界一の浚渫大国!
昨年12月30日(金)放送の「BS1スペシャル」(NHKBS1)で「SAND IS THE GOLD 〜世界を巻き込む砂の争奪戦〜」をテーマに取り上げていました。そこで3回にわたって、その一部をご紹介します。
3回目は、最新の浚渫(*)技術で砂の争奪戦に挑む中国についてです。
なお、日付は全て番組放送時のものです。

* 浚渫(しゅんせつ)とは、港湾・河川・運河などの底面を浚(さら)って土砂などを取り去る土木工事のことである。

(浚渫技術で世界をリードするオランダの企業の買収を試みた中国)
・砂を大量に採取するうえで欠かせない浚渫技術、中国企業は数年前までこの分野で世界をリードするヨーロッパに製造を依存してきた
・オランダの造船会社、IHC、これまで中国企業の主要な浚渫船の製造を少なくとも8隻行ってきた
・IHCの強みは世界一の技術力だ
・2020年、この会社を巡り、事態が動いた
・1月24日の記事で、中国企業による買収の動きがスクープされたのだ
・この記事を書いた経済新聞記者、ピーター・ランケンスさんは次のように話している
「スクープが出ると、政府はすぐに乗り出し、3ヵ月後には防衛策が成立しました。」
「(買収されていたら、)オランダ・ベルギーの浚渫技術の優位性は失われていたでしょう。」
・調べていくと、高度な浚渫技術は海での影響力を拡大するためにも不可欠だったことも分かってきた

(浚渫技術の活用により南シナ海などでの人工島造成を違法に進める中国)
・中国が領有権を主張する南シナ海、中国企業の浚渫船を派遣し、海砂を使って埋め立てを行っていた
・建設していたのは人工島だ
・サンゴ礁だった場所は2013年以降、少しずつ島へと姿を変え、更に滑走路や港も建設、瞬く間に軍事拠点化していたのだ
・中国の一方的な現状変更に、同じく領有権を主張するフィリピンやベトナムが反発、衝突も先鋭化している
・中国が防衛ラインの一つに掲げる第1列島線の内側に造成された7つの人工島、当時の浚渫船の動きをAIS(船舶自動識別装置)データで分析すると、用意周到な動きが見えてきた
・当初、1隻だけで小規模に行われていた人工島の埋め立て、しかし2015年になると、確認出来ただけで5隻が合流し、短期間で一気に埋め立てを完了させていたのだ
・アメリカのシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)で南シナ海の安全保障を専門にするグレゴリー・ポーリングさんは、当時、1隻だけで埋め立てしていたのは、国際社会の目をそらすためではないかと言う
「中国側は国際社会の反応を伺っていましたが、強い抵抗がなかったため、プロジェクトを続けられたのです。」

(今や中国は世界一の浚渫大国)
・更にポーリングさんは、人工島の建設の成功が中国の浚渫技術が躍進するきっかけになったと付け加えた
「一連の報道によって、中国の浚渫技術がいかに優秀かを世界に示す結果になってしまったのです。」
「今や中国は最先端のドリル型浚渫船を数多く保有し、世界的にも競争力のある国家に成長したのです。」
・実際、中国では今、砂を掘る浚渫船の製造が加速していた
・山東省にある造船会社、中国ではこの10年ほどで浚渫船の製造を内製化出来るまで技術力が向上していた
・巨大なドリルを搭載した浚渫船、1時間に7000トンもの砂を吸い上げるという
・この会社の王永生社長は、浚渫船が内製化出来た背景には強力な後押しがあったと明かした
「浚渫船の技術は西側に支配されていました。」
「中国政府はこのボトルネックを解消するため、多額の資金を投資し、100隻を製造する目標を達成したのです。」
・今や、国際登録された中国船籍の浚渫船は200隻以上、ヨーロッパを抜き、第1の浚渫大国となった
・これらの浚渫船の大部分はある一つの企業が保有していた
・それは国有企業の中国交通建設だ
・世界最大の浚渫能力を持つこの会社、人工島建設の成功を皮切りに世界中で埋め立てを行っていた
・その目的は港湾施設の開発だった
・世界の港湾開発に詳しい、東京大学の柴崎隆一准教授は、中国船による港湾の埋め立ての中で特に注目したのは人工島を建設した南シナ海に面するマレー半島東部の動きだった
「南シナ海の経済圏を中国の経済圏として、より強固なものにしたいという考えがあるのかなと思います。」
「マレーシア政府はかなり港湾開発に積極的な部分もありますので、中国にとっても海洋開発の重要なエリアかなと思います。」
・マレー半島の東部にあるクアンタン港は2017年に中国交通建設によってマレーシア有数の港湾施設が整備されていた
・開発は港だけに止まらない
・至る所にコンクリートを製造する中国交通建設の施設があった
・建設していたのは長距離トンネル、山を貫き、港につながる鉄道を敷設するのだという
・全長665km、総工費約1兆7000億円の国家プロジェクト、東海岸鉄道、マレー半島を横断し、東西の港を鉄道で接続、完成すればマラッカ海峡を通らない新たな輸送ルートが確立する
・中国交通建設の幹部がインタビューに応じた
・開発を加速させる理由について、マレーシアを交通の要衝に据えることで世界と中国をつなぐネットワークが更に強固になることだと語った
「マレーシアは“一帯一路”において重要な連接地点となります。」
「中国は世界の人々を結び、経済の好循環を生み出し、世界の発展を促すことが出来るのです。」
「私たちの活動に国境などありません。」
・取材班はAISデータで中国交通建設の浚渫船10年分の動きを分析した
・するとアジアのみならずアフリカ、更には南米に至るまで活動範囲が拡大していたことが分かった
・中国から遠く離れたブラジルにも中国交通建設の浚渫船の姿があった
・整備していたのは巨大な食料ターミナルだ
・世界有数の生産量を誇る大豆を確保することが狙いだった
ブラジル中国商工会議所の会長、チャールズ・タンさんはブラジルと中国をつなぐキーパーソンとして歴代の国家主席と親交が深く、港湾開発を後押しした
・今や浚渫技術は中国の人口14億人を支える食料確保にも欠かせないと語る
「中国交通建設は約2500億円を投資し、ブラジル北部に大型貨物船向けの港も建設予定です。」
「食料安全保障は中国にとって最優先事項なのです。」
・砂を戦略的に活用し、世界で大きな影響力を持つことに至った中国、中国の外交戦略に詳しい、南京大学中国南海研究共同創新センターの朱鋒教授は、強大な経済力と軍事力を併せ持つ大国となるには今後更に砂は重要になると語る
「中国の浚渫能力は我が国のインフラ建設能力と共に成長してきました。」
「国際競争を経て浚渫能力は更に向上しています。」
「国家の発展に浚渫技術は増々大きな意義を持つでしょう。」

・鹿児島県のある島、アジアを中心に砂を輸入する貿易会社の社長、宇佐佳夫さんはこの日、日本国内で膨大な砂が必要とされる現場を視察していた
・鹿児島県種子島の西に浮かぶ面積830ヘクタールの馬毛島、国の計画ではこの島に滑走路を整備し、新たな自衛隊の基地が建設される予定だ
・関係者によると、基地の建設には推定100万トンの砂や砂利が必要だと見られている
・宇佐さんは膨大な砂の需要を前に大きなビジネスチャンスを感じており、次のように語っている
「将来的に全体量が足らないと思うので、安価な値段で(輸入砂を)入れられれば国自体のコストも安くなるだろうし、頭の片隅に輸入砂があるんだなっていうのを理解していただきたいなって思います。」
「世界中駆け回っていい砂を探すことが私の使命だなと思います。」

3年にわたる取材から見えてきたのは、かつて世界が我先に目指した金のように、砂を貴重な天然資源と見なし、繰り広げられる争奪戦の実態だった。
砂の枯渇が危惧される中、様々な思惑が幾重にも渦巻きながら獲得競争はし烈さを増していく。

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

少しずつ目立たないように人工島建設を違法に進める中国は、まさにサラミスライス戦略の実践例と言えます。(参照:アイデアよもやま話 No.5433 中国の展開する「サラミスライス戦略」!

今や、中国は世界一の浚渫大国となり、これらの浚渫船の大部分は国有企業の中国交通建設が所有しているといいますから、まさに官民一体で領土の拡大、そして世界中で埋め立てを行って港湾施設を開発していると言えます。
更にマレーシアの事例では、中国交通建設はコンクリートを製造する施設をつくり、マレー半島を横断し、東西の港を鉄道で接続する東海岸鉄道まで敷設する計画だというのです。
その結果、マレーシアを“一帯一路”における重要な連接地点とするというわけです。
このように中国は最新の浚渫技術を軸に世界中の途上国の社会インフラ建設を請け負い、世界各国を結び、世界経済を中国中心に再構築することを目指しているのです。
なお、その最優先事項は中国の食料安全保障といいます。

さて、対中国の国家安全保障対策の一環として、国の計画では鹿児島県の馬毛島に滑走路を整備し、新たな自衛隊の基地が建設される予定だといいます。
この基地の建設には推定100万トンの砂や砂利が必要だと見られていますが、将来的には砂の全体量が足らなくなると見込まれています。
ですから、安価な砂の安定確保は国防においてもとても重要なのです。
そして、浚渫大国、中国が一早く、この砂の確保に向けて官民一体で世界中に活動を展開しているというわけです。
日本政府はこうした中国の素早い動きを注視し、先手を打つくらいの機敏さ、そして戦略が求められるのです。

 
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