2023年01月26日
アイデアよもやま話 No.5488 商用EVが続々登場!
昨年10月3日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で続々登場する商用EVについて取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

わずか1%未満という普及率に止まる日本のEV、電気自動車市場で新たな動きです。
新興企業のASF株式会社は、物流業者などが使う商用軽EVの量産、第1号を公開しました。
生産を担当したのは、日本ではなく中国のEVメーカー、五菱(ウーリン)です。
補助金込みで約150万円という低価格を実現した背景を取材しました。

群馬県高崎市でとある試乗会を開いたのはASFとウーリンです。
ASFは工場を持たないで企画や設計などを手掛ける新興ファブレス企業です。
総合商社の双日などが出資しています。
そしてウーリンは中国南部・広西チワン族自治区に拠点を置く自動車メーカーでEVを生産しています。
今回の車両は佐川急便からASFが受注し、生産をウーリンが担いました。
2030年までに軽貨物車、約7200台を全てEVに置き換える計画です。
この佐川急便を含め、5年間で10万台の生産計画を掲げています。
番組スタッフが実際に乗ってみると、ハンドルがとても軽いです。
ASFの技術担当者は次のようにおっしゃっています。
「細かくハンドルを切られる、長時間運転をされるドライバーの方なので、細かな要望をお伺いしながら、今後も最終的な発売まで微調整をする。」

エチケット用品を置く収納ボックスや暗い場所でも伝票を見易くするために車内照明を明るくしました。
また、運転手がシフトレバーをパーキングに設定し忘れた場合にクルマが勝手に進み出すのを防ぐシステムを導入、これらは佐川急便のドライバー、7000人のアンケートなどをもとにしています。
積載量は350kg、フル充電での航続距離は230kmです。
「生産1号」となる車両の発表会見でASFの飯塚裕恭社長は次のようにおっしゃっています。
「日本は非常にEV化が遅れています。」
「単純に、基本的に中国のものを持ってきたわけではなく、我々は一から中国の方と一緒にそういうものを作り上げてきた車両でございますので・・・」

飯塚社長の前職は家電量販店大手、ヤマダ電機の元副社長、生活に密着した商品の販売現場を通じて消費者と向き合ってきました。
飯塚社長は次のようにおっしゃっています。
「ヤマダ電機に35年務めさせていただきまして、一番やはりお客様の満足度は価格を超えるものはなかったと実感しております。」
「やはり、なんだかんだきれいごとを言いますけど、最後は価格だと思っております。」
「逆に言って、そこが我々が勝負出来なくなったら我々の存在価値はない。」

バッテリーは中国の電池メーカー大手、CATL製を採用するなど、全て中国国内のサプライチェーンで調達した材料や部品を使っています。
バッテリーをはじめ、コストを大幅に低減、価格は補助金込みで150万円前後となり、日本車に比べて2割ほど安くなったといいます。

業界団体によると、軽貨物車の国内市場は約40万台で、現在ほぼ全てがガソリン車です。
今回、日本市場向けに初めて生産したウーリンの幹部は次のようにおっしゃっています。
「今回、日本に初めて来た街中で走っているEVはかなり少なかった。」
「日本は中国に比べて(安全面の)認証が圧倒的に厳しい。」

今後、ウーリンはASFの販売網などを通じ、日本市場でトラックなど車種を広げる方針です。
今回、中国メーカーに生産を委託したASFの飯塚社長、当初は日本メーカーも含めて生産の委託先を検討しましたが、期待に応えたのは中国メーカーだったといいます。
「全ての日本企業さんが恐らく意思決定が非常に遅いかと思います。」
「それに加えて、中国の企業さんはものすごく意思決定が早くて、我々みたいなベンチャー企業であっても「向く方向が同じであればやろう」という決断ですよね。」

国内大手メーカーも商用軽EVを相次ぎ投入する計画です。
ダイハツはトヨタやスズキなどと共同開発するモデルを2023年度に、ホンダも2024年に100万円台で発売することを目指しています。
そうした中、国内唯一の商用軽EV、「ミニキャブ・ミーブ」の販売を一度終了していた三菱自動車もこの秋、再び販売することに。
「ミニキャブ・ミーブ」は三菱自動車が世界で初めて発売した量産したEV、「アイ・ミーブ」と同じバッテリーやモーターと同じものを使い、2011年に発売したクルマです。
三菱自動車 軽EV推進室の五島賢司室長は次のようにおっしゃっています。
「販売いたしまして約10年が経過したと。」
「商品ライフサイクルの観点から一旦止めようと判断いたしました。」
「世界的に“脱炭素”の関心が高まっているということで、非常にこのクルマへの関心が高まっています。」
「問い合わせも非常に増えている状況でございましたので、もう一度、方針を変えて再販しようと。」

運送業者などからの強い予防を受け、一度販売を終えたモデルを再販するという異例の決断をしました。
各社が商用の軽EVを投入することについて、五島室長は次のようにおっしゃっています。
「我々としては10年間以上、ノウハウの蓄積、商品の耐久性、信頼性を向上してきました。」
「商用車なので、故障が一番良くないと思うんですよね。」
「万が一、そういうことが起こっても修理する体制を持っていますので、そういったことが強みかなと思っております。」

一方、EVの輸入販売を手掛けるベクトリクス(VECTRIX)ジャンパンは10月3日、国内初となる基幹店をオープンし、新たに開発した3輪EVのプロトタイプを公開しました。
配送業者など、法人向けに販売します。
車両はリース販売、バッテリーは月額数千円(1個当たり)ほどの定額サービス、サブスクリプション方式で販売します。
ベクトリクス ジャンパンの山岸史明社長は次のようにおっしゃっています。
「サブスクでの導入に関しては、出来るだけ安価な形態を取ることで繁忙期やバッテリーを予備で持ちたいお客様のニーズに対応し、自由度が広がる。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

わずか1%未満という普及率に止まる日本のEV市場ですが、その背景の一つは日本のガソリン車、あるいハイブリッド車の燃費の良さにあります。
そして、その燃費の良さが現在の火力発電の占める割合の多さから、電気を動力源とするEVに比べて、ライフサイクルを通してみれば、CO2排出量の多さに遜色ないと見られているのです。
ですから、EVへのシフトがCO2排出量の削減に大いに貢献出来る状態にするには、EVシフトと並行して火力発電から再生可能エネルギーによる発電へのシフトを進めることが必須なのです。

しかし、だからといって、再生可能エネルギーによる発電へのシフトの普及が進むまでEVの普及を待っていては海外勢のEVメーカーに後れを取ってしまい、経済的に大打撃を受けてしまいます。
しかも、世界的な”脱炭素”を実現する手段の一つとして、CO2排出権取引制度がEU(欧州連合)やアメリカのカリフォルニア州の例を参考に、「炭素税」などと組み合わせた「ポリシーミックス」による政策推進が世界から求められています。(こちらを参照)
いずれこうした制度は世界的に導入されることになれば、”脱炭素”の取り組みに消極的な企業は存続の危機に晒されてしまいます。
また、既にアップルのように、サプライチェーンに組み込まれている取引先の工場などで温暖化ガスを排出しないことを2030年に実現することを目標に掲げている企業も現れているのです。
ですから、アップルと取引のある日本の企業でも同様の目標を達成することが求められるのです。(参照:アイデアよもやま話 No.5338 パナソニックが世界初の再エネ100%工場の実証実験開始!

一方、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で化石燃料の価格が上昇しており、電気料金をはじめ、多くの商品の値上げが繰り返され、日本国民の暮らしが圧迫されています。
こうした背景もあって、政府が進めているエネルギーミックスの検討の対象に既存の原発の再稼働や新型の原発の開発も含まれてくるわけです。

こうした状況において、自家用車と違い、毎日のようにある程度の距離を走行する商用ガソリン車のEV化を進めることは”脱炭素”に向けた取り組みとして理に適っています。
なお、EVの普及において、充電施設の普及が進まないことが大きなネックという見方があります。
しかし、以前にもお伝えしたように、以下の観点からこの見方は必ずしも正しいと言えないのです。
・1日当たり150km前後の走行距離であれば、夜間に普通充電器で充電すればフル充電出来て、昼間の充電は一切必要ない(注:普通充電器は既存の駐車スペースに設置可能)
・夜間の電力需要は昼間のほぼ半分なので、電力供給量のピークに影響を及ぶことはない

さて、EVに限ったことではありませんが、日本のメーカーが特に中国に生産拠点を置く場合には以下の考慮点が挙げられます。
・素早い意思決定
・商品の価格設定など、顧客の要望への的確な対応
・中国政府の極端な政策変更を前提とした中国企業との係わり
・生産拠点の中国から他国へのシフト
・生産拠点の国内回帰

なお、ASFは現在は商用の軽EVの生産拠点を中国に置いていますが、当初は国内の企業に交渉したけれど、応えてもらえなかったといいます。
ですから、それぞれの日本企業には、DX(デジタルトランスフォーメーション)などへの取り組みを積極的に進め、少なくとも国内の需要には内製化だけでほぼ応えられるような強靭な経営体質を備えられるようになって欲しいと願います。
こうした取り組みの成果が日本国の経済安全保障につながるのです。

 
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