2022年12月03日
プロジェクト管理と日常生活 No.774 『携帯電話の通信障害リスク対応策』
7月29日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で携帯電話の通信障害リスク対応策について取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

利用者やインフラに大きな影響を及ぼした、7月上旬(2日)に発生したKDDIの大規模な通信障害について、KDDIは7月29日に会見を開き、お詫びとして利用者3655万人に一律200円を返金すると発表しました。

訪問看護サービスを展開する訪問看護ステーション ブロッサム(東京・足立区)では今回の大規模な通信障害で事業に混乱が生じました。
通信障害が起きた土曜日(2日)と日曜日(3日)は通常事務所には誰もいない状態、固定電話にかかってきた電話はスタッフが持ち歩くAUのスマホに転送されることになっていますが、障害で通じなくなったため、代表の西村直之さんは復旧までの間、事務所での待機を強いられたといいます。
西村さんは次のようにおっしゃっています。
「私たちは命を預かっている仕事ですから、補償は特に求めてはいません。」
「やっぱりそれ(通信障害)はあってはいけないことですから、それは各社しっかりと(通信障害を)起こさないための対策を取っていただきたいと強く希望します。」

今回の通信障害の影響を受けた人は少なくとも延べ3091万人、その規模は過去最大級となりました。
補償の総額は過去最大の約75億円に達するといいます。

今回の大規模通信障害の原因について、KDDIの高橋誠社長は点検作業の準備が不足していたことを理由にあげました。
ネットワークの中継機器を点検した際に、古い手順書を使ってしまったということです。
通信障害を起こした責任を取り、高橋社長は役員報酬の20%を3ヵ月分自主返納します。

専門家は、同じような通信障害は今後も起こり得ると指摘しています。
MM総研の横田英明常務は次のようにおっしゃっています。
「各通信事業者がいろいろなトラブルが起きないように想定をしていろいろな対策を練っていても、少しボタンを掛け違うだけで問題が起きてしまうことがあるので、想定しているべきだったけど想定外のことが起きてしまう。」
「それがネットワークビジネスの難しさなのかなとは・・・」

通信障害への備えとして今、注目されているのが、キャリアが違うSIMカードを2枚用意し、1枚をサブ回線として使うデュアルSIMという方法です。
SIMカードとは、利用者の契約情報や電話番号が紐づけられている小型のカードのことです。
従来のスマホなどはこのSIMカードを1枚だけ差し込むつくりになっていましたが、このところ2枚入れられる機種が増えています。
1台のスマホで2つの回線が使えるため、どちらかにトラブルがあった場合、もう一つの回線を使えるのが強みです。

HISモバイルでは通信障害の発生直後からサブ回線プランへの加入者が急増、約1ヵ月での伸び率は前月比で3割増えました。
またデュアルSIM対応端末の売り上げも120%ほど伸びているといいます。

通信障害の対策は企業にとっても大きな課題です。
KDDI回線を利用してコンテナなどの輸送を管理してきたJR貨物、独自のトレースシステムはフォークリフトのセンサーでコンテナの位置を示すタグを読み取り、GPS情報を使って位置情報などを管理し、輸送を大幅に効率化してきましたが、今回のKDDIの通信障害でデータ通信に影響を受けました。
日本貨物鉄道の大道浩史さんは次のようにおっしゃっています。
「リアルタイムの情報を失っていくので、列車に何を載せればいいのか、降ろすモノも徐々に分からなくなっていく。」

これを受けてJR貨物ではトレースシステムの機器、約600台を全て今年度中に取り換えることを決定、複数の通信に対応する機器に入れ替えることで非常時も影響を最小限にするよう体制を整えます。
大道さんは次のようにおっしゃっています。
「大雨、洪水、その他諸々でエリア別に見るといろいろな通信条件が悪くなり易いことも沢山ありますので、そういったことにも複数の通信回線を持っておくことは非常に継続していくうえで重要かなと思っています。」

個人や企業の対策には限界がある中、実現が急がれているのが非常時に他の会社の通信網に臨時で乗り入れるローミングと呼ばれる制度です。
金子総務大臣(当時)は7月29日、この制度の実現について「重要な課題」だとあらためて表明、政府は有識者や通信会社などによる検討会議で秋にも議論を始める見通しですが、技術的な課題も多く、早期に実現出来るかは不透明です。
MM総研の横田常務は次のようにおっしゃっています。
「今回の問題によって通信が途切れるリスク、事業に与えるリスクみたいなものをしっかり認識したと思いますので、これから(事業者間の)相互ローミングへの動きは活発になってくるだろうと。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

なお11月14日(月)付けネット記事(こちらを参照)でフルローミングかデュアルSIMかについて取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

・今夏7月2日に発生したKDDIの大規模障害では、auやUQ mobile、KDDIの携帯電話ネットワークを利用するMVNOの携帯電話が2日間以上使えなくなった。
・携帯電話が使えない期間が長かったこと、データ通信や音声通話だけでなく、警察や消防への緊急通報もつながりにくくなった。
・現在、総務省では「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」が開催されている。検討会では、ユーザーが臨時的に他の事業者のネットワークを利用する「事業者間ローミング」などによって、継続的に通信サービスを利用できる環境を整備することを目指す。特に緊急通報については、現状約6割が携帯電話による通報。命に関わることでもあるので、非常時でも確実に通報できる仕組みを整えることが急務だ。
・電話・データ通信も含むフルローミングについては、呼び返しはできるが、ユーザー自身で他社ネットワークに接続するための設定操作が必要だったり、他社ユーザーによってネットワークがひっ迫したりする懸念が指摘された。また、加入者データベースが被災、あるいは障害がある場合、現状の標準技術に準拠した方式ではローミングができない。KDDIの通信障害は加入者データベースが輻輳(ふくそう)状態になったことで大規模障害になったが、標準の仕様ではローミングできず救済できないことになる。
・通信事業者4社はいずれも、非常時の事業者間ローミングについて賛同している。ただ、フルローミングについては対応に時間がかかるとして、緊急通報のみのローミングを優先して取り組むべきという姿勢だ。
・また、キャリアからは2社の回線を契約して切り替えて使える「デュアルSIM」を推進すべきという意見もある。KDDIの高橋誠社長は11月2日の決算説明会で「デュアルSIMで対応できないか、我々から各社に声がけをしている。合意があれば実現できる」と発言。ソフトバンクの宮川潤一社長も「デュアルSIMを4社で、できるだけ安価に提供することを検討したい」と語った。ドコモの井伊基之社長も「デュアルSIMは進めていきたい。選ばれる側になりたい」と前向きだ。
・検討会に参加している有識者からは、欧州では、音声通話だけなく、スマホのアプリから緊急通報できる仕組みがあるというコメントがあった。つまり、LINEや+メッセージ、Twitterなどから通報できる仕組みを整えてもいいのでは、という考えだ。
・また、ローミングもそうだが、あらゆる手段を講じて緊急通報できる方法を確保する必要があるという意見も出ている。将来的に衛星経由で通報できるようになれば、ローミングの重要度は下がるかもしれない。

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

なお、プロジェクト管理のバイブル的な存在の一つとして能力成熟度モデル統合 (CMMI:Capability Maturity Model Integration)という考え方があります。(こちらを参照)
その成熟度評価の対象にはソフトウェア開発やリスク管理などがありますが、構成管理という項目もあります。
構成管理とは、システムの開発過程において作成する要件定義書、仕様書、プログラム、作業ガイドなどの成果物に対して変更が発生する際に、これらの成果物の一貫性を確立して、成果物に対する変更を正しいバージョンのものに正しく反映出来るようにするための管理です。

こうした管理手法がある中、今回の大規模通信障害の原因について、KDDIの高橋社長は点検作業の準備が不足していたことを理由にあげ、ネットワークの中継機器を点検した際に、古い手順書を使ってしまったとしています。

ですから、もしKDDIが構成管理の手法を取り入れてネットワークの中継機器を点検する際の手順書をきちんと管理していれば、今回の通信障害が防げたのです。
ちなみに、私が前職でSE業務に取り組んでいた時にも同じようなミスを見かけたことがありました。
その際も、システム変更に対するテストはきちんとなされていたのです。
ですからシステム開発において“構成管理も侮るべからず”なのです。

なお、この通信障害による影響は以下のように大変大きいものです。
・通信障害の影響を受けた人は少なくとも延べ3091万人でその規模は過去最大級
・補償の総額は過去最大の約75億円
・auやUQ mobile、KDDIの携帯電話ネットワークを利用するMVNOの携帯電話が2日間以上使用不可
・データ通信や音声通話だけでなく、警察や消防への緊急通報もつながりにくくなったこと

要するに、ネットワークの中継機器の点検の際に古い手順書を使ってしまったことのためにこのような国民にとってもKDDIにとっても大変な影響をもたらしてしまったのです。
ですから、KDDIにはCMMIのようなプロジェクト管理手法を取り入れてしっかりとした保守体制を整えていただきたいと思います。

なお、番組でも指摘されているように同じような通信障害は今後も起こり得えます。
なぜならば、100%間違いのない完璧なシステム、あるいは全くミスのない保守作業が永遠に続くことはあり得ないと言えるからです。
だからこそ再発防止策、あるいはコンティンジェンシープラン(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.772 『BCPからBCMへのアップデートの必要性』)が必要とされるのです。

なお、今回の問題の再発防止策として以下の2つが挙げられます。
・構成管理の適切な運用
・ネットワークの中継機器の点検作業が失敗した場合に、速やかに元の状態に戻す方法を手順化しておくこと

また、こうした障害が長引いたケースにおけるコンティンジェンシープランとしては以下の2つの方法があるのです。
・2社の回線を契約して切り替えて使えるデュアルSIM
・非常時に他の会社の通信網に臨時で乗り入れるローミング

現状ではフルローミングが行われるまでには時間がかなりかかりそうだということから、まずはデュアルSIMのサービスを受けることがいざという時のためには必要なのです。

なお、このよう取り組みは鉄道においてはかなり前から導入されています。
それは振替輸送です。(こちらを参照)
ですから上記のコンティンジェンシープランは鉄道の振替輸送サービスのスマホ版と言えます。

 
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