2022年11月26日
プロジェクト管理と日常生活 No.773 『原発再稼働の課題とその対応策』
7月22日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で原発再稼働の課題について取り上げていたのでご紹介します。 

経団連は7月22日、電力需給のひっ迫に対応するため、停止中の原子力発電所(原発)の着実な再稼働を求める提言を新たに発表しました。
政府も原発の再稼働を目指す方針を示しています。
ただ国内の原発を巡っては部品を提供する企業が次々と撤退するなど、課題が山積しています。

大手企業のトップが集まる経団連の「夏季フォーラム」(7月21日〜22日)で講演した岸田総理は次のようにおっしゃっています。
「電力の安定供給と脱炭素を考えますと、原子力の活用は極めて重要であると思っています。」
「出来る限り多くの原発、この冬で言えば最大9基の稼働と火力発電の供給能力を追加的に確保する、こうしたことを(経済産業省の担当大臣に)指示をいたしました。」

岸田総理は、電力不足が予想される冬までに現在稼働している原発と合わせ、最大9基の稼働を目指すとあらためて強調しました。
経済界からは歓迎の声がありました。
経団連も7月22日、休止中の原発の再稼働を求める提言案を取りまとめました。
しかし、専門家は再稼働には大きな課題があると指摘します。
国際環境経済研究所の竹内純子理事は次のようにおっしゃっています。
「原子力発電所の事業は立地地域の方たちの理解があって成り立つ。」
「これはやはり慎重にやらなければいけないという判断になっている。」

今回、政府が稼働を目指すとした原発はもともと運転の再開が認められていた福井県の美浜3号機や佐賀県の玄海3号機など、全て西日本にある原発、電力不足が不安視される東日本の原発は地元の同意が得られていないことなどから再稼働の目処が立っていないのです。
その一つ、茨城県東海村にある東海第二原発、かつて首都圏に電力を供給していましたが、現在は停止しています。
再稼働には地元の同意を得ることが条件になっていますが、住民に話を聞いてみると、東海村に住む相澤多美子さんは次のようにおっしゃっています。
「再稼働するためには安全性、それと住民の避難の計画、そういうことがきちんとしてからでないと安心して住めないですね。」

住民からは再稼働に慎重な声もあり、自治体としても稼働を認めるかどうかまだ態度を明確に示していません。
東海村の山田修村長は次のようにおっしゃっています。
「(原発の)安全性の部分では(震災後の)新規制基準が導入されて、中身を見ると非常に向上はしているんですが、どうしても福島第一原発事故の映像も含めて皆さん記憶がまだまだ鮮明に残っている中で、なかなかそこ(再稼働)が理解しづらいところがあると。」

一方、再稼働には更なる課題もあります。
7月22日、原子力の関連企業からなる団体、日本原子力産業協会の新井史朗理事長は会見の場で次のようにおっしゃっています。
「今、原子力サプライチェーンが困窮状態にあると。」

日本原子力産業協会は「原子力サプライチェーンの維持・強化に向けた提言について」の中で、原発の早期再稼働の他、新たな増設や建て替えを速やかに行うよう国にもとめたのです。
原発の稼働停止が長引く中、原子力関連企業の多くが事業から撤退や縮小をしているといいます。
更に協会には日本の原子力を巡る技術力の継承や組織の縮小を危惧する声が多く寄せられているといいます。
新井理事長は次のようにおっしゃっています。
「(原発の)新設までの空白時間が長くなればなるほど、それを支える技術の回復に時間を要すると。」

すそ野が広い原子力産業、大手プラントメーカー、3社を筆頭に原子力技術会社400社以上、そして数千の部品供給メーカーが底を支えているといいます。
その部品メーカーでは今後の供給が滞りかねない深刻な問題が起き始めています。
50年以上、原発に使う装置を製造している神奈川県藤沢市にある日本ギア工業株式会社の藤沢工場、鶴見肇常務執行役員は次のようにおっしゃっています。
「原子力発電所にこれから納入するバルブアクチュエータがございます。」
「今、ちょうど試験している最中です。」

作っているのはバルブアクチュエータという装置、エネルギーを作るのに使用する蒸気や水が配管を通る時に弁の開け閉めをするもので1つの原発に約500個は取り付けられているといいます。
国内の原発で使用されるバルブアクチュエータの9割以上をこの会社で製造しているのです。
しかし、鶴見常務は次のようにおっしゃっています。
「ここのモーターなんですけども、これを作るメーカーが製造から撤退するというかたちになって。」

装置に欠かせない特殊なモーターを作る下請け企業が売り上げの減少などを理由に3年前に原発事業からの撤退を決めたのです。
鶴見常務は次のようにおっしゃっています。
「これはもう大変なことだと。」
「それ(モーターの製造)を継続出来ないとなると我々も撤退せざるを得ないと。」

製造を依頼出来る他のメーカーを急いで探し、なんとか見つけましたが、原発に使う装置は簡単に仕様の変更は出来ません。
もとの会社から取り寄せた1000枚以上の大量の図面を基に技術の引継ぎをしている最中だといいます。
更にこの会社も原発関連の事業が縮小したことで売り上げが2割減ったままです。
下請け企業の撤退が今後増えることを懸念しています。
日本ギア工業の寺田治夫社長は次のようにおっしゃっています。
「我々がいないと再稼働出来ない。」
「プライドと責任を感じていますので、なんとか継続していかなくてはいけない。」
「営利企業なので利益を望まなければやっていけない。」

こうした中、原発のプラントメーカー、3社を代表する三菱重工では国内の原発を巡るサプライチェーンが弱まる中、海外からのニーズが高まっている“次世代原発”の開発に注力しているといいます。
加藤顕彦常務執行役員は次のようにおっしゃっています。
「我々としては2030年代半ばの実用化を目標に高い経済性に加えて、革新技術を採用した世界最高水準の安全性を実現する次世代軽水炉の開発を進めているところでございます。」
「海外輸出を行う上でも日本のサプライチェーンの基盤を維持することが極めて大切だと考えております。」

「(ただ新しい動きもあるといい、)昨年ごろから原子力に応募してくれる学生さんの数が増えてきているんですね。」
「ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえて、エネルギーセキュリティの意味でも原子力を活用すべきという声が高まっていると。」
「そういった現実を踏まえて、若い人は意外と「原子力をしっかりやらないといけない」という信念のもと応募してきている。」

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(サプライチェーンの懸念の他に)もう一つ人材、技術の担い手の不足の問題も心配なんですね。」
「日本の大学の原子力関係学科などの入学者数(大学院を含む学部、修士、博士を合わせて数字)は、東日本大震災の前は300人以上いたんですけども去年は220人まで減ってるんですね。」
「大学で40代の教員の数も減っているので、これがちょっと心配です。」
「(学生の募集を停止した大学もあるいうが、)東海大学の工学部原子力工学科が昨年3月に募集を停止したんです。」
「創立者の松前重義さんが原子力に積極的で、歴史のある学科だったんですが、世の中の流れに抗うことが出来なかったということです。」
「更に大学などが設けている試験研究炉があるんですが、これも数が大きく減ってきていると。(全国の試験研究炉(運転中)が1995年の20から現在は6に減少)」
「で、教育のための施設なんですけども、老朽化も進んで実習も出来ないということになりかねないわけですね。」
「(再稼働だけでなく廃炉などの課題もあるので、こうした技術者の確保は放置出来ない問題だが、一方でウクライナ侵攻を契機とした若者の原子力に対する関心の高まりがあることについて、)太陽光と風力だけで“脱炭素”を実現するのがいかに難しいか。」
「で“脱炭素”の移行期で原子力が重要な基幹電源だというのがウクライナ危機で分かったことなんですね。」
「ですから政府は何よりも今、原子力の将来像を明確に国民に示す、そのタイミングなんだろうと思いますね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

また8月24日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でも同様のテーマについて取り上げていたのでご紹介します。

8月24日、日本の原発政策を巡る大きな動きがありました。
岸田総理は、これまで政府として想定していないとしてきた原発の新設や増設の検討を進めると表明しました。
政策転換の背景には何があるのでしょうか。

2011年3月に起きた東京電力 福島第一原子力発電所の事故、あれから11年、日本の原発政策が大きな転換点を迎えようとしています。
8月24日に開かれたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議、脱炭素社会を実現する施策を議論する会議です。
そこで岸田総理は次のようにおっしゃっています。
「再稼働済み10基の(原発の)稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応をとってまいります。」

現在、原子力規制委員会の安全審査を通過している原発は17基、このうち再稼働したことがあるのは10基に留まります。
これに加え、残る7基を来年以降に再稼働することを目指すとしたのです。
2基の再稼働を目指すことになった東京電力 柏崎刈羽原子力発電所がある新潟県柏崎市在住の男性は次のようにおっしゃっています。
「新潟県人としては(原発は)決して安全ではないわけですよ。」
「稼働して欲しくはないですね。」

また別の女性は次のようにおっしゃっています。
「心配だからあまり賛成はしたくない気もするけど、でも必要となれば、そうも言ってられないかもしれないけど。」

また最長60年とされる原発の運転期間も延長することも検討します。
そして最も踏み込んだのが岸田総理の次の発言です。
「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました。」

岸田総理は、原発の新増設や建て替えを想定しない、これまで立場を一転、次世代型原発の開発・建設について検討し、年末に結論を出すよう指示しました。
これを受け、株式市場も反応、東京電力HDの株価は10%上昇した他、次世代型原発の開発を進める三菱重工や日本製鋼所、IHIなど原発関連株も軒並み上昇しました。

東日本大震災前には日本のエネルギー源の26%を占めた原発による発電、今は4%ほどですが、原発の積極的な活用に舵を切ることで、政府は2030年には再び20%以上に高め(こちらを参照)、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す方針です。

では、次世代型原発とはどのようなものなのでしょうか。
複数の方式が検討されていますが、経済産業省が一早く商用化を目指しているのが「革新軽水炉」と呼ばれる原発です。
ポイントは、既存の原発をベースに安全性を更に高めたところです。
開発を進める三菱重工の加藤顕彦常務は次のようにおっしゃっています。
「コアキャッチャーなどを付けて、デブリが外に出ないようにする技術、そういったものを是非適用していきたいと。」

コアキャッチャーとは、万が一、核燃料が溶け落ちる炉心溶融が起きても、溶け落ちた核燃料を受け止める受け皿のことです。
こうした対策をすることで、地震や津波、テロ攻撃などが起きても環境汚染が広がらないようにするとしています。
加藤常務は次のようにおっしゃっています。
「安全性を更に高めるため、耐震・耐津波・テロ対策についてもしっかり安全性を高める技術を適用して世界最高水準の次世代原発を実現したいと。」

更に世界で次世代型原発として注目が高まっているのが「小型炉」です。
アメリカのベンチャー企業などが開発しています。
出力される電力は従来に比べて10分の1以下ですが、建設コストを抑えることが出来ます。
次世代型原発に求められる条件について、専門家で東京工業大学の楢林直特任教授は次のようにおっしゃっています。
「次世代の原子力発電所は自然災害に強いことが鉄則になります。」
「そうすると、いかなる場合でも自然冷却力を使って原子炉が自ら冷却をして安全な状態に持っていける、そういう能力を持ったもの、これが次世代軽水炉、あるいは小型モジュールの条件になると思います。」

8月24日に行われたGX実行会議の委員でもある経団連の戸倉雅和会長は会議の後、番組の単独インタビューに応じました。
「(これまでの政府の方針は新増設を想定していないということだったが、そこからの方針転換について、)これは非常に前向きに評価したいと思いますし、それは政府の大事な役割だと思います。」
「そのためには国民のコンセンサスを得なきゃいけません。」
「(再稼働を)急ぐのと同時に新増設やリプレース(建て替え)が必要という理由はこれ(こちらを参照)見てもらったら分かるように2050年にカーボンニュートラルを実現しなければいけないんですが、その時に40年の耐用年数というか使用年数だと(原発は)恐らく3〜4基くらいになっちゃうんですね。」
「(原発の稼働年数を)60年にして初めて23基の稼働が認められるんですね。」

経団連の試算によると、2050年に原発で全体の20%の電力を賄おうとすると40基が必要で、そのためには新しい原発の建設や建て替えは必要不可欠だといいます。
「(地震など、自然災害の多い国、日本での原発の必要性について、)欠かせないと思います。」
「再生可能エネルギーは太陽に依存するんですね。」
「曇りもすれば、雨も降るし、風も吹くし。」
「やっぱりベースロード電源が要るんですね。」
「ベースロードはやっぱり原発なんですね。」

原発の活用無しに現在の急激な気候変動を止めることは出来ないと危機感を示しました。
「(地球の気温は)2万年の間、±1℃ぐらいしか変動しなかったんですが、放っておいたら21世紀末には4.5℃以上上がると。」
「これは今止めないともう間に合わない世界なんです。」
「恐らく地球全体で科学の力でやらなければいけない。」
「その先頭に日本は立たなきゃいけない。」

そのうえで経済界も主体的に係わることで安全性の高い原発の開発を進めるべきだといいます。
「情緒論じゃなくて科学的・論理的・定量的に考えようと。」
「そうすると問題の先送りなんかは許されないと思うんで、原発の推進では安全性の問題、それから放射性廃棄物を減らさなければいけない。」
「いろんな革新的な原発を開発しなければいけない、核融合も含めてですね。」
「そういうイノベーションでの貢献ですね。」
「これは企業によって濃淡ありますけども、それを是非経済界としてはやらなければいけないと思っています。」

戸倉会長は岸田総理の方針転換について前向きに評価したいとしていましたが、昨年10月には岸田総理は原発の新増設について、再稼働という課題にまず専念するんだとして、新設や増設には踏み込んでいませんでした。
では、このタイミングで岸田総理はどうして方針を転換し、ここまで踏み込んできたのかについて、テレビ東京の官邸キャップ、篠原裕明さんは次のようにおっしゃっています。
「岸田政権としては、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でエネルギー需給がひっ迫している今こそ原発再稼働のみならず、次世代型原発の建設の検討にまで踏み込んでも世論の反発が少ないと見ているからです。」
「岸田総理は7月の参議院選挙後の記者会見で、この冬に最大で9基の原発再稼働を目指すと表明しましたが、かつてのように原発再稼働に反対するデモが官邸や国会を取り囲むような大規模なデモの動きはありませんでした。」
「むしろエネルギー需給のひっ迫を懸念する原発推進派から「稼働が既定路線の原発に言及しただけで岸田総理は踏み込み不足だ」という批判が上がる状況でした。」
「官邸内からは、「エネルギー需給を見れば、世論が反対する余地はない」との声も聞かれます。」
「政府は更に2050年にカーボンニュートラル実現という政府目標を原発活用の後ろ盾にしていまして、総理周辺は「CO2を排出せず、エネルギーを安定供給するには原発は不可欠だ」とこのように語っています。」
「また総理周辺は、今回の方針は事実上「原発のリプレース(建て替え)に踏み込んだという意味合いもある、そして古い原発をそのまま使うよりも次世代型原発に建て替えた方がよっぽど安全だ」とも語っています。」

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(岸田総理の今回の方針転換について、)日経の世論調査、8月直近も7割が原発活用派なんですね。」
「それで国際エネルギー機関(IEA)の最新のレポートによると、原発は脱炭素で重要性を増して、2050年の温暖化ガスゼロを実現するには世界の原発を今までの3倍に増やさないといけないと。」
「そういう指摘なんです。」
「ところが現状はこうなんですね。(こちらを参照)」
「赤が中国で青はロシアなんですが、2020年、21年、22年、中国とロシアしか原発に投資してないんですよね。」
「で、これから3倍にしていかなくちゃいけないのに、特に中国とロシアですよね。」
「日本を含む先進国がもっと投資をしないといけないわけですよ。」
「安全保障政策なんですよ、原発は。」
「(その他の国は原発開発は全然やっていなかったことについて、)福島の原発事故の影響が大きかったんですけどね。」
「(世界で原発への意識が急速に変わりつつある中で、核廃棄物や安全性の問題、あるいはウクライナ危機による戦時下での原発のリスクなど、取り組まなければならない課題はたくさんあるが、)IEA(国際エネルギー機関)も大前提として、核のゴミの問題、あるいは安全性の問題、これは極めて重要な問題であることは指摘しているんです。」
「でも日本は今のままだと原発の技術を継承することが出来ない、あるいは人材を育てられないという問題があるわけですね。」
「そういう意味で原発の旗を掲げるということが国の大きな役割なので、今日(8月24日)の岸田総理の発言は極めて重要なものだったと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

政府も経団連も電力の安定供給、および脱炭素に向けて、原子力の活用は極めて重要であるという共通認識を持っています。
番組を通して電力を巡っての課題、および対応策を以下にまとめてみました。
(課題)
・今冬には電力不足が予想される
・原発の再稼働には地元の同意を得ることが条件になっている
・再稼働するためには安全性、および住民の避難計画が必要である
・原発の稼働停止が長引く中、原子力関連企業の多くが事業から撤退や縮小を余儀なくされている
・日本原子力産業協会には日本の原子力を巡る技術力の継承や組織の縮小を危惧する声が多く寄せられている
・技術の担い手の不足が続いている
  大学の原子力関係学科などの入学者数や教員数の減少
  試験研究炉の減少
・廃炉
・当面、太陽光や風力など発電量が不安定な再生可能エネルギー発電だけで“脱炭素”を実現するのは非常に厳しい

(対応策)
短期:
・今冬における電力不足に対して最大9基の稼働と火力発電の救急能力を追加的に確保する方針を政府は示している
中長期:
・経団連は7月22日、電力需給のひっ迫に対応するため、停止中の原発の着実な再稼働を求める提言を新たに発表した
・政府も原発の再稼働を目指す方針を示している
・8月24日開催のGX実行会議で、岸田総理は、再稼働済みの原発10基の稼働確保に加え、設置許可済みの残る7基を来年以降に再稼働することを目指すと表明した
・現在の稼働可能な原発の稼働年数を現行の40年から60年に延長する
・更に岸田総理は、次世代型原発の開発・建設について検討し、年末に結論を出すよう指示した
  複数の方式が検討されているが、経産省が一早く商用化を目指しているのが「革新軽水炉」と呼ばれる原発である
  更に世界で次世代型原発として注目が高まっているのが「小型炉」である
・政府は、原発の積極的な活用に舵を切ることで2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す方針である
・そのためには、経団連の試算によると2050年に原発で全体の20%の電力を賄おうとすると40基が必要で新しい原発の建設や建て替えは必要不可欠である

こうして見てくると飽くまでも様々な課題やリスクを抱える原発や火力発電から太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電へのシフトを図るか、それとも原発をベースロード電源とし、地球温暖化の進行を加速させる化石燃料による火力発電との組み合わせによる電力に依存して電力の安定供給を望むか、私たちは究極の選択を迫られていることが分かります。
私たちは福島第一原発事故により、多くの国民が原発事故の悲惨さを実感しています。
一方、地球温暖化の進行により既に世界各地で毎年のように大規模災害が多発しています。
こうした状況に輪をかけて、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとした化石燃料の輸入量の減少、および円安も伴った燃料費の高騰といった、エネルギー安全保障における大きな問題に私たちは直面しているのです。

また中国とロシア以外、欧米各国も福島第一原発事故などをきっかけに”脱原発”の方針のもと、2020年以降、原発開発はゼロです。
しかし、今や世界中の多くの国々はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに燃料の高騰、あるいは供給不足に悩まされています。
更に中国による台湾進攻といったようにエネルギー安全保障を揺るがす新たな火種を国際社会は抱えています。
なおIEAの最新レポートによると、IEAも原発の事故リスクを承知の上で地球温暖化の進行阻止を重視して2050年の温暖化ガスゼロを実現するには世界の原発を今までの3倍に増やすべきだとしているのです。

こうした状況を踏まえて現実的に考えると、やはり私も政府や経団連が唱えているように原発をベースロード電源としたエネルギー政策を進めるべきだという考えに至りました。
しかし原発の推進にあたって、政府は以下の条件をクリアすべきです。
・短期、および中長期エネルギー政策の方針の策定
  要件:安全性、安定供給、低コスト、環境へ負荷無し
・原発の再稼働、および新規の次世代型原発の稼働に際し、安全性を最優先とする
・”脱原発”、および”脱化石燃料”を目指す再生可能エネルギーへの全面シフトに至る具体的な施策、および達成期限の策定
・核廃棄物の安全な処分方法の検討
・こうした施策に対する国民の理解

なお、原発再稼働に対する国民の声、および核廃棄物の処分について10月4日(火)付けネット記事(こちらを参照)で以下のように報じています。

再稼働容認の姿勢は確実に浸透しており、8月末に公表された読売新聞の世論調査では、再稼働への賛成が58%、反対が39%と、2017年以後の調査で初めて賛成が反対を上回った。

電気事業連合会(電事連)は数年後に使用済み核燃料の置き場がなくなる、つまりは原発の稼働停止を暗示するデータを公開している。

日本経済新聞によると、日本のプルトニウム保有量の増加に対し米国は核不拡散の観点から懸念を示しており、2018年の日米原子力協定延長の条件として、余剰分の削減を求めたという。それを受け、内閣府の原子力委員会は約47トンあったプルトニウムを「それ以上増やさない」という指針をまとめている。つまりこれ以上プルトニウムは増やせなくなったのだ。

このままでは、数年後に原発がどの程度発電するのかがはっきりとせず、電源投資の予見性にも著しい悪影響を及ぼしてしまう。原発の行く末についての曖昧さは、電力の安定化どころか、将来の電源不足、需給ひっ迫を招きかねない。

こうした指摘からすると、どのような原発を新たに開発し、稼働させるにしても核廃棄物の処分はとても高いハードルなのです。
では国民の立場からどのようなことが出来るかですが、まず一般家庭や集合住宅、あるいはオフィスや工場などに可能な限り太陽光発電を設置することです。
そして、クルマを買い換える際にはEVを購入し、太陽光で発電した電力の一部でEVに充電したり、夜間に充電したEV搭載のバッテリーの電力を昼間、系統電力と併用して使用することです。
こうした積み重ねによって、多少なりとも電力需給のひっ迫を改善することが出来るのです。
電力会社の電力に“おんぶに抱っこ”ではなく、私たち一人ひとりも当事者として今やエネルギーの安全保障に向けて動き出すことが求められているのです。

 
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