2022年09月21日
アイデアよもやま話 No.5379 米中の武力衝突の可能性!
前々回、ウクライナ危機におけるある専門家の分析を通して、ウクライナ危機の背景についてお伝えしました。
そして前回、冷戦後のアメリカの対中政策についてお伝えしました。
今回も2月22日(火)付けネット記事(こちらを参照)を通して、米中の武力衝突の可能性におけるシカゴ大学政治学部のジョン・ミアシャイマー教授の見解について、その一部をご紹介します。

・米中の新冷戦は米ソ冷戦より『熱戦』に至る可能性が高い。地理的な理由が大きい。米ソ冷戦は欧州が中心で、北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の衝突は瞬時に核戦争に発展する可能性が高かった。代償が大きい分、米ソ間の抑止力は非常に強固だった。一方、東アジアの現状からは米中が台湾や南・東シナ海を巡って限定的な戦争に至る事態が想定できる。限定的な分、可能性は高まる。冷戦時代の米ソ戦争の可能性との比較で考えれば、米中戦争の可能性の方が高いという意味だ
・たとえば中国が台湾をめぐる争いに負けた場合、海上で核兵器を使用する事態が想像できる。米国による逆のケースもある。核兵器が海上で選択的に使われる事態だ。慎重な表現が必要だが、米ソ冷戦時の核戦争の可能性よりも、海上における米中の戦いで核が使われることを想像するほうが容易だろう
・(中国は「時間は中国の味方」と考えていることについて、)正しいかもしれない。中国が台湾を統一しようと考えれば、米国に対してはるかに優位になるまで待ったほうがよい。だが今後30年、中国経済がどうなるか知ることは難しい。だから最悪のケースに備え、米国は中国の封じ込めに全力を尽くさなければならない。軍事力は結局、経済力に基づいている

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

ミアシャイマー教授は、米中の武力衝突の可能性について、東アジアの現状から限定的な戦争に至る事態が想定出来ることから、冷戦時代の米ソ戦争の可能性との比較で考えれば、米中戦争の可能性の方が高いという見解です。
ところが、9月6日(火)放送の「プライムニュース」(BSフジ)で「日本周辺危機への備え」をテーマに取り上げており、 河野克俊前統合幕僚長、元海将は次のようにおっしゃっています。
「中距離弾道核ミサイルというのは(射程が)500kmから5500kmなんですよね。」
「で、中国から発射をすればグアム辺りまでカバーするわけですよ。」
「でもアメリカに中距離弾道核ミサイルを置いても、中国には届かないわけですよね。」
「ですから日本かフィリピン、この辺りに配備をしないと対中抑止という観点からはもう答えはないわけですよ。」
「私が強調したいのは、もう米中対立が安全保障の基軸になった時に日本は最前線に立ったと。」
「これは冷戦時代とは全然違うと、逃げれないと。」
「(日本政府には、)米中対立は日本の安全保障と直結した、日本のことだと考えて物事を進めて行ってもらいたいと思うんですね。」
「もう一つは、もしアメリカが日本に中距離弾道核ミサイルを配備したら、これは戦略環境に大逆転が起きるわけですよ。」
「どういうことかといいますと、中国のミサイルはグアムまではカバーしますけれども、アメリカ(大陸)には届かないわけです。」
「ところがアメリカのミサイルは中国大陸に届くわけですよ。」
「そうしたら戦略的には中国はガタンと不利になるわけですね、この時点で。」
「ですから、ヨーロッパのINF(中距離核戦力全廃条約 こちらを参照)の時と一緒ですよ。」
「で、こういう対中抑止の決定打になり得るんですよ、中距離弾道核ミサイルは。」
「(日本政府には、)そういったことも十分考えていただいて、断を下していただきたいなと思うんですよね。」
「で、私としては、この中距離弾道核ミサイルの配備を日本が進める時の一つの条件として、日本は、この撃つ、撃たないの意思決定には、「後はアメリカに全部お任せします」ではなく、日本の安全保障の問題ですから、日本の意思をそこに介入出来る何らかのメカニズムをつくるということを配備の条件にして、そういう意味の“核シェアリング”、意思決定に参画する。」
「だから、「撃たないでくれ」も含めてですよ、しかし「今、撃ってくれ」もですよ。」
「というのは、日本は今度のウクライナ戦争でどういうことになったかというと、核戦争を考慮して軍事的に動かないアメリカを見ちゃったわけですよ。」
「これ、なかったことには出来ない、日本人の脳裏には焼き付いちゃったわけですよ。」
「だから、今、核の傘に全面的に依存するで、全面的にアメリカがやってくれますということなんですが、そんなことを言い切れる人はいないはずなんです。」
「だから、ここは、そういう状況の変化があるので、何かの時にこのイメージが出てくるわけですよ、動かなかったアメリカというのがあるのでね。」
「それをアメリカの核の傘に全面的に依存して「はい、終わり」という話はもう出来ないんじゃないかと思うんですよね。」
「ですから、確実にこの核抑止を効かす意味でも日本に関与をさせてくれと。」
「従って、中国側もこれ困っちゃうんです。」
「核のプレイヤーはアメリカだけだったのが、日本も一枚かんでくるという話になりますと、中国側の計算が複雑化するんですよ。」
「これでも抑止力が高まるということなんですよね。」
「この辺りを考えていただきたいと。」

しかし、日本も一枚かむということになると責任も負うことになり、例えば日本の要望もあって、沖縄近辺の島から核搭載の中距離弾道核ミサイルが中国本土に行った時に、そこで数万人の方が亡くなる可能性があるが、その責任を日本がアメリカとシェア出来るのかについて、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長は次のようにおっしゃっています。
「アメリカは、今までのようにアメリカに“おんぶにだっこ”でみんな責任も含めて我々におっかぶせないでくれっていうところに今来ていますよね。」
「だから日本国を守るのに中距離弾道核ミサイルを(日本に)置くのであるならば、その責任はあなた方も負って下さいと。」
「これ非常に厳しい要求ですよ。」
「しかし、それをやらなければ、私たちが逆に中国の核に恫喝されて、下手するとどうなるか分からないというところです。」
「これほどに防衛環境、安全保障環境は厳しいのであって、国というものを守るということは、これだけの厳しい覚悟がいるんだということを我々は気が付いて、ちゃんと腹の中に収めておかなきゃいけないと思いますね。」
「(ウクライナ危機において、アメリカがロシアの核を前にした時に動けなかったという河野さんの指摘について、アメリカは信じられない部分がある、頼りきれない部分があると思うかという問いに対して、)それは、アメリカはアメリカの国益で動くわけですから、日本の国益と100%重なるわけではありません。」
「大部分は重なっても違う部分があるわけですから、その可能性はあるということを覚悟して、しかしそれでも我々は日本国を守るというところに立たなければ本当の意味での自立というのはないんです。」
「だから、それはやっぱりアメリカだってどうなるか分からない。」
「しかし、アメリカにとっての同盟国は日本なのであって、アメリカは日本国を必要として、日本国なしにはアメリカも立ち行かないのだよというだけの資格といいますか、力というものを日本が持たないとならないと思いますね。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

要するに、河野さんは、もし中距離弾道核ミサイルを日本やフィリピン辺りに配備すれば、米中の戦争勃発抑止力になると指摘されているのです。
そして、もし、日本に配備されるようなことになれば、そして実際に中国本土を攻撃するようなことになれば、アメリカと同様に日本もその責任を負うことになると櫻井さんは指摘されているのです。

ウクライナ危機が勃発するまでは、こうした生臭い議論を真剣にする必要性はなかったと思います。
しかし、もしウクライナ危機がロシアのプーチン大統領を満足させるような結果に終われば、中国の習近平国家主席も台湾進攻をより積極的に進めることになるのは間違いありません。
そして、アメリカのバイデン大統領は台湾有事に際しては台湾を軍事的に支援すると明確に表明しております。
ですから “台湾の有事は日本の有事”と言われているように、米軍基地のある日本も必然的に米中の台湾進攻に伴う軍事的対立に巻き込まれることになるのです。
ですから、日本政府は中国の脅威に対して、ミアシャイマー教授や河野さん、櫻井さんの指摘されている内容について、真剣に議論することが求められているのです。

 
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