2022年07月09日
プロジェクト管理と日常生活 No.753 『安倍元総理の銃撃事件は防げなかったか?』
昨日、7月8日(金)に衝撃的な事件が起きました。
あまりに衝撃的だったので、事件の本格的な解明はこれからですが、今の時点で入手出来る範囲でリスク管理の観点からお伝えします。

午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅周辺で、参院選の街頭演説中だった安倍晋三元首相(67歳)が銃撃され、同日午後5時3分に死亡が確認されたのです。(詳細はこちらを参照)
なお、7月8日(金)付けネット記事(こちらを参照)によれば、逮捕された元自衛官(海上自衛隊所属)の山上徹也容疑者(41歳)が「特定の宗教団体に恨みがあり、その宗教団体と関係がある安倍元総理を狙った」という趣旨の供述をしていることが分かりました。
そして、7月8日(金)付けネット記事(こちらを参照)でも指摘しているように、私もこの日放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)で繰り返し映し出された事件現場の状況を見ていて、なぜ事件発生を防げなかったのかとても疑問に思いました。
というのは、事件発生直前の容疑者のわずかな動きを把握していれば、安倍元総理の殺害は防げたはずだと思ったからです。

なお、「ニュース7」で、元警視庁警備部の特殊部隊で長年警備を担当しており、多くの要人の警護にも当たってきた伊藤鋼一さんがこの事件について以下のようにおっしゃっています。
「警備というのは100%でなければならないんですね。」
「1%のミスも許されない。」
「ですから、今回どのような警備体制を取っていたのか、その辺はこれから検証して明らかになっていくんだと思いますけど、残念な結果ですね。」
「(事件当時の映像からどんなことが分かるかについて、)警備の体制はSP(セキュリティ・ポリス)というか、警護課員もいますし、所轄の警察署、それと私服の刑事、そういったものを配置して、あらゆる角度から警備しているんですね。」
「それと要人警護で重要なことは“見せる警備”を今重要視していますので、直近には警察官は立たないですけども制服警察官が至るところで警戒していると。」
「その中で挙動が不信ですとか、動きがちょっとおかしい、それと大きなバッグを持っているとか、いろいろ考えて警察官はそこで職務質問するのではなくて、排除してから必ず質問して検査をするというのが鉄則なんですね。」
「今回、見た限りでは、犯人がバッグを持ちながらうろうろしていると。」
「直線的に対象者に向かっているということを考えると非常に抜けがあったと。」
「要は警察官どうしの連携が出来ていない。」
「あと、統率をしている、恐らく現状は警備本部が立っているんだと思うんですね。」
「そこには恐らく署長、そこの管轄する警察署長が陣頭指揮を執ってるはずです。」
「ですから、いろんな情報をそこでいろんな警戒員からいろんな情報を得たものを、そこでいろいろハンドリングをして情報を流しているわけですね。」
「そうしたら、こういう不審者がいれば、警察官が対処するというのはもう常識だと思いますね。」
「(特に容疑者の動きでどのあたりが不審だったのかについて、)対象者(安倍元総理)に対して、直線的に向かっていく。」
「それと、警護をしている警視庁のSPであれば、目を見れば分かると、これが不審なのかどうかと。」
「(表情ということかという問いに対して、)そうですね。」
「ですから、警視庁のSPもいるんでしょうけれども、やっぱりそこでまでは把握出来なかった。」
「ですから、外部の警戒は、恐らく奈良県警に依存していたということがあるんでしょうね。」
「(事件を防ぐことは出来なかったのかという問いに対して、)重要なところはいろんな部署から集められた情報を統合する、そういった現状の警備本部がきちんと情報を流して、そこにいろんな可能性があるんであれば、1%でも可能性があるんであれば、必ず排除するというのは重要なんですね。」
「(目撃者の話では、手製の銃と見られているが、かなり大きなものを持っていたというが、そういったものからも不審者であるということが分かるのかという問いに対して、)そうですね。」
「バッグを持ってうろうろしてますよね。」
「あれはもうほとんど、私から見れば、もう不審ですよね。」
「普通であれば、私服の刑事なりが排除すべきところだったんだと思いますね。」
「(今回、選挙戦のさ中で、かなり有権者の近くで話をするという状況になるが、こうした状況はこの警備体制に影響したかという問いに対して、)今は選挙期間中であっても、要人の方の演説している場所では“見せる警備”が重要になってきていますので、そういう警備をやっているんですね。」
「警視庁であれば、管轄の警察署長だけでなくて、機動隊員も前進で待機をして、何かがあれば、そこで対応していくという。」
「あとは、公安部という刑事もそこの現場に投入されていますので、いろんなことの想定をしながら、そこでいろんな警備をやっていくというのが本来の姿なんですね。」
「(これまでにも、政治家などの要人を狙った事件は起きているが、今回の事件を受けて、今後、何が求められるかという問いに対して、)やはり組織の全体として、きちんと警備をしていくっていうんですかね、いろんな部署の者がそこで情報を共有しながら一つの目的に向かっていこう、一致団結するというんですかね、ということが重要だと思いますね。」
「(具体的には今回、背後から狙われているという状況だったが、その当時の状況で、手薄であった可能性がある場所はあったのかという問いに対して、)私が考えるならば、交通規制をしてないっていう部分ですよね。」
「背後にもう少し制服の警備員が必要だったというのも見えてくるしょう。」
「動きがあれば。例えば、高所に警戒員を配置して、人の動きをずっと見てるわけですね。」
「そういった時に、必らず報告するわけですね。」
「そうしたら、いろんな部署の集まっている警察官がその者に対して排除していくというのは常識だと。」
「あと、犯罪発生した後ですね。」
「ひょっとしたら、この犯人は爆薬を持っているかも分からない。」
「ですから、やっぱりここにいるいろんな一般の市民をある程度遠ざけるというのが必要ですよね。」
「重要なことだと思います。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

元SPの伊藤さんのおっしゃった要点を以下にまとめてみました。
・警備は100%でなければならない
・警備の体制はSP、所轄の警察署、私服の刑事などを配置し、あらゆる角度から警備している
・要人警護では“見せる警備”が重要視されている
・今回の事件では警備本部を始めとする全体の事件防止体制、およびそれぞれの役割分担が明確でなかった

私が特に注目するのは「警備は100%でなければならない」という点です。
確かに今回の安倍元総理の演説は前日の7月7日に急遽決まったということで、警備する側としては限られた時間内で体制を組まなければならないという状況で大変だったと思います。
しかし、それにしても事件の状況を動画で見る限り、警備の状況が手薄だったのではという思いが消えません。
もし、今回の警備にあたり、限られた時間の中でも警備関係者が「警備は100%でなければならない」という観点で万全の対応がなされていればという気がしてなりません。
是非、今回の事件を契機に関係組織には適切な再発防止策を検討していただきたいと思います。

なお、リスク管理は、あることについて不都合なことが起きないようにいろいろな観点から検討し、対応策を講じることです。
中でも人命に係わることについては限りなく100%万全であることを目指した対応策が求められるのです。
ですから、要人警護も万全の態勢で臨まなければならないのです。

(追記)
警備は100%でなければならない」とお伝えしましたが、それでも100%万全な警護体制というのは現実にはほぼ不可能です。
ですから、こうした犯罪の究極のリスク対応策は、こうした犯罪者を生まない社会にすることだと気づきました。
同時に必要な対応策として、万一こうした犯罪が起きた際のコンティンジェンシープランとして、被害者の被害、および周りの人たちの二次被害を最小限に食い止める対応策です。

 
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