2022年07月08日
アイデアよもやま話 No.5315 元電通マンの挑戦に見る新たな働き方!
3月30日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で元電通マンの挑戦に見る新たな働き方について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

新型コロナの影響もあって、一つの会社で定年まで勤めあげる日本型の雇用に変化が生まれています。
東京・人形町にある、とあるビル、ここ数年流行りのシェアオフィスのようですが、利用者を見ると年齢層は高めの人ばかりです。
ここにいる人たちにはある共通点があります。
全員が大手広告代理店の電通出身なのです。
実は電通は約1年半前に「早期退職」を実施しました。
応募したのは約230人、このオフィスはその早期退職者が自由に利用出来る場所になっているのです。
退職者を支援するのが電通の子会社、ニューホライズン コレクティブ、その山口裕二代表は次のようにおっしゃっています。
「退職した人たちが個人事業主となって活動するんですけども、それらの方々全員と業務委託契約を結びまして、新しいことへチャレンジすることに対して、企業が中長期的に支援していくと。」

電通を早期退職した230人はそれぞれ個人事業主などとして独立、独立後電通の子会社、ニューホライズンと10年間業務委託契約を結ぶことで電通に勤め続けた場合の収入の約半分が保障される仕組みです。
56歳で早期退職した営業職出身の男性(57歳)は次のようにおっしゃっています。
「固定収入があるのはすごく安心材料で、やっぱり背中を押してくれた。」

一方、スポーツ局出身の桑原浩幸さん(58歳)は、退職後は畑違いの音楽ビジネスを始めました。
この日は演奏家として生きていくことを目指す、音大生たちとの打ち合わせでした。
元電通マンたちはどんな働き方をしているのか、桑原さんの自宅(東京・港区)を訪ねました。
今の桑原さんの主な仕事場はリビングの一画、なぜ大手企業の電通を定年前に退職したのでしょうか。
桑原さんは次のようにおっしゃっています。
「私の場合は電通に入社してがむしゃらに仕事をしてきて、40歳の時にたまたま国際スポーツ業務部長の要職に就かしていただいて、その時に実感したのは上から命令されるのも元々好きではなかったけど、実は下に命令するのもあまり好きじゃないんだななんて自分で気づきましてね。」

50歳の時にゼロからピアノを習い始めたことが現在の音楽ビジネスへの挑戦につながったといいます。
「すごい演奏力を持っている人たちの演奏をなるべく多くの人に聴いてもらえたらいいななんて思って、それが多分僕くらいの規模のビジネスで十分出来るんじゃないかな。」

埼玉県所沢市、ワンルームマンションの一室で引っ越しが行われていました。
クレーンで引き上げられるグランドピアノ、その横に桑原さんの姿がありました。
北海道の実家に戻るピアニストのためにピアノを無償で預かることにしたのです。
2週間後、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー(川崎市中原区)のロビーにあのグランドピアノがありました。
そこで始まったのが海外のコンクールで優勝した経験のある注目の若手ピアニスト、吉原麻美さん(25歳)のコンサートです。
吉原さんは武蔵野音大を首席で卒業し、クロイツァー賞など、受賞歴が多数あります。
吉原さんは桑原さんが支援する第1号ピアニストです。
住民向けのコンサートは無料、ピアノもマンションに無償で貸しています。
ミッドスカイタワー管理組合の代表理事、志村仁さんは次のようにおっしゃっています。
「(ピアノを)置いて欲しい人が世間におられまして、我々は我々で空いている空間があるわけですから、みんなにとってWin−Wi・・・。」

無料ばかりの桑原さんのビジネスですが、それでも利益を上げられる秘密はありません。
吉原さんが紹介したのは玄関近くに設置されたポップアップストア(期間限定で出店するショップ)です。
実は紙と木でできたイヤリングのメーカーなど2社、「日照堂」(イヤリング)、「リブロン」(花店)がタワーマンション住民との接点を求めてこのコンサートのスポンサーになっていたのです。
桑原さんは次のようにおっしゃっています。
「全てこういったスポンサーがあることによって成立するビジネスモデル、十分これで経済が回っていく。」

3月25日、宇都宮短期大学(栃木県宇都宮市)で新たなビジネスへの挑戦が始まろうとしていました。
大学のコンサートホールにいたのはあの吉原さんです。
そして桑原さんの姿もありました。
実は桑原さんは音楽レーベル「キームジーク」を設立、吉原さんのCDを販売する他、今後は演奏動画の配信なども検討していて、音楽レーベルでの動画配信のトライアルをしていたのです。
チームメンバーも電通を早期退職した音楽や映像のスペシャリスト、制作したコンテンツを世界に発信していきたい考えです。
こうした取り組みについて、桑原さんは次のようにおっしゃっています。
「本当に電通の皆さんの応援のお陰で今の私がいるので本当に感謝しております。」

また、桑原さんは次のようにおっしゃっています。
「仕事が遊びで、遊びが仕事になっているんですよね、今。」
「あまり働いている意識はなくて、何か世の中のためになることを自分たちのスキルで出来て、なおかつ自分たちが暮らしていける最低限のお金は稼げるということですね。」
「その辺が魅力なのかなと。」

仕事の規模は小さくなったものの、確かな充実感があるという元電通マンたち、ミドル層の新たな働き方のヒントになるかもしれません。

この元電通マンの取り組みを見て、羨ましいと思った方がいるかもしれません。
会社と早期退職者の関係は普通なかなかうまくいかないですが、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「これ(こちらを参照)は2020年の人口ピラミッドで、ちょうど50歳手前に第二次ベビーブーマーがいるんですね。」
「その前のバブル世代も含めて、ここのでっぱりを会社の中で減らしたいというのがいろんな会社の本音ではないかと考えるんですよね。」
「電通も“デジタル化の波”にもまれて組織を若返らえさなくちゃいけないと。」
「社員もこのまま残って役員や幹部ポストは中々ないと。」
「それなら割り増し退職金をもらって、今まで培った社外人脈を生かそうということになる。」
「10年間、(現役時代の)半額の収入を保障されているわけですから、それは大きいですし、しかも副業を本業に出来る人たちですよね、今見ていると。」
「で、今まで残って欲しい人ほど(早期退職で)辞めちゃうし、本当は辞めて欲しい人が残っちゃうと言われていたんですけど、これからは社外の人脈を持っている人ほど転身がし易いし、そういう人は実は仕事が出来ると。」
「なので、もう少し若い年代のうちに副業もやる二刀流の人材を育てるという度量を会社が持てるかどうか、これがポイントじゃないでしょうか。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

かなり前から「早期退職」制度は多くの企業で導入されていました。
そして、その背景には以下のような要因がありました。
・業績の悪化
・世代交代による組織の若返り

しかし、「早期退職」には以下の課題があります。
・会社にとって有用と思われる人材が早期退職してしまうこと
・まだこの会社で働きたい社員が半ば強制的に早期退職させられること
・早期退職した社員に対する会社のフォロー体制が整備されていないこと

こうした早期退職制度ですが、今回ご紹介した電通の早期退職制度は、理由はともあれ早期退職者にとって以下の点でかなり恵まれている方だと思います。
・早期退職者が自由に利用出来るオフィスが提供されていること
・個人事業主となった早期退職者とその退職者支援する電通の子会社が10年間の業務委託契約を結び、新しいことへチャレンジすることに対して、企業が中長期的に支援していくこと
・その際、早期退職者は電通に勤め続けた場合の収入の約半分が保障されること

こうした中、早期退職して畑違いの音楽ビジネスを始めた桑原さんは以下の点でとても理想的な事例と言えます。
・40歳の時にたまたま国際スポーツ業務部長の要職に就いたが、その時に自分は上から命令されるのも好きではないが、下に命令するのもあまり好きではないことに自分で気づいた
・50歳の時にゼロからピアノを習い始めたことが現在の音楽ビジネスへの挑戦につながった
・演奏力のある演奏家の演奏を多くの人に聴いてもらいたい、それが自分で十分に出来る規模のビジネスであると考えた
・主な仕事場は自宅のリビングの一画である
・北海道の実家に戻るピアニストのためにグランドピアノを無償で預かり、それを以下のように新たな音楽ビジネスにつなげた
  ピアノを川崎市中原区のタワーマンションのロビーに置かせてもらった
  そこで海外のコンクールで優勝した経験のある注目の若手ピアニストのコンサートを開催した
  住民向けのコンサートは無料、ピアノもマンションに無償で貸している
  ポップアップストアを希望する企業がタワーマンション住民との接点を求めてこのコンサートのスポンサーになっている
・音楽レーベル「キームジーク」を設立、先ほどの若手ピアニストのCDを販売する他、今後は演奏動画の配信なども検討していて、音楽レーベルでの動画配信のトライアルをしており、制作したコンテンツを世界に発信していきたい考えである
・チームメンバーも電通を早期退職した音楽や映像のスペシャリストである
・今の桑原さんは、「仕事が遊びで、遊びが仕事になっている」、そして「何か世の中のためになることを自分たちのスキルで出来て、なおかつ自分たちが暮らしていける最低限のお金は稼げるのが魅力である」と考えている

中でも注目すべきは桑原さんの思い描いた、少数でも無理なく展開出来る音楽関連のビジネスモデルです。
このビジネスモデルをリードする桑原さんは勿論のこと、以下の関係者全てにとってメリットがあるのです。
・演奏家
・マンションの住民
・スポンサー
・チームメンバー

ですから、このビジネスモデルはとても展開し易いと言えます。
そして、更に注目すべきは「仕事が遊びで、遊びが仕事になっている」という気持ちで毎日を暮らすことが出来る状態はお金では代えがたい人生の過ごし方だと思います。
こうした人生を送りたいと思っている方々にとって、桑原さんの選択した人生は大いに参考になると思います。

 
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