2022年07月07日
アイデアよもやま話 No.5314 「培養肉」が食の救世主に !?
アイデアよもやま話 No.5309 21世紀型モノづくりの主役として期待される3Dプリンター!で3Dプリンターが新たな産業革命をもたらすとお伝えしました。
そして、これまでアイデアよもやま話 No.5187 世界初、イスラエル企業が3Dプリンターで人工肉を開発!などで「培養肉」についてお伝えしてきたように食肉の世界においても3Dプリンターの活用が普及しつつあります。
そうした中、3月30日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で食の救世主になり得る「培養肉」について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付けは全て番組放送時のものです。

小麦やとうもろこしなどの一大生産国であるウクライナにロシアが侵攻したことで家畜の生産に欠かせない飼料の価格が高騰しています。
こうした中、飼料価格の高騰などに左右されずに人工的に食用の肉を作り出す「培養肉」の技術に注目が集まっています。
この「培養肉」、世界で懸念される食の確保、いわゆる「食料安全保障」の問題を解決する救世主となるのでしょうか。

食い倒れの街、大阪市北区、住宅街の一画にある日本料理店、雲鶴、骨まで丸ごと食べられる鯛が名物料理で、8年連続でミシュラン1つ星を獲得しています。
料理長の島村雅晴さん、ある料理を試作しています。
島村さんは次のようにおっしゃっています。
「(香ばしいのは)ちょっとスパイシーというか、ちゃんと動物性のたんぱく質だからだと思います。」
「(出来上がったのは、一見つくねに見えますが、)これは若ごぼうと培養鶏肉のつくねです。」
「こちらが培養鶏肉です。」
「これは鶏の細胞を取り出して、細胞だけを増やして作ったお肉です。」
「これまだ(お店に)出していないんです。」
「まだ出せないんです。」
「培養肉に関するルール作りがまだ整っていないので。」

培養肉とは、鶏や牛などから細胞を取り出し、それを体内に似た環境で人工的に培養して作る肉のことです。
国内では現在、安全基準などのルールが無いため、販売や試食が出来ないのです。
お店の3階に上がる島村さん、割烹着から白衣に着替えて向かったのは培養肉を培養するラボです。
実は島村さんは東京に拠点を持つ研究者と培養肉のベンチャー企業を立ち上げ、自らも培養肉の研究を始めました。
島村さんは次のようにおっしゃっています。
「ここに映っている、黒っぽかったり青っぽく映っているのが細胞です。」

まず細胞を培養液の中で増殖し、細胞自身の力で固まっていきます。
500円玉の大きさになるまで3ヵ月ほどかかります。
大量生産していない現状では、コストも数万円かかるといいます。
それでも島村さんが培養肉に取り組む訳について次のようにおっしゃっています。
「食料の安全保障の問題ですね。」
「少なくなっている資源を無理やりとって減らしてしまうのではなくて、足らない部分は培養肉で補えればいいかなと考えております。」

こうした培養肉、世界中で開発が進められています。
大阪大学は特殊な3Dプリンターを使って、「和牛」の培養肉を作ることに成功し、今週島津製作所などと共同で培養肉を自動生産する装置の開発に乗り出すと発表しました。
大阪大学大学院 工学研究科の松崎典弥教授は次のようにおっしゃっています。
「(自動生産で)かなり効率アップ出来ると思います。」
「数十倍から数百倍くらいは・・・」

イスラエルのフューチャー・ミート・テクノロジーズは昨年6月、鶏肉などの培養肉を1日で最大500kg製造出来る工場を設置、更にシンガポールでは2020年12月に培養肉の一般販売が世界で初めて認可され、地元のレストランなどで培養された鶏肉の提供が始まっています。

2030年には3兆円以上の規模に成長するという試算もある培養肉市場、なぜこれほどの成長が見込まれているのでしょうか。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は次のようにおっしゃっています。
「経済が豊かになってくるとともに肉の需要が増えていく。」
「畜産の拡大には環境問題などで制約も強まってきている。」

飼料の高騰だけでなく、水やエネルギーを大量に使う畜産は環境への負荷が大きく、今後の需要の増加に対応しきれないというのです。
一方、普及に向けてはコストの他、安全性や表示方法など課題も山積、日本政府も法整備に乗り出す考えです。
3月30日、松野官房長官は次のようにおっしゃっています。
「政府としても食品企業や研究機関とともに、そうした課題の解決に向けて関係省庁が連携して対応していく考えであります。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

コロナ禍、あるいはロシアによるウクライナ侵攻により、家畜の生産に欠かせない飼料や様々な食品の供給不足、および価格の高騰が続いています。
更に世界的な人口増により2050年には全世界の肉の生産量を2倍にしなければ、肉にありつけなくなるとも言われています。
ですから、島村さんも指摘されているように食料安全保障の観点から、飼料価格の高騰などに左右されずに人工的に食用の肉を作り出す「培養肉」の技術に注目が集まるのは当然です。
なお、こうした「人工肉」は大きく以下の2つに分類されます。
・肉を使わずに牛肉などを再現した100%植物由来の「代替肉」
・牛などの細胞を取り出して、それを体内に似た環境で人工的に培養して作る「培養肉」

そして、「代替肉」については以前からカニを中心に販売されています。
しかし、「培養肉」については国内では現在、安全基準などのルールが無いため、販売や試食が出来ない状況です。
こうした状況においても、既に海外では3Dプリンターを使った「培養肉」の開発が進められています。
しかも、シンガポールでは2020年12月に培養肉の一般販売が世界で初めて認可され、地元のレストランなどで培養された鶏肉の提供が始まっているのです。
遅ればせながら、ようやく国内においても大阪大学が3Dプリンターを使って、「和牛」の培養肉を作ることに成功し、島津製作所などと共同で培養肉を自動生産する装置の開発に乗り出すことになったのです。

なお、「培養肉」にもコスト、味、規制の観点でいろいろ課題があるようです。(こちらを参照)
しかし、もしある程度の料金で神戸牛などのブランド牛とほぼ同じ味の「培養肉」が食べられるようになったらと思うと市販化が待ち遠しくなります。

さて、日本は食料自給率が低いので(参照:No.2520 ちょっと一休み その395 『牛丼1杯に2000リットルの水が使われている!?』)本来であれば、国が率先して「人工肉」の開発を推進すべきなのですが、ようやく国も動き出したようです。

現在、日本は先進国の中で経済が停滞していることで目立っていますが、将来性のある事業分野でのベンチャー企業の活躍が目立たないことがその大きな要因だと思います。
ですから、遅ればせながら国は経済安全保障の観点の一つ、食料安全保障についてもリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
勿論、ロシアによるウクライナ侵攻、および中国の脅威から国家安全保障についても同様のことが言えます。

 
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