2022年06月28日
アイデアよもやま話 No.5306 ITを最大限活用してロシアの侵攻に立ち向かうウクライナ!
3月14日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でITを最大限活用してロシアの侵攻に立ち向かうウクライナについて取り上げていたのでご紹介します。

今回のロシアによるウクライナ侵攻ではSNSで“戦場の今”が瞬時に世界に向けて発信され、民間企業にもSNSを通じて様々な協力が求められています。
またサイバー攻撃も活発に行われています。
こうしたことから今起きているのは人類初めての「デジタル戦争」と言われています。
テレビ東京はウクライナ側のデジタル戦略を指揮するキーパーソンに単独インタビューし、「デジタル戦争」の最前線で何が行われているのか聞きました。
ウクライナ側でデジタル戦争の指揮をとるのが2年半前に創設されたデジタル庁です。
そのトップは副首相で起業家でもあるフェドロフ大臣(31歳)です。
そして副大臣に就くのが同じく起業家出身のボルニャコフさん(40歳)です。

今回、テレビ東京はボルニャコフ副大臣の単独インタビューに成功しました。
「侵攻前日までロシア軍が全力でウクライナ全土に侵攻してくるとは思っていませんでした。」
「翌朝6時に爆発音で目が覚めました。」
「それがこの戦争の始まりです。」
「あれ以来、ウクライナに週末はありません。」
「至急やらなければならないことが無数にあります。」

今はキエフ(ウクライナ語に沿った表記はキーウ)を離れ、非公開の場所で身を潜めながら「デジタル戦争」の指揮にあたっています。
「(最初にしたことは、)データを失わないようにサーバーなどを移動し、一部はクラウドに移管しました。」
「また初日に“IT軍”を創設することを決めました。」

ウクライナの“IT軍”のSNSサイトには毎日いろいろな指示が書き込まれています。
このグループには約30万人が参加しています。
“IT軍”の掲示板の内容は誰でも見ることが出来ます。
そこには「明日のターゲットはロシアのニュースサイト、クラッシュさせよう」、「ありがとう、昨日の目標は全て達成しました」といった内容があります。
そこでは政府機関や企業、メディアなどにサイバー攻撃を仕掛ける指示が書き込まれています。
サイバー攻撃に詳しい専門家、トレンドマイクロの岡本勝之さんは次のようにおっしゃっています。
「通信を1ヵ所に集めてサービスを止めさせるといった攻撃がほとんど。」
「(登録している)30万人全員がサイバー攻撃を行うというところではないと思うんですけども、もし30万人全員がサイバー攻撃を行ったとしたら、かなり大きな戦力ではあるかなと思います。」

一方、ロシアからのサイバー攻撃に対して、ボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「戦争は2週間前ではなく、(クリミア侵攻の)8年前に始まりました。」
「サイバー攻撃からの防衛ノウハウを蓄積出来ています。」

また2月26日のテレグラムでウクライナのゼレンスキー大統領は次のようにおっしゃっています。
「我々の独立を守っている。」
「我々の国をこれからも守り続ける。」

デジタル戦争の最大の特徴が大統領から市民にいたるまで戦場の今をリアルタイムでSNSに投稿し、世界に拡散させていることです。
デジタル庁のボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「SNSはとても重要です。」
「国民に安全と勝利への自信を与えることが出来ます。」
「また政府の動きも届けることが出来ます。」
「SNSなしではとても難しいでしょう。」

それは今、民間企業も巻き込んでいます。
デジタル庁のフェドロフ大臣は次のようにおっしゃっています。
「インテル、平和のための技術ですよね。」
「ロシアに製品を売るのは止めて下さい。」

「マイクロソフト、もう少し出来ることがあるはずです。」

フェドロフ大臣が中心となり、既に300を超える民間企業に協力を求め、SNSでメッセージを送信しました。
ボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「(なぜ誰でも見られるSNSを使うのかという問いに対して、)それは一番インパクトがあるからです。」
「メールでは企業は「見ていない」と言えます。」
「SNSだと瞬時に何百万の人が見て、企業も反応せざるを得なくなります。」
「注目を集めることが重要なのです。」

開戦直後にスペースXの創業者、イーロン・マスクさんに求めたものがフェドロフ大臣による「スターリンクを貸して欲しい」というものでした。
それの要望に対して、「使えるようにしてすぐに届ける」というのがイーロン・マスクさんからの返事でした。
スターリンクとは、スペースXが開発中の人工衛星を使ったインターネット接続サービスです。
ボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「1000以上のスターリンクが届けられ、軍や重要な公共インフラに配布されています。」
「ロシアが通信を妨害しようとしても、スターリンクは衛星からインターネットにつながるので助けられています。」

そしてデジタル庁は支援をした国や企業に感謝を述べる動画をすぐさまSNSに投稿します。

今、ウクライナは暗号資産を使って世界から資金を直接集めています。
デジタル庁のボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「既に70億円以上集まっています。」
「本当に予想以上です。」
「防弾チョッキ・食料・ヘルメット・医薬品など、軍の支援物資の購入に使っています。」

当初は、ロシアが侵攻すれば数日以内に首都が陥落すると見られていたウクライナ、想定以上に食い止められている背景にはこのデジタル戦争がうまくいっているからだと主張します。
ボルニャコフ副大臣は次のようにおっしゃっています。
「(デジタル戦略が)この戦争で重要な役割を果たしています。」
「ロシアのインフラを妨害して彼らの動きを遅くしています。」
「(企業に呼びかけ、)ロシア経済にダメージを与えることで軍資金を減らせています。」
「世論調査では92〜93%のウクライナ人がこの戦争に勝つと自信を持っています。」


人類史上初のデジタル戦争、日本の備えは十分なのか、小野寺元防衛大臣に聴きました。
「サイバー攻撃に向う分野は、政府の情報もあれば、防衛分野もあれば、民間の分野もある。」
「まだまだやるべき課題は沢山あると思います。」
「(これから足りない部分をどう補なっていくのかという問いに対して、)まず圧倒的に一番は人材です。」
「サイバーに詳しい人材育成、特に若い感覚で早く柔軟な対応をしなきゃいけない。」
「自衛隊でもしっかり育成するために例えば自衛隊の高校があいます。」
「民間には、日本は情報通信の先進国ですから多くの人材もおります。」
「軍という組織ではなくてオールジャパンでサイバーを防衛する。」

日本もNATOと一緒にサイバー対策を非常に研究しているということでした。
そして、今回、ウクライナの戦い方でSNSが強力な武器になるということがよく分かりました。
戦況に大きな影響を与えていることも間違いなさそうだということですが、SNSで呼びかけられて、政府だけではなくて民間企業もスタンスを明確にする必要が出てきていることも今回の大きな特徴です。
解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「初期段階ではロシアのハイブリッド戦略(サイバー戦や情報戦といった非軍事的手段の活用)が注目されたわけですけども、ウクライナは市民を巻き込んだ格好で反撃に出ているというところで非常に注目される動きですね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、今起きている人類初めての「デジタル戦争」について以下にまとめてみました。
・ウクライナはデータを失わないようにサーバーなどを移動し、一部はクラウドに移管し、初日に“IT軍”の創設を決めた
・“IT軍”のSNSサイトには毎日いろいろな指示が書き込まれており、このグループには約30万人が参加していて、掲示板の内容は誰でも見ることが出来る
・ロシアとの戦争はクリミア侵攻の8年前に始まり、ロシアによるサイバー攻撃からの防衛ノウハウが蓄積出来ている
・ウクライナは暗号資産を使って世界から必要とする戦費を直接集めている
・デジタル戦争の最大の特徴が大統領から市民にいたるまで戦場の今をリアルタイムでSNSに投稿し、世界に拡散させていることである
・ゼレンスキー大統領は毎日、ウクライナ侵攻の状況をSNSに投稿し、世界各国にウクライナ支援を求めている
・一方、デジタル庁ではSNSを通じてインテルやマイクロソフト、スペースXなど多くの世界中の民間企業に支援を求めており、開戦直後にスペースXの創業者、イーロン・マスクさんに貸与を求めたスターリンクは軍や重要な公共インフラに配布されており、ロシアによる通信妨害対策として役立っており、またロシアのインフラを妨害して彼らの動きを遅くしている
・暗号資産を使って世界から予想以上の資金を直接集めている
・当初は、ロシアが侵攻すれば数日以内に首都が陥落すると見られていたウクライナだが、想定以上に食い止められている背景にはこうしたデジタル戦争がうまくいっていることがある

こうしたウクライナによるITを最大限に活用した人類初めての「デジタル戦争」が功を奏して、以下の成果をもたらしているのです。
・当初は、ロシアが侵攻すれば数日以内に首都が陥落すると見られていたウクライナが想定以上に食い止められている
・世論調査では92〜93%のウクライナ人がこの戦争に勝つと自信を持っている

なお、ウクライナによる「デジタル戦争」の中でもSNSの活用は以下の点で特筆すべきだと思います。
・“IT軍”のSNSサイトの掲示板の内容は時々刻々と毎日更新され、リアルタイムで世界中の誰もが見ることが出来る
・従って世界中の多くの人たちの共感を継続して得ることが出来る
・また協力を求められた国や企業は何らかの反応せざるを得ない
・更に個々の戦闘地域での市民による動画アップなどがウクライナ軍の重要な戦況把握手段となり、有効な戦術のデータとして活用されている

ということで、ロシアによるウクライナ侵攻におけるウクライナの戦い方は日本も含めて世界中の多くの国々に対して今後の効率的、かつ効果的な戦い方の事例として大いに参考になると思われます。

 
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