2022年06月11日
プロジェクト管理と日常生活 No.749 『”中国式民主主義”の世界展開による民主主義の危機』
今や、アメリカの最大の脅威は中国であると言われています。
そうした中、ちょっと古い記事ですが、昨年3月24日付けネット記事で”中国式民主主義”について取り上げていたのでその一部をご紹介します。
なお、特に注目すべき箇所については赤字で表記しました。

・アメリカのアンカレッジで行われた米中両国の外交トップの会談は、マスコミの前での激しい非難と攻撃の応酬で始まり、その後、2日間(昨年3月18日、19日)にわたって協議が行われた
・アメリカのブリンケン国務長官や中国の外交トップである楊潔篪・共産党政治局員の発言記録を読むと、ブリンケン長官は新疆ウイグル自治区や香港、台湾、アメリカへのサイバー攻撃と中国に対してバイデン政権が抱く懸念を淡々と列挙したうえで、「米中関係は問題によって競争的であったり、協力的であったり、ときには敵対的である」と静かなトーンで述べている。
・ところが、これを受けた楊氏は延々と独自の主張を展開した。それは中国の内政から外交にわたってその政策の正当性を主張するとともに、アメリカは内政干渉をやめるべきで、アメリカこそ国内に数多くの人権問題などを抱えていると非難するなど、いつもながらの内容だった。
・聞く相手がうんざりするほど延々と自説を展開するのは、首脳会談や外相会談などで中国がよくやる手法だ。
・楊氏は「アメリカや西側世界は国際世論を代表するものではない。世界の圧倒的多数の国々は、アメリカが提唱する普遍的な価値観やアメリカの意見が国際世論を代表するとは考えていない」などと述べ、民主主義の伝道者であるかのように振舞うアメリカを非難した。
・その大前提にあるのは、「アメリカにはアメリカ流の民主主義が、中国には中国流の民主主義がある」という理屈である。
・民主主義は普遍的価値を持っており、国によって定義が大きく異なるものではないというのが、民主主義国での常識だ。ところが中国の主張はまったく異なる。「民主主義のかたちは一つではなく、各国にそれぞれの民主主義のスタイルがある」というのだ。
・もちろん、これは中国に都合のいい勝手な理屈以外の何物でもない。中国は自分たちも自由や民主主義を大事な価値として独自のやり方で実践していると、臆することなく主張している。
・中国の政治や法律など統治システムのすべてがこの理屈で成り立っており、それに基づいて外交や安全保障などの国家戦略が構築されている。それを踏まえたうえで西側諸国は対処しなければならないのだ。
・習近平主席をはじめ、中国の指導者はしばしば「人民」という言葉を使う。その一方、われわれになじみのある「国民」という言葉はほとんど使わない。中華人民共和国という国名をはじめとして、憲法や法律も、人民を使っても国民という言葉は使われていない。
・問題は人民という言葉の意味だ。中国憲法では第1条で、「中華人民共和国は、労働者階級が指導し、労働者、農民の同盟を基礎とする人民民主主義独裁の社会主義国である」と規定し、さらに第2条で「あらゆる権力は人民に属する」「人民が国家権力を行使する機関は、全国人民代表大会および地方各クラス人民代表大会である」などと定められている。
・先進民主主義国で当たり前のように言われる国民主権という言葉はなく、中国は人民主権の国なのである。では、国民と人民は同じなのか。
・周恩来首相はよりクリアに定義している。「人民と国民には区別がある。人民は労働者階級、農民階級、反動階級から目覚めた一部の愛国民主分子である」としている。そして、人民に含まれない人たちについては「中国の一国民ではあるので当面、彼らには人民の権利を享受させないが、国民の義務は遵守させなければならない」と説明している。
・つまり、国民と人民は異なるものであり、国籍を持つ国民全員が人民であるというわけではない。人民は中国共産党の掲げる思想や政策を支持する国民の一部の人たちであり、それを支持しないで批判や反対する国民は人民ではないのである。
・そればかりか人民に属さない国民は、人民の敵であり、人民が持つ権利は行使できないが、法律を守るなどの義務を負うというのだ。
・半世紀以上も前のこうした毛沢東や周恩来の考えが、まさか今日も生きていることはなかろうと思いたいところだが、残念ながら現行憲法を見る限り、国民と人民を区別する考え方は明らかに継承されている。さらに中国の憲法には「いかなる組織ないし個人も社会主義体制を破壊することを禁止する」とも記されている。つまり人民ではない国民に対するさまざまな弾圧や抑圧が法律上、正当化されているのだ。
・中国の論理からすると、中国共産党が一党支配する現在の中国政治を批判する人は、中国の国籍を持っていても主権を行使できる人民ではなくなるばかりか、人民の敵となってしまう。中国のさまざまな法律に基づいてさまざまな権利を奪われてしまううえ、言動が規制されてしまう。
・新疆ウイグルにおける大規模な人権弾圧も、中央政府に批判的な活動をする人権派弁護士や作家、ジャーナリストらの拘束も、彼らを人民の敵であると規定することですべて正当化される。そして習近平体制の下でこうした弾圧がますます強化されていることは、毛沢東や周恩来の唱えた国民と人民の区別が今日も厳然と生きていることを証明している。
・先日閉会した全国人民代表大会で認められた香港の選挙制度改正は、この理屈をついに香港にも徹底させることを意味している。香港の場合、人民と愛国者が同じ意味で使われており、新たな選挙制度では香港の政府や議会など統治システムには愛国者しか参加できなくなる。

立法会選挙に立候補しようとする者が愛国者であるかをチェックするのは、人民主権を守るために当然の合法的な手続きであるということになる。その結果、香港の民主化や独立を主張する人々は愛国者ではない、人民の敵となるのだ。
・米中高官会議における楊氏の発言にみられるように、中国が独自の民主主義論を今後もますます前面に出していくだろうことは明らかだ。そして、中国の論理は世界中の独裁者や権威主義的国家にとっては実に都合のいいものであり、感染症のようにあっという間に世界中に蔓延しかねない。そうした国々が中国を中心に手前勝手な民主主義論を掲げて結束したときに国際社会はどうなるのか。
・これは民主主義と権威主義のいずれが優れているかという次元の話ではなく、民主主義が直面している危機だろう。先進民主主義国を中心に国際社会が連携してその価値を高める努力をしなければ、手前勝手な民主主義が国際社会に広がりかねない。世界は今、そんな状況にある。

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

そもそも世界の民主主義国家の国民からすれば、独裁政権国家である中国が唱える“中国式民主主義”という言葉にうさん臭さを感じてしまいます。
そこで、この記事を通して、“中国式民主主義”の特徴について以下にまとめてみました。
・中国においては、国民と人民は異なるものであり、人民は中国共産党の掲げる思想や政策を支持する国民の一部の人たちであり、それを支持しないで批判や反対する国民は人民ではない
・人民に属さない国民は、人民の敵であり、人民が持つ権利は行使出来ないが、法律を守るなどの義務を負う
・人民ではない国民に対するさまざまな弾圧や抑圧が法律上、正当化されている
・中国の政治や法律など統治システムのすべてがこの理屈で成り立っている

こうした中国の状況からNo.5268 ちょっと一休み その825 『中国の全人代は本当に国民の代表?』でお伝えしたようなこと、あるいは習近平国家主席や中国の高官が中国の内政から外交にわたってその政策の正当性を主張するとともに、他国に対して内政干渉をやめるべきという主張を繰り返すことがうなずけます。

さて、今回特に注目したいのは以下のことです。
・中国のこうした論理は世界中の独裁者や権威主義的国家にとっては実に都合のいいものであり、感染症のようにあっという間に世界中に蔓延しかねない
・そうした国々が中国を中心に手前勝手な民主主義論を掲げて結束した時に民主主義は危機を迎える

このように中国は同じ覇権国家であるロシアに比べてはるかにしたたかで、“中国式民主主義”を掲げたり、“一対一路”政策など戦略的な動きを繰り広げつつあるのです。
しかも、こうした中国の戦略により、プロジェクト管理と日常生活 No.666 『国連の専門機関の支配権を強める中国!』プロジェクト管理と日常生活 No.718 『ウイグル人の人権を巡る国連での米中支持の驚くべき割合!』)、あるいはアイデアよもやま話 No.5218 増え続ける中国の”債務の罠”にはまる途上国!でもお伝えしたように既に国連や途上国における中国の支配力は強化されつつあるのです。
更に、“中国式民主主義”を世界中の独裁者や権威主義的国家に広めることにより“中国式民主主義”陣営国家を増やそうとしているのです。
しかも、習近平国家主席が“中国式民主主義”の旗を降ろすようなことは絶対になさそうです。
こうした中国に対抗すべく、冒頭でもお伝えしたように、アメリカは今の最大の脅威は中国であるという見方をしているわけです。
勿論、日本にとってはアメリカが受け止めている以上の大変な脅威です。

ですから今やアメリカ1国が中国に対抗するのではなく、ヨーロッパや日本をはじめとする民主主義陣営の国々は団結して国連での影響力や途上国への中国とは異なる方法での支援強化を図ることが必須なのです。

リスク管理の常道からすれば、民主主義陣営の国々は中国のこうした戦略の脅威に対して、もっと早い時期に適切な対応策に取り組むべきだったのです。
中国による“中国式民主主義”の世界展開を阻止すべく、今からでも真剣に取り組むべきなのです。
そうでなければ、今世紀半ばにも“中国式民主主義”が世界中にまん延し、世界各国が中国式の法治に取り込まれてしまう可能性は限りなく高くなってしまいます。
もし“中国式民主主義”に世界中の多くの国々が取り込まれるようなことになれば、世界中の多くの人たちが中国における“人民ではない国民”扱いを受けることになってしまうのです。

 
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