2022年05月21日
プロジェクト管理と日常生活 No.746 『コロナ禍で進むBCP』
1月12日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でコロナ禍で進むBCP(事業継続計画 Business Continuity Plan)について取り上げていたのでその内容の一部をご紹介します。
なお、日付けは全て番組放送時のものです。

もし1割の従業員が仕事を休んだら事業を継続出来るのでしょうか。
今日、全国で確認された新型コロナウイルスの新規感染者は約4ヵ月ぶりに1万人を超えて、様々な業界で働き手の不足が懸念されています。
海外では航空便や地下鉄の運休など、社会インフラにも影響が出ていて、日本の企業も対策を迫られています。
今日、IT大手のGMOインターネットグループでは社内での感染者の状況を確認、国内で更に感染が拡大した時も事業を継続するため、社内体制について話し合いました。
懸念しているのは欠勤者の増加です。

今日、東京都の小池知事は都庁において次のようにおっしゃっています。
「目には見えないけれども、ある意味、首都直下地震と同じではないかと。」
「優先業務を洗い出し、そして1割を超える従業員の欠勤を前提にされて、応援要員の手配方法、具体的な段取りなど、至急点検をお願いしたいと。」

小池都知事は、企業側に従業員が欠勤した場合に備えて、事業継続計画(BCP)の点検や策定を求めました。
このまま感染が拡大すれば、感染者や濃厚接触者が増え、それぞれの会社で従業員の1割以上が欠勤することも想定すべきと警鐘を鳴らしたのです。

こうした状況を受け、会議を開いたGMOインターネットの西山裕之副社長は次のようにおっしゃっています。
「我々はインターネットサービスを24時間、365日、止めることが出来ないので、仮に欠勤者が1〜2割とか出る状態になったとしても、しっかり回る状態を確保するというのは完全に出来ております。」

GMOでは他の会社に先駆けるかたちで2年前から在宅勤務を全面的に導入、感染状況に応じた独自の基準も策定しました。
現在、都内の拠点などは「レベル1」で出社率は6割程度、更に感染状況が悪化した場合は原則「全員在宅」とし、出社する時は上司の許可が必要とすることも検討しています。
また、複数人のチームで業務にあたることなどで欠勤者が出てもチーム内でカバーする体制を整えているといいます。
GMOインターネットグループの熊谷正寿代表は次のようにおっしゃっています。
「今後インフルエンザのようにお付き合いするようになるウイルスになる。」
「それを前提に企業経営を考えると、オミクロン株がばあッと広がったからといって、ガタガタしてはいけない。」
「我々のもう確立したBCPのシステムを淡々と、粛々とグループ全体で稼働させていけばいいです。」

欠勤する社員が急増した時、社会インフラを担う企業はどう対処するのでしょうか。
JR東日本は従業員の感染人数に応じて運航率を下げます。
東京メトロで感染者が多く出た場合、緊急事態用の特別ダイヤで5割程度に運行本数を減らすとしています。
また全日空では、一部空港でスタッフが不足した場合、他の空港から応援を出して対応するとしています。
ただ、全ての企業が事業を摺る継続する計画を立てられるわけではありません。

スーパーでは従業員が感染した場合、どういった対応を想定しているのでしょうか。
都内を中心に6店舗、従業員およそ200人を抱えるスーパー、アキダイ(東京・練馬区)の秋葉弘道社長は次のようにおっしゃっています。
「(小池都知事が、従業員の1割以上が欠勤しても大丈夫なように準備をしておくようにと求めていることに対して、)ありえないでしょう。」
「そもそも1割以上の従業員がいなくても大丈夫であれば、その状態で営業しているわけですよ。」
「お店で安くていいものを販売するためには5人でやる仕事を3人でやろうと。」
「正直、1人いないことでみんな大変なことですよ。」
「可能性からいうと、1店舗、1店舗の人員を減らしてやるというのは物理的に難しいものがあるんですよ。」
「であれば、思い切って1店舗丸々休んで5店舗で運営するというかたちをするしかないかな。」
「その地域のお客様がいて、ご不便をおかけしちゃうのでなるべくやりたくはない。」

なお、今日、IT大手のヤフーが発表したのは居住地を全国どこでも自由に選べる新たな働き方の制度です。
東京・千代田区にあるヤフー本社、今日、オフィスを訪ねると人がほとんどいません。
コロナ禍でテレワークを本格導入したこともあり、現在、社員の出社率は約1割だといいます。
そうした中、川邊健太郎社長が社員に向けて新たな制度の導入を発表しました。
「前提はオンラインなんですと。」
「共通の作業空間はもはやオンラインなんですよということを我々踏み込んで意思決定したので、・・・」

これまで午前11時までに出社出来る範囲と定められていた居住地選びのルールを撤廃、社員など8000人が対象で、4月からは日本国内であれば、住む場所をどこでも自由に決めることが出来ます。
SR推進統括部所属で子ども向けサイト、「ヤフーキッズ」の責任者をしている内堀愛さんは、一昨年、長野県の実家近くの古民家に移住し、テレワーク勤務を継続しています。
内堀さんは次のようにおっしゃっています。
「(新たの制度の導入について、)地元が結構遠い人も自由に勤務地(居住地)が選べるようになると、人生で家を持つという選択肢だったりとかも、いろいろなものが増えていいんじゃないかなとすごく感じますね。」

内堀さんも地方に住んだことで趣味が増えた他、野菜作りなどで気分転換が出来ることが仕事の効率化につながっているといいます。

ヤフーは、今回の制度で片道6500円の交通費の上限を撤廃、月間15万円までで飛行機通勤などを認めます。
自由な働き方を拡げることで優秀な人材を確保したい考えです。
内堀さんは次のようにおっしゃっています。
「どういうかたちが一番自分にとって良いのか、選べることが一番大きな違いというか、メリットのような気がします。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

そもそもBCPとは、「テロや災害、システム障害など危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を用意し、生き延びられるようにしておくための計画」を指します(こちらを参照)
従って、BCPの策定は国や企業がどんな場合においても事業を継続させるためのリスク管理としてとても重要なのです。

なお、今年で阪神・淡路大震災(1995年1月17日に発生)から27年を迎えますが、この震災後にはBCPが一大ブームとなり、大企業を中心に首都圏と関西圏でのコンピューターセンターの2センター化に向けた取り組みが進みました。
そして、今回のコロナ禍では、感染拡大阻止を狙いとした国による外出制限の要請が繰り返し出されました。
こうした要請に応えるべく、企業や自治体などは在宅勤務、あるいはリモートオフィスといったように、従業員がいつでもどこでも業務を継続出来るような業務スタイルにシフトさせることで乗り切っています。
そして、今では多くの企業は在宅勤務、あるいはリモートオフィスを常態化させつつあるのです。

さて、番組を通して、コロナ禍をきっかけとしたBCPの取り組みの事例を以下にまとめてみました。
(GMOインターネットグループ)
・2年前から在宅勤務を全面的に導入
・感染状況に応じた独自の基準の策定
・複数人のチームで業務にあたり、欠勤者が出てもチーム内でカバー可能な体制の整備

(JR東日本)
・従業員の感染人数に応じて緊急事態用の特別ダイヤで5割程度に運行本数を減らすこと

(全日空)
・一部空港でスタッフが不足した場合、他の空港から応援を出して対応

(都内のスーパー、アキダイ)
・特定の店舗での人員を減らしての営業は物理的に難しいので、その店舗は丸々休業すること

(ヤフー)
・テレワークの本格導入による、居住地を全国どこでも自由に選べる新たな働き方の制度の導入(こちらを参照)

こうしてみてくると、IT業界は元々テレワークがメインなのでいつでもどこでも仕事がし易く、他の業界に比べてかなりBCPの構築が容易であると言えます。
一方、サービス業を中心にまだまだ当分は人手を介さざるを得ない業界においては、他の部署から要員を手配する、あるいは一部の業務を停止する、すなわち要員が確保出来る範囲での対応ということになります。

しかし、今は人手を介さざるを得ない業界においても、以下のように断片的にDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進みつつあります。
・キャッシュレス化による無人店舗
・配送など、必要に応じたロボットやドローンの導入
・タクシーや船舶、航空機などの自動運転化
・各業界における遠隔操作の普及

特に遠隔操作の導入はテレワークの部類に入りますから、完全自動化は出来なくてもIT業界と同様にいつでもどこでも業務の継続が可能になります。

ということで、究極のBCPはいつでもどこでも業務が継続出来る労働環境、あるいは完全自動化になりますが、そこに至るまでは出来るだけ遠隔操作を可能にする作業環境の構築ということになると思います。

図らずもコロナ禍はこうしたDXへの取り組みを推進するきっかけを与えてくれたのですから、“禍を転じて福と為す”であらゆる業界がDXに真剣に取り組んでいただきたいと思います。
まさしく、こうした取り組みが生産性の向上のみならず、BCPに直結するのです。

なお、内堀さんも指摘されているように、在宅勤務や地方への移住などでのテレワークには以下のようなメリットがあります。
・趣味など自由な時間の増加
・野菜作りなどでの気分転換
・こうした個々人の望む暮らしの実現による仕事の効率化
・自由な働き方による優秀な人材の確保

更に、こうした取り組みが世界をリードするレベルに達すれば、海外からも優秀な人材が集まりますから、少子高齢化対策にもなります。
ですから、こうした取り組みは国を挙げて積極的に進める価値は大いにあると思うのです。

なお、コロナ禍という事業継続を脅かすような事態に遭遇しても、本来、あらかじめ策定しておいたBCPに基いて欠かせない重要な業務だけでも継続させるような体制が国にも企業にも求められていたのです。

さて、ロシアによるウクライナ侵攻は更に世界規模でのサプライチェーンにおけるBCP、更には中国の脅威にも対応すべく、国家安全保障における根本的なリスク対応策の見直しを日本に迫っています。
特に国家安全保障は国の存続に係わる、国にとって最も重要な課題です
更に、日本の場合は首都直下型地震、あるいは南海トラフ巨大地震の発生リスクも抱えています。

ですから、こうしたリスクに対応すべく、国も企業も机上論ではなく、現実的、かつ効果的、効率的な対応策、あるいはBCPを検討すべきだと思います。

 
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