2022年05月14日
プロジェクト管理と日常生活 No.745 『香港で相次いだメディア停止』
1月10日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で香港で相次いだメディア停止について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付けは全て番組放送時のものです。

香港の言論の自由を象徴していた民主派メディア「リンゴ日報」の最終号」発行されてから半年が経ちました。
香港国家安全維持法の影響が強まる香港では今、同様に民主派と見なされるメディアが次々に廃止に追い込まれています。
配信停止が決まった民主派メディアの記者が苦しい胸の内を語りました。

年の瀬の押し迫った2021年12且29日の香港、連行され、ビルから出てきたのはネットメディア「立場新聞」の編集幹部です。
この日、幹部ら6人が「扇動的な出版物の発行」を共謀した疑いで逮捕されました。
「立場新聞」は編集部も家宅捜査を受けた他、資産が凍結され、逮捕当日には配信停止を発表し、記事も削除されました。

「リンゴ日報」の廃刊後、自由な言論や報道を担っていたネットメディアに当局が伸ばした捜査の手、その衝撃は同業他社にも及んでいます。
つい先週までネットメディア「衆新聞」の元記者だったダレンさん(仮名)は次のようにおっしゃっています。
「同僚も私も泣いた。」
「とても残念。」

「衆新聞」の李月華編集長は次のようにおっしゃっています。
「ニュースが法に違反しないか、変化が激しく判断がつかない。」
「自信を持って記者たちに仕事をさせてあげられない。」

運営停止を発表したのは民主派寄りと見られる「衆新聞」、調査報道や特集記事の配信に定評があり、SNSでの登録者数は40万人を超えていましたが、現状では安全が確保出来ないと継続を断念しました。
香港ではネットメディアでこそ市民が望む報道や発信が出来るとダレンさんは手ごたえを感じていましたが、今後香港で仕事を続けるには仕事の仕方を変えざるを得ないと無念の想いを語ります。
「世界では様々なことが発生していて、語る役割を果たすのが私たち記者だ。」
「私は続けていきたい。」
「ただ、今はどこへ行きたいか分からない。」

廃止や自主規制に追い込まれていく香港のメディア、当局は、一連の対応は報道の自由の侵害とは無関係だと強調します。
香港の林鄭月娥行政長官は次のようにおっしゃっています。
「香港で報道の自由が消えたとか、崩壊の危機にあるといった批判は当たらない。」
「だが法の統治こそが香港にとって何より重要だ。」

中国専門家で神田外語大学の興梠一郎教授は今回のメディアへの締め付けは国家安全維持法が成立した2020年6月からの流れで、欧米をはじめとする諸外国は初期の段階で食い止めることに失敗したと次のように指摘します。
「国家安全維持法を通す時に欧米の動きが気になったんですね、中国は。」
「これでわっと外資が出て行ったり、香港ドルが暴落したり、キャピタルフライトが起きて一斉にお金を持ち出すとか、なかったんですよね。」
「人権とか民主主義とか、そういったものは大事だけれども、それを上回る経済的なメリットが(香港には)ある。」
「アメリカはやっぱりそこの最後のカードを切れなかった。」
「だから、もうこれは止まらない。」

お話を伺った興梠教授は、「日本を含めて世界にはもう何も出来ないだろう、とても残念でならない」とやるせない表情をしていたといいます。
そして、「中国政府による香港の改造プロセスはもう仕上げの段階に入ってきている。自由が無くても経済は回っていく今の深圳と同じような場所になっていくだろう。」とおっしゃっていました。

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、2つのことが特に気にかかりました。
1つは、林鄭行政長官が発した「法の統治こそが香港にとって何より重要だ」と言う言葉です。
そもそもここで言うところの“法の統治”ですが、プロジェクト管理と日常生活 No.690 『中国式“法治”の脅威!』でもお伝えしたように、中国においては、“まず中国共産党ありき”で、憲法も法律も全て中国共産党が存続していくための手段に過ぎないのです。
従って中国においては“報道の自由の侵害”についても一般的な解釈とは異なり、“報道の自由”には”中国共産党の存続に反しない限りにおいて”という大前提があるのです。
ですから、当局が「一連の当局の対応は報道の自由の侵害とは無関係だ」と強調するのは当然のことなのです。
しかも、法律も曖昧な表現が多いといいますから、当局の意向次第でこれまで罰せられなかったことがある日突然“法に触れた”ということで検挙されるようなことが日常茶飯事で起きてしまうのです。
なお、国家安全維持法の成立(2020年7月1日)により、公安条例違反罪に問われた“民主の女神”、周庭さんは2021年6月12日に刑務所から出所しましたが、その後、以前のようにメディアに現れることはなくなっているようです。(こちらを参照)

もう一つは、中国政府が国家安全維持法を通す時のアメリカの対応についての興梠教授が発した「アメリカはやっぱりそこの最後のカードを切れなかった。だから、もうこれは止まらない。」という言葉です。

中国当局による人権無視、あるいは世界的な覇権主義の展開、ロシアによるウクライナ侵攻、あるいは北朝鮮によるICMBや核兵器の開発の加速化により、今や国際社会は“力による現状変更”を許すのか、それとも自由や人権、あるいは平和を尊重する社会を継続させるのか、その瀬戸際に立たされています。
そうした中、興梠教授の指摘されているように、香港における国家安全維持法成立に際してアメリカは経済を優先し、中国に対して強硬な態度を取らずにその施行を許してしまったのです。
そして、この中国の流れは止めることは出来ないといいます。

もし、アメリカを始め欧米各国、あるいは日本を含めた民主主義陣営の国々がリスク対応策の大原則に忠実に沿った対応をしていれば、多少の経済的な影響を被っても中国当局の人権を無視した国家安全維持法成立に断固反対の姿勢を示していれば、この法案を廃案に追い込むことが出来た可能性はあったのです。

同様のことは、ロシアによるウクライナ侵攻についても言えます。
もし、先のロシアによるクルミア併合の時に今回のように欧米の対応が素早くされていれば、今回のウクライナ侵攻を防ぐことが出来た可能性は非常に高かったのです。

なお、アイデアよもやま話 No.5267 なぜ中国のゼロコロナ政策は失敗しているのか!でもお伝えしたように、国のトップによるこうした素早い対応を強力に後押しするのは各国の国民の総意なのです。
ですから、こうした国のトップの対応をし易くするうえで各国の国民の意識レベルの高さが求められるのです。
ということで、国民の意識の高さ、あるいは意志の強さが国のトップの判断を左右する力を持っているということを私たち、国民一人ひとりが自覚することはとても重要なのです。

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています