2022年03月12日
プロジェクト管理と日常生活 No.736 『ロシアによるウクライナ侵攻の早期終結のカギを握る中国の戦略』
まず2月9日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でロシアによるウクライナ侵攻が始まる前の状況について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(ウクライナの緊張が高まっている中、ロシアの軍事演習が始りますが、アメリカはロシアの軍事侵攻には経済制裁が有効だと言っているが、その有効性について、)EUはロシアからの天然ガスに非常に依存しているわけですね。(バルト海の海底でロシアからドイツに直送する天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の停止)」
「ですから経済制裁するとこのガスが入ってこなくなる、つまり人質状態なんですよ。」
「で、それが今、アメリカがLNGのタンカーをヨーロッパにどんどん出して、この不足分を埋めて、この冬の間の在庫はほぼ十分ではないかというところまで来ている。」
「つまり、制裁することが十分可能になってきていると。」
「(日本も融通するということですが、これでロシアはどう出るかですが、)そうなんですよね。」
「15日、ドイツのショルツさんとの会談が焦点ですね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

一方、3月1日(火)付けネット記事(こちらを参照)でロシアのウクライナ侵攻の裏で中国が進める対ロシア戦略について取り上げていたのでその一部をご紹介します。 
なお、日付は全て記事掲載時のものです。

・2月26日には、欧米側が「金融核兵器」(Financial Nuclear Option)と呼ばれるSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア追放を決めた。これによって、ロシアはドル決済による貿易を行うことが、事実上不可能となる。
・中国は現在、まさに中立的な態度を保持している。国際法を遵守し、ロシアの合理的な要求を保証するという前提のもとで、ロシアとウクライナの双方が(2015年2月にロシア、ウクライナ、フランス、ドイツで結んだ)ミンスク合意の席上に戻ること、そして交渉と対話を通してのみ、双方の分岐と矛盾が解決できるというものだ。
・2月4日に開かれた習近平・プーチンの会談中、プーチン大統領は何度も、「わが国にとって中国は、最も重要な戦略的パートナーだ」と言い続けた。中国側はこうしたプーチン大統領の態度を、「中国側の要求を承諾した」と受けとめた。
・もっともロシア側も、ウクライナに攻撃すれば、米欧からの激しい経済制裁に遭うのは自明の理なので、中国が最大の「命綱」となる。何と言っても昨年の中ロ貿易額は、前年比26.6%増で過去最高の9486億元(1517億ドル)に達したのだ。ロシアにとって中国は、12年連続で最大の貿易相手国である。
・習近平政権のウクライナ戦争に対するスタンスの原点は、2月4日の北京冬季オリンピック開会の日に行われた習主席とプーチン大統領の38回目の中ロ首脳会談にあった。
・〈 2月4日に中ロ両国の元首が会談を行った後、共同声明を発表し、20項目近い貿易協定を結んだ。だが、その20日後にプーチン大統領がウクライナに対する直接の軍事攻撃発動を選択するとは、誰も想像していなかった。おそらく今回の冬季オリンピックの開催国である中国に、「面子(メンツ)」を与えたのだ。それでプーチンは、冬季オリンピックの開催中に行動を起こさず、閉会してから一連の直接行動に出たのである。(中略)
・ロシアのウクライナ攻撃により、ロシアにエネルギーを依存していたEUが、ロシア産の天然ガスを排除していく方向を明確にした。2020年のEUのロシア依存度は、原油29%、石油製品39%、LNG(液化天然ガス)15%、天然ガス37%だ(野村アセットマネジメント調べ)。
・ロシアとしては、こうしたことを織り込んで、「西方がダメなら東方へ」というわけで、中国側に大量に放出することにしたわけだ。これはエネルギー不足に悩む中国としても、熱烈歓迎である。
・昨年7月、北京で盛大に100周年を祝った中国共産党は、1921年7月、「ソ連共産党上海支部」のような形で産声を上げた。以来、人事も活動資金もモスクワに握られていたし、1949年の新中国建国後も、ソ連の技術者たちがインフラを整備してくれたのだ。「建国の父」毛沢東主席は、ヨシフ・スターリン書記長に、まったく頭が上がらなかった。
・20世紀後半の冷戦期にも、アメリカの最大の脅威はあくまでもソ連であり、中国の脅威は軽視していた。そのため、いまからちょうど50年前にリチャード・ニクソン米大統領が電撃訪中し、「中国を取り込んでソ連を包囲する」策に出たほどだ。
・その後、1989年の天安門事件で中国は辛うじて生き残り、ソ連は同年のベルリンの壁崩壊後、1991年に消滅した。そのことで20世紀の「ソ連>中国」の構図は、「ロシア≒中国」に変化してきた。
・それが中国側は、習近平政権発足の翌年に結ばれた前述の「4000ドル契約」によって、ついに「中国>ロシア」の時代が到来したと考えたのだ。実際、おそらく2022年は、「中国のGDPがロシアの10倍を超えた年」として記憶されるだろう。
・中国は2022年を、「デジタル人民元元年」と捉えている。アメリカが「デジタルドル」を躊躇(ちゅうちょ)しているうちに、機先を制してデジタル人民元の国際化を図ろうという狙いだ。そんな中、「困ったロシア」を経済的に取り込んでいくことは、格好の突破口となる。
・今月合意に達した中ロ天然ガス供給協定は、双方が人民元で決済するとはなっていない。だが、中ロ双方は一歩一歩、エネルギー貿易の分野で人民元決済にしていく明るい前景が、十分に見えてきた。事実上、2016年以来、中ロの石油貿易では、人民元決済を始めている。
・この数年、人民元決済は、中ロの天然ガス貿易でも、少しずつ行われ始めている。ロシア以外にも、最近では中国とイラン、UAEなどとの石油貿易決済における人民元決済の比率は、増えつつあるのだ。
・中国は決してロシアに、全面的に賛同しているわけではない。むしろ、意識して「距離」を取っているように見受けられる。
・実際、25日午後(アメリカ東部時間)に開かれた国連安保理事会におけるウクライナ侵攻非難決議では、15ヵ国の理事国のうち、11ヵ国が賛成、ロシアが反対だったが、中国は棄権している。ちなみに、インドとUAEも棄権した(インドは中国と並び、老獪な外交を見せている)。
・中国のこうした態度は、あえてロシアとの「距離感」を示すことで、「平和と協調の中国」を演出しているように思える。そしてあわよくば、アメリカとヨーロッパの中国に対するマイナスイメージを払拭しようというわけだ。
・(この記事の筆者は)中国の関係者に改めて、ロシアのウクライナ攻撃と中国の思惑について、個人的見解を聞いた。
「今回のロシアも、西側諸国の経済制裁がボディブローのように利いてきて、経済は衰退していくだろう。『大きな北朝鮮』のようなイメージだ。

わが国の『一帯一路』は、2035年までの整備を目標としている。ユーラシア大陸で中国に次ぐ大国であるロシアが『中国経済圏』に組み込まれていけば、『一帯一路』の完成は近づくというものだ。そして『一帯一路』の完成は、中国の悲願であるアメリカと対等の地位を得ることを意味するのだ。

加えて、今後当面の間は、米欧はロシア対策に集中するから、激しい中国への攻勢は止まる。これは中国にとって、何よりもほしい『時間』を与えられることになる。その時間は、あらゆる意味でアメリカに追いつくための努力に費やされることになるだろう」

(以上は個人的見解の一部)

このように、ロシアのウクライナ侵攻で最終的に「漁夫の利」を得るのは、中国だというわけだ。今回は中ロ関係から述べたが、米欧も「ロシアへの説得」を求めて、中国に擦り寄る兆候が出始めている。

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

上記、および他の関連報道情報をもとに今回のロシアによるウクライナ侵攻の経緯をざっと以下にまとめてみました。

そもそも今回のロシアによるウクライナ侵攻件は、プーチン大統領がウクライナ東部で親ロシア派勢力が自称する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を一方的に承認し、ロシア軍を「平和維持」目的で両地域へ派遣すると命令したことが発端です。
このロシアによるウクライナ侵攻に対する経済制裁の一環として、アメリカやEUなどは以下の制裁を決定しました。
・ロシアからドイツに直送する天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の停止
・SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア追放

ロシアによるこの市民を巻き込むとんでもない侵略行為を糾弾する声が世界各地で次々に上がっています。
またプーチン大統領は以前とは人が変わって別人格になったのではという指摘が一部の専門家の間で上がっています。
以前のプーチン大統領はとても合理的に物事をこなしていたのに今回のウクライナ侵攻については合理的ではなく、感情が優先しているとしか思えないということからです。
あるいはプーチン大統領が今回の件で相当追いつめられていて、正常な判断力が失われているといった見方をする専門家もおります。
ですから、プーチン大統領の今回の本当の狙いは何なのか分からないという専門家の指摘もあります。
いずれにしても今回の国際法を無視した理不尽なウクライナ侵攻、および各国による経済制裁、あるいは国際社会から信用を失ったことにより、ロシアは国際的に孤立化してしまい、長期的にみてロシアは衰退に向うと思われます。

なおロシアはこうしたアメリカやEUなどによる経済制裁を見越して、事前にこうしたリスク対応策について中国に協力を求めていたのです。
ですから、ロシアにとって頼りになるのは中国だけと言えます。
その習近平国家主席率いる中国ですが、プーチン大統領とは違い、以下のようにとても戦略的な動きをしています。
・以下の戦略により、一石三鳥を狙うこと
  ロシアからの天然ガスなどの輸入増によるロシアへの経済支援を通してロシアへの影響力を強化すること
  自国のエネルギー不足の解消を図ること
  人民元での決済によりロシアを『中国経済圏』に組み込むこと
・一方で、表面的にはロシアと一定の距離を取り、「平和と協調の中国」を演出すること
  2月25日午後(アメリカ東部時間)に開かれた国連安保理事会におけるウクライナ侵攻非難決議で中国は棄権している
・デジタル人民元の国際化
・一帯一路の完成
・当面、米欧がロシア対策に集中して、中国への激しい攻勢が止まっている間にアメリカに追いつくための施策を着実に進めること

ということで、長期的に見れば、米中の2大大国を中心とする民主国家陣営と独裁国家陣営との冷戦状態が常態化するという見方があります。
また、更にその先には、今の中国の勢いからすると、独裁国家、あるいは覇権主義国家が国際社会の主流となるリスクが高まっています。

ですから何としてもウクライナからのロシア軍の撤退をさせることが急務です。
そのための有効な手段として、先ほどの経済制裁は有効です。
しかし、その穴埋めをロシアは中国に求め、中国はそれを了解しているのです。
また、今回のウクライナ侵攻の結果、ウクライナという国が消滅してしまうようなことがあれば、ロシアは更に他の周辺の国々にも侵攻していくはずです。
同様に中国も武力による台湾統一、更に沖縄をも自国の領土だと主張して侵攻してくるリスクが高まります。
ですから、こうした“力による現状変更”の流れを止められるかどうかは今回のロシアによるウクライナ侵攻が成功するか、失敗に終わるかによって決定づけられると民主国家陣営の首脳はみて、危機感を抱いているのです。

ということで是が非でも民主国家陣営としてはロシアによるウクライナ侵攻は失敗に終わらせなければならないのです。
なお、中国によるロシアへの経済支援はアメリカやEU、日本などによる経済制裁の効果を低下させ、一方でプーチン大統領に自信を与え、ロシアによるウクライナ侵攻を長引かせる一因となっているのです。
そこでとても不思議に感じることがあります。
それは、アメリカやEUなど、日本も含めてロシアやロシアに協力しているベラルーシに対してはいろいろなかたちで制裁を加えているのに、中国がロシアに経済支援をしていることに対しては止めさせようとしないからです。
なぜ、バイデン大統領、EUの首脳、あるいは日本の岸田総理はこうした中国への要請をしないのでしょうか。
そこには、以下のような理由が考えられます。
・今やロシアに比べて中国の国際経済に及ぼす影響が格段に大きいこと
・今の状況であまり中国を刺激すると、中国・ロシア連合対民主国家陣営の構図が明確に出来上がり、 第三次世界大戦に突き進むリスクが高まる

しかし、もし中国がロシアから天然ガスなどの輸入増を取り止めることになれば、プーチン大統領は経済的に更に苦しくなり、文字通り国際社会で孤立無援状態になり、プーチン大統領と言えども退却せざるを得なくなると思うのです。
なお、幸いにして中国は今回の件では表面的にはロシアと一定の距離を取り、「平和と協調の中国」を演出しています。
更に、今はウクライナ侵攻によるウクライナの国民の悲惨な状況が連日のように報じられています。
そして国際社会の大勢は「“ロシアの非”を許さない」という状況にあります。
こうした状況において、国連、あるいはバイデン大統領が中国に対してロシアへの経済協力を止めるように働きかければ、中国も受け入れざるを得ない状況に追い込まれると期待出来るのです。

ということで、より多くの世界中の人たちが何らかのかたちでロシアのウクライナ侵攻に反対の意思を表明し、こうした世界中の人たちの意思をバックに国連が早急に動いていただきたいと切に願います。
現状のままではウクライナという国が消滅してしまうリスクが高く、その結果、世界は独裁国家がはびこり、時計の針が帝国主義時代に戻ってしまいます。

ここでとても救いに感じることがあります。
国際社会、あるいはロシア国内においても“反プーチン”の声が一段と高まっています。
またウクライナのゼレンスキー大統領はロシアへの徹底抗戦をウクライナ国内外に向けて訴え続け(こちらを参照)、またウクライナの軍隊、および国民の士気はとても高く、このことがプーチン大統領を驚かす程、戦闘を長引かせていると言われています。
更に世界各国からウクライナに加担すべく、戦闘経験のない一般人も含めて外国人志願兵が続々とウクライナ入りをしているといいます。(こちらを参照)

このように、ロシアへの世界各国による経済制裁、一方で中国によるロシアへの経済支援の阻止、そしてロシア国内外での“反プーチン”の声を更に拡大させていくことにより、ロシア軍はウクライナからの撤退を余儀なくし、プーチン政権の崩壊、更には中国の覇権主義に基づいた戦略をも思いとどまらせることにつながるのです。

 
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