2022年03月05日
プロジェクト管理と日常生活 No.735 『既存の防衛システムを無力化してしまう極超音速兵器!』
昨年10月18日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で既存の防衛システムを無力化してしまう極超音速兵器について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付は全て番組放送時のものです。 

中国が核弾頭を搭載出来る極超音速兵器の発射実験を8月に行ったとイギリスのフィナンシャル・タイムズが報じたことについて、松野官房長官は「我が国を含む地域と国際社会の安全保障上強い懸念となっている」と非難しました。
一方、中国外務省は「ミサイルではなく、宇宙船の再利用技術を検証する日常的な試験だ」と報道を否定しました。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(これが本当でしたら安全保障上の警戒の度合いは相当上がることになるかという問いに対して、)まさに格段にあがったということだと思いますね。」
「(極超音速兵器の)ポイントは、まず音速の5倍以上で飛行するんですよね。」
「そして核の搭載が可能。」
「そして機動的に動くからどこに行ったんだか分からなくなってしまって、アメリカのミサイル防衛網は事実上無効化されてしまうんじゃないのか、そういう危機感が今非常に強いですね。」
「(そうなると日本への影響は避けて通れないのではという問いに対して、)日本のそばで一番問題になるのはアメリカの空母打撃群ですよね。」
「アメリカの切り札がこういう攻撃に非常に弱いんですよね。」
「という点で日本に対する抑止力というか、守りが非常に弱くなる可能性がある。」
「日本自身としても自分のこととして防衛を考えなきゃいけないですね。」
「具体的には敵基地攻撃能力とか、潜水艦の整備といったようなものを正面から議論する必要があると思います。」
「(これは日本だけの問題ではなくて世界中どこでもこの兵器のターゲットになり得ると考えられるかという問いに対して、)そこはポイントなんです。」
「北大西洋条約機構、NATO軍のトップが、フィナンシャル・タイムズによると、新たなNATOの目的としてそういった中国の脅威に対抗することを考えなきゃいけないということ言っていると言っています。」
「(そこまで明言したのかという問いに対して、)はい、かなりグローバルな問題になりつつあると見ていいと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

また1月21日(金)付けネット記事(こちらを参照)でも同様のテーマを取り上げていたのでその一部をご紹介します。

・米中ロ、北朝鮮など各国による極超音速ミサイルの実験と配備に関する報道が注目を集めている。
・極超音速兵器は、その速度、機動性、低飛行高度により探知や防衛が困難である。例えば、地上に配置されたレーダーでは、飛翔中には手遅れになるまで探知することはできない。
・探知が遅れるため、意思決定者はその防衛システムの対応方針を決定する時間がなくなり、一度だけしか迎撃が許されなくなるかもしれない。
・さらに、地上配備のレーダーと現在の衛星搭載探知システムでは、極超音速兵器の探知と追尾には不十分である。
・極超音速兵器の目標は、静止衛星により探知される通常の画像に比べて10倍から20倍もぼやけてみえる。
・高性能迎撃システムや指向性エネルギー兵器の統合探知・射撃統制システムの多層センサーは、将来の極超音速兵器に対する防衛策の価値のある選択肢になりうるとみられている。
・2019年の米国の『ミサイル防衛見直し』報告では、「そのような多層的なセンサーは、HGVや極超音速巡航ミサイルなどの先進的な脅威目標に対し、宇宙から広範囲にわたり監視ができ、追跡能力を向上させるという利点がある」と述べている。
・一部のアナリストは、広範囲の極超音速兵器に対する防衛の、実現可能性、技術的実現性、実用性を疑問視しているが、特に点防御システムやTHAAD(終末高高度防衛)システムは、極超音速ミサイルに対処するのに適しているとの見解もある。しかしそれらのシステムには、狭い地域しか防御できないという問題がある。
・全米大陸を覆うには実現不可能なほど多数のTHAADを配備する必要があるだろう。また、現在の米国の指揮統制態勢では、極超音速兵器の脅威に対処し無力化するためのデータ処理能力が不十分とみられている。

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

また2月2日(水)付けネット記事(こちらを参照)でも同様のテーマを取り上げていたのでその一部をご紹介します。

・2022年に入り、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が相次いでミサイルを発射しています。1月5日に最初の一発が発射されたのを皮切りに、1月28日現在までに5回の発射試験が行われています。なかでも、1月5日と1月11日にそれぞれ発射されたミサイルに関しては、ニュースなどを通じて多くの注目が集まりました。
・というのも、このとき発射されたのは、通常の弾道ミサイルではなく「極超音速兵器」という少々、聞きなれない種類のミサイルだったためです。
・北朝鮮は、2021年1月に開催された朝鮮労働党第8回大会において、すでに極超音速兵器の開発を明言しています。そしてこれに基づいて現在、北朝鮮が開発し発射しているのが先ほど説明したうちのHGVで、いまのところこれにはふたつの種類があるようです。
・実際に、1月11日に発射されたミサイルに関して、岸 信夫防衛大臣は翌12日に開かれた会見で「当該ミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低い最高高度約50km程度を最大速度約マッハ10で飛翔し、また、左方向、北方向ですけれども、への水平機動も含め、変則的な軌道で飛翔した可能性があります」と説明しています。ただし、防衛省の公式見解としては、このとき発射されたミサイルをHGVに分類するかについてはいまのところ明言していません。

・この極超音速兵器、実は日本も開発を進めています。それが、「島しょ防衛用高速滑空弾」と「極超音速誘導弾」です。
・島しょ防衛用高速滑空弾は、極超音速兵器としてはHGVに分類されるもので、2026年から配備が開始される予定の「早期装備型(ブロック1)」と、2030年代に運用が開始される見込みで、ブロック1から弾頭形状などを変更して射程や速度などを向上させる「能力向上型(ブロック2)」という2段階の開発が行われます。
・一方で極超音速誘導弾は、現在、防衛省が開発を進めている「デュアルモードスクラムジェットエンジン」を用いて飛行する極超音速巡航ミサイルです。デュアルモードスクラムジェットエンジンは、超音速(マッハ1.3からマッハ5)の速度域で効率よく動作するラムジェットエンジンと、極超音速の速度域で動作するスクラムジェットエンジンを組み合わせたもので、これにより幅広い速度域で効率よく飛行する巡航ミサイルの実現が期待されています。

・このほかにも、アメリカや中国、ロシアも極超音速兵器の開発と配備を進めていて、とくに中国は「DF-17」と呼ばれるHGVをすでに配備しているなど、日本の安全保障にとっては大きな脅威となっています。いまや、極超音速兵器は日本を取り巻く安全保障環境におけるひとつのトレンドとなっているのです。

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

これら3つの情報源の要旨をざっと以下にまとめてみました。
・極超音速兵器は、その速度、機動性、低飛行高度により探知や防衛が困難である
・一般に極超音速兵器と呼ばれるマッハ5以上で飛翔する兵器は大きく極超音速滑空体(Hypersonic glide vehicles: HGV)と極超音速巡航ミサイル(Hypersonic cruise missiles)の2種類に分けられる
・米中ロ、北朝鮮、日本など各国による極超音速兵器の開発が進められている
・中国は既に「DF-17」と呼ばれるHGVを実践配備している(こちらを参照)

こうして見てくると、日本の防衛体制は新たに以下のようなリスクを持つことになったと言えます。
・極超音速兵器の登場によりミサイルに対する日本の迎撃体制は無力化する
・極超音速兵器に対抗する兵器の開発には莫大なコストと期間を要する

要するに現在の日本の迎撃体制では極超音速兵器に対して無力なのです。
また、このリスク対応策の実践配備にはかなりの期間を要するのです。
ですから、対戦国が極超音速兵器を使用するようなことになれば、現在の日本は降伏するしかないのです。
なお、こうしたリスクは際限なく続き、しかも世界各国は自国防衛のために同様のリスク対応策を解決しなければなりません。
そのためには少なくとも同盟国のアメリカに共同開発を持ちかけて少しでも早く極超音速兵器に対する迎撃体制を確立することが求められます。
同時にこうしたことから兵器の能力の制限について、核兵器と同様に国際的な取り決めが求められるのです。

 
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