2022年01月22日
プロジェクト管理と日常生活 No.729 『アメリカが主導する「民主主義サミット」から見えてくる“志向すべき社会”のあり方』
昨年8月12日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でアメリカが主導する「民主主義サミット」について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

アメリカのホワイトハウスは民主主義国の首脳らを集めて「民主主義サミット」を開催すると発表しました。
バイデン大統領が主宰する「民主主義サミット」は以下の項目を主要な議題とする予定で12月9日から10日にかけてオンライン形式で開催します。
・専制主義からの防衛
・汚職との闘い
・人権尊重の促進

対中国を念頭に民主主義の価値観を共有する国を結集させる狙いがあると見られます。
これを受け、台湾の外交部は今日、サミットへの参加を目指す考えを表明しました。

このアメリカが主導する「民主主義サミット」の注意点について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは3つの観点から次のようにおっしゃっています。
「香港の現状などを見て、民主主義の重要性について異論を唱える人は少ないとは思うんですけど、バランスが重要だと思うんですね。」
「あとはやみくもにアメリカ流の民主主義の物差しを使って、これは白だ、これは黒だというようなことをやると分断を煽って、中国やロシアに塩を送ることになりかねない。」
「次に国益の重視というのは、中国との覇権争いでアメリカは国が民間を巻き込んで競争力の回復をしようとしていると。」
「その時にキーワードになる経済安全保障というのはまさに新しい姿の重商主義(こちらを参照)と言えると思うんですよね。」
「これに対して、日本は戦後発展してきた基盤が自由主義経済体制であり、自由貿易で、これが重要であることも重視しなくちゃいけないと思います。」
「(ですから、アメリカと中国と、そこの間にある日本のバランス、そこもバンランスではという指摘に対して、)そうですね。」
「(3つ目は、)今申し上げたこと以前に日本はいったい誰が出席するのかということで、秋の政局が控えているわけですので、菅総理がそれを乗り切れるかどうか、ちょっと気になりますね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

なお、昨年12月9日から10日にかけて(日本時間)「民主主義サミット」がオンライン形式で開催され、岸田文雄内閣総理大臣が初日のセッションに参加し、中谷総理大臣補佐官も同席しました。
その結果の概要について、外務省の公式ページ(こちらを参照)で取り上げていたのでその一部を要約してご紹介します。

・「腐敗との闘い」、「権威主義からの防衛」、「人権尊重の促進」をテーマとした民主主義のためのサミットが開催され、世界各国の政府、市民社会等から幅広く多様なリーダーが集まり、民主主義を強化するための議論が行われている。
・岸田総理大臣は、首脳プレナリー・セッションにオンラインで参加し、民主主義を含めた普遍的価値を重視する立場から、民主主義を守り、世界における人権を促進するために重視している点について、概要以下のとおり述べました。
(1) 自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を損なう行動に対しては、有志国が一致してワンボイスで臨んでいかなければならない。
(2) 各国の歴史的経緯を尊重することこそが、民主主義の定着に寄与する。我が国はこうした信念の下、アジアの国々における和平プロセス、平和の定着、復興の後押しなど、二国間対話を通じ、各国の自主的な取組を後押ししてきた。
(3) 健全な民主主義の発展のためには、その中核的な土台として、中間層が質・量両面で分厚くなっていくことが不可欠である。しかしながら、金融資本主義経済の急激な展開が、格差の拡大や国際社会の分断など多くの弊害を生み、世界の多くの国で、健全な民主主義に歪みをもたらしつつある。日本は、デジタルとグリーンをキーワードとする経済社会の歴史的変革の中で、成長も分配も実現する「新しい資本主義」の実現に取り組み、健全な民主主義の中核である中間層を守るとともに、気候変動などの地球規模の課題や「人」を大切にした未来に向けた投資に、力強く取り組んでいく。
(4)企業における人権尊重の取組も、企業の予見可能性を確保しつつ、積極的に進めていく。国際機関との連携も重要であり、国際機関に対して約1,400万ドルを拠出することを決定した。
(5) 日本は、強靭な民主主義、基本的人権の尊重を、多くの国・地域に広げ、根付かせていくために、国際社会と共に歩んでいく決意である。

以上、「民主主義サミット」に関する外務省の公式ページの一部の要約でした。

ここであらためて今人類が置かれている環境において、どのような社会を志向すべきか、その要件について、私の思うところを以下にまとめてみました。
(自由)
・あらゆる人は自由に発言し、自由に行動することが出来る
・あらゆる報道機関は自由に情報を発信出来る

(平等)
・あらゆる人が社会から平等に扱われる

(人権)
・あらゆる人の人権が尊重される

(民主)
・より多くの人たちの民意が国政、あるいは個々の組織のルールに反映される

(平和)
・個人、組織、あるいは国、いずれのレベルにおいても争いは暴力、あるいは武力に依存せず、平和的に解決される

(社会)
・人類の諸々の活動による地球環境への負荷を最小限に抑制し、持続可能な社会を維持する

(ルール)
・上記の自由、平等、人権、民主、平和、社会の全ての観点がバランス良く尊重されるための法や取り決め、すなわちルールが作成され、個人、組織、あるいは国、いずれのレベルにおいてもこれらのルールが順守される

こうしてまとめてみると、いかに現実の国際社会がこうした観点で素直に見ると“志向すべき社会”からほど遠いことが浮き彫りになってきます。
例えば、民主主義陣営のリーダー国であるアメリカにおいては、先の大統領選挙の際に一部のトランプ前大統領の過激な支持者たちが連邦議会議事堂に乱入するといったように、民主主義陣営のリーダー国としてあるまじき事件がありました。
しかもこの事件はトランプ前大統領による扇動だったとバイデン大統領は指摘しているようです。(こちらを参照)
本来であれば、首謀者であるトランプ前大統領は法により裁かれるべきなのに未だに裁かれず、次の大統領選挙に立候補すると見られています。
更にトランプ前大統領は大統領在任中に“アメリカファースト”を掲げていました。
こうした“自国の利益第一主義”を掲げる大統領が民主主義陣営のリーダーでは“志向すべき社会”の実現はとても望めません。
ここでとても重要なことはアメリカ国民のほぼ半数はトランプ支持という現実です。
トランプ前大統領は図らずも民主主義のもろさを露呈させてしまったのです。

一方、独裁国家陣営のリーダー国、習近平国家主席が率いる中国においては“まず中国共産党ありき”で、全てにおいて中国共産党政権が優先され、国民はその道具でしか過ぎないのです。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.690 『中国式“法治”の脅威!』
更に中国はこうした基本方針を海外にも展開しつつあります。
しかも厄介なことに世界の半数以上の国々は今やこうした中国の覇権主義に賛同しているという状況が現実なのです。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.726 『中国が世銀「ビジネス環境ランキング」を不正操作』

民主主義国家陣営、あるいは独裁国家陣営、どちらに属している国民にとっても、こうしたリーダー国の現状はとても望ましいとは言えない状況のはずです。

では日本はこうした現状において、どのような役割を果たすべきでしょうか。
私の思うところを以下にまとめてみました。
・国際社会において、“共存共栄”をベースに、事あるごとに“志向すべき社会”の実現の重要性を説く
・2大大国、米中以外の国々と“志向すべき社会”の価値感を共有する
・その第三のパワーで米中の誤りに対して率直に意見を表明し、一定の影響力を持つ

要は、「民主主義サミット」を対中国を念頭に民主主義の価値観を共有する国を結集させるという狙いの枠を超えて、“志向すべき社会”実現に向けた一つの大きなきっかけとして捉え、米中の対立軸ではなく、原点に立ち返ってあらゆる国が“志向すべき社会”とはどのような社会なのかを世界各国が真剣に議論を闘わせ、その結果を踏まえて、そうした社会をどのように実現し、維持し続けるかを議論する場にするということなのです。
ですから、当然中国やロシアもいずれ参加国として迎い入れるべきなのです。

なお、“志向すべき社会”の大枠は既に国際連合憲章(参照:No.4956 ちょっと一休み その774 『中国による“内政干渉”の一言で物事が進んでいいのか?』)やSDGs(参照:No.4578 ちょっと一休み その710 『日本も国家としてSDGsに真剣に取り組むべき!』)などの国際的な取り決めの中に盛り込まれているのです。
ですから、国際的な取り決めの原点に立ち返って国際社会のあり方を見直しましょうということなのです。

さて、今回まとめてきた内容はプロジェクト管理とどのように結びつくでしょうか。
プロジェクトの目的は“志向すべき社会”の実現と位置付けられます。
そして、自由、平等など7つの要件は要件定義のフレーム(枠組み)と言えます。
ですから、「民主主義サミット」を一つのきっかけとしてこのプロジェクトを達成していただきたいと思います。

 
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