2021年12月01日
アイデアよもやま話 No.5127 究極のエネルギー、“核融合”開発の最前線!
8月12日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で究極のエネルギー、“核融合”開発の最前線について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

機動戦士ガンダムの最新映画「閃光のハサウェイ」や2014年に公開されたSF映画「インターステラ」の中で登場するロボットや宇宙船の動力源として描かれてきたのが核融合です。
究極のエネルギーとも言われる核融合開発の最前線では日本の技術力が生かされていました。

フランス東部のプロバンス地方、東京ドーム9個分の広大な敷地に核融合実験炉、ITER(イーター)が建設中です。
ヨーロッパ各国や日本、アメリカ、ロシア、中国など33ヵ国が参加する国際プロジェクト、総工費は約2兆5000億円、4年後の2025年に模擬燃料による運転を始める予定です。
イーターのベルナール・ビゴ機構長は次のようにおっしゃっています。(2016年10月)
「再生可能エネルギーを補完するための選択肢として核融合は非常に有望だ。」

核融合とは、太陽を地上に再現する究極のエネルギーと言われています。
核を分裂させる原子力発電と異なり、核融合は水素などの原子核をぶつけ合うこと(核融合反応)で大きなエネルギーを生み出します。
イーターでは太陽の中心温度より約9倍高い1億5000万℃まで燃料を加熱することで核融合を起こします。
この時、燃料1グラムで石油8トン分のエネルギーが得られるというのです。

実は核融合の技術では日本がリードしているのです。
イーターに参加している量子科学技術研究開発機構(茨城県那珂市)には大型核融合実験装置、JT−60SAが設置されており、イーターに先駆けて実験を始める計画です。
核融合エネルギー部門長の栗原研一さんは次のようにおっしゃっています。
「核融合はほとんど最先端の技術でつくっていますので日本の産業界の力が十分に発揮されて初めて出来る。」

日本企業も核融合炉の主要な部品を作っています。
東芝のグループ会社、東芝エネルギーシステムズの京浜事業所(横浜・鶴見区)が今作っているのは重さ300トンを超える超電導コイルという部品です。
巨大な部品でも厳しい精度が求められます。
この製造に携わってきた下之園勉さんは次のようにおっしゃっています。
「1ミリ以下という厳しい精度を要求されて、それを達成するのに非常に苦労しました。」

出来上がった部品が次々にフランスに向けて出荷されていて、核融合の実用化への動きが加速しています。
しかし、東日本大震災では福島第一原発が電源を失い、核燃料を冷却出来ず、メルトダウンなどの大事故を起こしました。

核融合の場合、危険性はどうなのでしょうか。
量子科学技術研究開発機構 核融合エネルギー部門長の栗原研一さんは次のようにおっしゃっています。
「核融合反応では“核の暴走”は一切考えられない。」
「スイッチを切れば止まる。」

電源を切れば核反応は止まるため、暴走することはないと考えられています。
また、核融合ではコバルト60などの放射性物質が発生しますが、原発で出る廃棄物に比べて管理する期間が短いといいます。
栗原さんは次のようにおっしゃっています。
「だいたい2050年までにはなんとか核融合エネルギーの発電を実現したいと思っています。」

新たなエネルギー技術には日本のベンチャー企業も取り組んでいます
2012年に創業した株式会社クリーンプラネットは国内スタートアップ評価額ランキングでは1300億円で6位(7月1日時点)で、注目のユニコーン企業です。
開発するのは大企業から転職してきた技術者たちです。
トヨタ自動車から転職した、クリーンプラネットの技術部門の最高責任者、遠藤美登さんは次のようにおっしゃっています。
「トヨタ自動車で燃料電池車の開発をしていました。」
「水素をほとんど使わずに熱が出るのは非常に有効な技術だと魅力を感じまして、・・・」

その技術がかつて常温核融合と呼ばれた凝縮系核融合です。
ここでは東北大学と産学共同で開発を進めています。
東北大学 電子光り学研究センターの岩村康弘特任教授が使うのはニッケルの上にナノレベルの薄い膜を張った独自の材料です。
この材料を真空にした容器に入れて水素を吸収させます。ヒーターで900℃まで急加熱することで水素どうしがぶつかり、核反応が起き、核融合より常温でエネルギーを生み出すというのです。
岩村特任教授は次のようにおっしゃっています。
「燃料を食わないでエネルギーが出ますので、宇宙空間とか燃料へのアクセスが限られたところには非常にメリットがあるだろうと。」
「夢から一歩、実現に踏み出したというとこだと思っています、」

究極のエネルギーと言われる核融合、実用化に向けた動きは着々と進んでいます。
この核融合ですが、既に民間企業でも開発競争が激しさを増していて、グーグルやアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスさんも商用化に向けて巨額の資金を投じています。

以上、番組の内容をご紹介してきました。

以下に番組の要点をまとめてみました。
・日本も含め世界33ヵ国が参加する、フランスに核融合実験炉「イーター」を建設するという国際プロジェクトが進行中で、4年後の2025年に模擬燃料による運転が開始予定で、2050年頃までには核融合エネルギー発電を実現したいとの期待がある。
・「イーター」は再生可能エネルギーを補完するための選択肢として有望視されている。
・核融合とは、太陽を地上に再現する究極のエネルギーと言われており、核を分裂させる原子力発電と異なり、核融合は水素などの原子核をぶつけ合うこと(核融合反応)で大きなエネルギーを生み出す。
・核融合の技術では日本が世界をリードしており、日本の産業界の力が十分に発揮されて初めて出来るとの見方がある。
・核融合反応では福島第一原発事故のような“核の暴走”は一切なく、スイッチを切れば止まる。
・核融合ではコバルト60などの放射性物質が発生するが、原発で出る廃棄物に比べて管理する期間が短い。
・「イーター」では太陽の中心温度より約9倍高い1億5000万℃まで燃料を加熱することで核融合を起こし、この時、燃料1グラムで石油8トン分のエネルギーが得られる。
・かつて常温核融合と呼ばれた新たな凝縮系核融合技術に日本のベンチャー企業も東北大学との産学共同で取り組んでいる。
・用途として、宇宙空間など燃料へのアクセスが限られたところには非常にメリットがあると期待される。
・究極のエネルギーと言われる核融合は実用化に向けて着々と進んでいる。
・核融合について、既に民間企業でも開発競争が激しさを増しており、グーグルやアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスさんも商用化に向けて巨額の資金を投じている。

以上、要旨をまとめてみました。

福島第一原発事故の発生前までは原発は究極の発電と見られていました。
ところが、この事故後、世界の原発に対する理解は一変し、今や“脱原発”、および再生可能エネルギー(太陽光発電など)へのシフトが世界の主流となっています。

そうした中、今回ご紹介した“核融合”の実用化に向けた世界的な共同プロジェクトの取り組みは新たな核融合技術により再び核の持つ膨大なパワーによる発電を利用しようとしているのです。

ここで“核融合”の実用化に向けて懸念材料が以下のように3つ考えられます。
・開発期間
  2050年頃までの実用化を目指しているが、これでは2050年までに地球の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというCOP26で設定した目標の達成に間に合わない
・発電コスト
  番組からは発電コストが不明である。
・安全性
  原発と違い、“核融合”発電はスイッチを切れば止まる。
  しかし、原発よりも核廃棄物の管理期間が短いとは言え、核廃棄物が発生する。
  その管理期間は具体的にどのくらいの量で何年くらいなのか、そして核廃棄物をどのように安全に管理するか、具体的に検討されているのか

ということで、「イーター」国際プロジェクトには上記の課題をクリアし、世界各国の英知を結集させ、更に最大限の開発資金を投入し、なんとか前倒しして2030年頃までを目途に実用化していただきたいと思います。
もし、“核融合”発電がこのようなペースで実現出来れば、太陽光などによる再生可能エネルギーとの共存により“脱原発”、および“脱化石燃料”へのシフトの早期実現につながるのです。
ということは、少なくともエネルギーに関して人類は持続可能な社会を実現出来ることになるのです。
こうした人類の消費する様々な資源を持続可能にする人類の行為の積み重ねが人類による完全に持続可能な社会の実現につながるのです。

また、こうした世界的な共同プロジェクトへの取り組みの積み重ねは米中対立など世界平和の阻害要因を抑制し、相互協力、あるいは相互理解を通じて平和な社会の実現にも貢献出来るのです。

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています