2021年11月27日
プロジェクト管理と日常生活 No.721 『半導体不足に見る日本企業の危うさ!』
今や半導体は電力に次ぐ“産業界の米”と言えるほどに無くてはならない存在になっております。
そうした中、8月5日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で半導体不足に見る日本企業の危うさについて取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

アメリカの最新の調査によりますと8月2日の時点で半導体不足の影響による自動車の減産台数は全世界で576万台に達しました。(出典:Auto Forecast Solutions Inc. 8月2日Automotive Newsより)
最も大きな影響を受けている地域は北米で約184万台の減産となっており、2番目はヨーロッパで約174万台、3番目は中国で約111万台です。

一方、半導体の生産能力(2020年12月)は台湾がトップで21.4%を占めています。
2位は韓国(20.4%)、3位は日本(15.8%)、4位は中国(15.3%)で北米(12.6%)はこの10年間で中国に抜かれて5位に転落しました。
バイデン政権はこうした状況に危機感を強めて半導体の生産を国内に回帰させる動きを加速させています。

7月中旬、アメリカ南部ケンタッキー州にある自動車レース場、そこに未完成のピックアップが大量に放置されていました。
その半導体不足の影響で生産が止まったのです。
こうした状況に強い危機感を示しているのがバイデン政権です。
8月4日、バイデン大統領は次のようにおっしゃっています。
「この半導体ウエハーは電池や大容量通信網と並ぶインフラだ。」
「必需品を他国に依存しないようサプライチェーンの強化が必要だ。」

ミネソタ州ミネアポリスはハイテク産業の集積地として知られる町です。
町の郊外にあるポーラー セミコンダクターの工場は24時間稼働していています。
製造部門トップのスルヤ・アイヤー副社長は次のようにおっしゃっています。
「非常に忙しい。」
「注文が殺到していて稼働率はピークに近い。」

ポーラーでは現在コロナ前の水準と比べて生産量を約2割増やしています。
300人ほどの従業員を抱えていますが、人手が足りず、初任給を引き上げて人材を募集しています。
自動車や家電、産業機械などで使われる半導体ウエハーを作っていますが、売り上げの5割以上が自動車向けです。
半導体は自動車のエアコンやエンジンなど様々な部品に使われています。
電気自動車や自動運転技術の普及などでクルマに使われる半導体の数は今後更に増えていく見込みです。
ポーラーでは少なくともあと2年は半導体の需要が増え続けると見て投資をしています。
アイヤー副社長は次のようにおっしゃっています。
「空きスペースに製造装置を入れて、生産能力を増強する。」

しかし、製造装置の納期が従来より半年ほど延びているといいます。
アイヤー副社長は次のようにおっしゃっています。
「製造装置の納期が遅れる要因の一つに中国からの旺盛な需要がある。」
「中国は半導体産業を育成する決意だ。」
「巨費を投じて製造装置を大量購入している。」

中国は2014年に国家半導体ファンドを設立、これまでに約5.8兆円を投じ、半導体の自給率引き上げを図っています。
今年から来年にかけて世界の29ヵ所で大規模な半導体工場の建設が始まる予定ですが、中国は最多となっています。
なお、各国の計画数は以下の通りです。(出展:SEMI)

中国本土  8
台湾    8
米州    6
欧州・中東 3
日本    2
韓国    2

このような中国の動きに対抗すべく、アメリカ議会上院は6月、自国の半導体産業に約5.7兆円を通す法案を可決しました。
国を挙げた動きの中でひと際注目を集める半導体製造会社がミネソタ州ブルーミントンにある、アメリカ資本100%のスカイウォーター・テクノロジーです。
この会社のトップ、トーマス・ソンダーマンCEOは今年4月にナスダック市場への上場を果たしました。
ソンダーマンさんは次のようにおっしゃっています。
「パンデミックが起きたことで半導体を国内で生産する大切さを誰もが認識した。」
「国防総省は重要な半導体部品をアメリカ製にすることを望んでいる。」

スカイウォーターはアメリカ資本の会社であることを前面に打ち出し、軍事向けの半導体を生産、今年に入り、フロリダ州で第2工場を取得するなど、大規模な投資を続けています。
ソンダーマンさんは次のようにおっしゃっています。
「ものづくりを全て海外に依存してはならない。」
「偉大な会社、いや偉大な国家はモノを製造する。」

解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(海外に依存してはいけないという危機感が伝わってくるが、なぜここまで半導体の自国生産を強化しようとしているのかという問いに対して、)最大の半導体トップ企業は台湾のTSMCという会社なんです。」
「台湾は(中国本土との間で)台湾海峡の緊張がある。」
「もし万が一、何かあった時にTSMCから半導体が全く入ってこないかもしれない。」
「で、トランプ政権の時から話しかけて、今度アメリカに(120億ドルで)工場を建設することになりましたと。」
「(ということは、台湾有事をアメリカは意識しているということなのかという問いに対して、)そうですね。」
「それでTSMCだけじゃ足りないので、第2位のサムスン電子にアメリカ本土に来てもらうということで170億ドルの工場建設、5月に米韓の首脳会談があったんですが最大のテーマがこのサムスン電子の工場建設だったと言われていますね。」
「更に老舗のインテルが200億ドルでアリゾナに工場を建設するということで、これだけの規模の投資をアメリカ国内に呼び込んだというわけですね。」
「で、補助金520億ドルをこういう工場の建設に出そうという動きになっていますね。」
「(一気に動き出している中で、日本の姿がないというのはなぜなのかという問いに対して、)日本は今最先端の技術を持つ企業が中々ないということで、経済産業省はTSMCに日本にも工場を作って欲しいと言っているんです。」
「それがうまくいかないと日本にある関連企業もアメリカに行っちゃうかもしれないということはちょっと心配ですね。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

番組の内容も参考にして世界的な半導体不足の原因、半導体不足によるリスク、およびリスク対応策について以下にまとめてみました。

(世界的な半導体不足の原因)
・半導体の確保を海外に依存している割合が多い
・コロナ禍により世界的にサプライチェーンに影響が出ている
・自動車業界だけでも半導体不足の影響で無視出来ないほどの減産をもたらしている

(半導体不足によるリスク)
・半導体不足の影響は軍事的な安全保障など様々な分野にも影響をもたらしている
・各国は半導体の自給率引き上げを図り、半導体製造装置の需要が増え、納期が従来より半年ほど延びているが、こうした傾向は当面増々強まると見込まれる
・半導体の確保が不十分な状態が続くと見込まれると、自動車メーカーなど半導体に依存している割合の高い企業は海外に移転してしまうリスクが生じる

(半導体不足のリスク対応策)
・半導体の生産における必須の原料やパーツを他国に依存しないサプライチェーンの構築
・半導体の自給自足率の引き上げを狙いとした半導体製造メーカーによる生産総量の拡大

なお、経済安全保障については、プロジェクト管理と日常生活 No.713 『日本企業にも必要な経済安全保障 その1 民主主義陣営の国々で進みつつある経済安全保障対策!』、およびプロジェクト管理と日常生活 No.714 『日本企業にも必要な経済安全保障 その2 セキュリティ・クリアランス(SC)」への取り組み!』などでもお伝えしてきましたが、今回ご紹介した半導体不足による自動車業界への影響は最も象徴的な事例と言えます。
そして、その根本的な要因は以下の2つと考えられます。
・中国による国内での“まず中国共産党ありき”の政策、および覇権主義の国際的な展開
・コロナ禍や地球温暖化による自然災害の及ぼすサプライチェーンへの影響

ちなみに、我が家でも先日トイレの買い替えをしましたが、コロナ禍の影響で生産国の生産能力の激減により商品によっては3ヵ月待ちと言われ、あらためてコロナ禍の影響の大きさを実感しました。

ということで、長期的な視点に立った経済安全保障は国家の喫緊のリスク対応策と言えるのです。
勿論、台湾有事を想定した国防対策も国家的に重要なリスク対応策です。

 
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