2021年11月23日
アイデアよもやま話 No.5120 国内初量子コンピューターが始動!
スパコン(スーパーコンピューター)についてはアイデアよもやま話 No.4703 誇るべきスパコン世界一の「富岳」アイデアよもやま話 No.4954 世界No1スパコン「富岳」の実力!などでお伝えしてきました。
また、スパコンの更に上を行く量子コンピューターについてもアイデアよもやま話 No.3883 新型量子コンピューターの国産機登場!などでお伝えしてきました。
そうした中、7月27日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で国内初で始動の量子コンピューターについて取り上げていたのでご紹介します。 

日本IBMと東京大学が7月27日に量子コンピューターを国内で稼働させました。
この量子コンピューターの計算能力は桁違いで、スパコンでは1万年かかるとされる問題を3分20秒で解いたという事例もあります。
量子コンピューターの登場で私たちの生活、そして経済はどう変わっていくのでしょうか。

東京大学の藤井輝夫総長は次のようにおっしゃっています。
「(量子コンピューターは)手掛けることが難しかった未踏の問題を解決出来る可能性を秘めております。」

7月27日、稼働を始めた量子コンピューター「IBM Quantumu Systemo One」はアメリカのIBMが開発したもので、商業利用されるのは日本で初めてです。
従来のコンピューターは「0」と「1」の組み合わせで情報を処理するのに対し、量子コンピューターで使う量子には「0」でもあり「1」でもあるという特殊な状態があり、それを利用してまとめて計算出来ます。
イメージとしては4桁のカギの番号を特定する場合、従来のコンピューターでは最大1万通りを試す必要がありますが、量子コンピューターでは瞬時に特定出来てしまうといいます。

では量子コンピューターは私たちの生活にどんな変化をもたらすのでしょうか。
IBMが量子コンピューターを設置するかわさき新産業創造センターを番組が訪問しました。
日本IBMの技術部門のトップ、森本典繁常務執行役員は次のようにおっしゃっています。
「(量子コンピューターの処理速度について、)ざっくり言って1万倍、10万倍、100万倍、こういったような単位で計算が速くなったり、効率化出来る可能性がある分野があります。」
「(今回発表されたのは様々な分野で利用出来る「量子ゲート型」ですが、そんな分野での活用を見込んでいるのかについて、)材料や物性の研究開発、創薬、バイオ、そしてエネルギー、こういったエリアに応用が期待されている。」
「今のスパコンでは出来ないくらいの超越したレベルの成果を出す必要があるんですね。」
「一番早く効果が表れる分野では2〜3年の間に一つぐらいはそういう分野が出てくるということを我々は期待しています。」

この量子コンピューターはトヨタ自動車、日立製作所など12社が参加する産学の協議会が主体となって利用されます。
この量子コンピューターを使って研究開発を始める一つが化学メーカーのJSR株式会社(川崎市川崎区)です。
JSRは半導体に不可欠な「フォトレジスト」という材料の他、液晶ディスプレーの材料などを手掛けています。
新たな商品の開発には原料の候補となる多くの物質から適切な物資を見つけるのに実験を繰り返す必要があり、年単位の時間がかかることもあります。
JSRの永井智樹さんは次のようにおっしゃっています。
「量子コンピューターに期待するところは大きいです。」
「実用化された暁には材料開発の速度が飛躍的に上がると期待しています。」

こうした実際の実験に至る前に無数の組み合わせのシミュレーションが必要で、通常のパソコンを使っています。
量子コンピューターを使うと研究開発期間が短縮され、コストの削減にもつながるといいます。
永井さんは次のようにおっしゃっています。
「半導体とかディスプレーの材料は非常に商品のライフサイクルも短く、材料開発に要する時間は非常に限られたものになっております。」
「(量子コンピューターの実用化で)早くいいものをお客様に届けることが出来ると考えております。」

医薬品や様々な電子機器に使われる半導体の材料の開発などで量子コンピューターをいかに使いこなせるか、今後の企業の競争力を左右しそうです。

材料開発、創薬、バイオ、エネルギーといった様々な分野での応用が期待されている量子コンピューターですが、こうした状況について解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「将来性が大変有望なんですが、ただ現状、日本を取り巻く国際環境を考えると、AIもそうですけども量子コンピューターは米中の先端技術競争が非常に激化しているわけですね。」
「そこでグーグルの元CEOのエリック・シュミットさんなんですけども、最近日本経済新聞のインタビューに答えて、中国に対する警戒感を露わにしてるんですね。」
「(GAFAの元トップから見ても中国はかなり肉薄してきているのかという問いに対して、」その危機感は非常に強いです。」
「今、シュミットさんはどういう仕事をしているかというと、アメリカの人工知能国家安全保障委員会の仕事(委員長)をやっており、官民の重要な仕事なんですけども、そこで報告書を出しているんです。」
「(この報告書で)何を言っているのかと、「先端技術の主導権を中国に奪われてしまう恐れがあるんだ、アメリカの安全保障を脅かすんだと」ストレートに言っているわけです。」
「(そうした中、今回、量子コンピューターを開発したIBMの現地法人、日本IBMは東大と組んだわけですが、そこにはどういう意味があるのかという問いに対して、」はっきりしています。」
「これも報告書で出てきますけれども、「日本の技術者・大学・政府とより緊密な協力関係を結びたい」ということを言っているわけですね。」
「その意味で日本IBMと東大、そしてもう一つ、実はドイツで稼働させているわけですね。」
「非常に戦略的な意味合いがあると思います。」
「(大変重要な分野ですから技術的安全保障、経済的な安全保障の面でも信頼のおける相手とでないとタッグが組めないということではないかという指摘に対して、)まさに表裏一体だと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

それにしても今回ご紹介した、7月27日に商業利用において国内初で稼働させた量子コンピューターはスパコンでは1万年かかるとされる問題を3分20秒で解いたという事例もあるといいますから、まさにその計算能力は大幅な桁違いです。
私たちの生活にもたらす効果を以下にまとめてみました。
・これまで手掛けることが難しかった未踏の問題を解決出来る可能性を秘めている。
・材料や物性の研究開発、創薬、バイオ、そしてエネルギー、こういったエリアに応用が期待されている。
・量子コンピューターが実用化された暁には材料開発の速度が飛躍的に上がり、研究開発期間が短縮され、コストの削減にもつながる。

しかし一方で、以下のような懸念材料もあります。
AI同様に量子コンピューターは米中の先端技術競争が非常に激化しており、しかもこの分野の主導権を中国に奪われてしまう恐れがあり、アメリカや日本などの安全保障を脅かリスクがあるというのです。
こうした懸念材料を払拭する解決策として、アメリカは信頼のおける日本、およびドイツの研究機関とより緊密な協力関係を結びたいと考えているというのです。

こうしたアメリカの動きを見ても、今の中国は南シナ海における領土拡大のみならずAIや量子コンピューターといった先端技術分野においてもこれまで世界をリードしてきたアメリカにとって侮れない存在になってきつつあるのです。

注視すべきはこうした先端技術分野を制する国が世界を制し、同じく先端技術分野を制する企業がビジネスを制するということです。
ですから、日本もアメリカに“おんぶにだっこ”状態に甘んじず、アメリカや中国に対抗出来るくらいの独自開発に取り組むべきなのです。

ということで、岸田政権には是非こうした先端技術分野の研究開発への重点的な支援をしていただきたいと思います。
なお、AI、および量子コンピューターの実用化は今も世界的に終息の兆しが見えないコロナ禍用のワクチンや治療薬の開発においても多大な貢献をもたらすと見込まれるのです。
更にコロナ禍後を見すえても国の規模に関係なく、こうした先端技術分野を制する国が世界をリードしていくことが出来るのです。
そして、間違いなく日本はそうした国の候補になり得るのです。

 
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