2021年11月13日
プロジェクト管理と日常生活 No.719 『身近にある土砂災害リスク』
7月5日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で災害に不利な日本の国土について取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

静岡県熱海市で発生した土石流ですが、今回、造成のために斜面に盛った土が崩れ、土石流の被害が大きくなった可能性が出てきています。
また、全国的にも土砂災害を警戒すべき区域で開発が進み、多くの住宅が建てられていることが分かりました。
建物の被害は約130棟に上り、所在不明者は64人となっています。
7月4日に現地入りして調査した、開発の環境への影響を研究している高田造園設計事務所の高田宏臣代表は次のようにおっしゃっています。
「豪雨は盛った土ともともとあった斜面との境目から水がどんどん湧き出すはずなんですね。」
「盛り土の状態がどんどん脆弱に弱くなってくれば、一気にいつか崩壊する。」

高田さんは、大雨により盛り土ともとからあった地盤の間に大量の雨水が染み込んだためめ、盛り土の強度が弱くなったことが崩落のきっかけと見ています。
政府も土砂災害への盛り土の影響を静岡県と連携して調査を進める方針です。
高田さんは次のようにおっしゃっています。
「あれだけの街が集中している谷の上部を(盛り土で)埋めるということは考えられない。」

大きな被害となった今回の土石流、そのリスクは都市部にもあります。
神奈川県が特別警戒区域に指定した横浜市のある区域では、木が積まれた箇所が最上部に当たりますが。その脇に深い谷が広がっています。
土石流が発生する恐れがある土石流特別警戒区域が横浜市にも3ヵ所あります。
横浜市はハザードマップの整備などを進めていますが、告知はホームページなど一部の媒体に限られています。
そのため自分の住んでいる所が土石災害警戒区域であることを知らない住民も多いといいます。

日本経済新聞の調査によると、市街地にある住宅92万戸が土砂災害警戒区域に建設されていることが分かりました。
横浜市では全国で2番目に多い、7万3479戸が該当し、土砂災害のリスクは住宅街のすぐそばに潜んでいるのです。
なお、1位は広島市で7万6141戸、3位は神戸市で4万9735戸です。

専門家は土砂災害で亡くなる人の8割以上はこうした警戒区域に住んでいると分析しています。
自分が住む土地にどんな災害リスクがあるか、普段から関心を持つことが大事だと指摘します。
静岡大学  防災総合センターの牛山素行教授は次のようにおっしゃっています。
「砂防ダムのようにハード対策も行われてはいるんですけども、(整備率は)せいぜい危険個所の2〜3割くらいと、ごく身近なところにも多数(危険箇所が)あることは認識していただきたいなと思っています。」

今年も土砂災害が起こってしまいましたが、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「ここできちっと認識したいのは、日本の国土というのは本当に脆弱だということをあらためて認識したいと思うんです。」
「いくつかのポイントをあげたいと思うんですけども、一つは平地面積なんですよね。」
「日本とドイツ、国土面積はほぼ同じなんですけども平地面積はドイツの半分なんです。」
「あと雨がよく降るんですよね。」
「年間降水量は世界平均の2倍です。」
「しかも温暖化で豪雨が襲い易くなっているというところも重要なポイントですよね。」
「もう一つあるんです。」
「(開発の進行が環境負荷を高めており、水害や土砂災害のリスクを高めているということについて、)簡単にいいますと、森が伐採されると保水力が弱るというのが大きいと思うんですよね。」
「ですから、是非テレビの前の皆様もハザードマップをもう一度確認してもらいたいと思うんです。」
「他人事だと思うのは絶対止めていただきたいということを今日は申し上げたいと思います。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

この番組の内容、および7月16日付けネット記事(こちらを参照)を参考に、以下に土石流のみならず土砂災害全般の被害リスクについてまとめてみました。
(土砂災害の発生リスク)
・静岡県熱海市伊豆山地区で7月3日に発生した土石流は造成のために斜面に盛った土が崩れ、土石流の被害が大きくなった可能性が出てきた。
・NHK静岡の報道によると、この土石流災害により住宅など約130棟が被害を受け、7月16日時点で死者は計12人、行方不明者は16人、避難者は521人に上っている。
・全国的にも土砂災害を警戒すべき区域で開発が進み、多くの住宅が建てられていることが分かった。
・街が集中している谷の上部を盛り土で埋めるということは考えられないというのが専門家の見方である。
・大きな被害となった今回の土石流のリスクは都市部にもある。
・土石流が発生する恐れがある土石流特別警戒区域が横浜市にも3ヵ所あり、横浜市はハザードマップの整備などを進めているが、告知はホームページなど一部の媒体に限られているので自分の住んでいる所が土石災害警戒区域であることを知らない住民も多い。
・日本経済新聞の調査によると、市街地にある住宅92万戸が土砂災害警戒区域に建設されていることが分かった。
・専門家は土砂災害で亡くなる人の8割以上はこうした警戒区域に住んでいると分析している。
・日本は平地面積が少なく、年間降水量は世界平均の2倍で温暖化で豪雨が襲い易くなっており、従って開発の進行が環境負荷を高めており、水害や土砂災害のリスクを高めている。
・九州を襲った豪雨から1年、2021年も災害級の豪雨が多発している。
・世界各地で、異常気象が「異常」でなくなりつつある中、スーパーコンピューターによる分析で、地球温暖化と豪雨の増加との関係もより明確になってきた。
・今回の大雨は、停滞していた前線によってもたらされ、7月1日から3日にかけての熱海の降水量は411.5ミリに達し、この3日間の降雨量は7月の歴史的な月平均値226ミリを上回るものだった。
・今回は短期間の集中豪雨というよりは、それなりの強さの雨が長時間降り続け、大量の雨が地中に浸み込んで地盤が少しずつ緩み、土砂崩れにつながったというのも特徴である。地盤が緩んだ状態では、少しの雨でも、弱くなった斜面が突然崩れ落ち、今回のような土砂災害につながることがある。
・要因とされる大雨、長雨の強さや異常さは、人為的な気候変動の影響を受けていると考えられる。
・長雨が要因である一方、難波静岡県副知事の会見によると、土石流の起点の不適切に造成された「違法な盛り土」が被害をさらに拡大させたという指摘もあり、静岡県は専門家による調査を進めるとしている。
・空気中の水分量は気温によって変化し、暖かい空気は大量の水蒸気を運ぶことができるため、地球温暖化の影響で降水量も増加すると考えられている。
・雨は、大気に含まれる水蒸気が水となって地上に降るものある。
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書は、気温が1度上がるごとに、大気が保持できる水蒸気は約7%増加し、世界の多くの地域ですでに大雨が増加していると結論づけている。
・気象庁も一般的に大気中の水蒸気量は、気温上昇とともに特定の変化率で増加する性質を持っていて、強雨が増加しているのは、気温上昇に伴って大気中の水蒸気量が増加するためであるとしている。
・また、地表の気温上昇だけでなく、海水温の上昇も海水を蒸発させるので、海面から莫大な量の水蒸気が空気中に分散し、雲をつくり、雨となり降り注ぐ。
・気象庁のスーパーコンピューターによるシミュレーションでは、積極的な温暖化対策をとらず温室効果ガスの排出が高いレベルで続いた場合、ほぼすべての地域・季節において1日の降水量が200ミリ以上という大雨や、1時間当たり50ミリ以上の短時間の強い雨の頻度が増え、ともに全国平均で20世紀末の2倍以上になるという結果が出ている。
・つまり、温暖化が進めば大雨の強度・頻度はさらに増加し、今後更なる大雨リスクの増加が懸念される。
・温暖化によって異常気象が増えると、経済・社会活動全体に大きな影響を及ぼすだけでなく、将来的には全国で多くの人々が住まいを失うことにもなりかねない。
・グリーンピース・ジャパンでは海面上昇シミュレーションマップ(こちらを参照)を提供しており、地域ごとにどれくらい浸水や冠水などの水害リスクがあるかが分かる。
・気候危機は既に世界中で深刻な影響を及ぼしている。気候の不可逆的な変化を防ぐために残された時間はあとわずかである。

煎じ詰めると、以下のことが言えます。
・気温が1度上がるごとに、大気が保持出来る水蒸気は約7%増加する
・温暖化が進めば大雨の強度・頻度は更に増加し、今後更なる大雨リスクの増加が懸念される。
・温暖化によって異常気象が増えると、経済・社会活動全体に大きな影響を及ぼすだけでなく、将来的には全国で多くの人々が住まいを失うことにもなりかねない。

(リスク対応策)
・自分が住む土地にどんな災害リスクがあるか、普段から関心を持つことが大事である。
・砂防ダムのようにハード対策も行われているが、整備率は危険個所の2〜3割くらいと専門家は指摘している。
・大雨による水害から命や住宅を守るためには、雨が降ってから行動するのではなく、避難行動のシミュレーション、居住エリアのハザードマップや災害対策、情報収集手段を確立しておくなど、被害への備えをしっかり整えておくことが大切である。堤防や防潮堤だけでは守れない。
・今回の大雨や今後も多発すると考えられる気象災害の被害を軽減するためには、温室効果ガス排出量を出来る限り早く・大幅に削減しつつ、自然エネルギーへ転換するなど、長期的な視点に立った気候危機対策が不可欠である。
・また、政府は、気候変動の影響を受ける可能性の高い地域を特定し、災害・気候リスクの分析やモデリングを再評価してインフラ整備を進めるなど、気候変動に適応していくことも必要である。
・自然エネルギーへの転換は地球温暖化対策として有効なだけでなく、分散型のエネルギーインフラを構築することになり、災害緊急時にもそれぞれの地域でエネルギーを確保することができるため、防災性の観点からも重要である。

こうしてまとめてみると、現在の地球温暖化の進行の大きな要因は私たち人類の諸活動にあるということをあらためて感じます。
そして、地球温暖化の進行は今や人類のみならず地球上に生息するあらゆる生物の存続を脅かしつつあるのです。

なお、人類は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、健康上、あるいは経済活動など様々な点において大きな被害を被っています・
しかし、このような見方からすると、以前にもお伝えしたように人類は地球そのものにとってその環境を脅かすウイルスのような存在に思えてきます。
私たち人類は技術の進歩などにより暮らしの豊かさを手に入れています。
そして、こうした欲望が絶えることはなく、永遠に続いていきます。
しかし、一方で人類の諸活動は人類自らの生活環境を脅かしつつあることが現実のものとして、ようやく世界的に地球温暖化阻止に向けた取り組みに真剣に向き合いつつあるのです。

 
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